42-3 果てるコンパチ、最後のロボット魂!

『ふふふ、早くセインちゃんのお人形さんになればいいのに~』

「誰があなた方のお人形になりまして!? 玲也様ではありませんのに!!」

『あら~いらないお人形さんに言ったつもりはないのに~プンプン!』

「僕もウィンもお人形じゃないやい! 」


 ――セインはヴィータストの、ウィンの掌握にあくまで関心を向けていた。彼女の口ぶりにエクスが自分の事かと早合点して反発した結果、彼女が機嫌を損ねるが、シャルが突っ込むどころかエクスと同じような言動をとっていた事は言うまでもないが、


『――お人形以外の神様なんていなくなっちゃえばいいの。セインちゃんもお人形だったんだし』

「お人形だの神様だの、さっきから訳の分からない事ばかり言いましてね」

『あれ~確か、貴方グナートのお人形さんだったような~セインちゃんあまり興味ないけど』

「貴方にとやかく言われたくありません事! 既にお人形さんじゃありません事!!」

『でも今度もお人形さんだよね~玲也とか天羽院ちゃんがよく言ってた子の』

「なっ……」


 だが、彼女はエクスの過去だけでなく今の状況下に対してもお人形だと例える。既に兄の操り人形ではないと内心吹っ切れていたようだが、今の自分迄一蹴された事は予想外、多少の虚が生じてしまい、


「ダメだよ! フィールドないと危ないんだから‼」

「そ、そうでしたわね……ここで取り乱してしまいましたら作戦も」

「そうそう……僕もエクスもお前の人形なんかにならないからね‼!」

『ほら~これだもん~そうだ』


 エクスの集中がそがれ、ゼット・フィールドの強度バランスが狂う恐れもあった。それもありシャルが咄嗟にフォローして、彼女に代わってセインへ啖呵を切る。実際これを指摘されれば、不機嫌そうにセインはすねた後、何らかを思いつき、


『せっかくだし、ヴィータストを目の前で壊そーっと♪』

「壊そー……って、まさか玲也様が!?」

「ポーがいるのに! やっぱり平気で見殺しにするつもりなんじゃ」

『見殺しも何も~、二人で仲良くあの世に行けるなら慈悲ですよ~』


 自分たちに屈しようとしないクロストの二人を前に、ヴィータストを一思いに殺すとセインは口にした。彼女が送り込んだポーを巻き込んでも構わない姿勢からして、やはりウィンを篭絡するための駒にしか見なしていない様子。腹部のシャッターからデリトロ・スプリットの射出口が開き、


「玲也君、コンパチ早く! シャレにならないから‼!」

『心が壊れてしまえばお人形さーん、セインちゃんのように……!?』


 サイコミストのビーム砲がさく裂するや否や、胴体から次々と爆発が引き起こされていった。自壊していくような相手のアクシデントにシャルが呆然とする者の、ライトグリーンのハードウェーザーがクロストの前に突っ立っており、


『これ以上やらせてたまるかよ……そうだろ!?』

「アンドリュー、ちゃんと間にあったんだ!!」

『当たり前って……バーロー! 間に合わな、おめぇらオダブツだろ!!』

『アンドリューさん、今そういう話をしてるんじゃ……それに』


 ――ネクストは間に合った。シャルから必ずしもアテにされていなかった様子へアンドリューが突っ込みをかましていたが、リンがすぐさまジックレードルを投げつけて、デリトロ・スプリットの射出口を直撃させた経緯を明かす。サイコミストが電次元兵器を弾く様子から脅威とみなされていた様子だが、


