40-2 この宇宙(そら)の先、高く咲かせる心意気は

「き、貴殿らも遂にこの時が……余としては感無量」

「何お前が偉そうにしてるんだよ」

『アグリカさん、気にしてませんから大丈夫です』

『まぁ、ロディなりに心配してくれてるみたいだし、大目に見るかな』


 地上に留まるビャッコから、ドラグーンへと通信が届いた。シャルが触れる通り自分たちへの見送りとして、激励の言葉をかけに来た訳だが――素の性格故か、それとも緊張してあがっていたのだろうか。まるで自分たちが格上のように接している。そんな彼の様子を苦笑しながらアグリカに突っ込まれる。


「もっともっと皆さんから学びたい事が多かったですが」

「僕達が皆さんの代わりになれるよう、頑張ります」

『まぁ、あんた達がなら大丈夫だと思うけどさ……』


 ビャッコへ待機する一番隊の面々は、電次元に飛び立つ三番隊――玲也達を見送り、彼らが飛び立った後の留守を務める事が使命だ。アンディとテディが玲也達の分まで頑張るのだと意気込むのはともかく、ニアとしてはパートナーの彼女で少なからず懸念があった。実際双子も同じように彼女へ視線を送れば、


「だ、大丈夫だよ! わ、私も一生懸命頑張るから任せといてよ……けほっ、けほっ!!」

『……ちょっと、本当に大丈夫かしら』

『まぁまぁ、マイちゃんの事も少しは信じても』


 マイは3方からの懐疑的な視線にさらされ、思わず自分なら大丈夫だと胸を強く打てば、思わず咳で蒸せてしまう。まずます不安を感じ取ったのかエクスもまた懸念した所を、リンは友人としての立場から彼女を擁護する訳で、


「……とリンさんも一応言ってますから」

「ここは、僕達に免じてどうにか」

「「信じてほしいのですが」」

『まぁ、今更とやかく言ってもねぇ……あと少しくらいあんた達の言う通り信じるわよ』


 一応リンが理解を示していた事が僅かな救いだろう。アンディとテディとして玲也達が不安を隠せない気持ちは分かると表情で示しつつ、頼み込んでいる様子からニアも彼らを責めているように思えたのだろう。マイへの追及をそこで止める所、


「流石リンちゃん! やっぱ持つべきものは友達だよね!!」

『……マイちゃんも、くれぐれも無理しないようにね」


 リンに助け船を出された事もあり、マイは思わずその気になった様子で意気込んでいる。一方の彼女は一応友人としての情けで助け舟を出しており、マイがその気になって鼻を高くしている事については内心不安がないといえば嘘になる。それでも本当の事は言えない様子だった所、


「マイちゃんに無理はさせないつもりだからね! 俺がここにいる限りね!!」

『……』


 同じ一番隊として、いつも以上にマイの肩を持つオーストラリア代表の姿があった。いつも以上に自分の存在をアピールしているのか、金粉が塗られた上着を普段着に着用している。マイとツーショットを決める彼の振る舞いに対し、双子から冷ややかな視線が突き刺さっていた事を本人が自覚していたかは定かではないが、


「まぁ、お前達に電次元での戦いは任せてやるけどよ、地球最後の戦いは俺が締めくくるからさ! 」

「おいおいやめろよ、その言い方だと、バグロイヤーがまたくるみたいじゃねぇか?」

『冗談じゃないわよ! だからあんたはいつも面白みがないって言われるのよ!!』

「そ、それでどうして面白みがないとかなんだよ!!」


 相変わらず影が薄い事をコンプレックスとする男の宿命か、地上での平穏よりもひと暴れして目立ちたいのだとまで口に漏らす。アグリカに彼の自己顕示欲を突っ込まれると共に、ニアが相変わらず目立つ事しか考えていないのだと呆れて罵る。そこから面白みのない男という、彼からすれば言われたくもないレッテルを突きつけられるまで多少強引ではある。それでもシーンを擁護する様子は見られない訳で、


「ステファーは別にどっちでも全然大丈夫だから~玲也も頑張って~」

『あ、あぁ……どっちでもと言われるとリアクションに困るが』


 ステファーに至っても、現状を分かっているかどうかとなれば相変わらず危うい。ただパートナーとしてシーンを擁護する様子はなく、彼よりも玲也達へ激励を送る事を選ぶ様子から一応玲也も彼女の想いを受け取る最中、


