44-4 吼えろ仔獅子、親獅子ゲーマストを乗り越えろ!

「おや、ジーロさんはもう復帰して問題ないのかな」

「あの時はあっしも心配かけやした。電装マシン戦隊もあっしもようやくひと段落ついたとの事でやす」

「それで、シミュレーターの調整をされているのですね」

「えぇ、元々あっしが設計したでやすから、今後もう使わないかもしれやせんから、手を加えるだけでなく」

「万全の状態に持っていく訳だね」


 ――翌朝。シミュレーター・ルームの観客席へと一番真っ先にたどり着いた人物はエスニックその人であった。ただ既に先客としてジーロがシミュレーターの調整に携わっている。

 ジーロはゲノムへ突入するにあたって、電次元エンジンの爆発に巻き込まれた、背中に熱傷を負った。その為に暫くメディカル・ルームで療養を続けていた所、復帰した最初の仕事でもあり、メカニックとして自分の自信作でもあったハードウェーザーのシミュレーターに対して、最後の活躍かもしれないと彼なりの愛情を垣間見させる。


「こうもみんな見てやすからね。あっしも手を抜けないでやすよ」

「そういえばもうシミュレーターが動いてますけれど」

「ひょっとしたら、玲也ちゃんが真っ先に来てて……」


 ジーロが触れる通りアンドリュー、リタ、シャルが観客席へと到着する。その際青色のドア越しにシミュレーターの稼働音が聞こえている。才人とイチが、玲也が慣らしに入っているのではと捉えるものの、青の扉が開かれれば、


「お、親父さんでしたか……」

「これなら概ね十分、文句なしとは流石だ、ジーロさん」

「玲也さんの親父さんにこう褒められますと、少し照れやすね……」


 降り立った秀斗は自分が初めてドラグーン・フォートレスのシミュレーターを動かす関係上、ジーロの協力を受けていた。彼が生粋のゲーマー故か秀斗は直ぐに適応していた様子もあり、彼から称賛を受ければ久々の仕事をこなした事も含め、少し照れ笑いも見せていた。


「もうすぐ時間だが……」


 一息つくように秀斗がポリスターに表示された時計の時刻に目を向ければ、約束の時刻まで残り5分程まで迫っていた。その瞬間ドアがすんなりと開き彼の口元が緩む。


「玲也ちゃん!」

「やっぱりちゃんと来てくれたんだ!」

「当たり前だ。正直信じられない位よく眠れた。万全の状態で戦うことが出来そうだ……父さん!」


 ニア、エクス、リンの3人を背後に控えながら、玲也は秀斗の元へ姿を見せる。彼としてプレイヤーとして最後の相手に立ちはだかるのだと、才人とシャルが少し案じていたものの、二人に向けて小さくガッツポーズを作っており、玲也自身のこの勝負に対して余裕を少なからず見せている様子でもあった。


「おぉー、俺と最初にやりあった時は睡眠不足で、足にドライバーぶっ刺してたけどな」

「何か懐かしいですが……それは今思うと少し恥ずかしいですね」

「……そのような事をしていたとは、初めて聞いた」


 万全の状態と本人が豪語しており、秀斗を前にも落ち着いた様子で振舞っている事からアンドリューは触れる。初めて彼がシミュレーターでの勝負、それも自分相手に挑んだ時ガチガチの状態だった事は今思い返せば玲也や少し照れるようにして笑う。人知れずリタはウィンの頃の記憶からして初耳だったと漏らしていたのはともかく、


「まぁ将軍、玲也がこういう状態ですからもう勝ったも同然じゃないですかね」

「アンドリュー君、まだ実際に戦ってもいないのにそれは秀斗君に少し失礼だぞ」

「大丈夫ですよ将軍。俺と玲也が実際に勝負すれば分かる事ですからね」


 玲也の様子からしてアンドリューは、余程の事がない限り彼が勝つだろうと確信もしていた。エスニックが少し早すぎる判断ではないかと触れるものの、彼も秀斗の方に視線を送れば、二人が述べる事を特に否定する事もしていない。


「勿論1本勝負だ。お前が余裕かもしれないが、俺もその上で本気を出す」

「俺もそのつもりだよ、父さん。やるかやられるかだ……!」

「そうよ! その意気よ玲也!!」


 ただ秀斗として玲也相手にプレイヤーとして、ゲーマーとして本気での勝負を挑むだけである。玲也も父と同じ心意気であるとは、ニアが激励する様子から示されており、


「あたしがいなくても、あんたなら絶対勝てるから」

「あとは玲也さん自身を信じるだけです」

「勿論私たちは揃って玲也様が勝つと信じてますわ! それ以外ありません事!!」

「少し大げさかもしれないが、その期待を裏切らないようやれることをやる。お前達の為にも俺の為にも……!」


 3人から励まされると共に、玲也は力強い様子で赤い扉へと階段を登ろうとする。彼女たちとの会話の様子を秀斗も耳にしており、


(ブレストで挑んでくるか……ここまでは俺の予想通りだが)


