39-6 発令!作戦コードはXXX!!

『アタリストに続け! ロングレンジからで寄せ付けるな!!』

『まったく、メガージったら何でこうあたしにそんな役を……』


 ――オール・フォートレスにて、メガージからの指示が飛んだ。アポロ・スパルタンを開幕と同時に投げつける事で、バグロイヤーは浮足だっており、エレクロイド部隊によって追い討ちを図ろうとしていた。ただ彼らの陣頭に君臨するベリーは、彼の命令に対して不服そうであり、


「大丈夫じゃあ。気兼ねなく撃ってもろーて構わんぜよ!!」

『いや、別にラルが危ないとかじゃないのは分かってるんだけど』

「そうそう、ちょっとやそっとでイッっちゃわないから♪ベッドの上なら別だけど」

『リズさん、今そういう話するのはやめましょうよ! ベリーも分かってるよね!?』


 それも敵陣へと切り込む相手がジーボストであり、屈指の巨体である彼を背後から援護するにあたって被弾を避ける事は無理に等しい。それを承知の上でラルは自分へ余計な心配は無用と豪語しているが、ベリーの不満は別の矛先にあった。リズの話が別の方向に逸れようとしている事も含め、パインが慌てて彼の話を遮っていたが、


『せめてあたしがリーダーならわかるけどさー、これじゃあ何のために』

『多分あんたはロングレンジ故前に出なくなったから』

『自分たちが後方で束ねたい~ってことですかね~メガージさん?』

『そこで私に振るのは……いや、そういう事だ』

『そういう事って、あたしにもっとわかる様に言ってよ!!む~』


 おそらくベリーとして、砲撃戦主体となった愛機故に後方で指揮官のように振舞いたい――彼女の願望が見え隠れしている事をミカとメローナは既に察しつつ、顔を見合わせながらメガージへ話を振る。彼として流石に直接指摘することが酷とみなしたか、あるいは言わなくても気づけとの姿勢からか、ベリーへは直接理由は告げなかった。彼女の性格故勝手に先行しかねない事は本人以外の周囲は既に気づいている筈だが、


『とにかく! ベリーはちゃんと狙ってよね! その為にいるんだから‼!』

『それくらい分かってって……もぅ!!』


 パインに諭されながら、フローラ・スナイパーで渋々自分の役目を果たそうとするベリーだが――隣のアタリストは、シューティング・シードスターからショットガンのように高出力のビームを放っていった。ウィンドルダーと連結させて高出力のビームライフルをショットガンとしての性格を持たせたが、


『もう酷いよ! あたしが頑張らないとって所でかっこつけて!!』

『カッコつけてって、ウチら最初からきめとったで?』

『……一体話か理解できませんが、私が計算しますと……』


 同じロングレンジでの支援砲撃だろうと、フルーティーがアタリストと肩を並べてはほぼ存在が食われる事はやむを得ないともいえた。それも含めてベリーが抗議していたものの、彼女の憤る理由をポルトガル代表はよくわかっていない。ただフレイアは戦闘時のさなかに計算を始めた後、


『……ベリーさんの話は96.5%の確率で無視して問題ない。そう出ています』

『せやかもしれへんが……パインはん、ベリーはんを宥めてくれまへんか?』

『……その話、絶対ベリーが怒ると思いますからね』


 フレイアの計算結果の方をアイラは信じる事にして、パインへ間を取り持ってもらうようと頼みかける。パインとして同期のくされ縁がこうもコケにされている事へ困惑があったものの、かの世たちの言い分もまた間違っていないと首を縦に振った。


『パイン、陣形が乱れているようだが……』

『すみません! D班は再度僕の方に集まって!!』

『パインはジーボストの後に続いてもらうからな……くれぐれも油断しないようにだ』


 ポルトガル代表との話に気を取られていたか、パイン機が隊列からはみ出、前線へと一歩踏み込もうとしていた。メガージから窘められて再度小隊を纏めるとともに、ジーボストに続いて前線へと向かう立ち場故に気を締めなおしていた頃、