「玲也の兄ちゃんがいなくなると寂しいっぺ、シャルの姉ちゃんと才人の兄ちゃんもだけど……」

「若、プレイヤーとして皆さまが譲れないものがあります、それが誰かに言われてのことではありませんぞ?」

「あぐぅ……」


 ラグレーとして、玲也達が飛び立とうとするこの状況に憂いていた。まるで永遠の別れが訪れようとしているのだと――ヒロはぐずりだすラグレーを宥めつつ、玲也達が一大決戦へ赴こうとする胸の内を説いており、


『ヒロさんの言う通りです。俺達もみんな自分の意思で戦っていると……ラグレーも分かる筈だ』

「勿論だっぺよ! おいらがバグロイヤーの悪い奴らをやっつける為戦ってるっぺ!!」

「そうだ。俺達もバグロイヤーを倒してこの戦争を早く終わらせる為に戦っている。誰かに命令されてならここまで頑張れない」


 玲也もまた、ラグレーに対して自分たちの意思で戦いに赴いている。父を探し乗り越えるための彼の戦いが、バグロイヤーを打倒する為の戦いへと転じており、プレイヤーの面々がその想いで結束している事を触れる。


『そうそう。俺は姉ちゃんのことや玲也ちゃんの事から始まってここまで来たからさ』

『まぁ、あんたは最初本当どうなるかって思ったからねぇ……』

『ニアちゃん、そこで昔を引っ張り出すのはやめてくれよ』


 才人が追随して、元々個人的な想いからその実力が至っていないにも関わらずプレイヤーとしての道を選んだことを触れた。ニアとして最初彼がその気だと聞いた途端、どのようなリアクションをすべきか迷った事を苦笑交じりに触れる。旅立つ前に自分の黒歴史を引っ張り出されると拍子抜けした所、


『まぁまぁ、本当最初の才人っちだと、ロディに勝つのが関の山だったからね』

「そ、そこで余を引き合いに出すのはやめないか!!」

「ほらほら、そこでカッカしない」

「左様ですぞ、ロディ様も言うべき事があるのでは?」

「う、うむ……忘れるところだったぞ」


 シャルが、かつての才人はロディと最底辺を競うプレイヤーだと触れれば彼と同じようなリアクションをロディが取っていた。アグリカとヒロから本来すべきことを促されると共に、気を取り直し軽く咳ばらいをした上で、


「余もプレイヤーとしての務めを果たそうと必死だった……ハッタリ野郎と誰かに陰口を叩かれようとな」

「あ、あんたって人は、何で俺の方を見るんだよ!」

『……あんたもあんたで良く惚けてられるわね』


 ロディとして、自分なりに必死にプレイヤーとして取り組んでいた事を触れる。ハッタリ野郎との陰口を叩いていたのが大体シーンであり、彼が少しキレ気味に突っかかる。その様子にニアが冷淡に指摘する対象はシーンその人に向けていた事は言うまでもない。


「余は必死に食らいついてだな、どうにか落第は免れたと思っている。貴殿たちは三番隊、ゲノムへ向かう責任重大な立場との事だがな」

『貴方は話が長いですわ! もう少し手短にできません事!?』

『エクスと同じだねー、戦いに赴く前にダラダラしてるとちょっとテンポ悪いというか』


 ロディが延々と述べるものの、彼の話が長いとエクスは突っ込んでおり、シャルも彼女に同調する。決戦へと乗り込む中で気持ちをダレさせるのは逆効果だと言いたげな様子だが、


「シャルもそう言ってるから

早くしなよ。あたし達に付き合わせるのも酷だしよ」

「わ、分かっておる! 必死に今まで食らいついてきた事はどのプレイヤーも同じであろう! だから各々がすべきことがあると!」

『そうです……ロディさん、後は頼みますよ!』


 アグリカに急かされるよう、ロディは自分が言いたい事を一気に持ち込んできた――彼なりに自分達を称賛しているのだと気付かされると同時に、玲也もまたロディたちに後を任せるようエールを送り返す。


「うむ、互いに死に物狂いでここまで来たなら、胸を張る資格がある! 余も貴殿らもだ!!」

『まぁ、回りくどい言い方な気がするけども』

『俺も信じるからさ、俺らの事信じてくれよな!』

「さ、最後に一つだけ言わせてくれ! そのな、あのだな……まだ」


 ただ元々長話に陥りやすい面がある故か、時間が迫ろうともロディが話すネタが尽きないのだろう。その一方で自分の言うべきことがまとまり切っていないようで、不必要な時間を煩わせているようだが、


