第40話「嵐の電次元へ、ドラグーン発進せよ!」

40-1 あと僅か、バグロイヤーを駆逐せよ!

『早くどくっぺよ! 目の前にいるとどうなるかっぺ!!』

『若、その意気ですが油断はいけませんぞ! 皆様から犠牲を出してはなりませんぞ!!』


 北極海に瀕するノヴォシヴィルスク諸島にて、バグロイヤーの残党は最後の抵抗を試みていた。地上ではバグビーストが先鋒を務めていたものの――同じ地上で相まみえるには相手が悪すぎた。サンディストは繰り出されるミサイルの雨にもびくともせず、


『おいらにそれ位とかへっちゃらっぺよ!!』、


 爆煙から現れるサンディストは、後部から両手のビグラッパーを展開させ、平手でバグビーストを張り倒す。さらに自分の軌道上に堕ちた相手目掛けてダイノミック・スタンプを決める。サンディストの質量に加えて両足からのビーム刃により相手のコクピットはつぶされ、


『この野郎……!!』


 地上で立て続けに無双を続けるサンディストへと、バグソルジャーもまた抵抗を試みる。タウファンガーを打ち出して握りつぶそうと狙っていたが――下腹部から両足が展開され、バグラッパーを備える両手が展開して、


『力には力をぶつけようとされましたが、生憎……』

『おいらには勝てないっぺよ!!』


 ビグラッパーによる両手でタウファンガーのワイヤーをつかみ、掌から展開された超音波によってバグソルジャーの操縦系統に支障が生じる。これによって生じた隙を突くように、腕力で相手を引き寄せた後に、


『お、俺にはまだこいつが……あっ!!』


 それでもなおデリトロス・ベールでの抵抗を試みたものの、ダイノミック・スタンプで駆使される両ひざのストリーム・スパイクからビームが飛ぶ。斬撃と異なり牽制程度の威力であったものの、ベールを振るう右手を損傷させるには十分――そして、サンディスト目の前でバグソルジャーが直撃を受け爆破四散しており、


「すみません、余計な事かもしれませんが!」

『気遣いもほどほどでよいですぞ、私たちに気兼ねはいりませんぞ!』

「そういってくださいますと助かります!」


 地上の主導権をサンディストが掌握している事に対して、空中での守りをウーラストへ委ねられていた。そんな彼が放ったミサイルにより、バグソルジャーは粉々に砕け散ったものの、従来のミサイルアームから形状から手を加えられており、右手のコブラームはバイスアームをダウンサイジングしたかのように、従来のマニュピレーターさながらの形状となっており、


「間に合ってよかったね、兄さん! このウーラスト・ウラヌスがさ!!」

「そうだね……このボーガンアームも伊達じゃないけど」


 テディ、アンディの二人が触れる通り、ウーラスト・ウラヌスとして手を加えられコブラームにも弓状のゴーガン・アームが新たに設けられた。腰に設けられたタイタン・アローをつがえる為もあり設けられた通常のマニュピレーターともども、強弓で射止めており


「こ、これって私たちにチャンスなんじゃ……きゃっ!」

「マイさん、油断をしてはいけません!」

「ヒドラ・シーカーとして手を加えたじゃないですか!」


 ウーラストが新たに強力なロングレンジの武器を備えたとして、マイも少し良い気になっていたものの――バグジェッターからのマシンガンに晒される結果となった。彼女が慢心していると双子から叱責されてナーガ・シーカー改め、ヒドラ・シーカーに増設されたミサイルポッドが火を噴き


「確かにマイさんの言っていることは間違いではないですが」

「くれぐれも油断しないでください。決して楽な役回りじゃないですからね」

「そうです、このゴーガンも大勢を相手にするにはちょっと」


 ――一種の梅雨払いだろうとも手を抜いてはいけない。テディがマイに念には念をと釘を刺すように釘をさす。その傍ら、非力だろうと物量と機動性を利かせて飛び回るバグジェッター相手にゴーガン・アームは不利とアンディは気づく。従来のミサイル以上に火力、射程も秀でるゴーガンだが、連射には不向きで両腕が封じられるデメリットもある。弓を刃のように見立ててバグジェッターを薙ぎ払って退かせ、


