41-3 急げネクスト、イーテストの運命は如何に!?

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 ――バグウィナーは今爆散して果てた。電次元兵器を前にフィールドはたやすく突き破られ、左手の電次元サンダーで拘束され、振り回された挙句右手からの電撃が直撃した事で引導は渡されたのだ。ネクストが地に足を衝かせ、


「さすが玲也だよ。こうも早くケリがつくとは」

「相手にしている時間はありませんでしたからね……それより」


 ゼルガが触れる通り、既に今のガレリオは玲也の敵ではなかった。それよりネクストは再度ビーグル形態として、己の体を1割ほどのサイズへ縮小しながら港へと乗り出す、地にはバグウィナーが果てたように爆散していたものの、今の彼らは自分たちを遮るように飛び出した子供の様子に関心があり、


『既に避難させていた筈だが、一体……』

『ミラージュ・シーカーがありましたから、どうにかなりましたが……玲也様!?』

「玲也さん、急に出たら危ないですよ!!」


 間一髪、リキャストがミラージュ・シーカーを放ったが為に、ドーム状のバリアーを生成させる形で子供を守り抜いていた。ゼルガ達によって救われた相手に対し、玲也は思わずネクストから降りてその身を晒す。リンやユカの制止もその時の彼には届いていないようで、


「どうして危ない所に来た! バグロイヤーに殺されていたかもしれないのに!!」

「ひっ……!!」


 ミラージュ・シーカーによるバリアーが解除されると共に、玲也の目の前にはパルルと同じ年ごろと思われる幼女の姿があった。ライトパープルの髪は腰よりも長くのばされており、地面に触れるまであと僅かな程のロングヘアー、そして紫水晶のように丸く、大きな瞳は潤んでいる――戦域に迷い込んだだけでなく、突如自分たちの目の前に飛び出し、作戦を破綻させかけた事も含め、思わず玲也が叱りつけた為であり、


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「い、いや……別にお前を怒るだけではなくてな。どうしてここに来たか……」

『まずは私に名前を言ってほしいのだよ、怖い事はしないのだよ』


 彼女がその場で力が抜けた様子で、座り込んで泣きじゃくる。元々この戦域へ身を晒したことも幼い彼女は相当の覚悟を強いられていたのだろう。それまでの緊張の糸が切れた事もあって大声で泣きだされれば、玲也がどうあやせば良いのか、ここにきて場の空気が変わったようで思わずたじろいでいる。その彼に代わる様にゼルガがリキャスト越しに手を差し伸べ、穏やかなトーンの声で彼女の緊張を解きほぐしており、


「ロミ……です、ゼルガ……さん」

『私を知っているとは嬉しいのだよ、ロミちゃん』

『まだ8つでここまでよく来ましたね。お手伝いできる事でしたら話してくれませんか?』


 リキャストが既にゼルガのハードウェーザーだと知っていたのか、彼女は涙をぬぐいながら自分の年齢を両手の指で示す。彼女が自分たちに心を開くことに抵抗がないと判断し、ユカがさらに一歩踏み込んで彼女が戦域に飛び出した理由を聞きだせば、


「パパ、戦いに出た、ロミが起きたら一人……」

「……戦いに出たとなれば、君のお父さんはバグロイヤーと戦いに行って」


 ロミは戦場へと一人赴いていった父親を探し求めて飛び出していった。彼女の口ぶりからして父と別れてからさほど時間が立っていない様子であり、おそらくバグロイヤーとの決戦に赴く為家を飛び出したのではないかと玲也は推測する。彼女が父を引き留めたい想いも、父がまた戦わなければならない理由があるとの事情も認めざるを得ないと捉えていたものの、


「違う、これ……!」


 けれども、ロミが首を振ってコートのポケットに忍び込ませた一通の手紙を玲也に渡す。ただ開こうともゲノムの世界で使われている文字を読解する事に慣れておらず、地面に手紙を開きポリスターの光を手紙に向けて照射する。転送目的ではないのか光で撃たれ続けても、書類は転送される気配もない。だが代わりにサブモニターに通訳と思われる日本語の文章が表示されれば、


