第12話 鋼太朗side



―…。



『お前は見たのか?』


『地下の例の実験って何なんだよ。俺らは最初からこの研究所の、都合良いように利用されてたって訳か!? どうなんだよ!!』


『……』


『答えろよ!!』


『…もう一度聞く、お前は【あれ】を見たんだな? 鋼太朗』


『っつ!!』




「はぁ…まったく。朝っぱらから、気分悪い夢で目ェ覚めたわ…」



昨日夢で見た不愉快な出来事を思い出しながら、鋼太朗はいつもの通学路を歩く。例の研究所で行われていた実験が、何の為の実験なのかは今でも分からない。


この宝條学園に転入する数ヶ月前。学校へ通い自らの力を隠しつつ日常生活を送りながら、研究所で父親の異能力の研究の手伝いをしていた鋼太朗。その研究所地下の一角に存在する【立入禁止区間】で、鋼太朗が見た物とは、緑色の液体で満たされたガラスの柱に入っていたのは、生物としての原形をとどめておらず、既に何なのかも分からないおぞましい肉の塊。


あの【肉の塊】が動いているのは目で見て理解した。そして【塊】が柱の中で自分達と同じ異質の力を使った事から、それは研究所が行っている異能力の研究の【一部】であり、その【塊】すらも『彼ら』は異能力の実験台として、使っているのだとも。


数ヶ月前の出来事を色々考えながら歩いていると、前方の見慣れた人物へ目を向ける。鮮やかな薄紅の長い髪を一つに纏めた男子生徒は間違いなく泪だった。


「お、おはよう泪」

「…おはようございます」


相変わらず泪は、自分と会う時だけ不機嫌そうな表情になる。しかし不服な表情でも挨拶自体はきちんとしてくれるので、礼儀そのものはきちんと弁えているのだろう。


「……」

「……」


鋼太朗と泪。二人は無言で通学路を歩き続ける。鋼太朗からしてみれば何とも気まずい空間になってしまっている。泪は昔も今みたいに無愛想だったけど、それでもそこそこに仲が良かったのになぁ、と思ったがやっぱり数年も会ってないと、人ってここまで変わるものなのかと。


それでも泪は、自分から相手に話しかける事をしない。こちらから泪に話しかけない限りは、ほとんど話し返さない。その点は昔から変わっていないようだ。何か話題を探さないと、と鋼太朗が錯誤を練り始めた直後に二人の背後から、数人の男子生徒の話声が聞こえて来た。


「おい知ってるか? 『例の事件』。また起きたらしいぜ」

「これで五人目らしいな…」

「今度は神在市内で起きたって話だよ」

「マジかよ? この町は夜も結構治安良いから、起きないって思ってたのに…。休日とか迂闊に遊びにも行けねーじゃん」


例の事件? 五人目? 一体この街で何が起きてるんだ? 男子生徒達の会話を聞き窺っていた鋼太朗だが、その鋼太朗の様子を見た泪が怪訝そうな顔をしながら口を開く。


「四堂君。テレビとか見ないんですね…」

「あ、いや…。ネットは携帯でたまにやるけど」


泪に話しかける話題を探そうと思っていたら、まさか泪の方から話しかけて来るとは意外だった。研究所で泪と初めて会った時、泪はこの世全てが敵なんだと言う眼差しを鋼太朗に向けてきた。数週間経ってようやく打ち解けて来た頃に突然居なくなり、再会したらあの有り様だ。

自分の事を嫌ってるのかと思い始めてたから、ちょっとは打ち解けてくれたと感じて少し嬉しかった。


「ここに来て日も浅いし俺自身にも色々あったからな。周りのニュースとか見る暇無かったのかも」


鋼太朗の返答を聞き少し困った顔をした泪だが、すぐ元の無表情に戻り少し沈黙した後、口を開いた。


「最近、この辺りで話題になり始めてるんですよ。……動機不明、原因不明、手口周到の『連続殺人事件』」


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