第43話(第2部最終回)「明日への鐘よ! 電次元の空に鳴り響け!!」

43-1 最後の電装! 命を燃やす時は今だ!!

「しかし、秀斗さんも流石だ――おかげで私たちが、天羽院をこうして討つことが出来るのだよ」

『わ、私が討たれるとは誰が決めましたか! 元々バグロイドは私のロボット工学を基にして……』

「そのバグロイドも、ことごとく秀斗さんのハードウェーザーに負けたのだよ」

『あ、貴方も秀斗、秀斗ばかり……!!』


 そのバグテンバーを天羽院自らが動かしているが、彼があくまで技術者であり前線で戦うような人間ではない。その為戦いにおいては機体のスペックでごり押しするしかできない、そもそもバグロイドはスペックでもハードウェーザーに敗れており、勝てる訳がないとゼルガは断言し、


「確か君は、本当に偉い人間は迂闊に前に出るのではない。出たら死ぬといったが……」

『あ、当たり前じゃないですか! だから私は好きで前には!!』


 セインをあざ笑うかのように、天羽院が口にした嘲笑を秀斗が盗聴していたかどうかは定かではない。ゼルガがそのまま天羽院に前線へ迂闊に出ると死ぬとの彼のジンクスを返せば、天羽院として実際前線へ出る事を想定していなかったのか、早くも弱気な面を露呈しており、


「私も必ずしも血なまぐさい戦いは好きではないのだよ。でも王として私自身が動かなければならないのだよ」

「ゼルガ様の為なら、この身がどうなろうと覚悟を決めました。ゼルガ様は今まで無茶もされてきましたが、それでここまで来ることが出来ました」


 ゼルガは語る。一応前線で戦う事に対し、天羽院の言い分も分かる部分があると擁護しながらも、それでもなおアージェスを束ねる王としての在り方を――。王という立場にある人間は、部下を信じて命じる事も大事だが、それでも自ら腰を上げて動く時はあるのだと。

 ユカとしてもその自ら立ち上がって動くことに対し、危険と隣り合わせであると理解していても妻としてその身をハドロイドへ捧げて彼に尽くし続けた。その結果が今、バグロイヤーの最高権力者を追い詰めているのだと。


「今はゲノムの王と名乗らせてもらうのだよ……バグロイヤーの王とこうして覇を競い合うことが出来るのだよ」

『わ、わかっていますか貴方は!? 同じ最高権力者の貴方が前に出たら敗れ……』

「それは実際に戦えばわかるのだよ……」


 ゼルガがそのように豪語すると共に、リキャストは迫りくる。両腕のデストロイ・ブライカーで蛇のように自らを喰らわんとする触手を切り落とし、チャフミサイルをアイブレッサーで焼き払うのだが、


「ただ、ゼルガ様。埒が明かないかもしれません」

「こうも触手が復活するとなれば……流石に厄介かもしれないのだよ」


 たとえ触手を切り落とそうとも、まるでトカゲのしっぽのようにその触手は切られようとも再生を繰り返している。その為に電次元ソニックを展開する余裕がなく、単身で決定打を打ち出せそうにない。

 

『ハ、ハードウェーザーでもここまでの能力を引き出せないでしょう! 私一人でこのバグテンバーを作ったのですよ!』

「それは君がそれだけの技術者だと言いたいのかな……?」

『な、何を今更。私がそれだけの技術者だとの事は貴方も分かっていた筈……』

「使節として選ばれたのだから、ロボット工学の権威だけのことはあると、あの時は思ったのだよ……」

『そのロボット工学の権威者である私を選べば、こうはならなかったのですよ!!』


 このバグテンバーが秀斗の最高傑作だと自負する。実際自動で再生する触手の性質はハードウェーザーでは備わっておらず、彼の技術力の高さを裏付けるものになっていた。これも5年前の時点で天羽院が若きロボット工学の俊英として名を馳せ、各分野のエキスパートとして、ゲノムへの使節に抜擢されるに至ったとの事だが、


『それなのになぜあのゲーマー崩れを! あのゲーマー崩れの秀斗を選んだのですか!!』


 だが、ゲーム分野のエキスパートとして抜擢された秀斗が、自分が同等の立場と見なされている事を天羽院は許せなかった。それだけでなく過去に天羽院ではなく、秀斗をゲノムの未来のためにゼルガが抜擢した事が、彼のプライドが踏みにじられる結果となり――バグロイヤーを旗揚げしての凶行に繋がるのであり、


