第2話 茉莉side


―…神在市・郊外某所。



「マスタ~。こっちのカウンターにスクリュードライバーの注文追加お願いね~」



宝條学園第一校舎保健教諭・真宮茉莉(まみや まり)は、神在市郊外の裏通りにひっそりと建っている行きつけの店で、一人酒を楽しんでいた。


明日が学園の休日とだけあって、茉莉の酒のあおりっぷりにはどことなく勢いが入っている。

茉莉の上品かつ勢いのある飲みっぷりを眺めつつ、マスターと呼ばれるガッチリとした体格の男性は呆れるかの様に、カウンター席でスクリュードライバーを飲む茉莉に声を掛ける。


「姐さんも懲りないねー。また此処で行きずりの男引っ掛けに来たのかよ」

「別に私がどこで男引っ掛けようがいいじゃないの~、お金掛かるホストクラブ行くより全然ましよ~。

イイ男にちやほやされるのは好きだけど、上っ面の逆ハーレムなんて私の性に合わないの。私は自分の手で私だけの素敵な逞しい良い殿方を捕まえるのよ~」


26歳と言う年齢にそぐわないハリのある肉感的なボディに、実年齢を言ってもそうは見えないパッチリとした瞳と童顔。そして清潔感と清純さをイメージした服装に身を包み、故に普段は男の方が近寄って来る見た目の茉莉だが、いざ中身を開けたら狡猾かつ強欲、相手の方が食われかねない凶悪な肉食獣こそが茉莉の本性。


三つ編みにまとめた二つのおさげの薄桃色の髪に可憐な容姿と、誰にでも気さくで愛想の良い笑顔に騙された男達は、その内に隠された脅威の積極性と攻撃性を恐れ、大概の男達が茉莉から逃げ出していく。


「私はただ単純に、逞しい男性をお持ち帰りしたいだけなのにぃ~」

「まぁまぁ…最近ここらも物騒になって来たからな」


注文されたカクテルを手際よく作りながら、マスターはため息を吐くかの様に呟(つぶや)く。


「そういや、休日前にしてはお客さんが少ないわね…何かあったの?」

「TVやインターネットのニュースで話題になってるだろ。神在周辺で発生してる原因不明の連続殺人事件」


酒によってゆるりと緩んでいた茉莉の顔が酔いが覚めたかのごとく、緊張感のある表情へと変化する。


「……それ。今裏でやられてる『異能力者狩り』と関係してるの?」


『異能力者狩り』

世界規模による差別と、迫害による捕縛の隣り合わせの日々を送る異能力者達にとって、自分達が安泰の日常から排除される事そのものが脅威であり、『異端者を狩る者』の存在そのものは、異能力者にとってやっとの思いで手に入れた当たり前の日常すらも脅かす存在だ。


「そうかもな。でも俺ら異能力者に事件の犯人の疑いが掛けられてるってのは納得いかねー」


常連客である茉莉の顔をよく見慣れている店のマスターも実は異能力者だ。

その彼もまた自分の力を隠しながら、神在とその隣町との隣りあわせとなる表と裏の通り境目で、異能力者が落ち着ける場所を少しでも作ろうとこうして店をやっている。


「マスター…。『ファントム』って知ってる?」

「ああ、噂程度に。何でも異能力者だけで構成されたグループ位って事しか」

「そう…」


茉莉はカウンター席から立ち上がると、自分が飲み終えたグラスを洗い掛けているマスターへ。代金を少し多めに渡した。


「ありがとう。これは情報料込みね」

「気を付けろよ。これから姐さんの学園も、異能力と無関係じゃいられなくなるかもしれねぇからな」

「わかってる。最悪、殺人事件の事は家族にも忠告しとくわ」


自分達の親族は少なからず裏社会にも関わっている、後手に回り続けているだけでは自分達の力を隠し通す事など無理だろう。

ならばこちらからも積極的に行動を起こす必要があった。


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