第7話 鋼太朗side



鋼太朗が教室外の廊下を歩いていると、ふと前方に先日ちょっかいをかけて来た一年生・真宮瑠奈を見かけた。ちらりと彼女の側を見ると縁(ふち)が瑠奈と同じ、緑色の制服を着た男子生徒と話をしている。


「何話してるんだ?」


瑠奈と話をしてる男子生徒は瑠奈より少し高い位、焦げ茶色の髪と黒目がちな童顔が笑ったりふくれっ面を見せたりと、コロコロと変化してなんとも可愛らしい顔立ちをしている少年だ。二人の会話をしばらく無言で眺めていると、その内瑠奈の方が自分達の会話を立ち聞きしている鋼太朗に気付いた。


「あ。鋼太朗だ」

「だからお前は、先輩を呼び捨てにするなって言ってるだろ」

「うっさい。お兄ちゃんにストーカーみたいな付きまといしてると通報されるぞ」

「今度はストーカー呼びかっ!?」


タメ口で突っかかる後輩に対して、無意識のうちにムッとした顔になる鋼太朗。黙っていれば幼さが残る端正な顔立ちかつ出る所が出てくびれもあって、実に胸と尻の肉付きが良くて特に胸は目のやり所に困る程育ったむっちりした娘なのだが。

二人の意味ありげなやり取りが気になったのか、小柄な男子生徒が鋼太朗の方へ顔を向けた。


「その先輩、瑠奈の知り合い?」

「え、あっ。うん、ちょっとね…」

「四月に転入して来た三年の四堂鋼太朗。後、真宮は先輩を呼び捨てにするんじゃない」

「ほーほー。四堂先輩かぁ~」


声も小柄な外見通りで中性的だ。ジト目で鋼太朗を見る瑠奈を他所に、先ほどから男子生徒は鋼太朗をじっと見ていた。ニンマリと悪戯っ子みたいな笑みを浮かべ、上から下へと鋼太朗を品定めするかの様に見つめている。


「四堂先輩。凄い鍛えてるでしょ?」

「え、ま、まぁ…」


幼少から研究所の日課なのか知らないが、鋼太朗は日常から訓練を受けていた。訓練と言ってもジョギングや水泳、空手と言ったスポーツや武道など、鋼太朗からしてみたら当たり障りのないものだったが。


「後、何食べたらそんなに背ェ高くなるんですか? やっぱ牛乳? 牛乳はカルシウム多いですもんね。うんうん」


近くに寄ると男子生徒とは三十センチ近くも差がある、突然鋼太朗が圧勝しているのだが。

どうもこの男子生徒、一年にしては身長が低い部類に入るらしい。この男子生徒は身長が伸びるのに牛乳が一番だと信じているようだ。彼は牛乳信仰者か。


「牛乳もいるけど他に色々あるんじゃね……」


彼の場合。遺伝子や体質とかも関係してるんじゃないか? などとは何故か目の前の少年に対して言ってはいけない、と本能的に鋼太朗は感じ取った。


「勇羅。そろそろ部活行かないの」

「あ、いけね」

「部活? お前ら何やってんだ」


身長とガタイが良い事が災いして、部活へはバスケ部や柔道部と言った運動部中心に勧誘されていた鋼太朗だが、三年である事とバイトをやっていると言う理由で全部断っている。


「探偵部だよ。要は学園の雑用とボランティアやってんの」

「そうだ先輩! よかったらウチの部活入りません?」

「部活って言っても…俺三年だから、長い事居られないぞ」

「そっかー…。でも、見学だけでもいいですから、ちょっとだけウチの部活覗いて見ませんか?」


勇羅と呼ばれた男子生徒は、目の前の新入部員(予定)を前に目を輝かせている。

相変わらず鋼太朗をジト目で見続ける瑠奈に対し、勇羅の方はどうも自分を勧誘したがっている見たいだ。


「同じ学年だったら泪さんの負担も軽くなるしさ」

「泪っ?」


泪は放課後になるとほとんど姿を見かけないと思っていたら、ここで部活動をやっていたとは。


「もしかして、泪はここの部に入ってんのか?」

「そうだよ。お兄ちゃん探偵部の部長なんだ」


普段部活なんて興味なさそうな顔してるのに、何ともマニアックな部活で部長までやってるとは…。

泪が部長を務めている探偵部と言う部活動に如何せん興味が湧いてきた。


「四堂先輩泪さんの事知ってたんだ」

「ま、まあな。篠崎だっけ。見学だけでも良いからさ、ちょっとその探偵部に案内してくれないか?」

「なんだぁ…。見るだけ見て入る気はないんだ…」

「悪いな。俺バイトもやってるんだよ」


訳ありで一人暮らしをしている鋼太朗に対する親戚からの援助条件は、週四日伯父が経営しているラーメン屋でのバイトをする事。鋼太朗は学生なので比較的融通は聞くが、無断でサボるとバイト代はおろか援助も切られる。家を飛び出した鋼太朗にとっては、現状自分の生活もかかってるのだ。


「バイトやってるなら仕方ないか。でも名前だけでも大丈夫ですよ。ウチ幽霊部員もそれなりにいるからさ」


やっぱ幽霊部員もいたのか。この学園の部活動は適当な部活へ適当に名前さえ書けば、基本部活へ在籍してる事になる。部員として活動しなくても名前さえ在籍してくれれば、部活動として成り立ってくれるのだし。これは泪の苦労が内心で計り知れない。


「それじゃ今から部室案内するから、ついて来て下さ~い」


勇羅は嬉しそうにスキップしながら部室へ向かって行く。音程のずれた奇妙な唄を歌いながら前を歩く勇羅の後(あと)を、瑠奈と鋼太朗がついていく。


「篠崎の奴、楽しそうだな…」

「ウチの部活。活動当時から色々問題やらかしてるって聞いたし…。前の部長から部活の活動引き継いだ、お兄ちゃんの負担が耐えないと言うか何と言うか」

「あいつ。絶対苦労してるだろ」

「……うん」


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