 その会話の様子からして、玲也がブレストでゲーマストに挑むであろうと確信する。ニアの口ぶりから把握した様子でもあったが、昨晩の時点で既にこの流れを予想している様子でもあったが、


(そこから、俺の思う通りに攻めかかるか、それとも……まぁ、やれることをやれるだけだ)


 玲也の父だろうとも、実際のプレイヤーとして多くの実戦を潜り抜けた息子がどのように攻めかかるかまでは検討が付いていた訳ではない。その上で自分が出来る事はすべてやった、あとは打てる手を全て打つだけだと、実戦での自分自身の腕を信じるだけ――やはり玲也と同じような姿勢で本番の勝負に挑むのだと、青の扉を閉めた。


「こうして本当に俺だけの勝負となるのか……」


 シミュレーターが改造された事もあり、ポリスファイヤーを接続する事でバックアップとして記録されていたハードウェーザーのデータを吸い出す形で、シミュレーター用のデータとしてハードウェーザーを出力させる仕様となっていた。

 これはハードウェーザーを出力させるハドロイドと既に関係なく、マルチブル・コントロールのような人並外れた力とも既に関係はない。純粋にプレイヤーとして、ゲーマーとしての腕にこの勝負が委ねられるのだと。


「俺は信じる、約束から5年間……今までの腕も、知恵も、度胸も、何よりも俺を信じるだけだ!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ブレスト・マトリクサー・ゴー……!!」


 草木が微かに群がる平原にて、真紅の光がフレームを形作り、やがてフレームの上に紅蓮の装甲が覆いかぶさっていく。玲也がその名を叫ぶ通り、ブレストが電装された瞬間であり、


「見つかり次第一気に奇襲をかけるぞ、ニア……いや」


 挑むべき相手に対し、玲也は昨晩立案した戦法で攻めかかろうと捉えていた。ニアへ意思確認をするものの――自分の背中に、本来ブレストに乗り込むならいるべきはずの彼女は既にいない。いつもの癖が出たのだと一人苦笑を浮かべ、


「ニアにも、エクスにもリンにも同じように頼っていたが……今は俺一人、来たか!!」

 

 この戦いは玲也一人によるものであり、彼の視界に入った相手もまた一人の手によって動かされている。マリンブルーの装甲を形成していくにつれて相手の全貌が露わになっていく――両肩から二門のキャノン砲を突き出し、脚部のキャタピラで進軍していく相手こそゲーマスト以外の何物でもない。


「まず間合いを詰めると共に様子をみる。バトルホーク・ウェート!」


 ブレストを選んだからには、間合いを詰めて白兵戦へ持ち込む事によって勝機が見えてくる――ウィング・シーカーに設けられた2本の戦斧“バトルホーク・ウェート”の二刀流で畳みかけるよう接近する事を選べば――両足のつま先からはモスグリーンのスーパーカーが3,4台程飛び出していく。


『ブレストを選んだからはそうするであろう……』


 秀斗もまた一人で動かしていながらも、脚部に仕込ませたビーグル・シーカー4台を同時に制御する腕を見せつける。セレクトボタンを押しながらL1、L2、R1、R2をそれぞれ押すと共に、ビーグル・シーカーそれぞれに登録された走行ルートのプリセット・データに従って走らせており、ハドロイドが不在の分シーカーを制御させるための苦肉の策ともいえた。

 とはいえ、ブレストの足元へまとわりつくように走り回り、内蔵されたミサイルを脚部目掛けて撃ち続ける術は足止めとしての役割を果たしていた。これによりブレストの足並みが止まれば、両肩のゼット・ランチャーが自分に狙いを定めていることに気づく。


「少し早いが、この状況が不利なことに変わりはない……!」


 苦々しく思いながらも、ゲーマストの至近距離へと間合いを詰めゴッドホーク・ウェートと電次元フレアーの合わせ技で一気に引導を渡す必要があると捉えたが――場所を捕捉した上でL1、L2、R1、R2ボタンへ両手が触れようとした瞬間だった――ゲーマストの上部に設けられた翼“ジェット・シーカー”が自分目掛けて飛び出した。それも両翼から真紅のエネルギーが刃状に形成されており、コマンドを入力する間もなく急速に距離を詰めており、


「……まずい!」


 バトルホーク・ウェートが質量で相手を叩き割る斬撃兵器であることから、ジェット・シーカーが変形した大型エネルギー刃ことゼット・ザンバーを受け止めきれる保証がなかった。

斬撃としての破壊力が劣るとしても、同じエネルギー刃でつばぜり合いに持ち込んで僅かながらでも体制を立て直す必要がある。バトルホークを前方へ二刀揃って振り下ろす要領で、柄から半月状の刃をパージさせる。


『なるほど、バトルホーク・ウェートは相性が悪いと見たか』


放物線上に軌道を描いて、ゼット・ランチャーへ直撃する事を想定して刃を飛ばす事により、ゲーマストの砲撃からブレストが直撃を免れようとしていた。秀斗はゼット・ランチャーにバトルホーク・ウェートの刃そのものを撃ち落とさせる事で、ゲーマストにタイムラグを生じさせているのだと――。