『と、まぁ……最強のハードウェーザーなんかいねぇんだよ。プレイヤーの腕でどうにでもならぁ!』

「そこはやっぱアンドリューだね、伊達にベテランじゃないって訳だ!」

『あのなぁ……じゃねぇ、とにかく俺があいつの気を引いてやるから待ってな!!』

「頼みましたわ……ってあれ?」


 ネクストが到着した事もあり、彼にサイコミストの相手をゆだねる流れとなった。ただローラーダッシュで疾走する彼の両肩には車輪上のローターが連結されており、


『……マーベルさんから何とか借りてきましたけど』

『まぁ、あいつらの件でマーベルも借りがあっからな。無理を承知だったけどよ!』


 両肩に装着したジャイローターは、ダブルストから拝借した経緯である。スフィンストに自分のカイト・シーカーを回している分、空戦での戦闘能力は減少しており、サイコミストを相手にするあたり、少しでも補う必要性があった為でもある。無論マーベルの性格だけに一筋縄ではいかない事を承知の上だったものの、アズマリアとルミカの一件と引き換えとの形でごり押しして成就させた経緯もあったのだが、


『んもー、セインちゃんに、何やってもお見通しなんだから~』

『って、誰が言えたか!? なぁ……!!』


 ネクストを標的とみなし、サイコミストのバックパックからはクロー状のパーツが射出された。デスパライア・シーカーの爪はネクストの足元を狙うよう低く飛び交っていたものの――ジャイローターから生じる反重力エネルギーを借りて、体を大きく右へ傾けながら回避行動をとる。それでもシーカーの姿勢はクローの基部に備わったビーム砲を放っていたものの、


『っと、あぶねぇあぶねぇ……こいつも伊達じゃねぇからな!』


 回避行動の隙を衝くようにして、デスパライア・シーカーからはビーム砲が放たれるものの――咄嗟に構えたジックレードルの刃がビームを弾く。刃身にコーティングが施されていた事もあり、シーカーに内蔵されたビーム砲の攻撃を無力に化して、


『おい、思い通りになるってならやってみろってんだ! この俺をなぁ!!』

『アンドリューさん、その……結構危なっかしい気が』

『バーロー! 玲也もシャルもこんな奴に負ける訳ねぇ!! 俺は信じてらぁ!!』


 さらにシーカーそのものへ、ジャイローターからの重力を振るいあげて一刀両断にした後、


『まぁ、俺もどこまで持ちこたえられっかだがな』

『みんなギリギリです、シャルちゃんも、玲也さんも……』

『そういうこった……後はおめぇら次第だ、玲也!』


 無論ネクストとしてもギリギリの状況下で、サイコミストの囮を続けていた。クロスト共々防戦一方だが、膠着しようとするこの戦況を打破するには、ヴィータストへと乗り込んだ玲也たちの行動次第でもある。そのように己を鼓舞しながら、ヴィータストへ転移した彼に信頼の眼差しを寄せていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「お姉ちゃん、無理して戦わなくていいのよ。最期まで一緒にいられるんですし」

「……ポーと共に生きるも死ぬも……か」


 ――ヴィタストにポーに操られたたまであった。このあり得ない状況にウィンは微かに抵抗も考えていたものの、最愛の妹と生きるも死ぬも一緒であるとの選択肢を前に、自分の理性が麻痺しつつあった。シャルが感づいた通り、ウィンがセインのお人形にされようとしている中で、コクピットに別の人影が転送され、


「ウィンさん! あなたが正気にならないでどうするのですか!!」

「そ、その声は……」


 ヴィータストへは玲也が乗り込んだ。直ぐにウィンが操られているのだと判断し、平手で何度か彼女の顔をひっぱたくと共に、彼女の眼の色が変わるが、


「お姉ちゃん! その人、羽鳥さんを許さないで!!」

「お前はポー……それこそどうしてお前が生きて!!」

「ポーの……仇……」


 玲也が現れると共に、ポーは彼への敵意を露わにする。これも彼女が事故とはいえブレストに一度引導を渡された身であり、蘇った身としてもその事を強く憎んでいる。ウィンとして彼女がバグロイヤーに殺められたとの形で、自ら戦う動機であると捉えていたものの、その妹本人が玲也に殺められたと強く主張したならば、彼女の心は揺れ動いており、

 