「ふぇ!? 私がラグレーちゃんやヒロさんに任せているから安心だとか全然思ってないよ!!」

「……マイさん、こんな事を僕たちが言うのはどうかと思いますが」

「せめてもう少し上手い嘘をついて下さい」


 言われてもいないのに、自分から平然と自分の本心、それもこの状況で言うべきではない逃げの姿勢をマイは平然とさらけ出す。本心だろうとも今口にしてよい事ではない。自分たちの為に上手い嘘をつけと言わざるを得ない状況に頭を抑えながらも、マニュピレーターをすかさず鞭状のウィップ・アームを接続させ、


「え、えぇっと、わ、私だってその気、やる気、気合十分なつもりだよ! 怖いとか逃げたいとか思ってないよ、本当だよ!! ねぇ!?」

「い、いや……何でもないです」

「僕たちの事、今考えてる場合じゃないですからね!」


 更に言えば、自分たちが突っ込んだ意味をマイが理解していない様子であった。明らかに本心を隠そうと咄嗟に彼女なりの嘘をついているが、二人としてその嘘がバレバレであると指摘する事も気が引ける程であり、今は聞き流したほうが戦いに集中できると判断を下した。ゴーガン・アーム共々設けられたウィップ・アームは、先端の撓る鞭と高周波振動に伴ってバグジェッターを蹴散らす。


「これで何とか……」

「流石兄さん。僕と同じプレイヤーだけあるよ」

「ほ、本当だよ。やっぱテディ君とアンディ君がいれば大丈夫……だよね?」

「「……」」


追い討ちとばかりにアイブレッサーを掃射して撃ち漏らした敵を粉砕する。既に抵抗する術を喪った相手に引導を渡す事は容易かった。一先ずの危機を乗り越えた双子に対し、マイがほっとした顔つきで二人を称賛するのだが、


「マイさん、本当は僕に代わって制御しないといけない筈ですから」

「そう僕達を褒めればいい訳では……」

『双子の言う通りだぞ、マイ!』

「ふぇっ!?」


 アンディとテディから突っ込まれる通り、ネイラからの雷がマイに目掛けて襲い掛かる。思わずうずくまる様に身をひそめる訳だが、


『お前達がバグロイヤーの残党を蹴散らすんだぞ! 露払いくらいまともに務めたらどうだ!!』

「う、うぅ……それは分かってるつもりですけど」

「も、申し訳ありません!」

「僕たちにも責任が……」

『二人にはあまり五月蠅く言いたくはないが、私が言うのも変だが余計な無理はしないほうがいい』


 ネイラはマイがハドロイドとしての役目をはたしていない事と別に、テディとアンディの双子に対して実直な性格故に、オーバーワークとなり得ることを案じて指摘する。口答えするマイと異なり、直ぐに謝るテディへは彼女なりに穏やかな口調で注意を促していた。


「カプリアさんも玲也さんも電次元に向かわれる筈ですからね」

「……はい。リンちゃんがもっと大変な事に挑んでいると」

「本当、無事でいてほしいですね……」


 最も自分たちよりも、玲也やカプリア達の方が遥かな苦難に赴いているのだとテディとアンディは彼らの無事を案ずる。この話になるとマイもまた友人が決死行に挑んでいるのだと、憂いの顔も見せていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ――オークランド諸島を構成するディサポイントメント島。隣接するタスマン海にオリーブ色のハードウェーザー・ロクマストは単身でバグダイバーを相手に交戦を続けていた。両肩に設けられたリーンフォース・レールガンで一蹴しようとしており


『まぁ、とにかく先手必勝って奴だろうな。あたし達がこう目立って暴れれば向かってくるからな』

『そ、それくらい余にもわかっておる! 相手がバグダイバーなら手をひねるようなもの!!』


 アグリカが触れる通り、自分たちは一番手としてバグロイヤーの残党勢力を一蹴せんとする役回りがあった。レールガンで一斉に残党が集うディサポイントメント島めがけて、ロングレンジからの砲撃を繰り出すのも、彼らの拠点を一斉に叩く事だけでなく、自分たちの元へバグロイドの群れをおびき寄せようとしており、。


『あたしらは、こいつらをやっちまえば問題ないからなー。まぁ敵さんもそこまで余裕がなかったと思うけどさ』

『この水中で余に歯向かう事がどうなるか、身をもって教えてやろう。有り難く思うがいい……‼』


 バグダイバーが数機取り囲むように攻め立てようとも、同じ水中戦に特化した機体同士ならば、数で圧倒しようともロクマストの敵ではない。ロクマストはそう言わんばかりに尾に備えられたリーンフォース・スクリューを奮い立てて、バグダイバーの装甲をわき腹からえぐる。さらに両手でリーンフォース・フンドーを駆使して、からめとった相手をハンマーのように叩きつけており、


