第20話 鋼太朗side
「ありゃ。四堂先輩この店でバイトしてたんですね」
「い…いらっしゃいませ」
伯父のラーメン屋で手伝いと言う名のバイト中、思わぬ来客が現れた。探偵部副部長・篠崎勇羅とまさかの真宮瑠奈。二人共私服であり勇羅は白と黒のパーカーに同じく白と黒のハーフパンツ。自分の背を高く見せたいのか、黒の厚底コンバットブーツを履いている。
瑠奈の私服は自分の肉付きの良い体型をあまり目立たせたくないのか、大きめサイズのオレンジ色のトレーナーに、ベージュのショートパンツの下は黒の七分丈レギンス。素足の下に白と青色のスニーカーを履いている。
「私達。ここのカウンター席座るねー」
勇羅と瑠奈は皿洗い中の鋼太朗が見える位置に、颯爽と歩きだし素早くカウンター席へ座り出す。鋼太朗は溜め息を吐きながら洗った食器を拭き、それを元あった場所に直すと、カウンターへ向かい二人にメニュー表を差し出した。
「…ご注文は?」
「俺。醤油チャーシュー麺の細麺でその麺の超特盛二人前と、チャーシューは五倍増しに野菜三倍盛りと煮玉子は三つ~」
「私豚骨つけ麺野菜盛りとやっぱり煮玉子とチャーシュー追加~」
何なのだその異様な注文の多さは。瑠奈はともかく勇羅の方は明らかに小柄な体格の人間が食べる量ではない。何処をどうすれば、そんなあらかさまにおかしい量を食べきる胃袋があるのだ。
「全く…。ウチのラーメン屋は、よく奇っ怪な客が来るよな」
後輩二人のぶっ飛んだ注文量に対して、鋼太朗は思わず小声で愚痴をこぼしてしまう。
「奇っ怪な客?」
「ああ。例えばー」
鋼太朗が口を開こうとした直前、ガラガラと閉まっていた店の扉が開いた。
「いらっしゃいませー…」
「……」
店に入って来たのは水色のパーカーを着た一人の女。全体図を見た所、パーカーの女は宝條学園の女子生徒だった。墨を被ったような艶のある黒く長い髪と、黒のオーバーニーソックスが特徴の女子学生。パーカーのフードを深く被っているので、顔はよく見えないが顔立ち自体は整っている。パーカーの女は無言で隅のテーブル席へ座る。鋼太朗の他にもう一人のアルバイトの若い女性が、冷水を入れたコップを片手に、隅っこのテーブル席に座っている女子生徒へ注文を取りに向かう。
「ご注文は?」
「……」
「あ、あのぉ…。ご注文は…」
「……」
オーダーを取りに来た女性の声に対して、女子生徒は何も答えない。ただひたすら無言で持っている携帯端末を弄っている。
「な、何だ…あいつ」
どんぶりの器や箸などの食器を洗いながら、パーカーを着た女を訝しげに眺める鋼太朗へ、カウンターで座っている勇羅が声を掛けてくる。
「俺知ってる、確かE組の人。他のクラスの友達から聞いたんだけど、何だか訳有りでもう後が無いんだって」
「訳有り?」
当の訳有りの本人が近くに居るのか、勇羅も少々言いづらそうだった。パーカーの女生徒と鋼太朗を交互に見ながら、少しの間沈黙したものの意を決したのか、鋼太朗の方へ向くと重々しく口を開いた。
「その、制服の色が…。俺達一年の制服、今年は緑だから…」
勇羅が言いづらそうにしていたのは制服の色が原因だったのか。勇羅達は私服を着ていたから気付かなかったが、女子生徒のパーカー下から覗く制服の色は、自分達と同じ三年生の青だった。
『鋼太朗ー! 注文の品出来たから取りに来いー。客を待たせるなー!』
「やべ」
厨房から店主でもある伯父の声が聞こえた為、急いで二人が頼んだ品を取りに行き、カウンター席で待つ二人へ器の中身を溢さないよう差し出す。
「どうぞ、お待たせしました」
「来た来た~」
やはり勇羅の注文した奴は凄すぎる。伯父も出来上がった品を苦笑いで見ていたが、文句言う事なく作ったもんだ。直後女性の慌てる声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっとお客さん!? ご注文はっ?」
「注文なんかいらないよ…。みんな…。やっぱりみんなバカみたいだ。こんな気持ち悪くて不味い食べ物を、ズルズル食べるなんて…。腐った大人ってみんなバカだね。つまらないから僕……帰るよ」
パーカーの女生徒は乱暴に席を立ち、結局注文を取ることなく目の前の店員を避けるように、すり抜けるかの如く店を出て行ってしまった。
「な、なんなの…? あの人…」
ブツブツ不平を溢しながら帰る女生徒を、周りの客だけでなく勇羅や瑠奈も唖然と見つめていた。
「またあの女か…」
今の時間帯の注文が一段落付いたのか、伯父が溜め息を吐きながら厨房から顔を出して来た。
「あの女子生徒知ってんのか?」
「ああ。いつも冷水だけで済ませては何も注文しないし、一方的で無茶苦茶なクレームばかりつけるから、周りの有名カフェ数店じゃとっくに出禁食らってる」
言いがかりだけの冷やかし客か。しかも複数の店にまで迷惑掛けてるとは性質が悪すぎる。
「鋼太朗も気を付けろよ。最近性質の悪い学生が小売店や飲食店に、言われのない悪質なクレーム沢山付けて、ネットに店の悪評流しながら周りを炎上させる事件多発してるから」
そんな出来事も起きているのか、ネットの事件とは大概恐ろしい。今の異能力者への世界的な検閲といい此所まで来るとなると、ネットの世界の連中にとって、知らない者に対する迫害への歯止めが効かないのは、一体どういう神経をしてるのかと疑いたくなって来た。
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