「早く言えー、時間ないぞー」

「とにかく堂々と胸を張れ! 胸を張れないなら意地を張ってでもだ!!」


 ロディなりにプレイヤーとしてあるべき道を玲也達へ示した。ハッタリ野郎との陰口を叩かれやすいだけの事はあるものの、プレイヤーとして何度かの実戦を潜り抜け、今まで生き延びている。その彼の生きざまは、外面だけを取り繕うだけのものではない――通信を切った後に目を細めた彼女が少し力を入れて手を引っ張ると、


「あたし達まだ時間があるから、ちょっと付き合いなよ」

「この部屋で不都合な事なのか? 余と貴殿だけで……」

「あー黙れ、とにかく少しは空気ぐらい読め」


 ハドロイドの力を少し発揮させつつ、アグリカが強引にロディを部屋へ連れていく。何故かその時の彼女は少しぶっきらぼうに、ピリピリした様子も漂わせ手を引く彼女の頬が気のせいか少し紅潮しており、


「成る程・……ロディ様とアグリカ様ですと無理はありませんな」

「爺、どういう意味だっぺ~」

「もう少し大きくなれば分かりますぞ、戦いが終わりました後のお二方をご覧になれば何れは」


 二人の距離や関係をヒロは察して、保護者のように見守る様子と共に目を細めていた。ラグレーにはまだよくわからない様子で首を傾げた所、にこやかに笑い返しているのだが、


「ヒロさん、俺とマイちゃんにも似た事が言えるんじゃ」

「命がけで戦われた、シーンさんにこうも言いたくないのですが」

「これ以上、コイさんになれなれしくする事止めてくれませんか」

「「流石に迷惑です」」


 二人の関係に便乗するように、シーンがマイとの関係を持ち出してアプローチをかける。その瞬間にマイを守るよう息があった動きと同時に、双子がわが身を壁にして彼女を守る。マイとしてもどさくさに紛れて二人の影に隠れており、明らかにシーンのアプローチが度を越していると示していたともいえる。


「あ、ありがと二人とも……」

「な、なんだよ! あんたらって人も結局コイちゃん狙いかよ?」

「いえ、少なからず僕はコイさんをそう意識していないですよ」

「兄さんと同じです。マイさんも一緒に戦うパートナーだとみてますよね!」


 マイとの仲に割り込んで入ってきたとして、シーンが突っかかる者の二人は静かに怒気を発しつつも、淡々と自分たちは共に戦うパートナーの関係に変わりはないのだと主張する。ただプラトニックな関係など考えてもいないと堂々と言いきっており、


「あ……ううん、そうだよね」

「マイの姉ちゃん、元気ないっぺ、大丈夫っぺか―?」

「うん。ラグレーちゃんも多分もう少し大きくなれば分かるから」


 流石にマイとして魅力ある異性とは見られてないと断じられれば、女としてのプライドが少し傷つく。一応アンディとテディには悪意はない。純粋に自分をパートナーとしてしか見ていない故だと思いつつも、少し頭を抑えざるを得なかった。ラグレーが自分を案じているようだったが、一応女としての悩みを彼が分かっているとはマイでもそうとは思えなかった。


「ステファーさん、僕たちが言うのもどうかと思いますが」

「シーンさんの事をもう少し見たほうが良いかとは……」

「シーンの事~?」


 一方のテディとアンディはシーンの暴走をどうにかならないのかと、パートナーになるステファーへ尋ねる。彼らとして少し歯切れの悪いような口ぶりで尋ねる事は、、パートナーをどうにかしてほしいと本人へ頼む事は流石に言いづらい事もあったが、


「ステファーはよく見てるよー? 一緒に住んでるし~」

「いえ、その見ている事と意味が違うような……」

「やはり、ステファーさんに言いましても少し……」


 ステファーが明らかに意味を間違えて捉えている。それもアンディとテディが想像のつく事態だった事もあり、直接聞きづらい一因になっていたようだが、


「あぁ、やっぱりまだ最後の出番とかってのは物足りないよな。まだバグロイヤーがいたらよ!」

「ふ、ふぇぇぇ……もうこれ以上戦いたくないのに」

「大丈夫だよ~、もう戦わないんだし~」


 シーンとして先ほどの発言からあっさり掌を返し、自分の出番を求めんと疼いていた。出番がある事は戦いがまた起こるのではないかと、マイが怖気ついていたがステファーはまずないと断言しており、


