第8話 鋼太朗side
「どうして貴方がここに…」
ウキウキの勇羅と半分呆れ気味の瑠奈に案内された探偵部の部室では、パイプ椅子に座り机の上で書類か何かを書いていた泪が居た。複数の視線に気づいた泪は筆を止め、怪訝そうな顔で部室のドアの前で立っている鋼太朗を見る。
「いやさ。えと、一年の篠崎に案内されて…。俺、今日は見学だけだから」
「そう、ですか…」
勇羅に案内されたと言って、どうにかここに来た理由をはぐらかす。勇羅に勧誘されたのは事実なので嘘は言っていない。連れて来た相手が相手なだけに、泪の返答も何処と無くぎこちない。
「あれ? 勇羅ちゃん新人さん連れて来たの。珍しいねー」
「瑠奈。その人三年生?」
普段部活で見慣れない生徒の存在に気付いたのか、部員らしき二人の生徒がこちらへ近付いてきて声を掛けて来る。
肩まで伸びた長めの白い髪が目立つ男子生徒は、赤い縁取りの制服から二年生。もう一人は瑠奈に似た色の髪色を持ち、前に出した二つお下げの女子生徒。こちらの制服色は瑠奈達と同じ一年生の緑色だった。
「あぁ。俺は泪と同じ三年の四堂鋼太朗だ」
「探偵部部員二年の皇雪彦(すめらぎ ゆきひこ)で~す。先輩よろしくね~」
「え、えっと…。同じく探偵部一年の真宮琳(まみや りん)です」
鋼太朗のすぐ隣に居る勇羅と言い、この目の前の二年生にしても言い、何ともテンションの高い男子だ。そしてもう一人の一年生は…。
「ま…真宮って、お前ら姉妹か?」
「あっ。私クラスは違うけど瑠奈の従姉妹。ここの保健教諭の茉莉先生は私の姉…なんです」
「まっ…真宮」
…まさかあの人と姉妹だったのか。鋼太朗はふと頭の中で保険医・真宮茉莉の事を思い浮かべる。
先日の休み時間、担任に頼まれ第一校舎一階の保健室に届け物をしたのはいいが、ちょっかいを出して来たのがよりにもよって茉莉だった。
この宝條学園は校舎三つと言うだけあって大学並みに広い。保健室は校舎一つづつ計三ヶ所存在し、その内第一校舎担当があの真宮茉莉だ。
茉莉に取って鍛え上げられている自分みたいなタイプがどストライクらしい、鋼太朗の顔から嫌な汗が一筋流れ出る。鋼太朗の沈んだ表情を見て瑠奈は何か察したようだった。
「鋼太朗。先生にちょっかい出されたんだ…」
「真宮先生、うちの探偵部の顧問なんです…。男子生徒へのちょっかいを、教頭や学園長に毎回説教されてるのに、先生も懲りませんよ。しかも違反スレスレでかわしてるんで、他の先生達に苦情言っても無駄だと思いますよ」
泪から更に嫌な事実を聞く、学園長に説教されても止めないとは、茉莉の方も相当場数踏んでると見た。何気に泪の声の勢いも疲れている感じだ。
「……悪い。幽霊でも入部の話は無しで」
「えぇ~…」
探偵部に茉莉がいる以上、別の意味で身の危険を感じざるをえない。当然この部で部長を務めている泪の事も気になるが、自分の負担も増す事になっては余計に困る。
「今日、万里先輩どうしたの?」
「あぁ。委員会あるから遅れるって」
どうやら探偵部にはまだ一人部員がいたようだ。名前からして女子生徒。
「いっけね。もうすぐ帰らねぇとバイト遅れる」
部室の壁時計に目をやれば、思っていた以上に時間が立っていた。
「じゃあさ、暇な時にでもウチの部室に遊びに来てよ。それなら問題ないでしょ」
「ま、まぁ。暇な時にな」
「先輩。万里が来ない内に退散した方が良いですよ」
「その生徒どうかしたのか?」
「う、うん…。見た目は普通の大人しい先輩なんだけど言動が、うん…」
怪訝とした顔をする鋼太朗に対し、探偵部全員何とも言いづらい表情でお互いの顔を見合っている。
雪彦に至ってはさっきまで緩んでいた表情が何やら険しくなっている。
「悪い娘じゃないんですけど、ねぇ」
「言っちゃ何だが……ここの部問題児多くね」
「…もう慣れました」
この後。琳から茉莉も来ると聞き、更に鋼太朗の立場がややこしくなると判断したらしく、すぐに万里や茉莉に見つからないルートを、泪直々に教えて貰った。その裏口から脱出した後、裏口付近から複雑な表情をした泪に見送られながら、鋼太朗は部室を後にした。
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