40-3 そして電次元の海へと

『やれやれ、どうも張り合いもないがな……!』


 ――月面。大気圏外にもバグロイドの残党は存在しつつあった。月の表土にてザービストは疾走し続けており、バグロイドの群れをおびき寄せる役回りへ回っていた。これもザービストの機動力を買われての事ではあるが、バンは少し愚痴をもらしており、


『まま、いずれにせよ俺らが手を抜いたらフォートレスもやばいからね』

『わかってるけどな、このバグロイドも冴えないから張り合いがないんだよ』


 ムウから託された役割を果たさなければならないと、いつもながらの余裕ある口ぶりで諭される。バンとして彼の言う通りであるが、自分へ群がるよう立ちはだかる相手が無人のバグアームズとなれば、張り合いを感じる機会は乏しい。


『だったら、ここでヘマやったらカッコ悪いよね?』

『俺を誰と思ってやがる……』


 とはいえども、ドラグーンからバグロイヤーの勢力をおびき寄せる事が必要とされている。ザービストが機動性を活かしながら、ジャッジメント・ガンで次々と群がるバグアームズを牽制しつつ、まるで相手に対して強引に隙を作った上で、正面突破を果たし続けている。


『おや? 背中を見せてるから隙があるとでも?』

『だから歯ごたえがないんだよ! コンピューターごときがよ!!』


 正面から堂々と切り込みをかけるならば、突破された直後のバグアームズがザービストの背中に目掛けてスタンドレッダーを突かんとする。強引な正面突破から背中の守りがおろそかになっているのではないかと思われたが――両肩のハードポイントへと接続したノヴァードの弾丸がバグアームズを滅多打ちにした。


『これでいっちょ上がりなんだよ!!』


 その上さらに追い討ちばかりと、ザービストが豪快な回し蹴りを浴びせる。小柄だろうとも重力管制システムによって、浴びせる蹴りが相手を爆散して果てさせていった。


「流石バンはんやけどな、一つ一つ片っ端から攻めていったらキリがあらへんで」

「……計算にしますと、90%の確率で直ぐにでもスパルタンを放つことが得策です、アイラ様も早くすべきです」

『早くって……おい! 俺を巻き込む気か!!』


 最もザービストはバグアームズを一点へと集中させるための囮である。この一点へと集中させる理由は、アタリストの手で一網打尽にするための前座の役回り。これも物量で圧倒的に勝る相手に対しての殲滅戦をアタリストが得意とするためだが、自分もろとも巻き込もうとも問題がないフレイアの口ぶりにバンは流石に突っ込みをかけており、


「……私の計算ではバンさんなら逃げ切れると95%の確率で見ています。本来なら100%はあるともいます」

『そこで何故確率を下げるのが分からないけどな……』

『まま、早くしないと本当に間に合わないから』


 ムウはすぐさまフレイアの助言通りに、密集した戦域から抜け出すべきだとバンに促す。ディンプラードで目の前のバグファイターを薙ぎ払いつつ、右手にのリニアッグに接続させたジャンバードを突き出す形で相手を突き飛ばす。


「……訂正します。ムウ様がいてこそ100%以上の確率を計算上では出せます」

『……95%は俺の腕だと一応信じてやる!』

『ほら、バン君も自分の役目を果たさないとね』

『ったく、どの口で言ってるんだよ!』


 直ぐにフレイアがムウがいるから、自分の計算上で作戦は上手くいくのだと断言する。彼女が一見一から作られたアンドロイドとして、整然とした理論家としての姿を見せているようだが――ムウへの恋心が彼女の計算に大きく作用している。

バンとして相方がいちゃついている様子に対し、9割は自分の腕だとフレイアが自分に対しての評価を引き合いに出して少し皮肉を浴びせる。けれどもムウは全然意に介していない様子で返しており、バンとして流石に長らく付き合ってきた相方へ怒る気も失せていた。


「ほなまぁ、行きまっせ!!」


 だがザービストが射線区域から離脱する事に成功した。躊躇うことなくアタリストが手にしたアポロ・スパルタンの弾頭を地上へと叩きつけるように叩き落した。この弾頭そのものが1機のバグファイター目掛けて着弾すると共に、逃れるザービストの背後で爆炎が激しく上がっていた。


「……殲滅率、80%です。コズミック・フィンファイヤーでの殲滅が妥当です」

「せやな。はよなおして、合流せぇへんとあかんからな!