そしてカウンター・ジャベリンの二刀流がゼット・ザンバーへ鍔ぜりあう。大きくしなるザンバーの刃に対し、十字のように展開されたジャベリンの鏃は、エネルギー出力で劣る事もあり、鏃が遮られると共にサザンクロス・ダガーの部位は両断されてしまう。それでも微かに接触したエネルギーフィールドを疑似的な軸にするようブレストが飛び上がり、


「電次元フレアー……!!」


 すかさず腹部からのシャッターが開閉されるや否や、ゼット・ザンバーの刃目掛けて高出力の熱線、それも電次元兵器のエネルギーはゼット・ザンバーの刃そのものをかき消し、構成するフレームを溶解させる。そのまま飛び上がったブレストの様子からゲーマストの脅威ともいえるジェット・シーカーを潰したといえるが、


「ここで電次元フレアーを使う事になるとは……半分を下回ったとなれば後がない!」


 玲也が想定した最初の作戦は、不意を突くように撃ちだしてきたジェット・シーカーを前に綻ぶこととなる。ゼット・ザンバーとしての高出力のエネルギー刃を潰すにあたって、切り札として温存すべき電次元フレアーを使った結果、既にエネルギー残量は半分以下である。

 実質電次元ジャンプで奇襲を仕掛ける術も1回限り。この奇襲が裏目に出れば完全に詰んでしまうと考慮すれば、現時点で可能な限りゲーマストの武器を潰す必要があると見なした。ゲーマストと異なり制空権を持つことがブレストのアドバンテージである。彼を捕捉しようとしてゲーマストの下半身が起き上がり、二足歩行の形態として砲撃時の高度を確保しようと秀斗は動いており、


「かかったか、父さん……!」


 その瞬間背面状態で飛行しながら、ブレストはウィング・シーカーへ設けられたEキャノンを次々と撃ち続ける。カードリッジ性との点から本体へのエネルギー消耗は最小限で済み、ゲーマストにゼット・ランチャーを撃たせる状況を妨害しつつ、間合いを詰めようとする。何としてもブレストが間合いを詰める事も必要であり、


「これで弾切れだ……今度はカウンター・クラッシュで……!」


 ゲーマストへ牽制するように砲撃を続けた上で、ゼット・ランチャーの砲門を潰す術としてカウンター・クラッシュに玲也は賭けたが――背中から突き出た砲門へ、ゲーマストもまた両腕からの拳をチェーンで撃ちだす事で対処する。ゼット・パンチャーが弾切れを起こしたEキャノンに向けてそれぞれ絡みつくと、その巨体でジャイアントスイングを繰り出す要領でブレストそのものを振り回す。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

『そう全弾を打ち尽くすと隙を突かれる……ゲーマーは隙を突いてこそだ』


 秀斗はEキャノンの弾が切れた事の隙を見逃すことはなかった。このままブレストを振り回し無力化した状態でゼット・ランチャーをお見舞いする事を彼は想定しており、


「その言葉、そのまま返すよ父さん!」


 ブレストはすかさずウィング・シーカーをパージする事で振り回される様子を、直ぐに脱出し、すぐさまカウンター・クラッシュをゲーマストへと巻き付けて反撃に出ようとする。ただパージした直後に放って照準を定める余裕はなく、左肩のゼット・ランチャーを巻き付けたものの、ゲーマストの頭部をチェーンで絡めとるものの――顔面から三分割されるようにして射出口から業火が噴出される。ラスト・ファイヤーによってカウンター・クラッシュのチェーンが焼けただれ、


『どうした、そのまま返すではないのか……!』


 その瞬間に、右肩のゼット・ランチャーが火を噴きブレストの左肩が直線状の筋に呑み込まれるようにして、拳が地面へと落下する。ついに恐れていたゼット・ランチャーの脅威がブレストへと襲い掛かったのであり、

 玲也が少し焦った様子で、左腕のカウンター・クラッシュを収納して距離を取ろうとしても時間がかかるとの事で、左手のカウンター・バズソーを回転させる事によりチェーンを切り裂いて自力で脱出しようとするものの、ゼット・ランチャーの二発目は左肩を巻き込む。


「……やはりここまで追い込まれるなら……いや」


 両腕を粉砕された状態で、ブレストはそのまま平原へと背中から落下せんとする。ビーグル・シーカーから乱れ討つミサイルを被弾しつつ、地面へ仰向けのまま倒れ込むが――玲也として、この窮地に対して賭けに出る事へ寧ろ好機であると捉えている様子もあり


『……ブレストは追い詰められた、いや追い詰められたように見えるのかもしれないが』


 何も動くことをしないまま、ビーグル・シーカーからのミサイルを受け続けようともブレストは無抵抗を貫いている。確実に仕留めるにはゼット・ランチャーで遠方から攻め込むべきかと、秀斗は残されたエネルギーと相談した上で、2本の砲身を寝そべるブレストへと向けていくが、 

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