「父さんは、バグロイヤーの軍人として今まで間違ってきたことをした……バグロイヤー!?」

『玲也、今は続けて読むのだよ』

「はい……今までの間違いはもう謝っても償い切れるものではない。だから父さんは最期まで鋼鉄将軍としての使命を果たす」


 手紙の通訳文に目を通すにつれ、最初はロミの父がバグロイヤーの人間であると一瞬警戒したものの、ゼルガに諭されるように読み続ける中で、その胸のうちの怒りや憎しみは鳴りを潜め、それ以上にロミへと残した手紙の文面がただ悲壮めいた内容であると胸の内を揺さぶられつつあった。彼女の父が間違いと知りつつも、バグロイヤーの人間として戦い続ける意味を知らされていき、


「私は最期までバグロイヤーの元で勇敢に戦った父さんでありたい、ロミにとってせめて誇れる父さんとして覚えられればいい……そんな!!」


 ついに玲也までその場で崩れ落ちた――バグロイヤーの元で過ちを犯し続けようとも、その上で最後まで誇りを貫こうとする。ハインツが鋼鉄将軍として、父親としてあまりにも不器用で愚直な生き方しかできなかった人間であると思い知らされたかのように。道を間違えようとも最期まで誇りをもって戦い続けて散る事により、父も姉も喪い、戦いから離れた場で生きるであろう娘の心の支えにならんと望んでいたが、


「お願い、パパを止めて! パパはアンドリューって人と戦わないとダメって……」

「……アンドリューさんがまさか……リン!!」

「はい、まさかと思いますがアンドリューさんは、リタさんは!?」

『い、いきなり言わないでくれ、アンドリュー君は、リタ君はその……』

『――すべて私の責任だよ』


 過ちだと知った上で自分を置き去りにして、戦場で散ろうとするハインツの選択をロミとしては願っていない。彼女が父の戦いをどうしても止めようとする姿勢は、アンドリューとの戦いを避けようとしているのだと知らされれば、玲也の顔色が青ざめて直ぐにリンへとエスニックへ事情を確認するようにと促す。すぐさま彼女と応対する事となったブレーンは、慣れない様子で言葉を濁していたものの、エスニックがすぐさま自分が非情な決断を下したと頭を下げ、


「将軍どうして! どうしてアンドリューさんを出したのですか!」

『……玲也君が怒る気持ちはよくわかるが』

『ドラグーンを守るためだったんじゃ、玲也君達の手を煩わせない為にじゃ……』

「その為にアンドリューさんが、いやそれよりリタさんに死ねとでも!?」

「玲也さん、それは今聞く必要がないです! それより……」


 すかさず玲也は自分たちに知らせることなく、エスニック達がアンドリューを出撃させた事を追及する。エスニックとブレーンが彼の怒りを買う事を承知の上で、その時点で最善の策がイーテストを出す事しかなかったのだと苦渋の選択を明かすも彼の憤りが収まりそうにない、今、自分たちは弁明を求めているのではないのだと、リンが宥めようとしても状況が状況だけに納得がいかないような様子だったものの


「……やめるのだよ! アンドリューやリタだけに限った事ではないのだよ!!」

「ゼルガ……!」

「申し訳ありません。将軍、博士、どうか続きを」


 ――ゼルガが冷静さを失いつつあった玲也を諭すよう吼えた。寝耳に水と言わんばかりの驚きを見せたころ、話に割り込んだ事へユカがエスニックたちに詫びており、


『誰もが自分から死のうとは思っとらん、けれどもそれが保証されとるとも限らんのじゃ……』

『それは玲也君たちも同じだよ。こうは言いたくないけど』

『一番無理をしているのは君だよ……助っ人がいるといてもだよ』

「何かオレがオマケみたいパチだが」


 その上でアンドリューとリタだけが死と隣り合わせの戦いに赴いていない――ゼルガも含めた3人から玲也は自分自身が計り知れない負担を強いられているのだと気づかされる事となった。コンパチとして少々不満だったものの、