 オールレンジ兵器ことコズミック・フィンファイヤーを使用するにあたって、フレイアがアタリスト本体の制御がおろそかになってしまう。これもハドロイドでなければ、複雑なオールレンジ兵器を制御する事は成り立たない。それも大気圏外での戦闘を想定し、従来通り8基へと数が増やした為にフレイアの負担が増加するのだが、


「オトン、無理するなと言われへんで!」

「ワイだって、リハビリしとったんや! 演習と実戦はちゃうけどな!」


 だが、フレイアの負担を軽減する為にシンヤが本体の制御へと回っていた。ウィナーストとの戦いで下半身不随の後遺症を負った為に、しばらく戦線から遠ざかっての後方支援に回る事を余儀なくされていた。その彼がハンデを超えて再度前線へと赴いている。アタリストを従来の親子で操縦していた仕様に変えた事も、彼が復帰する事を想定した上であったかのようだ。

アタリスト自身がドラグーンへと急ぎつつ、後続のザービストが追随する事を想定した上で、フィンファイヤーを駆使してバグファイターを1機でも蹴散らし続ける。


『へぇー、やっぱアイラの親父さんだけの事はあるじゃん』

『トム、わざわざそれを言う為なら、後でも出来る筈です!』


 シンヤの手によって動かされるアタリストに対し、フラッグ隊のトムから彼の腕を称賛される。最も個人的な通信は、今控えるべきだとルリーに突っ込まれており、


「ルリーはんの言う通りやでー、ワイより戦い慣れとるんならわかっとる筈やろ?」

『全くです。ラディ隊長からフェニックスを守るよう託されてるじゃないですか』

『そりゃそうだけど……ったく俺も電次元へ突入したかったぜ』


 二人に突っ込まれつつも、トムは自分たちフラッグ隊がドラグーンへ据え置きではなく、二隻のフォートレスを護衛する役回りを託されていた。電次元への突入が許されない事に対して、少し残念がっているトムだが、


『わ、私から言わせてもらうけどバン君もアイラ君もだけど、シンヤさんが一番無理してはいけないと思うよ』

「司令、確かに無茶してるかもしてるかもしれへんけどな、誰が今一番無理したらあかんとかは関係あらへんと思うで」


 ガンボットからも無理を避けるようにと促されるものの、シンヤとしてこの戦況に出ているプレイヤーとしての在り方を説く。自分が実際周囲の反対を押し切ってまで、再度娘と共に戦っているのであって、自分への遠慮や心配される立場ではないと触れると、


『全く、俺も反対したのによ。それでも出てくるあんたを心配するほどお人よしじゃないからな!』


 バンとして、ガンボットの主張は自分にも思う所はあるものの、その上でも戦いに赴いている彼を止める理由などないと突き放したような態度も取る。最も彼として双方の主張を認めるところはあると、素直になれない口ぶりながらも認めてはいたようだが、