「ステファーさん、随分自信があるようですが」

「何か根拠があっての事で……」

「そうだよ~、シーンの出番もうない気がするの~」

「「……」」


 ステファーの珍しい意見に双子が耳を傾けるものの、彼女の根拠は何とも言い難い内容ではある。二人が何とも言い難い顔で見合わせていたものの、


「来るなら来てみろバグロイヤーめ! この地球の平和は主役の俺が守ってみせるからなぁ!!」

「いや、ステファーさん。それは有難いですし僕もそんな気がしますけど」

「本人のいる所で言うのはやめましょう。ややこしい事になりますし」

「ややこしい~シーンが出番あった事が、ステファーもややこしい~?」


 シーンが主役であるとトランス状態に陥っていたのが幸いだったのだろう。パートナーながら、いやパートナー故かシーンが主役どころか、出番があったこと自体がおかしいとまで言い切る様子に、双子が狼狽しながら部屋を退出させたのは言うまでもなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「本当なら僕も玲也君の誕生日をお祝いしたかったけどね……」

「気に病まなくても大丈夫だ。それより……」


 アラートルームにて、玲也達は二組のソファーにもたれかかる形で気持ちを落ち着かせていた。玲也の誕生日を直接祝えなかったことに対し、シャルは少し残念そうな口ぶりだったが、その誕生日が決戦へ飛び立つ前日だった事が大きく、


「ガジェットさんとロールさんと無事過ごせたようだからな」

「へへ、僕とウィンもグランパとグランマと一緒に盛り上がってたよ! ね?」

「……え、あ、あぁ」


 シャルが両親同然の二人と共に最後の夜を迎えたのも当然だろうと、玲也は喚起する彼女に対して思わず微笑みをみせる。そしてそのままウィンに話を振ると、


「そうだな、ロールさんだけでなくガジェットさんまで別れが惜しいと昔話をしてくれてな! けどそれがなかなか面白い話だったぞ!!」

「……ウィンさんがそのようにはしゃぐのも珍しいですわね」


 ウィンは少しぎこちない様子、それも彼女らしからぬ異様なテンションの高さを見せつけており、エクスですら彼女の普段からかけ離れた様子を少し訝しげに突っ込むと


「そ、そうか!? 私はいつも通り、バグロイヤーとの戦いに全てを賭けているからな! 今に動き出さないとなまってしまう!!」

「ま、まぁウィンさんだって緊張している筈なんですよ! 俺だってやっぱガクガクだしさ!!」

「そ、そうだな! そなたもたまには良い事をいうではないか、あはははは!!」

「……」


 猶更ウィンはわざとらしく大げさに振舞い、ソファーから立ち上がり準備体操を始めている。玲也やシャルもまた彼女の胸の内になんらかのしこりがあるのではと目の色を変えつつあり、才人も少し戸惑いながら、あえて彼女も恐れているのだろうと例えた時――ウィンは笑いながらも、自分の恐れを否定するどころか迷わずに肯定しており、当の彼ですらウィンの心がここにあらずと認めざるを得ない。


「ちょっと、ウィンさんあんな感じで大丈夫なの?」

「ニアちゃん、その場でそう聞くのは流石に……」

「いやウィンさんだけじゃないって、俺だってもう本当これからそうなるのか怖くて怖くてさー。玲也ちゃん」


 ニアが思わずシャルに対して、ウィンの様子を怪しむように聞き出す。リンが流石に拙いと止めようとするのを割って入る様に、才人が自分の不安をあけっぴろげに打ち明ける。玲也の元にしがみついて身を震わせる程であり、


「貴方までその様子でどうしまして!? 玲也様の足を引っ張る事はくれぐれも……」

「お、俺だって戦う事位問題ないって! その後なんだって!!」

「……戦いの後か」


 才人が自分の不安をまき散らせば、玲也にも悪影響を及ぼしかねない。エクスが直ぐにきつい口ぶりで突っかかるものの、“戦いの後“に対して昨夜の玲也自身思い当たる節が微かにあり、