「確かに、天羽院さんの技術は素晴らしいものでしたが……」

「君の力は勝つ事しかできないのだよ。相手と競い合っても叩きのめす事しかできない一方的な力なのだよ」

『あ、貴方は何を急に……』

「君のバグテンバーとかを見ていると、私にもそれは分かるのだよ」


 天羽院が自分を恨んでいる事に対しても、ゼルガは臆する気配を見せることなく、自分のリキャストを上回るかもしれないバグテンバーに対しても、天羽院の自分が一番でなければ気が済まない薄っぺらいプライドによって作られたにすぎないと一蹴しており、


『あ、貴方に何がわかるのですか!? 今まで挫折も知らない私が貴方のせいで! 負けた事での屈辱が私にはあるのですよ!!』

「それは私も同じだよ。今まで神童だの天才だのと私は呼ばれて育ったのだよ……」

「ゼルガ様が今までそう生きてました……貴方だけが可哀そうではないですよ」


 天羽院がバグロイヤーへと道を誤ったのも、秀斗に敗れた事でありゼルガが彼を選んだという“たった一度の敗北“に起因していたのだと触れる。だが、ゼルガからすればそのような境遇は自分にも当てはまるのだと捉えており、ユカでさえ天羽院がそのような主張をして自分の正当性をあぴーするする様子へ少なからずの辟易と憤怒が込められていたのか、少し醒めた目を見せている。


「ただ、私は何事も上手くいく、勝ち続ける事が虚しかったのだよ――簡単なゲームのようだよ」

『簡単なゲームとは、随分嘗めた言い方ですね……』

「ゼルガ様からしましたら、貴方はビギナーで勝ち続けているだけです。難易度を上げるような事もしないまま威張っています」


 ゼルガとして、成功し続けていた天才であることの虚しさを幼い頃から同時に胸の内に住まわせていた。そうなってしまう自分の生き方が簡単なゲームであると自虐するも、ゲームに例えた事から秀斗を思い出すのか、彼が不快な表情を浮かべるものの、ユカですら天羽院の生き方が生ぬるいのだと追い討ちを仕掛ける。


『こうも私をコケにするのでしたら……!!』


 ゼルガとの会話は平行線でしかない――痺れを切らせると共にバグテンバーはレドーム状の頭部を回転させて18門の拡散ビーム砲を繰り出していく。デストロイ・ブライカーが小型のエネルギーフィールドを展開させることで、シールドとしての役目を果たして攻撃を弾いていく、


「ゼルガ様! 気を付けてください、こうもエネルギー兵器が次々と」

『ほら口だけですか! ゼルガ様ともあろうお方が……!!』


 ――この一戦が繰り広げられる中、ナドラノ海の逆立つ波に麓を打ち付けられる絶壁に一人の男の姿があった。絶壁を繰りぬかれるようにして開けられた洞窟に身を潜ませて、羽鳥秀斗は双方の戦いを見届けていたのだ。

 そもそも本来新天地へ逃亡する筈であった天羽院に対し、この戦いの場へと送り込んだのが秀斗本人であった。ただ、その天羽院が決戦用として密かに開発していたバグテンバーが並外れた性能を持つ。これが秀斗としては予想外の事であったが、


「これを動かす天羽院が、所詮その程度の男。それがせめてもの救いだが……」


 天羽院がプレイヤーとして付け焼刃でしかない男だろうと捉えようとも、リキャストのスペックにゼルガの腕が上乗せされた状況で、バグテンバーと一進一退の様子であることへ微かに苦い顔つきを見せており、


「玲也、早く来い……お前がここに来る事を、あの天羽院を破るに違いない。お前の父さんとして疑う理由がどこにある」


 ただ、天羽院をバグテンバーで死地に向かわせたのは、電次元の未来において彼を生かしてはならないと捉えただけでなく、自分の元へたどり着こうとする、息子・羽鳥玲也が自分の目の前で強敵を次々と下す事に期待を寄せていた為である。