『なんだかんだ、バン君も心配してたからね。弱いプレイヤーに興味ないとかだったんじゃ?』

『そういう話は今余計なんだよ!』

「ちょっと聞き捨てなれへんな。ウチが弱いとか今まで思っとたんならバンはんでも許さへんで!」


 ムウが揶揄い交じりに、今までの彼が弱いプレイヤーに関心がなかったのではと指摘する。これに思わずアイラが怒号を飛ばしており、


『だから違うだろ! ただお前らに死なれたら嫌なだけだ!』

「……バンさんなりに、私たちを案じていると思います。私の計算ですと、98%の確率で見くびりなどではないと捉えることが出来ます」

『……分かればよいんだよ。お前もたまにはいい事言うな』

「……私の計算ですと、10%程私を低く見積もって評価されているようです」


 バンとしてこれ以上の犠牲を出したくはないと、相変わらずつんけんとした口ぶりながら、アイラ達を案じてはいた。フレイアが分析する通り彼として、見くびっている感情はない筈だったものの、その後の口ぶりから、彼女として内心バンを擁護した事を少し後悔もしていた様子だった。


『誰もがここで命を落としては元も子もないぞい! 桑畑君もその一人じゃぞ!!』

「先生まで急にどうされたんや。先生もオダブツとか勘弁したってぇなぁ」

『わ、わしはまだ死ななんぞい! これからが皆にはあるんじゃぞ!!』


 そのドラグーンからブレーンの通信が届く。彼からも教え子である自分の身を案じられているものの、シンヤとしては猶更戦いから遠く離れている師を心配せずにはいられないが、


「先生、いや皆はん頼みまっせ。ワイにかわってあの天羽院に一泡吹かせたってください!」

『そのつもりじゃが、桑畑君も今度こそ父親としてしっかりな! アイラ君を幸せにする事も』

「オトンとして当然でっせ! コンパチの事もよろしゅう頼みまっせ!!」

『コンパチがこうも機能するとは思っていなかったがな……お前の腕も捨てた物じゃないなと』


シンヤにアイラの父として今後も相応しくあってほしい――シンヤとして強く肯定すると共に、自分が手掛けたコンパチの今後を託した。メルと同伴してコンパチの改造に立ち会っていたマーベルに、コンパチの設計を称賛されると思わず苦笑を浮かべていた所


『……ったく、散々人を振り回しといて、あんたは電次元行きか!』

『他人を振り回すことはお前も然程変わらないと思うがな、もしかして僻みか?』

『誰が僻むかよ。結局あんたの方が俺より強かったのは認めるからよ』

『ほぉ、お前にしては謙虚な姿勢だが……本心で言ってるのか?』


 フェニックスから飛び立つ事もあり、マーベルとして二番手にあたるバンへ別れの言葉を送ろうと話を振る。バンとして相変わらず素直になれないながらも、自分以上の力量を彼女は持っていると一応認識しているようだが――彼女として、彼なりに謙虚な姿勢を作っている事が少し不自然にも感じており


『あくまで“今は“のつもりだ。俺は負けたとか別に思ってもないからな』

『その意気だ。負けたと思うまで私たちは、いや誰もが負けてない……』

『……あんたにしてはえらくまともな事言いやがって』

『私は何時もまともなつもりだが? この期になって分かったようだな』

『はいはい、そういうことにしてやるよ』


 基本プレイヤー同士の馴れ合いを好まず、勝つか負けるかに人すぎない――バンとしてやはり目上だろうとも彼女を乗り越えんとする気概に変わりはない。彼の闘志が萎える事を知らないと知れば、マーベルはどこか安心を覚えたように通信を切った。アタリストが撃ち漏らしたバグアームズをジャッジバードで焼き払うようになぎ倒していきながら、ザービストは彼女の後を追い、


『やっぱり、俺たちのリーダーだけはあるね』

『まぁ、一応腕は認めてるからな腕は』

『それもそうだけど、俺たちはこれからも勝うからね。生きる事は戦いだって例えだけどさ』

『今更何言ってやがる。俺に戦いを取り上げたら何が残る』

『……やれやれ』


 その最中で、マーベルが垣間見せる新たな一面にムウは感心の声を漏らしており、この先も戦い続ける宿命だろうと述べる。隣でパートナーの口ぶりで語られる内容については、今更のようなことと捉えているバンだが、