「ドラグーンのみんなと盛り上がってて思ったんだよ……この戦いが終わったら俺、どうなるんだろうってさ」

「……そうか」


 先ほどまで、才人はわざと大げさなリアクションで不安を口にしていた。けれども彼が本当に抱える戦いが終わった後への懸念は臆病風や弱腰によるものでない、玲也は彼の胸の内を肯定すると共に、


「ゴ、ゴメン……才人っちの事まで考えてなくて」

「玲也ちゃんやシャルちゃんは悪くないって。ただ帰る所を探すとなるとちょっとね……」


 玲也やシャルにあって、才人にはない物――それは、プレイヤーとしての実力の差よりも“帰ることが出来る居場所“だった。日常で元々居心地が悪かったとしても、彼が帰るべき家族は既にない。二人と共に同じプレイヤーとして動く事により、自分自身の居場所を見出して、内心での葛藤を紛らわしていたようで、


「……今の私として、貴方の弱音を聞きたくないですわ」

「僕だって本当にお別れだったら嫌だけど……」


 しかし戦いが終わると共に、ハドロイドとしての使命が終わってしまうであろう。元の体へ彼らが戻ると共にゲノムの地で新たに生きていくとなれば別れの時が訪れる。才人としてイチと別れる日が近づいている点で心細さを感じつつもある。彼の葛藤はエクスにせよ、シャルにせよ、頷けるものがあると受け止めていた所、


「けど僕達、友達で仲間で時には好敵手って事に変わりないじゃん!」

「……シャルちゃん」

「生まれや育ちは違っても、今は一つの花の束か」


 シャルが少し胸のうちの寂しさを押しとどめつつ、二人の元へ抱きかかるように乗り込んでいく。自分たち3人が互いに好敵手としてのつながりがあるのだと気付かされた上で、玲也の視線はニア達に移り、


「そういわれると何か照れるけど」

「皆さん、生まれも育ちだけでなく、戦う理由もバラバラでしたから」

「まぁ、私だけで何事も出来た訳ではありませんからね……」


リン以外の二人は、素直になれないながらもバラバラだったそれぞれが、この場に集っている事に確かな意義があり、強固な力を醸し出している事を認めている事は同じだと言えた。3人とも同じ胸のうちであると知れば、玲也も笑みで答えた後に、


「正直俺もどうなるか分からない。父さんを乗り越えた後に何があるのかまだ見えてこない」

「それ言ったら僕だって同じだよ。何か玲也君も才人っちと同じこと言い出したら僕までさぁ……」

「いや、そうではない。俺も根拠がない話をここでするのはどうかと思うが……」


 玲也もまた才人と同じように先のビジョンを明確に見据えていない。堂々と打ち明ければシャルまで不安に引き込んでいたようだが、


「俺たちはここで終わる訳にはいかない。根拠がない上でも堂々と言うが」


 玲也として今までの13年間、特に父が行方を晦ませた5年間は彼なりに血がにじむような努力を重ね続けていた。決して薄っぺらいものではなかった13年の生きざまに対し、彼は満足をするにはまだ早いと見なし、生きていく間で13年はほんの一瞬のようにも感じつつあり、


「終わらない為にも、今はみんなで勝とう! そこから先が見える筈だ!!」


 同じ好敵手として認め合った者同士として、玲也は檄を飛ばす。これから先のビジョンに向けて突き進むために、立ちはだかる巨悪を打破する事にあると強く主張すれば、


「流石玲也ちゃん! やっぱ良いこと言うじゃん!!」

「そうそう生きるも死ぬも一緒、散る時は一緒に散ろうって……」

「バーロー! そこで、勝手に死ぬ奴があるか!!」


 玲也として、残された戦いへどう向き合うか――才人としてもシャルとしても共鳴するように強く頷くと共に、シャルの発言に対して突っ込むように怒号を飛ばした彼がその場にいた。3人の視界に入った彼こそ、自分たちをプレイヤーとして導き鍛えぬいた者であり、


「アンドリュー、いるならいるって……博士に将軍まで?」

「アンドリューさんに、僕も博士も呼ばれまして」

「ですが、二人とも一緒は珍しいですね……」


 アンドリューとイチだけでなく、エスニックとブレーンの二人。ドラグーンのトップ2までアラートルームに足を運んでいる。発進まで間が少しあろうとも、揃って持ち場から離れる珍しい状況に玲也も少し驚きの声をあげた後、