「まさか……ここまできて俺を殺すつもりですか!?」

「命乞いをするなんて……お姉ちゃん、やっぱり羽鳥さんはそういう人です!!」

「……お前にどう思われようとも、俺はまだ倒れる訳にはいかん!!」


 それでもなお玲也は、ウィンが正常な状態ではないと指摘する事を止めない。ポーの口から酷く言われようとも、彼自身考えを曲げる筈もなく、


「いや、俺だけでなくシャルもアンドリューさんもそうだ! ウィンさんに殺されようとも殺されないと俺は信じている!!」

「……シャル、アンドリューさん、ああっ……」

「目を覚ましてください! ウィンさんが積み重ねた今まではそう簡単に壊れるものではない筈ですよ!!」


 自分を殺めようとすることは、ウィンやアンドリューにも同じような形で裏切る事を指しているのだと玲也は指摘する。彼女が既にハドロイドとして生きて戦い抜いた記憶や思い出がある限り、既に過去のウィン・スワンではないのだと――彼女に激しい頭痛が襲い掛かり、正気を取り戻しつつある状況であるものの、


「お姉ちゃん! 私を殺した羽鳥さんへどうして……」

「私にもわからない、ポーを前にして手にかける事が出来る筈なのに……いや!」

「お姉ちゃんが羽鳥さんと出会ったからこんなに……だったら!」

「おい、ポー! 一体何をするつもりだ……」


 ポーが直ぐに胸元のタグを握り、自分の人差し指に内蔵されたビーム砲を玲也へ指さすように向けた。ウィンとして止めようとするものの、彼女は容赦なく発砲して極細のレーザーが直線状に放たれる。玲也が間一髪横に飛び上がるようにして回避するものの、


「お姉ちゃんがダメなら、私が殺す! お姉ちゃんの為にレインさんだって殺したから……!!」

「レインさんがお前に何をした!! 関係もない相手を殺して誇る事をウィンさんが許すと思うか!!」

「……そうだ! ポーがこれ以上手を汚すとなれば!!」


 玲也を殺めようとするポーとして、本来パートナーとなる筈であったレインを殺めた過去を触れる。最もバグロイヤーに囚われた姉の体を救う為との事情があったとしても、自分が彼女を殺めた事を正当化するとなれば、玲也ですら黙っていられない。ポリスターを引き抜いて応戦する覚悟を示しており、ウィンですら流石にポーが人を殺める事までは肯定しないと、姉として非難するも、


「……あの頃の私じゃないの! お姉ちゃんもわか……ああっ!!」

「ポー!!」


 けれどもポーはたとえ姉に窘められようとも、玲也を亡き者にしようと再度発砲しようとした瞬間だった。彼女の体へと一斉に電撃が襲い掛かった。彼女の体が崩れ落ちると共に小さな飛翔体が姿を現し、


「危なかったパチ。オレが来てよかったパチよ」

「コンパチ……いや、済まない。俺も少し迂闊だった」

「気にするなパチ、ロボットのオレにこれ位……」


 ――コンパチが玲也達の窮地を救った。彼のファインプレーを感謝する玲也だが。電気ショックを受けたポーは既にポーではなかった。気を失った顔つきからして自分が先ほどまで見慣れていた妹の面影は一切ない。早い話彼女が偽物として送り込まれた存在であり、


「ポーに化けてたパチか……人の情を利用した作戦パチね」

「そんな……私は、私はどうして! どうしてこうも迂闊で……!!」

「ウィンさん、今は嘆いている場合ではないです。目の前の敵に集中しましょう」


 偽りの妹に翻弄された事に対し、わが身を呪うようにウィンがモニターを何度も握りこぶしで叩きつける。彼女が意気込んだ戦いを前にして、バグロイヤーに操られる失態を犯した自分を許せそうにない。ただコンパチでもバグロイヤーの作戦が悪質なものだと、彼なりに人の情を理解している様子であり、玲也もまたその上でも今は戦うべきだと激励をかけており、


「オマエがプレイヤーなら、オレがウィンのフォローをす……」


 コンパチも直ぐウィンのフォローに回ろうと、彼女の席へ向かおうとした瞬間だった――彼の体そのものへと風穴が大きく開かれる結果となった。まるで池が切れた玩具のように、地へ墜ちるコンパチだが、彼の後ろで彼女は突き出した人差し指から煙が微かにあがっていた。


