第23話 鋼太朗side



夕方。授業が終わり学園から早足で帰宅した鋼太朗は、自室へ戻るとすぐに私服へ着替え、マンション住人専用の共用駐車場へと向かう。


今回の目的は神在市内に存在する異能力研究所。数日前より裏通りにある訳ありの異能力者達が色々話をする為にひっそりと集まる、骨董じみた雰囲気の漂う小さな喫茶店で、研究所に関する情報収集をしていた鋼太朗。先日神在市郊外に異能力の研究をしているとの噂が立っている暁管轄の研究所があると聞き、今回の研究所への侵入を決めた。

幸い明日は学園休日の為、時間を掛けて研究所へ潜り込み、内部の情報を集めるには絶好の機会だった。ヘルメットを被ると愛用のバイクに跨がり、エンジンを噴かせ颯爽と道路を走る。


「さて。問題は…」


バイクを飛ばす鋼太朗の背後に、あらかさまに後ろを追って来る小型の乗り物が一台。ハンドルに付いているスクエア型ミラーで後方確認すると、乗り物の種類から警察ではない。となると残りは一つ、鋼太朗の思念を何らかの方法で察知した追跡者だ。

もし今。鋼太朗を追っている追跡者が、例の『異能力者狩り』だとしたら、鋼太朗的には非常に不味くなる。自分の能力である程度は、異能力者狩りを対処する術を持っているとはいえ、相手が何かしらの武器を所持していたら間違いなくジエンドだ。


どうやって、後方の追跡者を振り切ろうかと思案していると、ふと鋼太朗は追跡者の乗り物に違和感を感じた。その違和感を確かめるべく、ミラーに映っているいる相手の乗り物を、もう一度確認してみると―。



「ぬ"な"っ!? は!? じ、自転車だとぉ?!?」



追跡者が乗っている乗り物を見て、鋼太朗はヘルメット越しから反射的に吹き出しそうになる。なんと相手は自転車で鋼太朗を追って来ているのだ。しかも良く見れば生意気な事に、高いもので数十~百万はするロードバイク。怪しまれないように、こちらは道路標識の標準速度を守っているとは言え、自転車で400cc中型二輪を追いかけるなど無謀にも程がありすぎる。


正直研究所や異能力者狩りの連中が、あのような奇っ怪な行動をする事などあり得ない。能力の種類は様々であれ人外じみた力を持つ異能力者を、自転車で追跡する研究者や異能力者狩りが、居るものならそれはそれで見てみたい。

ただし。やはり追ってくる追跡者は、バイク相手に追走してるせいで体力が持たないのか、徐々に漕いでいる自転車の速度が落ちて来ている。


「…?」


メットを被っていて顔がよく見えないが、追跡者の体格にはどこか見覚えがある。身体付きが全体的に丸みを帯びている事から漕いでいるのは女性か。しかしとうとう自転車を漕ぐ体力にも限界が来て力尽きたか、追跡者は自転車ごと道路の脇へ倒れてしまった。


鋼太朗は無言で道路の端にバイクを止めるとヘルメットを外し、自分を追って来た追跡者―真宮瑠奈の方を見る。どうも全力でペダルを漕いでいたらしく、瑠奈は既に疲れきっていて、ゆっくりメットを外しながら建物の隅に寄りかかり地面に座り込んでいる。

鋼太朗は軽く溜め息を吐くと、周りを見回し偶然にも近くに設置してあった自販機へと向かった。



―…。



「どう言うつもりだ?」

「……うぅ、っ」


全身汗だく息も絶え絶えで地面に座っている瑠奈に、近くの自販機で買ってきたスポーツドリンクを差し出す。瑠奈は鋼太朗に礼を言って、受け取ったドリンクを一気に飲み干す。


「芽衣子に借りた奴…。どんな坂でも大丈夫だって…」


瑠奈の無茶ぶりなトンデモ走行に耐えきれなかったのか、ロードバイクは無残にも前後のタイヤ両方共パンクしてへしゃげている。


「後で借りた友達にちゃんと謝れ」

「うん…」


友人の大事なロードバイクをおじゃんにしてしまい、瑠奈は落ち込んでいる。型を見る限りかなり性能の良い奴だろう、阿呆な行為で自転車を壊された瑠奈の友人の苦労が計り知れない。


「念動力使ってなら追いつけると思ったのに···」


やはり瑠奈は自身の念動力を使って、自転車に掛かる負荷を限界まで減らしていたか。それでも瑠奈が漕ぐ速度と、念動力の力の負荷に耐えきれず自転車はパンクしている。自転車でバイクに食らい付こうとする当たり、瑠奈は念の操作自体に相当慣れているようだ。


「誰に聞いたのか知らねーが、お前を連れてく訳にはいかねぇ」

「どうしても?」


情報源は大体あの、探偵部副部長・勇羅当たりか。明るく人懐こく異能力への偏見もないのは良いが、自分が面白そうだと思った出来事に突っ込みたがる彼の性質もかなり厄介だ。


「俺は遊びに行くんじゃねーんだ。第一その泪本人に心配掛けさせるな」

「んー…。わかった」


泪の名前を出されては瑠奈も反論する事が出来ず、あっさりと引き下がった。


「じゃあ。帰ってきたらお兄ちゃんの事教えて」

「ああ。教えてやる」


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