第18話 鋼太朗side



─第一校舎・第二視聴覚室。


「今日の授業。泪のクラスと合同だったのか」


二時限目からの合同授業の為、移動した第二視聴覚室で鋼太朗は泪と顔を合わせた。鉢合わせた泪の隣には凛とした雰囲気の金髪の女子生徒が居る。金髪の女子生徒は鋼太朗を数秒ほど見たあと、少し顔を横に逸らし泪に視線を向ける。


「泪君。彼は知り合い?」

「京香さん」


長身で髪の先が癖のある長い金髪が印象的な女子生徒。それに制服越しからも分かるほど、均整の取れたスタイルだ。


「俺はB組の四堂鋼太朗。今年転入してきた」

「私は赤石君の同じクラスの水海京香(みずみ きょうか)。よろしく」


京香と呼ばれた女子生徒は鋼太朗の方を向き、柔らかな笑みを浮かべ軽く頭を下げる。女子生徒の緩やかかつ癖がない挨拶につられる様に鋼太朗も軽く頭を下げる。

今日の二時限目は、神在市で起きた大災害に関連する講義。十数年程前に神在市を中心に突如として発生し、神在市を中心に数多くの被災者を出した大災害だ。災害が起きた当時は多くの番組が緊急報道で潰れたらしい。当然鋼太朗は郊外出身なので、大災害の情報源の大半はテレビやネットだ。


「神在の大災害って、十数年前のか?」

「そっか。四堂君は市外出身なんだ」

「ガキの頃にニュースでやってたし、ある程度は耳に入ってる。かなりの犠牲者が出たのは知ってるけど、細かい事まで知らない」


「災害の講義とは言っても、何処でどんな風に何が起きたかの説明するだけですが」

「うん。私達も先生達も神在の災害が何故起きたのか、詳しく知らないし今回もDVDの映像を流すだけかも」


それもそうだろう。大災害のニュースでやっていたのは、地震と竜巻、落雷と異能力の暴走でも起きたかの様な状況だったらしい。例の災害は当然のこと死者も少なからず出ている。不本意だが研究所の人間から聞いた話だと、大災害は複数の異能力を持ち合わせた異能力者が、力に耐えきれず暴走を起こしたのが原因との噂も立っている。事実強力な能力を持った異能力者であれば、大災害クラスの被害を起こせると言う事も否定出来ない。


そして、仮に異能力者が起こせる大きな災害とするなら、それは…·―。



「君…。―……四堂君。四堂君」

「!」



気が付けば隣の泪が自分に声を掛けていた。泪は鋼太朗の顔を不思議そうな顔で覗きこむ。


「四堂君…。もしかして、眠ってましたか?」


目を丸くしながら泪を凝視する鋼太朗に対し、思わず苦笑する泪。変な所を見られたと思った鋼太朗は、気まずそうに泪から目を逸らす。


「悪い。ちょっと、考え事してたんだ」

「考え事?」

「今話してる災害。何か色々不自然な点があってさ…」

「…どうしたの?」


小声で話し合っている二人を見た京香が、二人の話を聞き割って入る。幸い今回も大災害のドキュメンタリー映像を流す事に決定したらしいので、担当教諭達もDVDの映像を見るのに集中している。


「そういえば台風でもないんだよね。季節や時期的に」


台風は夏から秋に掛けて頻繁に発生し、ありがた迷惑な被害を起こして行くもの。昔から勉強嫌いな鋼太朗にとって当然台風は学校を休めるので、台風の通過はありがたい方に入ったが。


「その災害が起きたのは春でしたね」

「うん。こんな事言うのもなんだけど、私の近所は幸いにも被害少なかった。母さんの話だと周りの支援とか物質が届き難いとかで、都市全体の復興自体が大変だったって言ってた」

「そうですか…」


複雑な表情で京香の話を聞く泪も、災害の事はあまり詳しくないようだ。


「テレビでも数ヶ月で話題にされなくなる程でしたし」

「あの災害のレベルならもっと話題になっても、おかしくないんだよね」


二人の言う通りだ。やはり異能力と言うのは、神在大災害の話題すら揉み消す程色々とキナ臭い。やはり大災害は異能力者が関わっているのだろうか。鋼太朗が前を見ると、映像ドキュメンタリーは終盤に差し掛かっていた。


「そろそろ映像終わるね」

「話してるとあっという間だったな」


結局神在市の大災害が、どの場所でどうやって発生したのか分からなかったが、神在市大災害の発生の関わりが一体何なのかは、一応頭の中には留めておいた方が良い。


いずれ暁研究所へと潜入する時。災害の発生原因の事が何かをもたらす情報として、隠されているのかもしれない。


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