43-2 戦いの詩、その日の空も青いだろう

『全く、ジャイローターをこうもボロボロにして返してもだな!』

『けどシュツルム・ファイヤーは使えるホイ、早くセットするみゃー』

『壊されないだけマシってことですね~』


 ダブルストもまた武装軍団のバグロイドを相手に交戦状態であった。最も砲撃戦主体で機動性に難があるダブルストとしては、後方に陣を構えており、ゴースト1によってノースフィアとライフルが接合され、ブレーメルを完成させており、早い話迎え撃つための準備を進めていたが、


『これも何も、お前たちが送り返されたからだ! だからアンドリューに借りが出来たとな』

『そ、それはですねマーベル隊長! 相手が超常将軍ですからよ! あぁも私たちを操ります相手ですと、私とアズマリアでは分が悪いのは当然でして! あぁ、これも相手が悪かったのが敗因ということでして、私たちの腕の問題では……』

『わかった! わかったからもういい訳など結構!!』


 ジャイローターを一時的にアンドリューへ貸す羽目になったことを、マーベルは苦々しい想いと共に述べる。ルミカがやはりいつものノリで弁明をするが、あまりにも保身に走りすぎていた為か、怒る気すらなくなりつつあり、


『けど、シーカーもないネクストなら必要だった気がするみゃー』

『それに私たちも無事で~こうして動かしてますから結果オーライです~』

『そうです、そうです! ですから私がこうして体を張って囮を務めているんですよ!! シュツルム・ファイヤーを遣うにも時間がかかるものですから、その分の仕事はしっかりと……』

『何か馬鹿にしているように聞こえるが……ブレーメルだけか』


 メルとしてはアンドリューの申し出はあの時むしろ妥当と評しており、結果的超常軍団の支配下に二人が堕ちる事も阻止したともいえる。その結果ゴースト2がバグロイドの足止めに回り、ゴースト1は腕へと変形してジャイローター越しに、ダブルストへと連結された。さらにブレーメルを接合させて、ダブルストの切り札が完成する訳だが、


『しかしまぁ、こうも目が痛くなる、いや、攻撃が聞かないような敵が現れますと、やはり私では……あ、これも結局相手が悪いのでして、ゴースト2でここまでできているのでしたらむしろ検討と……』

『だから、口を動かす暇があるなら手を動かせ! 馬鹿者が!!』


 ルミカによるゴースト2が対峙するバグロイド・バグプラズマーだが、まるで全身がビームそのもののように、光の幕で全身を覆われ、真の姿が特定できない存在でもあった。そして今のゴースト2には実弾しか装備がされておらず、肩のスクリューや、胸部のミサイルを繰り出しても幕にかき消されてしまい、


『そうは言いますけどね、マーベル隊長、ブレーメルをよこしてくれませんと、ビーム兵器が……あっ!!』

『ルミカがやられたようですねー』


 ルミカとして、高出力のエネルギー兵器でなければバグプラズマーへ有用なダメージを与えられないと言いたげだ。そのビーム兵器として高威力となるブレーメルはダブルストへ回してしまっている為、無理に近い話。実際バグプラズマーはゴースト2を簡単に粉砕した。間合いを詰められたうえで、光の幕のエネルギーを左手に集中させて撃ちだしたのである。


『全く……だが、十分射程圏には引き寄せたな!!』

『シュツルム・スナイパーの準備完了だホイ! 一発で仕留めるみゃー』

『ということだ! スナイパー撃てぇ!!』


 ただゴースト2の犠牲は無駄ではなく、シュツルム・スナイパーの準備は完了した。シュツルム・ファイヤーとブレーメルが一体化して火力が底上げされた切り札は、当たれば一撃で葬り去るとマーベルは自信ありげにAボタンを押す。長銃と化した左手から一筋の閃光がさく裂――バグプラズマーの光の幕へと打ち付けられるとともに、


『やりましたねー、やはり切り札だけはありますねー』

『って、エネルギー反応があるほい! 前より強くなってるみゃー!!』

『何だと……あれほどの攻撃を受け止めたとでも!!』

『来るみゃー! ザンバーを使うホイ!』


 直撃したバグプラズマーは爆破四散――とはいかなかった。寧ろ光の幕の出力が強化されてしまう結果となり、シュツルム・スナイパーですら自分の力へと変換していったのである。勢いに乗ったかのようにバグプラズマーは急速に間合いを詰め、白兵戦用のザンバーで対抗する事をメルは促し、


