第25話 鋼太朗side



「……今更何の用だ。親父」

『先程の件の研究所の騒ぎ…。起こしたのはお前だな』


父・両兵自身も鋼太朗と同じ、重力を操る能力を持つ異能力者でありながら、持ち前の頭脳と知識を生かし自らの実力で、都内でも知名度の高い私立大学教授にまでのし上がっただけある。

両兵は大学で講師を勤める傍ら、一つの異能力研究所の所長をも任されるだけあって、研究所での騒動の情報が伝わるのが早い。


「…だとしたら?」


別に今さら隠す必要など無い。どうせ例の研究所が行っている、異能力者に対する暴挙など、自分一人でも暴く気でいる。


『お前は何をやっているのか分かっているのか?』

「うるせぇよ、俺は本当の事が知りたいだけだ。大体周りくどいのは俺の性に会わないんで」


本当の事が知りたいと堂々と告げる鋼太朗に対して、携帯越しから両兵の重く低い冷淡な声が聞こえてくる。


『…お前の行動はやりすぎだ。今のお前の行為は、『彼ら』への反逆行為にもなる。自重しろ』


『彼ら』と言う両兵の発言に対し、鋼太朗は無意識に舌打ちをする。これで暁研究所の研究の一端に、あの一族が関わっている事は鋼太朗の内で明白となった。


「今あんたが其処に居るのは不可抗力なのは理解してるし、あんたが不義で出来た子を認知拒否したのも、俺はとっくに知ってる。だが『あの女』が俺達と同じ血が混じってると思うと、反吐が出るんだよ!!」


『……今回は見逃してやる。ただし、次はないと思え』



―プツッ。



「おいテメぇ! ま…っ!」


これ以上の会話は無意味と判断したのか、用件のみを一方的に告げると両兵は通話を切った。鋼太朗の携帯端末からはツー、ツーと言う音だけが空しくなり続ける。


「くそ…っ!!」


弟二人の他に兄弟がいると知ったのは、研究所脱走とほぼ同じ時期。しかも二つ下の腹違いの妹。経緯は分からないがどこぞの金持ちのお嬢様が、両兵に対し無理やり強制して子を作らせたと言う。騙されたと知った両兵は、相手との間に生まれた子どもを頑として認めず、女と出来た子どもを認知しなかった。


「宇都宮……」


宇都宮家。昔から地方に存在する旧家の小さな一族だった筈が、現当主の就任を機に戦後一代で急速に勢力を拡大していった。今では財界でも有数の一族として知られているが、成り上がり故に敵も多いと噂されている。


その現当主の孫娘・宇都宮小夜(うつみや さよ)こそが鋼太朗達の異母兄妹。鋼太朗や母、弟達に彼女と直接の面識はない。その小夜は宇都宮当主に溺愛され、当主は己の権力をここぞと活用し『孫娘の為だけ』に作られた『孫娘の村』がある。


そして彼らは自分達に歯向かう者は、どんな手段を使ってでも外部の者を排除する、閉鎖的かつおぞましい一族としか知らされていない。小夜の方は両兵と何度か面識はあるそうだが、当主の意向で両兵が父親だと知らされていない。それどころか小夜も異能力者である両兵をあらかさまに蔑んでおり、真相を知りたい此方としては至って好都合である。


皮肉にも今回は父親に救われたが、次にやらかせば確実にない。だが例の研究には確実に、宇都宮家が裏で関わっている事は間違いない。それに自分の事を覚えていない泪の件もある。泪は『四堂両兵所長管轄』ではなく『宇都宮家管轄』の暁研究所に軟禁されていたのだから。



「待ってろよ···必ず」



携帯をジーンズのポケットに締まった鋼太朗は、自分の次の目的を明確にするべく、バイクに跨り山道へと走らせた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る