『空はユーストがやってくれるからさ、あたし達は楽なもんだぜ』

『しかし、何か余だけが楽をしているようだが』

『そういうのは、向き不向きってのがあるんだよ。長所を伸ばして、短所は助けてもらえって言うだろ?』


 バグダイバーが水中へと攻め込んでいくのならば、自分たちが唯一水中でまとも戦える要となる。しかしバグガナーとバグストライカーは、空中から攻め立てており、相手にしているユーストが

自分より負担が大きいとを案じているものの、アグリカはお前がそこまで気に掛けるのは過剰行為だと笑いながら諭す。


『ロディさん、既にステファーさんが鋼鉄軍団の相手に回ってます!』

『あー、了解! 解、こっちは1機たりとも撃ち漏らさないからね』


 ドラグーン・フォートレスに代わり、自分たちの指揮を執るジョブマンが触れる通り、空中からの鋼鉄軍団はは既にユーストらとの交戦状態へと突入していた。空から攻めかかる彼らが自分たちを標的にすれば、不利な状況へ持ち込まれてしまう。


『余には余のできる事をするだけだ……!!』


 ステファー達に相手を任せつつ代わりに自分にできる事は、バグダイバーを駆逐する事である。リーンフォース・スクリューで装甲を裂傷させるなり、リーンフォース・フンドーで直撃させて機体の制御を損なわせるなり――いずれにせよ深海へと引きずり込むと並行して、深海の水圧にバグロイドを圧壊させつつあった。


『へへ、あたし達がこんな所でくたばる訳にはいかないだろ? ロディさんよ』

『な、何を急にだな! 余を愚弄するつもりが貴殿にないとしてもだな……』

『まぁまぁ落ち着けって。お前が本当にそうなったらあたしも悲しいから、頼むぜぇ』


 今となれば、同じ水中を得意分野としていようとも、ロクマストはバグダイバーへ一方的な戦いを繰り広げている。それもあってか、アグリカはまだ肩に力が入っているロディをからかう様に近づいていた。自分の豊かな胸元を彼の背中に押し付けて囁くと共に、


『……っ!』

『おいおい、どうしたんだよ! これから当たり前のようにあるから免疫つけろよな』

『い、いや! 余がはしたない事に慣れていないのがいけないとでも!? 明らかに貴殿だろう!!』


 意外と異性とのスキンシップに関して、ロディは免疫がない一面を露呈する事となった。思わず手元の操縦が狂い、バグガナーからの弾頭が水面を割る様にしてロクマストをかすめた。アグリカがダメだししているものの、彼が触れる通り戦闘中にスキンシップを求める彼女にも少なからず問題がある。


『相手の数からすれば、ステファーでも問題はないと思うが……大丈夫だろうか』

『はいはい、人の事心配してる余裕があるなら、自分の事考えろよなー』


 思わず自分の元へとバグガナーの攻撃が着弾した事もあり、ロディは微かな不安がよぎる。けれどもアグリカは自分なりのペースを見失わず、何食わぬ顔で持ち場へと戻っていった。その彼らが触れる通り、鋼鉄軍団を相手にユーストらが迎え撃っているが――。


「久しぶりに大暴れするぜぇ! いやっはぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ユーストの電子戦に特化した性能もあり、先陣として彼らがバグストライカーの群れへと切り込みをかける。アーケロ・クローを相手にめり込ませたのち、ヘッドム・タービンによるハッキングで逆に相手を掌握してみせる。これにより質量で勝る相手だろうと半ば同士討ちの要領で、バグガナー目掛けて質量弾として叩きつけた。久々の実戦だとステファーはトランス状態になりつつあり、


『ったく、相変わらず無茶苦茶やりやがって……』

『けどまぁ、あんたの妹じゃなかったっけ』

『俺はステファーをこう育てた覚えはないけど……おい、お前らも笑うなよ!!』


 ユーストに触発されるように、サザンクロス・バディが率いるライトウェーザー部隊が殲滅にあたっていた。ステファーが切り込んでいる事に対し、兄としてアランは案じていたがまるで子離れできない親のような不安に近い。イシュカからそのステファーこそ彼の妹だと突っ込まれれば、反論の余地もなく、部下からも笑いをこらえきれない者が現れており、