「せ、セイン様の為にも、ここで無駄死になんか……」

「貴様……ポーに化けただけでなく、よくも!!」

「こうなったら、道連れにして……玲也もろとも殺せばセイン様の為に!!」


 ポーへと扮していたセインの刺客は、コンパチへ致命的な一撃を浴びせるだけでなく、自分の体内に隠し持っていたグレネードをその手に握りしめていた。コクピットへと投げつけて玲也達を巻き込む最後の抵抗を目論んでいるようだが、


「さ、させないパチよ!!」

「ま、また私に電気ショックなど……」

「やめろ、コンパチ! お前がこんな奴の為にそこまでする必要は!!」

「ポリスターを見るパチ!!」


 すかさず刺客の手に纏わりつく形で、コンパチは電気ショックを浴びせると共に彼女がロックを解除する前にグレネードを手放させる。既にメインジェネレーターが撃ち抜かれている状況にも関わらず、コンパチは必死に抵抗を続けており玲也が止めようとするが――ポリスターのモニターへは、既に大量のデータが送り込まれている様子であり、


「奴から、情報を吸い出しているパチ。ハドロイド全部は流石にキツいパチがね……」

「まさかこれで……アンドリューさん、頼みますよ!!」


 改良された故か、コンパチとしてハドロイドを対象としてのバックアップシステムを起動させ、刺客からのデータを吸い上げて、ポリスターにデータ送信する行為に及んでいた。

 無論本人が触れる通り、小柄なコンパチよりハドロイドのデータ量の方が多いとして、全てを吸い出せないと触れつつも、その情報は今何よりも知りたい情報そのもの。すかさず玲也はポリスターからアンドリューの元へデータを玲也は送信しており、


「こ、こう……こうなったらこのまま、自爆するだけで」

「パチェ……早く、早くオレごと飛ばすパチよ!!」


 電気ショックにその身を晒されながらも、刺客はその手でコンパチの上半身を握りつぶそうとする。小さな体が半壊したとなれば、既に脱出も出来ないと見た為か、玲也へとポリスターを駆使して自分もろとも、その刺客をコクピットから排除すべきだと促すが、


「そ、そなたは何を! 何をそなたがこう死なねば……」

「オレはロボットパチ! もう務めも果たしたパチ、いつこうなってもおかしくないパチよ!!」

「……才人とイチには俺からも謝ります」

「や、やめてくれ! ここでそなたが死ぬのなら、いっその事私が死ねば!!」


 それでもウィンはコンパチが犠牲になろうとしている状況が納得できない。息絶えようとしている彼が、自分が生まれながらのロボットだと、プレイヤーやハドロイドより軽い存在であると自嘲しているが、それと別にロボットとして最小限の被害で済む方法がこれしかないとも捉えていたのだろう。断腸の思いで玲也がポリスターの銃口を向けようとも、ウィンは納得がいかずこの事態の元凶があるのは自分として逃れようとするが、


「貴方が死んで誰か救われるのですか! リタさんがいたら絶対に許さない筈ですよ!!」

「リタさん……まさか!?」

「……許してくれコンパチ!!」


 ――思わず玲也が声を張り上げて、リタの一件を口に出す。彼女の身へ既に何かあったのだとウィンが遂に気づいて呆然した隙を突き、ポリスターでコンパチを握りしめたまま息絶えた刺客を狙い撃った。



「ありがとパチ! 才人とイチに……よろしくパチよ!」



 コンパチとして最後の役目を果たしたのか、ディスプレイに移る彼の瞳は穏やかに閉じようとしていた。今まで自分がフォローし続けてきた才人、イチのコンビがもう自立できるだけの強さだとして悔いはなく。最後のエールを送りながらコクピット外へと転移されていった――その後、彼の反応が完全に消失したとポリスターが示され、彼の最期を玲也たちは悟らざるを得なくなった。いうまでもなく二人の体は慟哭で震え上がり、