「敵さんがゴールまでせめてこんのは有難いんじゃがのぉ」

「でも運動不足ってお肌に悪いんだから! 夜のあたしは狼なのにさ‼!」

「おんし、あまり肉は食わんかったとかじゃ……おっと」


 攻めの要となるジーボストは、ゼット・フォーミュラを後方から展開させ、ヘラクレス・ホーンを前方へと突き出し、角の起点かエネルギーフィールドを円盤状、ギロチンを展開させての突撃体制に入っていた。リズとラルとの間でコントの様なやり取りをかましていた所、バグアームズからのデリトロス・チャクラムが飛ぶものの――ビーム刃の出力はヘラクレス・ホーンが上回っており、軽々と消し炭と化しており、


「すまんのぉ、準備運動にならんようじゃて」

「これでさよならよ! こっちも急いでるんだしね!!」


 チャクラムを投げつけたバグアームズは、ジーボストの進路からすぐさま離脱を試みていた。ゼット・フォーミュラを展開して迄、一直線に突き進む彼とまともにぶつかった場合、バグアームズが粉々になる答えは明白、その為に右へと軌道を逸らしたが――アイブレッサーで足を止められた後、右手を素早く展開させてヘラクレス・フィンガンにより粉々に砕け散る結果となり、


「あら? ここでお会いするなんて奇遇ね~」

「奇遇も何も、敵さんがにげちょるかもしれんのぉ」


 武装軍団のバグアームズだけでなく、インスパイアー級を防衛せんとするバグロイドには、大気圏内で何度も屠ってきたバグファイターの姿もあった。地球を覆うフィールドが消失した事も含んで、大気圏内からバグロイドが撤退を開始しているのだとラルが薄々察し、


「マルチブル・コントロールをやれたとかじゃからのぉ、バグロイヤーが逃げるのも当然ぜよ」

「そうね~あぁ! あたしもイチ君とマルチブルしたいのに~」

「わしはキーパーじゃて? 地球というゴールを守るためぜよ!!」


 バグロイヤーの戦線が後退し続けている事も、玲也たちの活躍があってこそ――ラルはマルチブル・コントロールの会得を成し遂げたことも含めて、彼の成長を自分ごとのように喜んでもいる。リズとしては、アンドリューの後任としてオール・フォートレスへ出向した故、イチと会う機会が減ったことを嘆いていた様子だが、彼からすれば些細な事であり、


「けど、点を入れんとワシらが勝てんからのぉ!」

「逃げようとしたって無駄よ! フレイアが計算してくれたんだしねね!!」


 リズのうっ憤もこの戦いで晴らせばよいと、インスパイアー級目掛けてジーボストは猛スピードで進軍しつつあった。ゼット・フォーミュラによる一時的な推力の強化を活かす為、余計な進路変更は極力避ける必要がある。

 その為フレイアは前もって計算していた、インスパイアー級と確実に交える軌道で突撃を図るジーボストに対し、急速で逃れようとしてもジーボスト以上に巨体でもある艦なら避けきる事は猶更困難。ミサイルを何発か被弾しようとも、ジーボストの勢いは落ちる気配がなく、主砲を自分目掛けて見舞った時は、ヘラクレス・ホーンの角度を調整して、ビームバリアとして主砲を拡散させて威力を殺し、


「ギロチンでサクっと!」

「電次元ゴッドハンドもあるぜよ!!」


 主砲を拡散させる代償に、ヘラクレス・ホーンのギロチンの出力が一時的に落ちたものの――ジーボストからすれば微々たる問題に過ぎない。これもジーボストの切り札は電次元ゴッドハンド、クアンタム・フィストをバグソルジャーへと放ち、足止めした直後にジーボストの丸鋸が艦体へと食い込み、機体の姿勢が整うとともに両腕の電次元ゴッドハンドを叩きつけて艦そのものを沈黙させていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『すまんのぉ、思っていたよりハメを外してしまってのぉ』

