42-6 天羽院最後の反撃! 切り札バグテンバー現る!!

「ハインツだけでなく、セインまで。些細な事に拘りましたばかりに、あぁも……」


 ――秀斗を人質として天羽院はポートへの逃亡を続けていた。そして車内ではハインツに続いてセインまでもが、些細な私情から不利な戦いへ身を投じて返り討ちに遭った顛末に苦言を呈する。特にセインに対しては、心を許していたかのようで結局は手駒としてしか見なしていない様子でもあり、


「まぁ、バルゴラへは最悪身を潜める場所として機能してくれましたら……」

「どのみち途中で私を手にかけたら、生き延びるさえできれば」

「えぇ、そうですよ。貴方を消しさえすれば命以外いりませんからね!」


 セイン亡き後、彼女が統治していたバルゴラで統治権を引き継げる保証はなかった。生前に彼女から託されればまだしも、見殺しにしたことが超常軍団に知らされれば、自分だろうと命の保証はない。よって自分は命だけは必要ないと謙虚な姿勢で口にしていたものの、秀斗からすれば甚大な被害をもたらしている上で言えた身ではないと白い目を向ける。


「ほかのポートに囮も送ってますが、私一人だけ……おっと、貴方達の命も保証しますが」

「はぁ……天羽院様、シャトルが」

「分かってますよ。打ち上げの準備もできていましょうから……」


 自分以外には、二人の憲兵だけとバグロイヤーのトップとしては、あまりにも心細い陣営であったものの、むしろ権力を放棄して生きながらえるためには、これでも多すぎると言いたげだ。彼が言う通りバグロイヤーの残党を、各ポートへと逃亡させる建前で撤退の指示を下していたが――これも自分が逃れる事へのカモフラージュとしての役回りを果たさせた。他の面々が逃れるかどうか知った由ではない顔をしており、憲兵の一人の顔が少しゆがみ、


「相変わらず、お前は足蹴にして切り捨てる事だけは……」

「なんだろうと結構。私一人を活かす為に、大の虫を殺せるのですよ?私は」

「すごいと言ってほしいようだが……逆だとしたら」

「逆? 先程私が言いました通り、私の為に大勢が……」


 他人を蹴落として生き延びる事しか、天羽院は眼中にはない。そんな彼に辟易するように秀斗が尋ねようとも、特に顔色一つも変えていなかったものの――目の前のシャトルは突如木っ端みじんに砕け散った。彼として生き延びるための到達点は、突如外野によって潰えた結果に至る。


「な、何がありました……あれは、まさか」

「囮だと言いたいのだと思いますが、そんな事……」

「本物です――貴方だけに用意するよう命じられました」

「か、帰る術が、私の帰る術がぁぁぁぁぁぁっ……!!」


 一気に顔面蒼白となり、天羽院は憲兵へと夢か幻かと思わず尋ねていたものの――憲兵たちは現実を突きつける。曲がりなりにもバグロイヤーのトップだろうと、彼は取り乱したまま。シャトルに代わるよう白銀のハードウェーザーの姿が徐々に近づいており、


『天羽院……君が責任を取らないでどうするのだよ』

「貴方が言えた事ですか! 多くの人を殺しておいて!!」

『貴方にだけは言われたくありませんが……否定できないですね』

「逃れるつもりはないのだよ。けど今は戦うだけだよ!!」


 デストロイ・レールガンでリキャストはシャトルを轟沈させ、天羽院が生き延びる芽を摘み取って見せた。先ほどまでの言動から一転し、ゼルガこそ戦犯だと非難する彼だが、半分詭弁でもある。ただユカもゼルガも責任問題に関しては否定せず、ただ


「は、早く退き返しなさい! ここで殺されては……!!」

「ダメです、タイヤを狙われましたようで」

「でしたら、貴方達が打って出なさい! 私の楯になって死ね……」


 ポートを目の前にしながら、リキャスト率いる解放軍に占領されたとなれば、向かえば死ぬも同然でもある。慌てて逃れようとするものの、既に解放軍の面縁が駆け付け、タイヤをパンクさせる。それでもたった二人の憲兵たちに打って出させるようにと無理強いをすれば、彼は銃を取り出し、


「そうです、例え二人だろうとも私さえ……って!?」

「いい加減にしてください……私は既に」

「な、何のマネですか! 貴方がバグロイヤーの人間でしたら」

「生憎、バグロイヤーの人間ではないですよ、私たちは!」


 憲兵たちは打って出るかと思われたものの――銃を天羽院へと突きつける。猶更狼狽する彼は、土壇場の裏切りが認められるはずもないと詰っていたものの、先程まで車を運転していた彼は目の前で変装を解いてみせる。


「た、確か貴方はゼルガの……」

「その通りです。バッツ様と私はこうして潜入しまして」

「脱出計画を知りましてから、この作戦を進めてました。ゼルガ様……!!」

「わ、私が天羽院の犬になど……!!」


 ゼルガの側近であるバッツにより、天羽院の脱出は頓挫しようとしていた。万策尽きたかの様子の彼は自ら車外から飛び出していく。解放軍の兵士たちはすぐさまハチの巣にしようとしたが、




「動くなぁっ! こいつがどうなりましてもいいのかぁ!?」



 ただ、秀斗の身柄を人質として、解放軍の兵士たちを脅迫する。既に解放軍として重鎮になりつつある彼が天羽院の手に落ちていた点は少なからず効果的だったのだろう。彼らがその場で銃を向ける事をやめており、バッツ達も彼の拘束を諦めたかのように、車から飛び出しており、