「私たちにも言っておきたいことがあるからね」

「今更じゃが、玲也君だけでなくシャル君や才人君まで結局巻き込んでしまった……本当大人として恥ずかしい限りじゃが」


 エスニックに促されると共に、ブレーンは頭を下げる――自分こそ秀斗を行方不明にさせた遠因だと見なし、結果的に玲也が戦いの道を選ぶきっかけになってしまったのだと。シャルと才人もいつの間にかプレイヤーとして前線で戦っている事に、自分の至らなさが関係あると見なしている様子ながらも、


「博士? 相変わらず負い目があるようですが、俺たちは全然そう感じていないですから」

「やはり玲也君はそう考えてましたよ。博士は相変わらず心配性ですね」

「確かに辛くて苦しく事もありましたが、みんな誰かに言われて戦っていると思っていないですよ」


 やはり、いつもながら心配性が度を過ぎているのだと、玲也はブレーンへ苦笑しつつも彼が思い詰める事はないと宥める。年下の玲也に宥められる様子へ、エスニックも師である彼の肩を優しく叩いてフォローを加え、


「俺がこいつらを扱いてきた上で言わせてもらいますけどね、俺がスパルタやってここまで来たら苦労しませんよ」

「アンドリュー! 僕たちが問題児だって言いたげみたいだけど」


 アンドリューもまた、自分の立場から見てきた玲也達に対して自分なり胸の内を説こうとする。ただ、彼が手を妬いていたような口ぶりからシャルが途中にもかかわらず突っかかると、


「バーロー! おめぇもドラグーンをハッキングして出撃してたろ!」

「まだ覚えてたんだ! それってもう結構前の話じゃん!!」

「それはシャルさんの事ですもの。今に始まった事じゃありませんわ」

「……エクスちゃん、私も人の事を言えたことではないですが」


 過去をさかのぼりながらも、シャルにそのような前科があった事を触れて、少なからず彼女が模範的な優等生などではないと指摘する。エクスがいつもながら彼女の無鉄砲さに、茶々を入れる訳だが――リンが恐る恐る突っ込むのはその出来事に自分たちも携わっていた為だろう。


「まぁ最後まで俺の話を聞け。俺がおめぇらを鍛える事もだけどよ、おめぇらが高みを目指してくってのも楽じゃねぇんだよ。お利口さんでもバカでも出来ねぇ」

「となると、俺たちはおバカでもなくお利巧でもない、良い子悪い子普通の子とでも」

「おめぇら、自分でそうとか言えた口かよ」


 才人の例えを苦笑しながら否定した上で、アンドリューが気を取り直して口を開く。その際にエスニックと目配せを交わしつつ、


「おめぇらがプレイヤーになったのも、おめぇら自身が選んだ道だ。玲也とシャルにその腕があったとしても、おめぇらがその気だったからこそ務まってるんだよ」

「前も思ったけど、精神論に走るなんて珍しいね」

「俺は単に気合いだとか、根性だとかに頼るのが嫌いなんだよ。プレイヤーとしての腕と経験があってこそ、気の持ちようも重要になってくるんだよ」


 アンドリューらしからぬ精神論だとシャルに尋ねられた時に、彼として戦いへ赴くにあたっての気の持ちようは一寸の明暗を分けるものだと触れた。思い自体は微力なものだとしても、それまで培われてきた腕と経験がある上で拮抗する戦いの中では勝利を呼び込むことが出来る力になるのだと――。


「だから、おめぇらはここまで来た。そりゃまぁ調子に乗る事も、勝手な事もしてヘマもしたし、戦いから逃げた事もあったけどな!」

「アンドリューさん、俺にその話はやめてください。少し恥ずかしいじゃないですか」

「まぁ今になってそう振り返れるのはよ……それだけおめぇらが成長したって事だよ」


 玲也達を扱き導いてきた師のような立ち位置として、アンドリューはそれまで手を妬いて振り回された事を苦笑交じりに取り上げた上で、彼らが幾度の戦いを経て一回りも二回りも成長したのだと評する。自分の過去を触れられて思わず恥ずかしがっていた彼だが、その賞賛を受けると共に目を少しきょとんとさせ、