『ザンバーでも効果があるんですか!? そのビーム兵器を使うとかでしたら質量弾としてシーカーと腕を自爆させた方が、まだエネルギーも余っている筈ですから‼!』

『ショートレンジならバリアーも効果ない筈だホイ、自爆したら後が!』

『メルの言う通りだ、こいつで叩き切って……!!』


 ルミカが同じビーム兵器であるザンバーの効果を疑われていたものの、メルとして間合いを詰めてきた点を逆手にとって、幕ごと本体を貫通させる術が有用と主張する。マーベルは迷わずにメルの意見を採用し、振り上げた左手を振り下ろすが――振り下ろした腕を目掛けて、バグプラズマーはその腕でゴースト1と掴みかかった。機動性に難があるだけでなく、巨体故の腕のリーチが敏捷なバグプラズマーに付け込まれる結果となり、


『うわぁぁぁまずいですよ! まずいですよ! 早く逃げないと私たちまで!! 別に怖いから死ぬからと言っている訳ではないんですけどね!!』

『馬鹿者! ここで逃げたらドラグーンにまで及ぶのだぞ! スフィンストしかいないんだぞ!!』

『もしかしたらー、そのスフィンストかもです~』

『スフィンストだと……!?』


 さらにジャイロ・シーカーそのものである上半身まで、光の爪によって抉られる結果と化した。このまま本体にまでダメージが及べば無事では済まないのだと、ルミカが狼狽しているものの、任されたからには、ヨーロッパ最強のプレイヤーとしてのプライドもあったのだろう。何としても単身で死守しようとするものの――ライトブルーのハードウェーザーが間に割って入る様に参上し、


「ブレイザー・ウェーブに!」

「スパイラル・クエイカーなんだよ!!」


 すからずスフィンストは、スパイラル・クエイカーを振るった。ハンマースイングの要領で打ち付けられる、フレイム・バズソーが一文字に切りつけられるや否や、バグプラズマーが急に怯みだし、


『全く! この一戦は私たちだけで勝利しなければだが……』

「マーベルさん、もう少し俺を信じてくださいよ! 将軍に頼まれて俺が来た訳ですから」

「馬鹿者、お前を信じているかどうかの問題とは違う、私たちのプライドだ」

「でも見てくださいー、様子が変ですよー」


 エスニックが万が一に備えてスフィンストを温存しており、今援軍として回された。プライドの高いマーベルゆえか、格下になり得る才人に対して助けを求めた覚えはない――少し拗ねている様子だが、アズマリアにバグプラズマーの様子を知らされて少し顔色が変わった。バグプラズマーの空だから光が漏れ出し、全身がショートしている様子すらあり、


『分かったみゃ! 超音波でビームをかき消したんだホイ!!』

『もしかして、バズソーにハリケーン・ウェーブを合わせましたから~』

『多分それだホイ! 超音波でコーティングされたバズソーで、膜そのものを切り裂いたんだみゃー!!』


 メルが触れるには、スパイラル・クエイカーが腕を組んだ状態で、両手からのハリケーン・ウェーブをバズソーへと逆流させた点が、バグプラズマーの幕を破る事に成功したのだと評する。ブレイザー・ウェーブと併用して超音波でビームを打ち消し、刃で幕を切る二段構えの戦法が起死回生の一手となり、


『そ、それってもしかしてジャイローターでも同じことが出来たんじゃ、あ、いえ別に私はあの時最初から知っていたんですけど、あえて、もったいぶって……』

「才人さん! 一気に片付けましょう!!」

「おう、チートで強いとか大間違いだからなぁ!!」


 ルミカが自己保身に回っている事など、才人とイチの二人が知った事ではない。灰色の実体に、頭部代わりのキャノン砲が設けられた正体を露わにしたバグプラズマーへ反撃せんと、逆に自分から間合いを詰めていく。幕を破られ劣勢と判断したのか、頭部のデリトロス・レールガンでスフィンストの頭部を狙うものの、ボタン・シーカーとして即座に本体から分離させ、


「とっておきの切り札、こんな事で壊させませんよ!」

「ドリルだけじゃないからな! これが俺のフェイバリットだぜ!!」

「ですから、カイト・シーカー送ります! アンドリューさん!!」

『わりぃが、直ぐ送ってくれ!! 流石にねぇと俺もやべぇからよ!!』


 スフィンストの切り札となる頭部のドリルを自ら封じたうえで、バグプラズマーを下すとの心意気を見せつける。アンドリューから催促され、バックパックからカイト・シーカーをパージして託そうとも、ハンデにはならないと言いたげな様子で、両手を突き付けてハリケーン・ウェーブを一斉に浴びせて怯ませたのち、


「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 そのまま両手でバグプラズマーへとつかみかかり両腕のバズソーを回転させながら、倒れ込もうとするバグプラズマーへ身を任せるよう、スライディングの要領で倒れ込む姿勢を作り、


「ニードリッパー行きますよ!!」

「玲也ちゃんのようにうまくいけば……うわぁ!!」


 そしてバグプラズマーの腹部目掛けてニードリッパーを撃ち込んでいく。玲也が駆使していたカウンター・メイスを併用した投げ技をスフィンストなりにあやかったともいえたが――窮地に追いやられたバグプラズマーもまた、両腕のアリエス・クローでスフィンストの両腕をつかみこむ。同時に電撃を浴びせ、コクピットにまでダメージが及び、


