44-5 父と子、忘れえぬ誓いに終止符を……

「ほぉ……玲也の親父との戦いのようだが」

「今までハードウェーザーで戦ったことない筈ですがー、結構追い詰めてますねー」

「まぁ、それは秀斗がハードウェーザーの設計に携わってるホイ。元々ゲーマーとしてプレイヤーとしてのセンスもあったみゃー」


 シミュレーター・ルームでの観客席にて、少し遅れるようにしてドイツ代表の面々が押し寄せてきた。ブレストが両腕を潰されて、地に伏している様子を目にして、彼の父親が想定外の強さではないかと少しアズマリアが目を小さくしている。メルがプレイヤーとしての実戦経験がなかろうとも彼が及第点以上の強さを備えている背景を触れていたが、


「お前がそう言うなら、秀斗に実際戦ってもらったらどうなってたかだな。玲也を凌ぐのか?」

「ハードウェーザーの設計者とメルはいいますが、秀斗さんだろうとマーベル隊長の足元には及ばない筈ですよ。ですからまぁ私も……」


 メルが実戦経験がない秀斗を評価する様子に対し、マーベルは少し面白くない様子でそれだけの腕を持っていながら、実際のプレイヤーとして戦わなかったことを遠回しに批判する。彼女に同調するようルミカが太鼓持ちのように語りだそうとした所、瞬時に首を絞められる結果となった。


「アズマリアー、いつもより素早いホイね」

「私はともかくー、アンドリューさんが私に頼みましたから―」

「ほぉ、ルミカが相変わらずうるさいのは分かるが、お前はいつアズマリアの上司になった?」


 ルミカの首を絞めたのはやはりアズマリアだが、彼女はアンドリューからの目配せを合図に踏み切ったのだと珍しい命令系統を漏らす。これもマーベルとして面白くないのだとアンドリューへ突っかかれば、


「ったく、おめぇら見当違いの事ばっか言うんじゃねぇよ」

「そなたたちは玲也を過小評価しているようだが、今までを見てきたらそれも違うだろう」


 アンドリューとして、ルミカが相変わらずうるさい事よりも後から乗り込んできたドイツチームが我が物顔でこの戦いを評している様子に辟易としていた様子もある。ウィンとして玲也に対して素直になり切れなかったものの、リタも彼に追随するようにすんなりと玲也の腕を評しており、


「確かに秀斗が及第点以上と見たけど、玲也には……」

「ほぉその様子だと、お前には勝負の結果が見えていると」

「あぁ。玲也が勝つにきまってらぁ。秀斗さんには悪いかもしれねぇけどよ」

「えっ……!?」


 メルとしてはアンドリューの意見に耳を傾けようとした所、マーベルは少し強情な様子で彼に突っかかる。相変わらず折り合いが悪い二人であり、彼女からの挑発に乗るような形でアンドリューは勝負の結果がもうすでに見えていると胸を張って触れる。その答えはイチからすれば信じがたいものだった様子で、少し素っ頓狂な声を挙げ、


「いや、僕も玲也さんに勝ってほしいですけど、そこまでアンドリューさんは」

「まぁ、見てて分かるんだよ。俺の読みが外れたら3回回ってワンでもしてやらぁ」

「あ、アンドリューさん。それはいくらなんでも」

「ほぉ~それはまた面白い事を言うではないか」


 イチの疑問に対し、アンドリューとしてまず勝利できる筈だと豪語した上で、自分の読みが外れたらどんな罰でも受けてやるとまで言い出す。リタが流石に勝負に乗りすぎだと止めようとすれば、マーベルが既にその気になっている様子もあり、


「もし外れたらどうなるか楽しみだなぁー?アンドリューにお前のアレとかを」

「確かに楽しいかもしれないホイ、ただみゃー」


 メルを引き込んでアンドリューの読みが外れた時をほくそ笑んでいるマーベルだが、彼女に対しメルはパートナーでありながらどうも乗り気ではない。彼にアレをお見舞いする事に乗り気ではない事とまた別の理由であり、


「何かアンドリューさんとマーベルさんで妙な空気になってるけど、大丈夫なん?」

「まぁ、今に始まった事じゃないしさ。それより玲也君だよ!」

「シャルちゃんの言う通りですね、秀斗さんもなかなかですけど」

「リンさん! あれは玲也様が絶対何かしようとされているに違いありません事!? もう少しあなたも玲也様を信じなさい!!」


 アンドリューとマーベルとの張り合いを他所に、才人やシャルたちもまた玲也の勝負の行方を見守っていた。その中で特にエクスが彼の勝利を絶対的に信じている様子であり、微かにニアへ視線を向けると共に、