 自分の戦いがバグロイヤーに立ち向かうスタンスはゼルガとも同じかもしれないが、同時にこの戦争を利用している節がある。自分を探す為、たどり着かんとする息子を鍛え、息子の成長を見定める為の一舞台として――自分もろくでもない親であると自嘲すると共に、唇を噛み締め空を見上げた。


「秀斗さん、早くシェルターの方へ!」

「いや、無理を承知で頼む。どうかこの戦いを見届けさせて……」

「しかし、貴方にもしもの事がありましたら……」


 玲也が到着することを望んで、リキャストとバグテンバーとの戦いを秀斗は見届けようとしていた。解放軍の兵士から戦果に巻き込まれることを危惧され、他の兵士たちと共にシェルターへの非難を勧められるものの、彼は首を縦には降らなかった。バッツは彼の意志を汲み取るよう兵士たちに納得させるよう、自分では彼の意志を曲げられないと、少し苦い顔をしながらシェルターへ向かう事を選ぶ。


「俺のこの性格も厄介なものだ。こう無理しても貫こうとする性格はお前以上かもしれん……」


 そのような自分の性格に苦笑しつつも、秀斗もポートの方へと背を向けて一人後を追った。彼らの勧めに従っていたようにも見えるが、口元が微かに緩み。


「お前が超えるべき壁としての役割だけは最後まで果たす。お前がその約束を信じてここまで来るからだ玲也……!!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「すまないニア‼ 遅くなっ……」


 ――ドラグーン・フォートレスへと玲也は舞い戻った。ヴィータストがカタパルトへ収容された直後に、彼は息を切らせながらアラート・ルームへと訪れる急がなければならないと玲也は焦り気味だった所、彼女はすぐさま備え付けられた自販機から出てきたゼリー食を彼に差し出す。きょとんとしたものの、


「……」

「慌ててのど詰まらせないでよね。はい水」


 吸い上げるようにしてゼリー色を飲み干した後に、慌ててはならなないと注意を促しながら、ニアは紙コップに八分迄注がれた水を差しだす。慌てるなと言われるものの、勢いよく思わず飲み干しており、


「これで一息付けたらいいけどな……ネクスト、ヴィータストの次にお前となれば流石にな」

「そうそう……ってちょっとあんた! どうしたの急に!!」


 水を飲み干すや否や、今までの疲労が一気に噴き出したのか、アラートルームのソファーに身を任せてしまう。マルチブル・コントロールでクロスト、ネクストを動かしながら、自分自身も直接操っている訳であり、その負担が計り知れないものではある。そのように内心ニアは案じていたものの――目の前で出撃を放棄したように座り込まれれば流石に驚きを禁じ得ない。


「いや、俺もここまでよくやった。もう十分すぎる程プレイヤーとして戦ってきた。だから……」

「本当何なのよ……ほら!」


 一気に緊張の糸が切れたように、ソファーの適度な柔らかさに取り込まれるように、玲也の意識は遠のこうとしている。この予想外ともいえるパートナーの厭戦ムードを前に、どう対処すべきかニアは少し迷っていたものの、直ぐに手を差し伸べて、


「早く手を取ってよ。時間がないから引っぱたくわよ」

「……やれやれ。お前にこれ以上叩かれたら本当に」


 ハドロイドとしての腕っぷしを全力で奮おうとしている――ニアのカミングアウトへ流石に玲也も身に堪えると想定したか、渋々手を取って立ち上がると共に、


「――戦わないといけない、いや戦いたくなるというべきか」

「そうそう……って、今度は何なのよ。さっきまで嫌だとか言ってたのに朝」

「いや、あれは芝居だ。お前に気合を入れてほしくてな」

「気合って……あれが?」


 急に玲也の瞳の色は本来の闘志を取り戻したかのように、ギラギラとした輝きを示す。戦いたくないなり、戦いたいなりと転々とする彼の様子にニアは振り回され気味であり、今この一戦を前にして、少し茶目っ気のある一面を彼が見せている事に、少し首をかしげていたものの、


