41-4 玉砕! 燃ゆる炎と共に!!

『どちらが捨て鉢かは直ぐに分かる……!!』

『これで、ハインツ様が……ハインツ様の勝利が!!』

『あぁ……!!』


 ――地に伏したイーテストは既に抵抗を喪ったに等しい。ゴルドストはその右手で握りしめたゴッドホーク・ウェートを力いっぱい振り下ろす。緊迫極まりない状況下にて、ついに勝利を確信したのだとアオイが高ぶる感情を爆発させ、半狂乱していた様子に触れると共に彼も仮面の奥で目を見開かせた。


(――勝った! レーブン、ロミ、父さんは……!?)

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ハインツは仮面の奥で臨んでいた――自分が戦いで勝ち取った誇りを残された娘へと託そうとも。だが勝利を確信して、気を緩めるには僅かながら早かった。ゴルドストの顔面目掛けてイーテストは一矢報いる。左手首からのリボルバーをメインカメラが備えた頭部へと狙い撃ち、


『こ、小癪な、たかが頭を……』

「それで手元が狂うとか、ざまぁねぇなぁ!!」


 所謂真剣白刃取りの要領で、右手のソルブレザーの刃でグレーですとメイスの柄を切り裂いていった。刃より強度で劣る故もあってかゴッドホークが両断され、切り落とされた刃の質量が自分の右肩を掠めた程度での損傷で済み、


「危なかった……なぁー、こっちに堕ちてきたらそりゃ」

「左手一本あればなぁ十分! 一気にいくぜぇ!!」

「流石だぜぇー……あたいのアンドリューは、なぁ」


 左腕で引き抜いたグレーテスト・マグナムがゴルドストの腕を断ち切る――両腕さえ失えばサンダーボルトの脅威は失せたに等しい。一気に畳みかけんとする起死回生に出るアンドリューをリタは心の底から褒めたたえる。


「たりめぇだ……そういってくれるだけで嬉しいんだけどな」

「なんか言ったかー、わりい、よく聞こえなくて?」

「あたりめぇだ! 全米№1は電次元でも№1なんだよ……!!」


 アンドリューとしては後方から自分を照らす暖かな光に加え、自分のコントローラー捌きから何故か奇跡だと謙遜していたものの、すぐさま自分が持ちうる力であると受け入れた。それと共に逆境から沸き立つ自信と共に最後の猛攻へと畳みかける。飛べる術を喪おうともイーテストが出力を全開させて、つま先から起き上がる要領で、上段蹴りをゴルドストの胸元へと決める。


『……ならん! まだ手は残している!!』

「バーロー、切り札は最後まで残してこそだ!」

「そうだー、やっちまえー……」


 ――切り札は最後まで残す。アンドリューならではの戦いの基本を改めて触れると共にリタは、どこか懐かしくも感じつつ、安らかな胸の内で彼の一手を見守る。機能不全となった右手の代わりに左手で右のマグナムを手に取って最後の一手に挑もうとしており、


「グレーテスト・マグナム。バッド・ラ……!?」


 コクピット目掛けてグレーテスト・マグナムが火を噴こうとした瞬間だ――逆に自分たちのコクピットが撃ち抜かれる結果となった。目の前のゴルドストは両腕が失われようとも、腰のハードポイントには自分の切り札と酷似したビーム拳銃が、それも銃口をそれぞれ向けていた為に先手を打たれた結果となり、


『レオン・マグナム……お前の言葉、そのまま……!!』

『ハインツ様……奴を、奴を道連れに!!』


 バグアーサーからゴルドストへ乗り換えるにあたり、ハインツはグレーテスト・マグナムにあやかった切り札を新たに設けていた。サンダーボルトより射程が狭い故に使いどころが限られていたものの、密着した状態で彼は一矢報いた瞬間でもあった。

 けれども一寸遅れながらもグレーテスト・マグナムは確実に火を噴いた――自分たちの胸を貫いた状況では、もはや道連れ以外に選択肢はないともいえた。振り向いた先でアオイは既に覚悟を決めたようで、


「……アンドリュー、無事か!!」

「にゃろう! 俺を生かさねぇつもりなら、どうなるか!!」

『アンドリューさん、リタさん! 大丈夫ですか!!』

「玲也やめろ! おめぇまで来たら……!!」


 マグナムにセーフシャッターが粉砕されて爆発が生じ、かろうじてアンドリューはリタの元へと身を退避させるように立て直していた。ゴルドストと同じ運命を遂げるのは時間の問題である――そのさ中にネクストが到着した時、彼の啖呵からは自分が生き延びるとの自信がいつの間にか消えていた。運命を覚悟したかのようなパートナーの顔色にリタは目が光り、