「あたしだって、あんたと同じよ、玲也もブレストもこっから強いんだから!」

「そうだね……その事は秀斗君だってよくわかった上で戦っている筈だよ」

「そうそう……って秀斗さんが?」


 ニアもまた玲也が勝つのであると同じ信念で見守り続けているようであり、彼らの様子を微笑ましく横目で見ながらも、エスニックは秀斗の立場からしても玲也が勝つと確信していると意味深な事を触れる。彼女が少し首をかしげていたようだが、


「秀斗君は玲也君の目標として相応しいゲーマーだけどね……このことは一番彼がよくわかっている筈だよ」

「それでは秀斗さんは最初から自分が勝てないと分かっていて……」

「でしたら何故!?何故負けると分かっていて玲也様に挑まれたとも!?」

「エクス君がおかしいと思う気持ちも分かるが……やはり秀斗君は玲也君の父さんだよ」


 秀斗は既に成長した玲也を前に太刀打ちできないと確信してもなお、表向きは自分が超えるべき壁としての役割を果たす。

 これも彼がここまで成長を続けていった5年前の約束から解き放つ為。成長の原動力になろうとも、今の彼がその呪縛に囚われている限り、本来の自分の実力や今後の可能性を過小評価させてしまっている。その約束を交わされた相手としての責任を秀斗は果たす為にこの戦いへ身を投じており、


「男には負けると分かっていても戦わなければならない時がある……というが秀斗君、それが父親としての勝ちなのかもしれないな」


 エスニックは秀斗の真意をこの一戦から感じ取りながら、自分の意見を漏らす――その瞬間にブレストは右へと180度横転するように宙へ飛び上がった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ブレストは短期決戦を想定したハードウェーザーだ……相手の隙を突くことが出来れば!」


 ――ビーグル・シーカーからの砲撃を受け続けながらも、ブレストは仰向けに伏し続けていた。彼からすれば微々たる威力であるミサイルを被弾し続ければ、既に胸部の装甲は破壊され、セーフシャッターがかろうじてブレストの本体を維持していたともいえる。

 ただ、セーフシャッターまでビーグル・シーカーの攻撃を前にしようとも損壊迄には至らなかった。既にビーグル・シーカーの残弾が尽きたのか揃って後退している様子を捉えれば、玲也は勝機をつかんだと確信する。胸を撫でおろしながら、表情では安堵している様子を示していたのだから――。


『……お前は何か一手を打とうとしている。どちらが先に音を上げるかの勝負だが』


 秀斗として、仰向けに寝そべったまま動かないブレストの様子から何か隙を狙っているのだと見なしていた。その為にビーグル・シーカーを総動員させて一方的に攻撃を仕掛けていく事により、撃墜の危機へ直面させての消耗戦へ持ち込む事を意図していたが


『俺としたことが迂闊だった。間違いなく俺は隙を突かれるに違いない』


 この根競べは息子に分があったと認めざるを得なかった。ブレストの胸部装甲を破壊させたため、電次元ジャンプを封じる事に成功したものの、玲也が想定した今後の一手が潰えたよりも、ビーグル・シーカーのミサイルが底を尽き、攻撃の手が止まる事になった事への危惧があった。自分がブレストのEキャノンが尽きた時を狙って攻めたが――今同じ状況での自分は逆襲を受けようとしていると悟っていたのだ。


『……お前がやる前に引導を渡す! そうでもしなければ俺は勝てん!!』


 秀斗もまた玲也と同じような胸のうち――互いに相手の実力が自分を上回るものであると想定していたのだ。目の前のブレストが両膝を曲げてウィング・シーカーの出力を活かして再度飛びあがり、腰のハードポイントからサザンクロス・ダガーが射出された時に彼は決断を下す。

 右スティックを素早く回してターゲットを捕捉しなおし、右手の親指をAボタンへと素早く移して、押しっぱなしにする。そしてL1とL2を同時押した時、


「……クレッセント・ターン!!」


 玲也が叫ぶと共に、宙へ浮くブレストの体は180度右に回転しながら炸裂するゼット・ランチャーからの光線を間一髪避ける。サザンクロス・ダガーをゲーマストへ向けて撃ったのも、ゲーマストへ攻撃に及ばせるための一手であり、この瞬間、電次元ジャンプが防がれた時点で咄嗟に思いついた作戦を発動させんと、両膝からカウンター・メイスが射出される。ゲーマストの胸部そのものを目掛けた攻撃であったものの、


『ゼルガ君をやった手が通じると……迂闊かもしれないが!』


 このカウンター・メイスでリキャストが敗れた――秀斗はそれを想定してか、ゼット・パンチャーを射出させることで脚部から撃ちだされるカウンター・メイスを力づくで食い止めようとする。この戦法で玲也が攻めてくることを想定しての一手であったが――この展開を迂闊と評する秀斗の顔つきには微かな苦々しさが走ってもいた。