「お前は俺にぶつかってくる。それも肝心な時に、俺が迷って弱音を吐いている所では必ずだ」

「そりゃそうに決まってるじゃん。うじうじしたあんたとか見たくないしね」

「それは俺も好きでそうしている訳ではない。だから……」


 何時もながらニアが突っかかってくる。この最後の一戦を前にしようとも彼女の負けん気は変わる事がない。ありのままの彼女が今もこうして、自分に立ち上がり、戦いの為に奮う勇気を駆り立ててくれるのだと――その手を玲也が手に取ると共に、


「お前がいつもそうしてくれると本当に嬉しい。腹が立つ事もない訳ではないが、やはりお前と一緒にいる事へ俺は感謝したい」

「……急に何言うと思ったらけどさ!」


 恥じらいに屈する事もなく、玲也自身ぎらついた瞳の中にニアへ向けた一途な想いを突きつける。これからの一戦を前に自分の想いを打ち明けると共に、彼女は勢いよく彼に抱きかかり、


「そりゃあんたが生意気で愛想がない嫌な奴だって思ったけどね……あんたは玲也、羽鳥玲也でいてほしいのよ、ずっとね!」

「なら、お前もニア・レスティでいてくれ。無理なら俺が意地でもそうしてやる」


 玲也を強く抱き寄せながら、ニアは今の自分の表情を見られないように自分の胸元に彼の顔をうずめる。今の彼女は少し素直になれない口ぶりであったものの、パートナーとして彼へいつでも身を任せていいと言わんばかりに、蕩けきった顔を見せている。

 玲也としても、彼女の胸元の中で理性を失う事もなく、パートナーの彼女に自分が強く信じているのだと捉えた。だからこそ彼女の信頼を裏切る事がない自分の想いも打ち明けると共に、


「すまないニア、これ以上このままでは俺の闘志も鈍る」

「あっ……あたしに甘えてて、急に言うんだから」

「俺は別に……いや、すみません。将軍」


 最も玲也自身、今度はニアへの想いに駆られる形で本当に闘志が萎える危機を自覚していた。だからこそ理性があるうちに彼女に離れるよう伝える。元々ニアが自分を抱きかかえていた筈だが、素直になれない性分ゆえにいつの間に自分が甘えている話になっていた。これに玲也が突っ込みかけるも、既にエスニックがアラート。ルームへと足を踏み入れており、


「玲也君、今は君が大丈夫かと、心配する事が出来ても……」

「それでも、俺がここで出なければ確実に勝てません。こうなる事も想定していた筈です」

「すまないね……君にこう負担をかけてばかり、私がダメな大人でね」

「将軍の責任ではないですよ。もとはといえば、この戦いも俺が選んだ道ですからね」


 エスニックは、もう間もなくして戦場に舞い戻る玲也の身を案じて声をかけるが――玲也は心遣いだけで十分だと戦う事への姿勢は。そもそもプレイヤーとして戦う事は自分が選んだ道であり、オペレーションXXXを策定する中で、今回の事態も想定済み、ほぼ予定通りの作戦へ踏み切るだけだと捉えているが、


「コンパチ君がいない分、負担も増す……分かっているよね」

「直ぐに勝負をつけます。みんなにはいつでも移れるようにしてます」


 コンパチが喪失した事により、マルチブル・コントロールによる玲也の負担は増大しつつある、それもあり玲也自身ブレストで前線へ出ると共に、クロスト、ネクストを動かすにあたって距離的な負担を軽減する事を彼は狙う。その上で長期戦にもつれ込めば自分への負荷が増える事を危惧し、短期決戦に出るとのスタンスであり、


「だからこそブレストを温存して正解でした。ニアもこの時をまって」

「当然じゃない! ずっと大人しくして終わりだとあたしも納得いかないしね!」

「と本人も言っています。、俺もその気に変わりありません。ですから将軍……!!」


 短期決戦でケリをつける――その上バグテンバー1機を相手にする事もあり、ブレストがこの場合うってつけだと玲也は捉えている。既にアラート・ルームのシャッター付近に設けられたアームバーを手に取り、ニアはいつでも出撃できる事をアピールする。こうしている間に、他の3機がバグテンバーに圧される恐れがあるとして、早急に出撃する必要があるとの意思を示せば、


「玲也君、ニア君……君たちの明日を信じていくんだ!」

「ありがとうございます! いくぞ、ニア……!!」


 エスニックが首を縦に振ったと共に、シャッターが上がった。二人がそれぞれアームバーを握ると共にその先に開かれたスロープへと自分から身を乗り出していった。勢いよく二人の体がスロープを駆け下りていくと共に、