『とりあえずこの戦い終わったら……アタックだろ?』

『……い、いきなり何言ってやがる! 心の準備がついてないのにさ!!』

『全く、フラグを立てた上に心の準備ができてないとか……俺がいないと本当に危なっかしいね』


 ムウとして、これからがバンの戦いであると触れる。この戦いに赴く前に彼が交わした約束に関わる事柄、彼曰く死亡フラグとの事らしいが、


「やっぱムウはんとバンはん出来とったんやな! もう告ってもええやんけ!!」

『……』

『お前なぁ! 何かとつけて俺らをひっつけようとするな!!』


 ――この告白絡みの話が出てきたとなれば、真っ先にアイラが食いついてくる。だが彼女が妄想によってにやけ切った様子で触れるつながりは、少なからず互いに意識している者ではなかったのは言うまでもない。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『あーら、貴方達残念だったわね』

『わしは不沈艦と呼ばれちょったか。ワシが守りについちょるからのぉ』


 ドラグーンが電次元突入に向けての最後の準備を進めている――二隻の艦が突入態勢を整えるまでにあたり、ジーボストが守りについてバグアームズを蹴散らし続けていた。短期での突入よりも火力支援を想定したバグアームズだったものの、彼らの倍以上の巨体を誇るザービストにも同じように火力も秀でていた。アメンボ・シーカーからのビーム砲に加え、電次元ゴッドハンド・スプリットを並行して展開する事で、前方に強力な弾幕を張り、一歩たりとも近づけることはない様子であり、。


「釘付けになってるなら、遠慮なく!!」


 ジーボストにより足を止められたバグアームズに対し、彼らの死角からウィストが飛び掛かる。タイガー形態としてカイザー・スクラッシュを駆使し、重装甲のバグアームズだろうとも、鋭利な光の爪を突き立てており、


「何か、こうジーボストありきの攻め方な気がするんだけど」

「どうあろうとも戦いは戦い、勝ちは勝ちだ。つまらないプライドを張って敗れれば元も子もない」

「つ、つまらないって……」


 1機のバグアームズの機能を停止させるように食らいついた後、カイザー・キャノンを炸裂させ、胸部からのブレスターを打ち尽くすなど、彼女もまた周囲のバグアームズを駆逐せんと戦闘を続ける。

 ただジーボストによって足を止められている相手へ向けて、一方的に攻めかかる事へコイとして若干の思う所はあったのだろう。コサンへ実際これでよいのかと尋ねるものの、マキャベリストとして彼は単に勝ちをもぎ取る事がこの場で求められるのだとスタンスを変えない。それに伴い彼女のプライドがこの場で不要なものと切り捨てるような姿勢に、少しコイは機嫌を損ねるものの、


『おんしも言い方がちっくときついがのぉ、わしはそれでええと思うぜよ』

『そうそう! 時に持ちつ持たれつつ、時に支配しつつされつつってサン君は言いたいんだよね!?』

『……いや、それまじゃーわしにもよぉ分からん。馬鹿やからじゃーない気が流石にするがのぉ?』

「わざわざそこまで私に聞かないでよ!」


 サンの合理的なスタンス、ラルとしては互いに連携していく姿勢、自分が盾のような役回りを務める事も特に苦言を呈する事もない。彼として状況に応じて手を取り合う必要性と捉えていたが――リズが明らかに別の感情をこの連携に対して想いを馳せている。流石にそこまでラルにも理解しきれないものとして、彼では珍しくきょとんとした表情でコイへ尋ねるように問う。無論彼女に分かる筈はなく速攻で突っ込み返した。


『イチ君じゃないのは少し寂しいけど、サン君に支配されるって何かゾクゾクしちゃうわね! ドSの男の子に緊迫されるなんて……あぁ!!!』

「や、やめろ! 戦いの最中に余計な戯言は……!」


 リズがコクピットの中で身をよじらせ、恍惚とした表情で黄色い声を挙げている。流石に彼が自分に求愛する様子を目のあたりにして、サンとして流石に気色悪いとも流石に捉えていた所――1機のバグアームズが展開するデリトロス・ライフルの標的にウィストが定められていたが、