「何故だ! コンパチもリタさんもどうしてこうも!!」

「その気持ちはわかります……あってはならない事ですが、それでも避けられない事が」

「私にもわかっている! なら何故私を死なせては……」


 コンパチだけでなく、既にリタが果てた事を知らされれば、ウィンとして猶更叫ばずにはいられなかった。先に死ぬべき自分がこうして生き延びている現実に対し、至らなさと不甲斐なさを感じていた情緒不安定になりつつあった。だが彼女が、未だ自ら死に急ごうとすると口にすれば、自分の頬へ平手が飛び、


「いい加減にしてください! 全て投げ出して、逃げ出す為死ぬなんて、よく考えられますね!」

「す、全てを投げ出してだと……」

「そうですよ! リタさんもコンパチも誰かに託すためでして、何もかも捨てて楽になろうとしたのではないですよ!!」

「わ、私は甘えるつもりではない……今までそうだったとはそなたにも今、信じてほしいのだが」


 思わず玲也も感情を爆発させて、自ら死のうとする行為が、リタやコンパチを侮辱するようなものであると叱責する。ウィンとして自分が甘ったれて生きてきたのではないと今までの誇りもあって主張するものの、


「わ、私は戦いにしか生きる道もなく、その戦いでもこれだ! 生きる誇りも恥でしかないと……!!」

「ウィンさん……」

「私はアンドリューさんを愛している! だからこそアンドリューさんに相応しい強さも誇りがなくては!!」

「本当に大事な事は、どうあろうと立ち上がる強さです。だから自分を責める事だけは……」


 この一戦にバグロイヤーへの復讐だけでなく、アンドリューへ捧げる告白として、ウィンは何としても勝利を飾らなければならないと意気込んでいた。しかしその結果、自分の苦い過去を利用される形で醜態を晒し、結果的に犠牲迄出してしまった事が、反動のようにウィンを必要以上に追い込んでしまっていた――そう気づいた瞬間に玲也は少し穏やかな口調で励ましの言葉をかけ、


「俺が言っても説得力がないかもしれません、ただ心に少し余裕を持ってもいいと思います」

「な、何を……そなた、まだ戦いは終わってないと」

「分かっていますが、これ以上ウィンさんが苦しむ姿は見たくありません、それに……」


 あえて、玲也はサイコミストとの戦線から離脱する事を今は選ぶ。彼女として情緒不安定ながらも闘志は萎えていないのだと主張するも、彼として好敵手同然の二人のプレイヤーに信頼を寄せているのだと時に任せる事も必要だと触れる。


「ウィンさんは無事です……ですが」

『とにかくドラグーンに戻れ、俺とシャルでどうにかならぁ』

「そういってくださいますと助かります、まだこの後がありますからね」


 玲也の口ぶりから、作戦を成し遂げるにあたって少なからずの犠牲があった事はアンドリューも察したが――それを今口にしてはならないと、情緒不安定なウィンの件もありドラグーンへ非返すよう真っ先に促した。犠牲が生じた事をここで知られては命とりになる、作戦を決行してサイコミストを倒すことが優先であるが上に、玲也は一度引き下がる事を選び、


『す、すまない……そなたにも迷惑をかけて』

「迷惑じゃないですよ、シャルとアンドリューさんを……ゼルガも才人も信じているんですけどね」

「やはり変わったようだな。うらやましいと言っては悪いかもしれないが」


 サイコミストを前に、玲也が退却を余儀なくされたことにウィンは少なからずの罪悪感があった。だが彼としては信頼できる実力を兼ね備えた好敵手なら不足はないと、ひと時の休息にありつける事へどこか表情も緩んでいるように見えた。彼がドラグーンのリーダーとして自分一人だけで戦っている訳ではないと気づき、一回りも二回りも大きくなったように映っており、


『ニア、今から戻るからブレストの方を頼めないか?』

『もしかしてその時が来たの? ここだけの出番で終わりたくないけど』

『それはわからないが念のためだ。シャルもアンドリューさんも信じてますからね』



 ネクスト、クロストをシャルとアンドリューに託しつつ、玲也は残されたブレストで再度戦場へと舞い戻る為ニアへ指示を出す。ブレストを電装させることで戦いが終局を迎えようとしている事も、内心で感じつつポリスターに記録したデータをネクストへと送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る