42-5 激突ハーミット、決死の零距離トルペード!
『せっかく、おいしい所任されてるのに……まだなの!?』
――その頃、ハーミットの攻略戦へとパッション隊らの面々は駆り出されていた。だがブルーナが別動隊として待機していたものの、未だ攻撃命令は出ない。思わずしびれを切らせて、前線に君臨するパインへ抗議するものの、
『まだなのって、僕に聞かないでよ!? 消耗戦なんだしさ!!』
『もー、一体何時間たったのかなぁ!?』
両手のトゥインクル・スタンを駆使して、パイン機は延々と飛び交うミサイル目掛けて、電撃を掻締めて破壊するなり、軌道を逸らすなりと迎撃に徹していた。ただ彼女たちが攻勢に出る様子もなく、パインとしても少々しびれを切らしている様子でもある。ベリーが触れる通り長期戦を強いられている様子だが、
「もう8時間だな……少々骨が折れるかもしれないが」
『少々ってそんなレベルじゃないよこれは! 確か24時間しか電装できないって筈なんだし!!』
「ダー、ダー、ダー、ニエット!!」
「それはあくまでも何もしない場合であって、実際はもっと短い……パルルはそう言っているぞ』
『へー……そうって、余計ダメじゃんそれ!!』
ハーミットの攻略において、カプリア率いるパッション隊の戦局は膠着しつつあった。これもハーミットへと君臨するバグロイド・バグベースの存在が彼らの進軍を阻んでいた。ディエストさながらの二本のクローを前面に展開し、蟹のような外見の相手は、フィールドを展開してエレクロイドのビーム兵器を無力と化し続けており、
「こう後ろに突っ立っているだけ、そう思われても仕方ないが」
『ニェット! ニェット!!』
『もちろん、今の私が最後の楯だとは分かってるいるぞ』
ただ、バグガードの前方へと二本の砲門“アリエスカノン”がそそり立っており、これによる長距離砲撃がパッション隊の進軍を阻害し続けていた。ディエストはストリボー・ブレークを駆使する事で半ば無理やり弾道の軌道を変えて、被害を最小限に食い止め、彼らの前方へと控えるエレクロイドの面々は、繰り出すミサイルを撃ち落としに徹しており、
『カプリア君、スフィンストが空いているようじゃが、その……』
「マーベルの方が危ないんじゃないですか? 何、大丈夫ですよ」
『それは……そうじゃが、タイムリミットが君にも迫っているんじゃぞ?』
「何、消耗していますのは相手も同じ、その為の根競べですよ?」
「……マカセテ!」
この戦局に危惧した為か、ブレーンはスフィンストを援軍へと送り込もうと打診したものの、必要ないとカプリアは意外な判断を下した。彼の様子から防戦一方に転じている事も作戦の一環であり、
「メガージ艦長が言っていたな、確か武装軍団のバグロイドだから」
「……ヒト、イナイ、コンピューター、ダケ」
「パルルがそう断言するなら、なおさらだ。単に守るだけならうってつけだ」
バグガードが武装軍団の指揮下に置かれていたバグロイドであり、全機がAIによって稼働されている事が特徴である――有人以上に精密、正確な操縦であるものの、柔軟性に欠ける点がAI操縦の限界点。その弱点を補う為シンプルに強力な装備を備えていたともいえた。ビーム兵器を受け付けず、こちらの限界を上回る長距離砲撃を繰り出し続けて、進軍を阻んでいるともいえたが、
「だが、いくらバカスカ撃って守れば限界がある……それを狙って攻撃もしているが」
「……カンカク、オチテル、タマギレ、チカイ」
「ドンピシャか。できる限り探ってくれないか」
そしてカプリアは相手の消耗を誘う為に、ライトウェーザー隊へわざと“効かない“攻撃を繰り出し続けていた。デルタ・バックラーの繰り出すフィクス・キャノンだろうと、フルーティーのライフルだろうと、バリアーによって弾かれ続けているが、些細な攻撃をもバリアーを張って無力化させられている様子に、AI操縦の限界が見え隠れしていたともいえた。
さらにホースシェル・シーカーを別動隊として飛ばし、バグガードの状況もリアルタイムで把握することを試みていた。ミサイルやカノンの攻撃間隔が徐々に伸びている点から自分の思惑が的確だと見なし、
「……ジャクテン、セナカ、アタマ、アル」
「つまり後ろに回れ……直ぐには難しいが」
『バリアー、デル、トコ、1、2、3……アッ!』
バグガードの後部にAIを搭載した頭部が存在している。ただバリアーによって守られている関係から、本体へダメージを及ぼす術がないとカプリアは頭をひねった。だがパルルが驚きの声をあげるとともに、シーカーの反応が消失。自分の存在をバグガードに感知され、カノンの直撃を受けてしまったためであり、
「ベリー、出番が来たぞ!!」
『はいはい、出番って……ええっ!?』
「今から私が背後を衝く、データも送るからその時を狙うんだ!!」
すぐさまベリーへと、狙撃態勢へ入るよう命じた――ディエストのストリボー・ブレークがカノンの弾丸の軌道を逸らした後、すぐさまその姿はエレクロイドの元から消え失せ、
「カプリア、アソコ!」
「あぁ、この爪でどうにかなればだが……!!」
バグガードの背後へと電次元ジャンプを果たすとともに、ディエストはグレープクローを本体へとめり込ませる。バリアーによって守られている分、クローの先端からビーム砲を接射しながら、少しでもバリアーの出力を堕とさんとするものの、バリアーを前にクローは爛れつつあり、
「硬いのがこいつのウリだぞ……!!」
最後のダメ押しで、グレープクローを目いっぱいめり込ませ、拳を打ち出すとともにディエストは間合いを取った。目の前で発振器を潰され、バリアーが消失した状況にてディエストが脅威他ならないとバグガードはみなしたのだろう。彼の元へと180度方向を転換させ、デリトロス・バイスでディエストの腕を挟み込み、圧壊させようとしていた途端、後方で爆発が巻き起こり!!