 

(思えば、こうしてニア達によくわからないまま、俺はこのスロープを伝っていった。もう何十回、いやそれ以上……)


 今まで自分たちが出撃するにあたって、アラート・ルームからのスロープを何度も通り続けた。このスロープを急速で降りていく事に、最初体が震え上がり、悲鳴も上げそうになったものの、プレイヤーとしてバグロイヤーを相手に本当の戦いを繰り広げていく事が、何か月かの間で既に当たり前のように日常の一環としてしみついていき、既に刺激も感じる事はなくなっていたが、


(これで本当に最後、最後の出撃か……!)


 スロープが途絶えると共に玲也はその身をカタパルトに向け、身を投げだしていく。その先の空間に深紅の光線が既にフレームを形作っており、ブレストへ今自分が乗り込もうとしているのだと分かっているからこそ、体が自然と動く。ただこのプロセスも、それに従う様に自分の身が動くことも、この先にはないのかと捉えると微かな喪失感に身が晒されるものの、


「マトリクサー・スタンバイ!!」


 両手を離した先、ブレストに向けて身を任せるのだと声を張り上げるようにして玲也は叫ぶ。何時も戦いへ赴くと共に決意を固め、自らの士気を高揚させるように声を張り上げたが、最後の出撃になると確信した事が、いつも以上に彼の士気を高めていたのだ。


『ブレスト・セットアップ・ゴー!!』


 フレームから響き渡るニアの声も、これで最後かもしれない――彼女から放たれた赤き一筋の閃光に身を任せれば、己の体がは緩やかに浮き上がり、フレームの中へとすり抜けるように取り込まれれば、彼の茶髪はまばゆく金髪に早変わりを遂げる。そして宙で前転を経て二本足でコクピットの足場を踏みしめる。


「……っと! 」


 後ろへと玲也が顔を見上げると共に、自分の元へ天井から射出されるワイヤレスコントローラーをキャッチする。ゲーマーとして己を磨き上げていた頃から扱いなれている形状だが、ハードウェーザーのコントローラーでもある今となれば、己の命を預ける道具として過去と比べ物にならない実感を抱いている。後部の席で制御せんとキーボードを慣れた手つきで動かすニアと視線が合うと共に、


「へへへ、あたしとあんた。最後の出撃が一緒なのも照れるわね」

「俺も否定はしないが、この勝負に余裕はないぞ」

「当然じゃない! だからあたしとあんた……ううん、みんなで一気に決めるわよ」

「その意気だ。クリスさん、電次元ジャンプの準備できてますか!?」


 ニアとしても自分がハドロイドとしての役目を果たす事がこれで最後だと捉えている。それ故に玲也と共に最後を飾る日が来たと考えれば照れ隠しに笑う。

 そんな彼女の様子を玲也は否定する事はせず、ただ今から直ぐにでも決戦の地に乗り込むのだと、クリスへ確認を取ると共に二人の意識を戦いへ向けるよう言葉をかける。


『話は聞いてたからね……これが最後の電次元ジャンプだからね!』

『玲也さん、ニアさん、無事を祈ります!』

「ありがと! もう早く行かないとね……!!」


 クリスとエルから激励を交わされると共に、戦場と化したナドラノ海の映像がニアの管轄するモニターに送信される。バグテンバーの攻撃を前に、リキャストとネクストが囮のように陽動を展開しており、クロストが遠方から砲撃で攻めかかる様子だったものの、自分たちが乗り込まなければ決定に至らない様子でもある。そう捉えてニアが玲也の元へその映像を送った直後、機体全体へ衝撃が襲い掛かる。



「エクス、リン……それにシャル、アンドリューさん、ゼルガ! 直ぐに行きます、一気に決めますよ……!!」



 “今、最前線にて好敵手は死力を尽くしている。生まれも育ちも違い、敵として出会うことがあれども、互いを認め、絆を育んでいった――この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんとする中で、好敵手たちと巡り合い、競い合いながら、認め合った物語でもあった。バグロイヤーに抗いつつも、一途に突き進む闘いの記録は終わりを迎えようとしていた”

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