「どうです! 虫けら一匹で、野良犬どもを黙らせられる私ですよ!! 私の命を保証するなら話は別と……」

「構うな! 俺だろうと構わず撃て!!」

「おやおや、残念ですね。もうすぐあなたの一人息子がって……!?」


 解放軍へ自分の命を保証するよう、天羽院は秀斗を人質に最後の交渉へと踏み切ろうとしたが――秀斗は自分もろとも撃てと声を張り上げて叫んだ。彼の自己犠牲をあざ笑っていた天羽院であったものの、解放軍の兵士たちの中から、因縁の相手とうり二つの人物が堂々と現れ、


『そこにいる秀斗さんは偽物だよ……気づかなかったのかい?』

「に、偽物……嘘だ、そんな事、あっ!!」


 ゼルガから突き付けられた内容は、今の天羽院の判断を鈍らせるには十分といえた。微かな隙をつくように秀斗はショルダータックルを浴びせて彼を突き飛ばし、急いで解放軍の元へと全速力で駆け出した時、



「一斉に撃て……!!」



 秀斗も手放した天羽院へと、もはや解放軍が情けをかける理由はなかった。彼らが一斉に一人目掛けてハチの巣のように撃ち尽くす。一人で多勢を殺せると先ほどまで豪語していた男は、成す術もなく全身の熱と共に血しぶきをまき散らし、


「お、おのれ……秀斗が、秀斗の分際で……?」


 既に意識が途絶えようとする天羽院は、秀斗をただ呪うように断末魔を残そうとしていたものの――目の前で奇妙な光景が繰り広げられていた。本物と思われたはずの秀斗の体が一人でに宙へ浮上していたのだから、もし立ち上がれるならばそこで腰を抜かしてもおかしくない事態でもあり、


「俺を本物か偽物か見抜けないとは……迂闊だな」

「ま、まさか……私が人質にしました秀斗は」

「本物だ。直ぐにでも殺しさえすれば復讐は出来たのにな」


 偽物の秀斗が本来の姿へ、ミラージュ・シーカーの一基へと変化を遂げていった。秀斗はあくまで自ら人質に転がり込んで、天羽院へ僅かな希望を抱かせ、彼が退路へとおびき寄せていた。そして彼の退路を次々と封じて万事休すの状況となり、取り乱している状態の彼が二人の秀斗を見分ける余裕がないともいえた。追い詰められている上では本物としてカモフラージュした偽物に踊らされたのだ。


「お前ひとり助かろうとすることを考えなければな……それでも賭けだったが」

「ならば何故、そのような馬鹿な真似を……」

「玲也が今、必死で戦っている……それに応えただけだ」

「馬鹿だ、貴方ら親子は恐ろしいほどの……」


 自分へ再会せんと戦う玲也に対し、秀斗もまた自分の戦いに身を投じた。覚悟をもってその身を天羽院の元へ転がり込んだうえで、彼を仕留める事に成功したともいえた。彼ら親子は想像以上の馬鹿だと、天羽院が顔を俯かせ、微かな身動きすら見せなくなった様子から、


「……天羽院の死亡が確認されました! ゼルガ様!!」

『バグロイヤーの指揮系統は喪失、これで……』

『ま、待ってください! 巨大なエネルギー反応あります!!』


 バッツから天羽院の死亡報告が届き、バグロイヤーとの戦闘は終息を見せたかに思われた――ユカがすぐさま新たなバグロイドの反応を察知して、少し顔色を変えた。それだけでなく電装されると同時に触手を鞭のようにリキャストへと叩きつけていった。この攻撃にブライカーを展開させてしのごうとするものの、質量を受け止めきれず弾かれる結果となり、


「秀斗さん、危ない……!!」


 さらに10本もの触手は解放軍へとも襲い掛かった。バッツによって秀斗は間一髪回避したものの、触手により天羽院の亡骸はあっけなく潰され、


『万が一のために用意して正解でしたね……!!』

『天羽院……まさか!』

『バグロイドにバックアップを取ってたのだと思います! 天羽院を仕留めましたから』

『その通りですよ! このバグテンバーこそ切り札ですからねぇ!!』


 天羽院が豪語するこのバグテンバーは、おおよそ3年もの歳月をかけた最高傑作――バグロイヤーを旗揚げして、最高権力を掌握する事に成功した時から欠かすことなく手を加え続けた程の代物でもあったが、


『ただ、急遽自我だけ持たせましただけに、私のコピーではないんですがねぇ!!』

『ですから、もはや戦って私たちを道連れに』


 本来バグロイヤーの最終兵器として温存する他に、自分の万が一を想定して人格だけをバグテンバーへと移植した。ハドロイドとしての自分のコピーを作る余裕がなく、バグテンバーとしての姿からもはや自分は戻れないのである。ユカが想像した通り天羽院は自分たちを道連れにしようと、最後の抵抗を試みている状況だが、


『それはないのだよ。ガレリオと何も変わらないのだよ』

『ガレリオと比べ物にしちゃいけませんねぇ! これだけの最高傑作を……!!』

『ただ大きいだけの的に過ぎないのだよ……行くぞ!』


 玲也が一蹴したバグウィナーと何一つ変わらない、せいぜい巨大な存在に過ぎないとゼルガは勝利を確信した笑みを見せる。最後のバグロイドを相手に、電次元最後の戦いが切って落とされようとしていた――!!


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次回予告

「お前も俺も夢見ていたのかもしれない。力と力を寄せ合って、この明日の為に戦う日の事を! 例え地球と電次元と生まれ育った世界が違っていても、平和を祈る思いは一つ。たから傷ついてもその上に大地は明日の緑を結ぶ、その日の空も青いと俺は信じた……行くぞ、みんな!電次元フォーメーションだ!!次回、ハードウェーザー「明日への総力戦! 平和の鐘よ、電次元の空に鳴り響け!!」にブレスト・マトリクサー・ゴー!」

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