「ダメだ、生きろ……!!」

「なっ……!!」


 ゴルドストに圧し掛かられる形で、イーテストは再度動きを封じられる結果となり逃れる術が残されていない――それでもなお、グレーテスト・マグナムを腹部へと放ち続ける事に変わりはなく、


『勝ちましたよハインツ様、ですから早く……!』

『やめろ、お前こそ逃げて、生きなければ……』

『離してください、貴方こそ、貴方こそ私なんかより生きなければ……!!』


 ――互いのコクピットが潰された事は、相打ちに等しいものだがアオイは高らかにハインツの勝利だと彼を労いつつ、彼の腰元から直ぐにポリスターを取り出す。どちらか一方を転送させれば、転送できる重量の限界に直面する為、もう一人がポリスターで転送される事は不可能に等しい。その為瀕死の自分よりアオイを逃がす目論見だったのもあり、彼は必死で転送される事を抵抗していた中、遂にゴルドストは限界へと達した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「あ、あぁ……」

「嘘だ、まさか間に合わなかったとでも!」

「ダメです……どちらの反応もありません! イーテストもです!!」

「そんな……!!」


 ――ボルトスへとネクストが到着した途端、目の前で甚大な爆発な巻き起こりつつあった。入道雲のように天へと上る黒煙は、クロストのようなハードウェーザー1機の爆発では及ばないエネルギーである。玲也達が到着した時、瞬時にこの爆発の意味を理解せざるを得ず、リンからの報せで猶更現実であると認める必要もあった。タッチの差で間に合わなかった事に彼の握りこぶしは震えが止まらず、


「パパ! どこ、どこなの!?」

「待てロミ! まだ何が起こるか……!!」


 玲也やリンだけではない、ロミもまたこの巻き起こった爆発の意味を知って、我先に爆心地へと飛び出そうとする。彼女が自分以上に冷静さを見失っていると気付き、玲也が咄嗟に彼女の腕を引っ張り込んで自分が盾になる様に抱え込んだ。同時に連鎖反応を引き起こしたかのように爆発が起こっており、生身では直ぐに迎えそうになかった。


「申し訳ありません、駆けつけた時は既に……」

『玲也君やリン君の責任ではない、これもすべて……』

「ですが、ですがそれで一体……」


 リンが本来の使命を果たすことが間に合わなかったのだと、エスニックへ現状を報告する。彼から自分たちの責任ではないと労われようとも、目の前で生じた犠牲があまりにも甚大であった。玲也が納得できる様子もなく、やりきれない思いをぶちまけんとした時――後部座席へまばゆい光が宿りつつあった。振り返ればその見覚えのある長身の人物が形を成しつつあり、彼女が思わず目を見開き、


「アンドリューさん!?」

「……本当だ! でもどうして、どうしてアンドリューさんだけ!」

「アンドリューって、まさか、パパの……」


 リンの驚く声に、玲也も首を向けた方角には見覚えのあるその男の姿があった。イーテストと運命を共にしたはずのネクストに着座していた。この“彼だけ“がネクストの元に転送された様子に、二人は驚きはすれど直ぐには喜べるわけがない。父の仇だとロミに見つめられる中、当の本人も何が起こったか分からない表情のまま。ただ茫然と自分のポリスターを引き抜いて、何度か見つめていたが、


「……リタ」

「リタさん、リタさんは……!?」

「そうだ、俺を咄嗟にリタが……何であいつもポリスターなんか」

「まさか……」


 徐々にアンドリューの意識が覚醒するにつれ、自分だけ九死に一生を得た事を認識し、それもリタの手によって間一髪逃がされた身であると自分の置かれた状況をどうにか把握した。同時に、自分が生還した代償が計り知れないものだと気付かされ、アンドリューらしからぬ焦燥と動揺が急速に彼の胸の内を支配することとなり、



「リタァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」



 アンドリューは腹の底から、心の底から彼女の名を咆哮する。生涯最高のパートナーとなりえた彼女は最後に自分が想定しない形で裏切った――自分を逃がした代償にイーテストと運命を共にする事を選び、炎の中に呑まれているのだから。

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