『本当だ! カプリアの言う通り抜群じゃん!!』
奇襲を仕掛けたディエストへバグガードの注意は偏っていたのだろう。長らく別動隊として控えていたベリー機が、フローラ・スナイパーでカプリアが示した位置を打ち抜いた結果である。煙が込みあがるとともに、ディエストは頭部をバグガードへ突き付けており
『動きが止まった……まさか!』
『だったら、一気にとどめを刺さないとね! 待ってたんだから‼!』
「各自離れるように! 巻き込まれるぞ!!」
バグガードのAIが損壊し、エレクロイド部隊が取り囲む中で機能はほぼ停止した。この状況に今までの鬱憤を晴らすように、ベリー機が前へ出ようとしたが――カプリアが怒号を飛ばして迄彼女たちの早まった行動を制止させ、
「パルル、ショックに備えるぞ、いいか!』
「……ダイジョウブ!」
「これで終わりだ、コサック・トルペード……!!」
これも至近距離でディエストがコサック・トルペードを撃ちだした為。仮にAIが無事だろうともその巨体である限り、弾頭を避ける術はないに等しい。直撃するとともに、甲板の砲門から爆発がハーミットの周辺を巻き込むよう爆発を巻き起こしていく。それもありエレクロイド隊へ引き下がるよう命じていたものの、
『あ、危なかった……カプリアが言わなかったラサ』
『いや、そこはちゃんと……ってディエストは』
『え、えぇーと、ハードウェーザーなんだからジャンプして逃げたんじゃ……』
カプリアから止められていなかったら、自分が爆発に巻き込まれる恐れもあった。思わず安心するベリーにパインが突っ込みを交わしていたものの、ディエストの姿が見当たらない事へ気づく。ベリーも無事だろうと言いつつも、内心では不安を隠せない様子も見え隠れしている。
『あ、あれってまさか……』
『ディエストだよね!? あんな飛び方してるんだし!!』
二人は目にした――爆発からディエストが煽られるよう吹き飛ばされていた様子を。両手両足を既に失い、胴体だけの状態ながらストリボー・ブレークをホバリングの要領で駆使する事で、かろうじて着陸に成功していた様子であり、
『他の隊はそのまま進軍してください! カプリアさんは僕たちが!!』
『何で、何でジャンプして逃げなかったの!?』
「ー……カプリア、カプリア!!」
ハーミットの攻略を部下たちに託し、パイン、ベリー機が揃ってディエストの元へと駆け寄る、かろうじて通信でコクピットの映像がつながると、パルルを抱きかかえなが、コクピットの壁に叩きつけられたカプリアの姿がそこにはあった。頭から血を流している彼の様子にパルルが取り乱し、8歳の少女として泣きじゃくっていたが、
「……ジャンプも何も、エネルギーに余裕がなかったんだ」
『カプリア! やっぱ無事で!!』
『でも、それであのまま巻き込まれるようなことを!』
「無我夢中でな……パルルだけは守らないと思ってな」
意識を取り戻したカプリアは、ディエストもまた同じ消耗していた状態だった事を触れ、コサック・トルペードによる半ば相打ちに近い戦法で引導を渡していた。咄嗟の判断による一手からパルルを護るため、カプリアは直ぐ彼女の元へ駆け寄って、頑なに抱きしめ続けていた。実際爆風による衝撃で、パルルが席から投げ出され、カプリアが受け止めていなければ、彼女が重体になっていた可能性もあり、
『カプリア、コンナケガ、ダメ、パルル、ワルイ、ゴメン、ゴメン……!!』
「いや、これも私が全て無茶をした結果だ。誰も悪くない」
『誰も悪くないって、あたしだってその……』
「戦いは臨機応変、独断の必要も非常に多い……分かるか?」
自分のせいでカプリアが負傷したのだと、パルルが詫びるものの、このような無茶な判断は自分が下したものだと皆に告げた。その様子にベリーでさえ自分も迂闊な行動をとっていたと省みていた所、意外にも彼は独断の行動は必ずしも間違っていないとフォローしており、
「作戦自体は堅実に消耗戦と行きたかったが……感づかれた」
『それであのような思い切ったことを、カプリアさんは……』
「いろいろ打つ手も考えていたが、結果一番無茶な手になった」
実戦に備えて策を練り各々との連携の重要性は言うまでもない事と触れつつも、必ずしも予定通りに事が運ばない――それが戦いであるとカプリアは説く。その中で咄嗟の対応、臨機応変さを求められるとのであり、
「つまり、あたしが思い切って出たの間違って……」
「調子に乗ると命を落とすぞ。軽はずみな気持ちで独断に走らないように」
「……は、はい」
カプリアの意外な返答から、ベリーは自分の行動が間違っていなかったのだと胸を張るものの――同時に彼女が独断での行動が上等であると増長しないよう、少しドスを聞かせて釘を刺せば、流石の彼女も黙らざるを得なかった。
「……最も、私もまだ戦いたかったぞ。今更遅いが」
「……ダー」
ただ直ぐに彼は柔和な表情を作るものの、ディエストがここで戦線離脱を余儀なくされたことを少し惜しくも思っていた。自分たちの戦いは玲也たちに託すのだと、ブザーが響き渡るコクピットの中で少し物思いにふけっていた。
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