「早く投げましょう! このまま腕をやられたら……!!」

「あぁ!スフィンスト四段崩し、決まれよなぁ……!!」


 イチが進言する通り、スフィンストの腕を潰されれば技そのものが封じられる危機と隣り合わせだった。よってニードリッパーで抉った腹目掛けて左足を突き上げて巴投げの要領でバグプラズマーを思いっきり空へと投げ飛ばす。スフィンスト四段崩しと評したこの技はハリケーン・ウェーブ、フレイム・バズソー、ニードリッパーを組み合わせた投げ技でもあり――最後に、フレイム・レールガンで粉砕して締めくくられた。


「やった、やったよ……玲也ちゃん!!」

「エネルギー反応、消失……やりましたよ!」


 ボタン・シーカーが頭部として接続された時、バグプラズマーは既に砕け散った後だった。才人として誰の力も借りず単身でワンオフのバグロイドを下した事へ、驚愕と同時に感動も覚え、一時放心状態にもなっており、


『まさかマーベル隊長の出番が取られるとは思いませんでしたが―』

『そ、それはだな……才人も少なからず実力がついてきた。ということだ!』

「それより大丈夫ですか……大分危なかったようですが」

『や、やられてはいない! ただな……』


 一方のダブルストはかろうじて本体でもある下半身を残すほど、中破状態でもありマーベルとしても格下のスフィンストに助けられた事へは、少々歯がゆい様子であり、自分たちを案じるイチに対しても強がっていた。ただ彼の実力は少なからず認めていたような節で、


『手が空いているなら周りを探れ。これでバグロイドもただ……』

「あの天羽院だけってことですね! 玲也ちゃん達なら勝てる相手で!」

『当然だ! 一応他のバグロイドもいないかは念のためにだな……』

「そうですね……地上の方は頼みます!」


 自分ではすでに役目を果たせる状況ではない――それを認めたうえでマーベルは才人へ空中からの斥候に回るよう指示を下す。少し素直になれない様子の彼女と逆に、才人は屈託のないすがすがしい表情で命令を承諾。スフィンストもキャタピラーをパージさせて飛び立っていく。


「才人さん凄かったですよ! コンパチさんもいませんでしたのに!!」

「ま、まぁな……コンパチにも見せたかったけどよ」

「そうですね。僕たちももう一人前だって」


 そして斥候に入る中でも、バグプラズマーを自分が下した事への興奮に才人は酔いしれていた。自分たち二人をここまで鍛えたコンパチに報いる事が出来たかもしれないと、既にいないとは知らないパートナーへの想いを馳せた後、


「けど本当だったら俺も……」

「やはり玲也さんや姉さんたちと一緒に」

「まぁね、でもプレイヤーとしての腕は流石に、ね……」

「そ、それは深く考えないでください! 才人さんが強くなったことは僕が保証します! ですから‼!」


 ただ、才人としてバグテンバーとの最終決戦へ、自分も向かいたかったと僅かながら憂いはあった。玲也やシャルよりプレイヤーとしての腕が劣るとなれば、3機のサブプレイヤーとしての優先順位は必然と低くなってしまう。それを分かっていながら少し未練がある様子のパートナーへ、イチが必死に激励を送っていると、


「でも、俺も精一杯……やってたよな?」

「そうですよ! 一番になれなくても、才人さんが一生懸命やっていた事は僕が!!」

「だから玲也ちゃんも、本気で俺と競ってくれて……だからこう必死でさ!」


 玲也たちへ最終的に敵わなかったうえでも、持てるだけの力を全て出して自分は戦った――好敵手として認め合った者として。至らなくても全力を出し切る戦いへ身を投じる。バグプラズマーとの戦いが才人として精一杯を出し、その点で悔いはないと顔をあげ、


「俺もやれることはやるからさ……玲也ちゃん達も頑張れよ!」

「才人さん……!!」

「俺はここにいなくても、一緒に玲也ちゃん達と戦ってるからさ……そうだろ?」


 好敵手として才人は玲也達へエールを送る。持てるだけの力を全て出してバグテンバーへ勝ち、生きて帰るのだと。そんな彼らが目にしたゲノムの空は雲一片たりともない青さでもあり、


「……たとえ傷ついてもその上に、大地は明日の実りを結ぶ。その日の空も青いだろうってね」

「どうしました? いきなり詩のような事を言いまして」

「いや、今の状況に相応しい歌だよ。君も僕も夢見てた、心と心を寄せ合ってみんなのために戦う日が今だってね」


 おそらく才人の目には映っていたのだろう――4人の戦士が大海獣のようなバグテンバーを相手に決戦を繰り広げているのだと。

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