第26話 鋼太朗side



「昨夜、行ってきたんでしょ? 何があったのか教えてよ」

「……。よりにもよって、てめーか…」


休日午前。研究所へ侵入に成功したものの、研究資料はおろか情報の入手をもあえなく失敗。騒ぎを聞きつけた職員達を持ち前の異能力を使って撒き、辛くも研究所を脱出した直後。騒ぎが起きたのと立て続けに、鋼太朗の携帯から掛かって来た父・両兵との険悪な通話の後。無言でバイクを走らせた鋼太朗が自宅に着いたのは、既に午前三時を回っていた。


玄関の鍵とチェーンを掛け、そのままバスルームへと向かい手早くシャワーを浴びる。あらかじめかごに置いてあった、Tシャツと寝間用のズボンに履き替えると、自室のベッドに潜り込んだ。どうせ今日は休みだし一日ゆっくり休もう。


―と、思った数時間後。

マンション玄関前のインターホンが、何度も何度もしつこい勢いでピンポンピンポンと鳴らされる。あまりの喧しさに鋼太朗は目を覚まし、寝ぼけ目のまま玄関へ向かい備え付けのカメラを確認すると、昨日念動力を使ってまで追って来た真宮瑠奈の来訪。これである。


「その前にどうやって俺のマンション探り当てた?」

「勇羅が教えてくれた。鋼太朗がここに入るの何度か見かけたって、部活や休みの日はよくこの当たり走り回ってるよ」


なんなのだあの勇羅とか言う一年坊主は。事件と聞けば何処にでも出没するのか。


「探偵やるなら、周りの地理にも詳しくならないと駄目だって」


誰かに吹き込まれたのか、彼女に鋼太朗が住んでいる所を教えた勇羅は、本当にそれを実行しているらしい。だからこうも自分の住んでる場所を簡単に探し当てられたのか。


「頼むから今日は寝かせてくれ…」


鋼太朗は勘弁してくれと、言わんばかりの疲れた声で発する。念動力だけでなく異能力も使った反動で、肉体的な疲労がとにかく酷いのだ。明日は学校だし、正直言って今日は嫌でも寝っ転がって休みたい。


「オヤジ臭いなー」

「昨日の騒ぎで疲れてんだよ」


自分の乗っているバイクと張り合おうとして、念動力を使ってまで追いかけて来た挙げ句、友人の高い自転車を勢い余って壊した小娘に、偉そうな口を叩かれたくない。何より昨日の無茶ぶりをしても、まだ元気が有り余ってるとは恐れ入る。


「…何かあったの」

「異能力者なら、隠し事の二つや三つあってもおかしくないだろ」


異能力者の隠し事と聞いて、恐らく能力の系統は違うかもしれないが、鋼太朗と同じ力を持っている瑠奈も、何か思う所があったのだろう。少し俯き沈黙した後口を開く。


「…うん。そうだね」

「やけに素直だな」


自分は素直じゃないのかと言った顔をして、瑠奈は再び鋼太朗の顔を見上げジト目で睨む。


「しょうがないじゃん。鋼太朗と一緒で普通とは違うんだし、力を隠さなきゃいけないのは本当の事だもん」


先ほどジト目になったかと思ったら、今度は困った顔になる。瑠奈はとにかくコロコロと表情が変わる。


「周りにばれてないって事は、念の制御が慣れてんだな」


結果的に前後輪のタイヤをパンクさせてしまったものの、自転車に極力負担を掛けないように、念を使いこなした技量を見れば納得がいく。何より瑠奈が異能力者だと発言している者は、彼女の周りの友人以外では全くと言って良い位聞いた事がない。


「力の制御は小さい頃から教えられてたし。『私達の力は普通の人は持たないものだから、普段から人前で使ってはいけない』って」

「その割に念動力はガンガン使ってるじゃねーか」


「私の異能力は普通の方法じゃ使えないの。つか前に使ったら、お父さんとお母さんに正座させられて怒られちゃった」


瑠奈自身。念動力は余裕で使いこなせても、普段から持っている異能力自体が、安易に使えない代物らしい。しかも使うだけで怒られる程の異能力とは、瑠奈の能力は相当希少価値の高いように思える。


「…とにかく今日は休ませてくれ。後、篠崎にもあまり俺の周りを無暗に探るなって忠告しとけ」

「わかった」


勇羅の勘の鋭さを色々と思って察したのか、困った見たいな顔つきで返事をする瑠奈。瑠奈が帰ったのを確認した鋼太朗は、玄関のチェーンを掛けながら鍵を掛け直した。


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