「本当に迂闊だよ! 誰だろうと同じ手が通じるとは限らないからね!!」

『これか……ぬおぉぉっ!!』


 ブレストは寧ろ自分からカウンター・メイスをゲーマストに暮れてやると、ブレストそのものを後退させていく。カウンター・メイスを握りしめようとするゲーマストを微かに前のめりにさせる形でよろけさせるものの、ブレストも同時に背中を向けて隙を晒しているものの――背中には腕が残されていた。バイトクローがカウンター・メイスの柄を掴むと共に電流を流し込む。ゲーマストが既に二本のメイスを手にしていた為に、バイトクローからの電撃を浴びせられる形で怯み、コクピットの秀斗も遂に苦痛へ喘ぐ声を出した。


「ここでゼット・バーストだ!」


 それでもこの一撃でゲーマストを仕留めるまでには至らない。だからこそ電次元フレアーに並ぶもう一つの力、ゼット・バーストを展開させる事で強引にブレストの体を宙がえりさせるように間合いを詰める。ゲーマストへと見せつけたブレストの眼が赤い閃光を放っており、


『させるかぁ……!!』


 間合いを詰めるに至り、バイトクローが離れた為ゲーマストも電流攻めから解放された。咄嗟に自分が握ったカウンター・メイスを突きつけようとする。ゼット・パンチャーで後方へ回り込むリーチを得て背中から串刺しにせんと奮うが……。


「……さ、させられないよ! 父さんだからね!!」

『うぐっ……!!』

「キラー・シザース! アイブレッサー!!」 


 ブレストとしてウィング・シーカーを最後の盾として、振るわれた二本のカウンター・メイスを受け止めさせんと本体からパージさせた

 自分を相手に思わず本気になって声を挙げる秀斗の様子に対し、玲也は一瞬複雑な感情をも見せた。父が自分へ本気でぶつかっている事に喜ばしいと思わせたものの、自分が予想以上に早く父の本気を目にすれば、そして少し呆気なさも感じてもいた。それでもこの迷いがある限り逆転されてしまうと、すぐさま全速力でブレスト自身を質量弾へする様に頭からのめり込ませる。すぐさま両眼からの眼光を胸部へ浴びせながら、二本の角で挟み込みながら電熱を見舞う。


『ラスト・ファイヤァァァァァッ!』

「ぐぬっ……!!」


 ブレストの頭部目掛け、ゲーマストが再度顔面からの業火を直線状に吹き付ける。既にブレストの頭部にゼット・バーストで全エネルギーを流し込んでいる負荷も重なり、既に頭部は赤熱化しつつあったが、


『……玲也、このまま断ち切れ! 断ち切って見せろ!!』

「断ち切れって、父さんは急に何を!!」

『ここで敗れる俺の事など捨てておけ! ただ、そう分かっても俺は今、戦うだけだ!!』

「……」


 ラスト・ファイヤーの火力が徐々に弱まりつつあったものの……すでにゲーマストのコクピットにはブザーが鳴り響いている。抵抗する術を喪ったことに直面した上で彼は玲也へと檄を飛ばす。一瞬戸惑う玲也だったものの、父から最後まで立ちはだかろうとする気迫を示した上でそう叫ばれた。


『そうだ、俺が真っ二つにされてこそ、お前が解き放たれる瞬間だ……!』


 だからこそキラー・シザースの刃でゲーマストの胴体そのものを圧壊させんと挟み続ける。ゼット・ファイヤーの業火が鳴りを潜めようとも、ゼット・バーストによるエネルギーの負荷に耐え切れず頭から火花と煙が上がっており、


「あと少し……あと少しだから持ってくれ、ブレスト!」


 ただゲーマストがクロストのように屈強な装甲を誇る。その為に全力でキラー・シザースによる挟み込みで真っ二つにしようとも、セーフシャッターを前に多少てこずっており、実際ブレストのコクピットへもエネルギーの残量が尽きようとしている響いていた所――頭部へのエネルギー供給が不可能とサブモニターへ警告メッセージが表示された。


『……』


 その瞬間、ブレストから爆発が引き起こされた。前のめりにゲーマストへとのめり込ませようとする頭部から爆発が巻き起こされた時に、ゲーマストもまた頭部から胸部にかけての上半身が、後方へと静かに崩れ落ちていく様子を玲也は目にする事となった。サブモニターへゲーマストが機能を呈した様子をこの目にした上で、


『――ウィナー・ブレスト』


 だからこそ左スティックを押し込みながら、真上へと押し倒すと共に地へ伏せつつあったブレストが体勢を立て直そうとする。両腕と頭が喪われた状態ながら、二本足でその地へ立ち上がって相手の最後を見届けなければならない。

既にブレストの装甲も色あせつつあり、一部は形そのものを維持する事も不可能になりつつあったが、この2本の足を地につけてブレストは立ち上がった。その瞬間にアナウンスが鳴り響く――羽鳥玲也が最期の戦いを制した瞬間だ。



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