『全く新入りが、遅刻して最後とは良い度胸だが』

『全くじゃあ。マーベルがそう叱るとはおもっちょらんかったが、良い事言うのぉ』

『よ、よい事……だと』


 ――ドラグーン・フォートレスのブリーフィング・ルームにて。各フォートレスをつなぐ3つのモニターはラルが到着した事でようやく空きが消えた。バグロイヤーを駆逐していた関係でブリーフィングに遅れた事を謝罪すれば、マーベルからは重役出勤のように揶揄われる。ただ彼はもっともな指摘だと踏まえつつも、彼女がまともな事を言う時もあると触れれば、彼女が逆に拍子抜けしたような顔を浮かべ、


「流石だぜラルさん、マーベルに言われたかねぇけどよ!!」

『貴様! どさくさに紛れて何を言って……』

「アンドリューさん、そこにいるちゅう事は……」


 ラルの肝が据わっている姿勢に、アンドリューは少し腹を抱えながらも賞賛したものの――彼がこの場に留まっている事へ、一瞬険しい表情を彼は浮かべた。けれどもアンドリューに同伴、それも席の中央に位置する彼と目配せをした後に、


『流石ぜよ! 玲也も負けちょれんのぉ!!』

「そうですね……俺がここまで来ましたから、ようやく」

「あぁ、玲也君もみんなもよくここまで戦いぬいてくれた。だからこそ」


 ラルとして、自分がとやかくアンドリューの覚悟へ意見する理由はないと見なした。それもあり遠回しに玲也へ彼の分まで戦う必要があると檄を飛ばし、玲也もそれに強く応えるとともに、エスニックが本題へと話を変えようとしており、


「七大将軍が既にいない今、最低限の戦力以外は……」

『オペレーションXXXトリプルエックスを発動させるのですね、将軍』

『あぁ。玲也君が考えた作戦でね。メガージ君やゼルガ君の意見も聞いて調整したいと思うけど……』


 カプリアが触れたとおり、エスニックはオペレーションXXXとの仮称でバグロイヤーへの総攻撃へ向けた作戦を展開に移そうとしていた。バグロイヤーの息の根を止めることが、ゲノムへ突入してスカルプの制圧および、天羽院らの打倒が必要不可欠。マリアによってドラグーン・フォートレスを改造し、電次元ジャンプに耐えうることにする必要があり、


「私として、玲也君とアンドリュー君、できる事ならシャル君も……だが」

『それで私たちにも話を振るとなれば』

『マーベルと私に援軍として来てほしいと……』

『ビャッコとフェニックスの事情もあるからね……くれぐれもよく考えて答えを出してくれないか』


 ゲノムへ突入するにあたり、玲也の存在はプレイヤーとしての技量、ハードウェーザーのスペックに加え、マルチブル・コントロールを会得した事で最大3機分の戦力を一人で同時に展開が可能となった。

だが、あくまで理論上でありワイズナー現象を発動させた際および、3機を同時に動かす玲也の負担を考慮に入れる必要性から、彼一人に戦力を依存する考えはリスクが高いとして、カプリアとマーベルへ、決戦に参加する必要性をエスニックは打診しており、


(アンドリューさんだけでなく、俺もどうなるかわからないだが……)


 エスニックが判断する以前に、玲也自身マルチブル・コントロールを完全に使いこなしているとはいいがたく、危険な賭けに自分が身を投じている事は分かっていた。それでもここまで来た現実と向き合うように、モニターを見据えながら、


(けれども、もう少し、もう少しで……父さん、あと少しだけ待ってください!)


 ただ本来の決着をつけるべき相手へと、自分が近いうち必ず訪れる事を誓って顔を上げる。幾多もの苦難を乗り越えながら、己の腕と心で得たマルチブル・コントロールと己の腕を信じた――それが、父を見つけ出すところまで既に手が届こうとしている自分を認める事になると言い聞かせながら。


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次回予告

「バグロイヤーの残存勢力を駆逐する最中、ついにドラグーン・フォートレスの改造が完了した。電次元への突入までのタイムリミットはあとわずかか、メルさん達がマルチブル・コントロール用のリミッターを完成させた今、俺はリミッターを装着して調整する必要があった。その相手役として立候補したのは何と才人だった!! 次回、ハードウェーザー「勝負だ才人! 誇りある友よ!!」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」

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