「どんな奴が相手だろうとも、知恵を巡らせた。その上で一寸の糸口を見つけて、賭けに出る度胸もあった。本気で勝つことに俺もおめぇらも本当貪欲だからよ」

「そ、そりゃバグロイヤー相手に負けたら洒落にならないじゃないですか! 玲也ちゃんじゃなくてもそう思いますよ!!」

「まぁそれを言っちゃあ身も蓋もねぇ。けどそうあり続けるも大変だって、おめぇにも分かるだろ?」


 バグロイヤーを相手に知恵と勇気を武器にして、価値をつかみ取る戦いに挑み続けてきた。才人は当然のことではないかと尋ねる訳だが、彼の胸倉をアンドリューが軽く裏拳で叩きながら、本気で勝ち続ける事が容易ではないと気付かせるように問い、


「だから俺はおめぇらを信じてるんだ。俺自身も当然信じてるから敵はいねぇ」

「はは、アンドリュー君は相変わらず自信満々で素晴らしいよ」

「そりゃあ当然ですよ。生きる事が戦いだから俺は負けねぇと信じてますからね、博士」


 いつもながら自信ありげにアンドリューが腕を組みながら、玲也達に激励の言葉を送る。エスニックから見慣れている何時もの彼だと称賛されると共に、彼はブレーンへと話を振ろうと肩を叩き、


「そこでわしに話を振ったら困るぞい! 急に何言えばいいか……」

「博士も何時も玲也君の事を案じてたじゃないですか。この場で言う事位分かっている筈でしょう」

「そうじゃろか……なら、玲也君達が戦う事をもうとやかく言わんが、一つだけ約束があるんじゃ」


 エスニックとブレーンからアドリブを求められ、彼が少しあたふたしつつ咳払いをして気持ちを落ち着かせる。プレイヤーとして、玲也達の戦いを容認する事にわずかながら思う所があったものの、それを受け止めた上で口を開けば、


「アンドリュー君が言う通り、生きる事は戦いかもしれんからの。玲也君達もこれからしっかり生き抜いてほしいんじゃ!」

「もう、博士ったら僕たちがやられちゃうからって心配なの?」

「ただ生きるだけじゃだめぞい! 後悔しないような生き方をこれからもしてほしいんじゃ!!」

「……なるほど」


 生きる事は戦いである――自分たちが望む未来のため、悔いのない道を生きる中で見出してほしい。ブレーンとしてバグロイヤーとの戦いを乗り越えた上で、彼らが本気で生きる事へ向き合ってほしい。それこそ彼が自分たちに臨む願いと玲也が理解した瞬間、


「みんな、集まってくれ!」

「一応クライマックスに変わりないからね。あんた達も早く来なさい!」

「おぅ! イチも加われよ!!」

「は、はい! アンドリューさんも……」

「あたりめぇだ! ここで一発気合い入れてくぞ!!」


 玲也を中心としてニア達が、シャルと才人が、そしてイチとアンドリューもすぐさま一丸になって円陣を組む。ブレーンとエスニックに見守られながら一瞬静寂が場の空気を占めつつも、



「みんな勝つぞ! 無事に生きて帰るぞ!!」



 今、玲也が腹の底から声を張り上げた、彼が胸のうちの炎をたぎらせることに追随して、ニア達も威勢の良い掛け声を挙げると共に電装マシン戦隊が今一丸になる――ただ円陣に加わらず、外を向けた顔を微かに振り向かせた一人を除いては。


(私はどうすればよい……玲也達の言う通りの筈なら、シャルを安心させなければいけない筈だが)


 玲也達がまだ先のビジョンをおぼろげにしか見据えていないとすれば、ウィンが捉えるビジョンは真っ暗闇同然であった。厳密にはウィン自身が望んでも彼女には既にその先が訪れないと分かっていたからであり、


(私は怖い……この戦いで私が生きる意味もなくなってしまうのではないかと)


 ウィンとして、自分が情緒不安定であり周囲から不安を寄せられている事も分かってはいた。異様にテンション高く振舞わなければ、本来の使命でもあった戦いに挑めず、自分が押しつぶされてしまうと危惧した為だ。けれども今の彼女が見せつけた空元気は既にみられず、背筋を震わせながら、


「ポー、私は怖い。元の体に戻れないまま、この体で生きるのも終えてしまう事を」


 ――既に自分は元に戻ることが出来ない。日常を生きるための本来の体が存在しない事がウィンを苦しませている最大の要因となる。最愛の妹が既にこの世にいないにも関わらず、彼女の幻影に向けて弱音を挙げなければ、心が壊れてしまう気がしてならなかった。

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