『ここでボヤっとしてる奴がどこにいる!!』


 スパイラル・シーズがバグアームズの背後からクローを突き立てて、至近距離からのバルカンポッドを浴びせる事で怯ませる事に成功する。ラディからの激を飛ばされた事で、咄嗟にウィストの両眼からアイブレッサーを直撃させた。


『ハードウェーザーに乗っているから気が緩みすぎだ。緊張して動けない事も問題だが……』

『おんしの言うとおりじゃ、リズも度が過ぎるぜよ』

『はぁい……ちょっとごめんしてね?』

『……やれやれ』


 明らかにこの状況と関係ない事で舞い上がっているのはリズだ。ラディは普段のラルがラルとの事もあり、少し穏便な口ぶりで彼らを嗜めていたが、彼は何時もながら舌をペロリと出し、軽いノリで謝る。本当に分かっていたかは定かではないのだが、


『ったく、お前がいなくなった後も相変わらず苦労する事になりそうだが』

『おいおい、やっぱり俺がいると問題が起こるとか思ってんのかよ』

『……俺が引き留めても、お前は先に進むだろう』


 ラルとリズの様子に少しラディが辟易としつつも、電次元へ乗り込むであろうアンドリューへ通信をかわす。部下の二人と同じようフォートレスの護衛にあたる形で電次元へ乗り込む事はない為、彼として一抹の寂しさもあったようだが、


『何、お前やラルさんがいたら背中は大丈夫なんだよ。そういうこった』

『俺はお前の尻ぬぐいをするつもりはない。この宇宙が俺の空だからだ……』

『おいおい、だったらこの世界に帰らねぇみたいじゃねぇか』

『戻ってくるなら俺とまた競え。お前がプレイヤーだろうとも受けて立つだけだ』


 アンドリューが自分を留守番役のように捉えているような言動に対し、彼としてあくまで好敵手であると強気な姿勢で、自分が空の男として君臨するだけだと述べる。久々にかつて自分と同じ立場で競った頃のアンドリューの姿を目にした上で、ラディの口元が自然と緩むと共に、


『一つだけ言っておく……大事にしてやれ』

『わーってらぁ。ただ誰からも口を酸っぱくされてて辟易してるけどな』

『……俺とお前、どっちが先に抜け出せるかだがな。お前に先を越されそうだが、まだ俺も諦めてはいない』


 ラディとして、彼なりにアンドリューの今後に幸がある事を信じての言葉をかける。ただアンドリューとしておそらく常に生死を共にしているパートナーの彼女の事と捉えているようだったので、暈しながらもアンドリューに気づかせるように一歩踏み込ませることを述べており、


『全く、おんしはまだまだ止まる事は知らんから羨ましいのぉ』

『あら、不沈艦の貴方として適任の役回りじゃなくて?』

『ほれとこれとは話が別じゃのぉ。守るわしが言うのもなんけんど、ガンガン点を入れてかんと試合にゃ勝てないぜよ』


 ラルとして、サッカー選手としてのブラジル代表だった頃から不沈艦との異名を持つキーパーとして、所謂守りのスペシャリストとして今もなおプレイヤーとしても認められている。そのラルとして本来なら自分も攻めていきたい姿勢であると、少しうらやむように述べつつ、


『玲也にシャル、才人! わしはおんしらとぶっちゅうチームで良かったと思うぜよ!!』

『ラルさん……こちらこそ今までありがとうございました!』

『俺もラルさんに鍛えられたようなものですから! そりゃ……しんどかったですけど』

『その苦労が、今のおんしの腕に繋がっちゅうがや? ほき、わしらの事覚えてくれちょったら十分嬉しいぜよ!』

『当り前じゃないですか! 忘れる筈ないですよ!!』


 これからも先を突き進むであろう玲也達3人、若きプレイヤーにラルはエールを送る。才人としては彼に始め鍛え抜かれた事で、どうにかプレイヤーとしてのスタートラインに立った。それもあり彼との別れに直面して少し声にしゃくりが混じりつつあった所、


