第24話 鋼太朗side



鋼太朗が目的地へと到着した時には、周りの景色はすっかり薄暗くなっており、既に日も沈みかけていた。瑠奈と別れた後。改めてバイクを走らせ例の研究所へ向かい、現在鋼太朗は異能力研究所の近くに居る。バイクはすぐに出せるよう、研究所より少し離れた別の場所へ隠しておいた。


「…間違いねぇ」


研究所裏の三階の窓からへの侵入に無事成功し、研究所職員に見つからないよう慎重に内部を歩いている。当たり前だが決して思念は使わない。異能力の研究を行っている研究所の至る所に、異能力や念動力を探知する機械が、設置してあるのを知っているからだ。


「確か二階の奥の資料館、って言ってたな」


この研究所が暁管轄の一部とはいえ、鋼太朗は既に暁の手を離れている。見つかれば自分が異能力の実検材料として捕まるのは免れない。幸い研究員に見つかる事なく、鋼太朗は研究所の中を慎重かつ順調に足を進める。


「これか」


無事二階奥資料館に辿り着いたが、資料館の扉は自動式でご丁寧にも、認証用のカードリーダーをも設置してある。



『認証の為職員IDカードを差し込んで下さい』



職員のIDカードが無いと入室出来ない仕組みとは。異能力の研究自体世界機密だけあって、流石に研究所のセキュリティも万全だ。認証を忘れたようの保険として、番号入力式の認証システムも搭載してあるようだが、生憎異能力研究所の『被験者』だった鋼太朗が、認証番号を知る由もない。


「弱ったな」


あらかじめマナーモードにしておいた携帯端末から振動がする。ジーンズのポケットから携帯を取り出すとメールボックスからメールが一通届いていた。



『To:資料館認証番号

文:774-5640810』


「何だ、これ?」



よく見れば宛名も書かれていないし、アドレスも全く知らないものだ。単純に番号だけが書かれた内容のメール。鋼太朗は半信半疑でメールに書かれた番号を、入力式の認証システムに打ち込んでみる。明らかに罠だと分かっていても、この場で詰みかけている以上やるしかない。


「……開いた」


ロックがかかっていた自動扉が開かれ、慎重に足音を消しながら資料館の中へ入った…―直後。



「!?」



鋼太朗が気付いた時には、既に遅かった。研究所の室内の至る所から、外部からの侵入者を知らせるかの警報が、あっという間に研究所内の隅々まで響き渡る。端末に送られたメールはやはり罠だったのかと舌打ちをする。これでは中の資料を調べる時間すらない。


すぐに資料館から退室し、急いで侵入して来た裏の窓の方へと戻り始める。警報に牽かれ既に武装した警備員が、研究所へ入って来た侵入者を捕らえようと、数名が逃走中の鋼太朗のすぐ近くまで押し寄せて来ている。

此処まで来てしまったらなりふり言ってる暇はない。鋼太朗は立ち止まり両手を前へ突き出すと念を集中し、重力のエネルギーを込めた球を具現させる。一呼吸置き、具現した重力球へと一気に念を込め地面へ叩き込んだ。



「―…ふんっ!!」



思念を吹き込まれ、地面へ叩き込まれたバレーボール程の大きさの重力球は、見えない衝撃波を放ったと思いきや次の瞬間、周囲の探知機やカメラを瞬く間にぐしゃりと音を立て、次々と連鎖反応を起こして行くように壊れていく。


「なっ! 何が起こった!?」

「忌々しい! すぐに侵入者を捕獲しろ!」

「早くしろ! 残ってるデータはメインサーバーのバックアップに全て移せ!」


少しばかり念を込めすぎたか、鋼太朗が念を込めた範囲を中心に、床には所々亀裂が入ってしまっている。騒ぎの間に人の声の少ない方へ走り出し、階段を駆け降りながら、二階窓から飛び降り地面へ転がり落ちるように着地する。

身体中ズキズキと痛むが幸い打ち身だけで済み、大きな怪我は無い事を確認し、辛くも研究所を脱出した鋼太朗は、近くに隠していたバイクへと跨がりすぐに走らせる。



「此所まで走れば一先ず大丈夫か…」



追っ手が来ない場所までバイクを走らせ、追跡が無い事を二度三度と確認してから一端停める。バイクを停めた直後、携帯から通話着信が掛かって来る。名前は出ないが着信画面の番号は鋼太朗にとって、完全に見覚えがあった。鋼太朗は通話を取るのを一瞬戸惑ったが、相手が相手なだけに出るわけにはいかなかった。


「もしもし……。四堂です」


『やっぱりお前だったか。鋼太朗』


聞き間違いのない声。掛けてきた主は数ヶ月前に決裂した父・四堂両兵(しどう りょうへい)だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る