『いっておくが俺たちの大勝負が未だ! ここで油断をしているとまさかがある!!』

『ちょっと! ステファーと確かもう一人の元に行く気!?』


 自分たちにとってバグロイヤーと最後の一戦を迎えようとしており、自分たちですら余裕で渡り合える状況だろうとも、油断は大敵だと檄を飛ばす。それと共にサザンクロス・バディが飛び立ち、怯むバグジェットの胴を目掛けて、ブレイカーを振るう。すかさずスティレットを肩のホルダーから展開して投げつけるなど、怒涛の勢いで自分も前線へと向かう。とはいえ、イシュカが触れる通り油断はするなと釘を刺しているアランが、深追いしすぎなのではないかと尋ねるのだが、


『俺達PARだって、引き立て役で終われないんだよ……おわっ!!』


 ユーストの背後を取ろうとするバグストライカーに対し、後方から鈍器のようにリボルバーを縦に、横にと奮って殴りつける。さらに足のブレードで切り付けて引導を渡すといった、荒々しいサザンクロス・バディの攻撃によって粉砕された所、雷撃が自分の元へと直撃し、


『ええい、貴様らライトウェーザーごときになど! 』

「何しやがらぁぁぁぁぁぁっ!!」


 サジタリ・スパークを繰り出すバグプラチナ。鋼鉄軍団の生き残りとしてユーゼルは最後の意地を見せんとしていたが――兄を仕留めようとする相手へと、ステファーはキレる。ヘッドム・タービンによって生じるエネルギーをブースターのように駆使して、


「シーン、よそ見なんかするなよ!」

「あんたって人も……って言ってる場合じゃないよな!!」

『あのようなスピードで……ええい!!』


 急速にバグプラチナへとユーストは詰めていった。サジタリ・スパークの二射目を繰り出すにもラグが生じつつあり、設けられたEガンでの弾幕を張る対応をユーゼルは迫られていた。ユーストもまた両手からのパルサー・ショットで応戦しており、


「主役は最後の最後に現れるってな! 延長戦も大詰め、みんなの声援が俺を熱くしてくれたからよ!!」


「だから何ぶつぶつ! ステファーに合わせてないとな……』

「あんたって人はなぁ! 俺にだって言いたいことあるんだよ! !」

「……おぅ」


 おそらく今に始まった事ではないだろう。シーンとして今までの鬱憤が延々と積み重なっており、ステファーからすれば関心がない事であり、ボヤいている彼の様子に苛立っているものの、シーンは逆に彼女を黙らせるほどの剣幕で吼える。思わず彼に従っており、


『き、急に何だ……誰か知らないが、訳の分からない事ばかり!!』

「誰か知らない……こんな事を、こんなことをいう奴らはなぁ……!!」

「お、落ち着け! 久々だからっておかしいだろ!?」

「許すもんかぁぁっ! お前たちなんかがいるから主役は、世界はなぁ!!」


 シーンの妙な気迫にステファーだけでなく、ユーゼルも圧されているかのような事であった。彼が抱いている憤りが一体何であるか把握していない面々からすれば、理解しがたい憤りでもあり、


「玲也がいないから、思いっきり言わせてもらうぜ……ステファー!!」

「お、おぉ! ディヴァイディン・ブレ……」

「俺はシーン・シュバルカーフなんだよ!!!」


 ステファーが一時心を奪われていたからか、それとも主役と脇役で越えられない壁があるからか、陽の目の当たらない脇役として甘んじている鬱憤をぶつけるように、ユーストは強烈な膝蹴りをバグプラチナへとぶちかましていった。ヘッドム・タービンでの勢いを借りて、パルサー・インパルスをぶちかます大技だが――ステファーの叫びよりも、シーンの主役であろうとする魂の叫びにある意味かき消されており、


「やった! これで俺も、俺も主役として……」

『……確かにまぁ助けられたけど』

『一体何がそこまで貴殿を……』

『まぁ、最後に花を持たせてやろうじゃん。一番隊としてさ』


 “電装マシン戦隊の一番隊は、いわば最初の矢として大気圏内のバグロイヤー勢力を駆逐する役割を担っていた。一番隊の果たすべき目的は、電次元へ向けて飛び立つ三番隊を万全な状態で飛び立たせるため、その三番隊の中には玲也達の姿が――この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”


「あぁ……最後の出番としても、これで満足かな……多分」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る