『あたしの事も忘れたらめっ!だからね! イチ君にそうよろしく……』

『ただ、わしらのチームは不滅ぜよ! わしらが守っとる間に、ストライカーのおんしらが、やっこさんのゴールに向けて走っとるからのぉ!』


 リズがイチの事を口にすれば、話がややこしくなると流石に判断してラルが彼の口をふさぐ。その上で自分が不沈艦としての責務を果たしている間に、玲也達がフォワードのように相手へ勝利点を叩きこむ筈だと強い信頼と共に触れた所、


「まさか貴様たちが、この戦いを締めくくる役回りとはな……」

『ちょっと、それやっぱりあたし達じゃ頼りないって……』

『待て待て、サンが考えもしないで罵る訳はない。私がお前達より長い付き合いだけの事はあるぞ』


 サンは、玲也達に最後の戦いを託そうとする事へ懐疑的な物言いであった。これにニアが少し不機嫌そうな口ぶりで突っかかるものの、カプリアが仲介するように割って入り、


「……この戦いを締めくくる事は、貴様らにくれてやる」

『く、くれてやるって……』

『パルル、オモウ、サン、ネラウ、ゼルガ。レイヤ、チガウ』

「……まさか、私より先に貴様がゼルガに勝つとは考えてもいなかったがな」


 パルルが触れる通り、サンとしてユカ絡みでの因縁があるゼルガを目標と定めていた。彼として玲也が電次元での決戦に挑む事へ異論がない上で、


「私があくまで決着をつけるのはゼルガだが……少なくともゲノムに混乱をもたらす真似はしない」

『何かそれですと、矛盾しているような気がするのは気のせいでして?』

『いや、その気持ちは俺にもよくわかります。その……』


 あくまでサンとして、ゼルガを好敵手のように見なそうと考えを改めつつあった。元々性格が真逆の秀才と天才の関係として、サンは実力を認めてはいた。それが性格的な問題でソリが合わない事に加え、彼がバグロイヤーへ抗戦の姿勢ではなく恭順の姿勢をとった事で決裂するように憎んでもいた。


「……貴様のように、あいつを認める事が早ければとはな」


 今となれば、ゼルガの真意を見抜くことが出来なかった自分の不明が原因であると捉えつつあった。仮に相容れない関係だとしても真っ向からゼルガを相手に挑む事が出来れば――彼と心を通わせた玲也を羨ましく思いつつ、


「ユカ様にはよろしく頼む。その上で何れ決着をつけると……ゼルガには伝えてくれ」

『……勿論です』

「それまでは倒れるな。ゼルガと決着をつけるためにお前にも生きてもらわなければ困る」

『生きてもらわないと困るって、やっぱ何か嫌ないい方ね』

『サンなりにお前達の事を案じているのだぞ。相変わらず素直ではないが』


 サンとして、未だ慕うべきユカ、決着をつけるべきゼルガだけでなく、玲也に対しても一応無事を祈る言葉を送った。つんけんとしたいい方であるとニアが突っ込みつつ、カプリアは彼なり敬意を表している証であると穏やかな物腰で触れており、


「あんた、帰る所を守るって言ってなかったっけ……」

『何事も始まりがあれば、いずれ終わりもある。私にも当てはまる事だ』

「カプリアさん、もしかして貴方も……」

『……いずれ互いが本当に望む道を選んだ方がいい。今は目の前の戦いに集中するだけだがな』

「……はい」


 サンはいずれゼルガと決着をつける――パートナーの彼の言葉に、コイの胸の内は微かに揺れつつあった。彼女の動揺を察した上でカプリアは自分が見据えている選択肢を触れる。直接的に指していないものの、カプリアとコイが揃って選ぶ道は同じかもしれないとは確信せざるを得なかった。 

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