『それにアンドリュー君とリタ君の事じゃ、どう止めようとしても』

『出る必要があると分かってここに来た……私たちも頼らざるを得なかったが』

「……確かに、俺が止めようとしても二人とも」

『恨むなら私を恨んでくれ、どうあろうと許可したのは私だ』


 ただ、アメリカ代表の二人共々生粋の戦士、最古参プレイヤーとして戦いを望む古豪を止める術は困難ともいえた。玲也もまた自分に止める術がなく、ただ指示を出す立場でしか戦えない自分の非力さをエスニックは改めて謝る所、


「でしたら直ぐに俺が行きます! 実力行使でもそうせざるしか!!」

「ハインツの娘がここにいるパチ、もしかしたらと思うパチが!!」

『なんじゃと……こういう事を考えちゃいかんのじゃが』

『うまくいけば間に合うかもしれない! 行けそうかい?』


 最も二人を死に至らせることは避けるべきと、二人の戦場へとネクストを飛ばす選択を玲也は取ろうとしていた。その際コンパチからロミの存在を知らされた後、二人がすぐさま迎えないかと促しており、


『ここは私たちだけで充分、ですから!』

『早くアンドリューの元へ急ぐのだよ……あれほど死に急ぐなと釘を刺したからね!』

「分かってます……一緒に来てくれるね!」

「う、うん……パパ、無事なら」


 ――既にアンドリューとハインツが雌雄を決する戦いへと望んでいる。ゼルガはアンドリューがリタ共々死地に赴いている事を悔やむがゆえに、思わず声を挙げ、まるで自分事のように玲也達へ彼らの争いを止めるように託した。彼に託されなくとも玲也は直ぐに首を縦に振り、ロミを抱きかかえながらネクストへと乗り込み、


「この俺が直ぐに向かいます、アンドリューさんも、リタさんもどうか、どうか無事で……!」

「れ、玲也さん……パパは」

「すまない、必ず助け……いや」


 それでも弟子として、好敵手としてアンドリュー達を救い出すとの玲也の意思に変わりはない。両頬を軽く叩いて精神を統一させて乗り込もうとした途端、ロミからは自分の父の無事も約束してくれるかと問われる。ハインツがそれでもなお戦い続ける理由を知った今なら、彼女が父を救わんと望む想いも理解がいくものの、


「今は切羽詰まっているが、任せてくれ」


 ハインツが鋼鉄将軍として最後まで戦う。電装マシン戦隊へ抗う姿勢におそらく変わりはないだろう。特にアンドリューとは今までの因縁から双方が無事で済む可能性が極めて低いと想定しつつも、彼の娘へ直接この妥協した答えを打ち明けられるはずもない。少し暈した解答を述べた後に、


「目標地点のデータ届きました、緯度経度微調整完了しました!」

「いくぞ……!」


 リンが手早く電次元ジャンプの準備を終えたと共に、ネクストの車体は再度ケーチェイスから行方を晦ました。囮としての役回りはリキャストにしばし委ねられる事になった訳で、


『少し荷が……いや、むしろ玲也に助けられたのだよ』

『そうですね……ここからこそ私たちがすべきことで』

『秀斗さんからの通信も……予想通りリセルポートだよ』


 ゼルガとユカは顔を見合わせながら、囮役として本来の行動に移ろうと動き出す。バグソルジャーをスクランブル・シーカーからのレールガンで黙らせながら前進をはじめ、


『この戦いは天羽院、彼を討たなければ意味がないのだよ』

『やはり一人だけ逃げる手立てを用意していたと』

『逃がさせる訳にはいかないのだよ、手は打てるだけ打ったからね』


 ――そのうえでゼルガとユカは互いに示し合わせた顔ですべき事へと着手する。その為にはスカルプを経てポートへの到達を急ぐのであった。

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