35-5 恐怖! ハイマット・オーロラ

「500人の内、ゲノムへの帰還希望者が119名」

「それに第2艦隊参加への志願者が61名との事です、司令」


 ――オークランド島にて、ビル率いる第2艦隊は避難民の受け入れの手続きを進めていた。バッツとバームスから提出された書類を受け取り、各々の内情へ目を通していく傍ら、


「思っていたより帰還希望者が少ないようだね」

「オークランドを起点に、電次元と地球との共存なり、新天地で生きる者なりと考えているようです。バームスさんの協力も大きいですね」

「いえいえ、ゲノムの皆さんが無事生き抜いてこられましたのも、バッツさんが上手く導いているからですよ」

「なるほど……」


 本来5隻の内、旗艦のフローレンス級を含む2隻をオークランド島へ回した事も、帰還希望者の数を想定しての事であった。実際の収容希望者が1隻で済むとの事に少し驚くものの、バッツから事情を説明されれば納得を示した。


「よし、直ぐに収容しよう。但しクルーへの志願者を最優先だ」

「ビルさん、希望者を優先するべきでは……」

「貴方のおっしゃりたい事もよくわかります。ですがこうも戦力が集中していますから」

「……無防備な状態を晒しているとなれば、万が一との事もですか」


 その上でビルはクルーへの参加志願者を最優先に収容するよう指示を下す。バームスが異議を唱えようとしていたものの、彼とバッツは互いに何時バグロイヤーが攻めてくるかを想定して理解を示したように顔を合わせる。

 そもそも、100名以上の収容者の身元を確認して収容させる事に多大な時間を費やす可能性もあり、ゲノムからの艦が既にオークランド島近辺へ集結している状況からバグロイヤーに狙われる危険性は十分にあった。


「わかりました、万が一がありましたら堪らないですからね」

「旗艦希望者……いえ、クルーへの参加者以外の方たちはシェルターに避難してください! 安全だと判断が下るまで勝手に出ないでください!」

「司令、後は私が引き継ぎます。貴方は艦へ戻られるよう」

「うむ……」


 すぐさまバッツは部下へ非常警戒信号の発令を命じさせた。サイレンが島全体へ鳴り響く中2機のハードウェーザーが既に電装されて警戒を張り続けていた。


『全く玲也の奴が来ないから、俺が代わりに出たんだけどよ……』

『ステファーはいやだぜ! こう暴れまわれないってなるとなぁ!!』

『だから、何そんな物騒な事言ってるんだよ……いや、こういう時に攻めてきて、返り討ちにしたら今度こそ俺が」



 玲也がアラート・ルームへの到着が遅れていた故か、既にユーストが代わりに電装されていた。この防衛を兼ねた警戒で前線へ出るものの、バグロイドが現れる保証がないこともあり、ステファーは不満を零している。好戦的な彼女へ突っ込みを入れつつも、シーンとして自分の存在感をアピールできるチャンスだと邪な事を考えていたものの、


『コラ、シーン! こんな所で不謹慎な事言ってるんじゃねぇ!!』

『ひぃっ! 俺じゃなくてステファーが先に言ったんだけど!!』

『うるせぇ、そう誰が言ったとか問題じゃねぇんだよ!!』

『そうそう、隊長がお前を叱るのも』

『半分運命だってあきらめたほうがいいぞー、なんせステファーは』

『おめぇらも、どさくさで余計な話をしてんじゃねぇ!!』


 同じく防衛にあたっていたアランからは、物騒な発言を早々に叱られてしまう。ステファーが言い出しっぺだと反発するシーンだが、彼の部下から突っ込まれる通り、ステファーよりシーンの方に彼の怒りの矛先は向いているのは一種のお約束である。部下から自分がシスコンだと揶揄われて、思わず怒号を飛ばしていたが、


『ったく、あんたって人は……シスコン拗らせてるから彼女がいないんじゃ』

『何か言ったか!?』

『ナンデモアリマセン、アランオニイサマ』

『わしらがいなかったら、もう当に来ちょったかもしれんがのぉ』


 ステファーではなく、自分ばかり辛く当たるアランへシーンが愚痴っていたものの、当の本人には猫をかぶるように従順な態度を取っていた。そんなシーンたちを穏やかに諭すような土佐弁が飛び、


『マリアが今、改造中だから出れないのわかってるでしょ? その電次元に向かうとかで』

『そうじゃ。ドラグーンが動けんから……キーパーとしてがっちり守らんといかんぜよ』


 リズとラルが触れる通り、マリアによってドラグーンの改造計画が発動していた。この改造が完了した時、艦ごとの電次元ジャンプが可能となり、ゲノムへとドラグーンは飛び立つ――バグロイヤーとの総本山へ殴り込むことを意味していたともいえる。その為の守りを固めようとユーストとジーボストが電装されており、


『しかし、玲也はどうしたんじゃのぉ……こう遅れるのもらしくないんじゃが』

『ラルさん、ここは主役の俺がいるんですから、来ないあいつのことを心配しても』

『あんたもノータリンだわぁ~ここをどこだと思ってるのよ』

『ジーボストよりクロストの方がむいちょるからのぉ……』


 ラルが指摘する通り、オークランドをバグロイヤーが攻めるならばオスマン海から攻めてくる可能性が高い。その為に水中戦に適したクロストがいれば心強いとラルは触れた所、


『けど、敵が攻めてこなきゃどうしようもないだろ!?』

『だからそんな物騒な事を言うのは……って!?』

『このパターンだと敵かよ! ひゃっはー!!』

『あんたって人も喜んでどうするんだよ! 将軍、反応ありましたので送ります!!』

ユーストが索敵として下半身のナッター・シーカーを飛ばしていた矢先、深海から強力なエネルギー反応を捉えていた。警戒態勢から戦闘態勢へとフェイズが移行することを意味しており、


『この流れでやっぱ出てきやがったか……面白ぇ!』

『油断をするなアラン、俺たちが空の要だと忘れるな』

『当然ですよ、おめぇら気を引き締めていくぞ!!』


 サザンクロス・バディを駆るアランが血気盛んに息巻いており、ステファーと同じ血を引いていた事も無理はなかった。そんな彼をラディが釘をさすように窘めながら、フラッグ隊もまたライトウェーザーともども、空の守りの要であると前線に出ており、


「い、急げ! 今は乗れるだけ乗れ!!」

「バームスさんも早く! 貴方が巻き込まれても意味がないですよ!」

「し、しかし……いえ、わかりました!」


 バグロイヤー接近を捉えた時点で、艦への収容もシェルターへの避難も完了したとは言えなかった。それでもなおジョブマンは事後に手続きを取らせて、先に収容させるべきと咄嗟に判断を下す。バッツもまた避難民だけでなく、バームスも避難させるよう促しており、躊躇している彼ながらも実戦慣れした人間の指示に従うべきだと今は判断して身を隠した。


『……やべぇ、ちょっと今までにない反応なんだけど!』

『ちょっとそれって、太くて固くて、大きくて長いとかなの!? 嫌になっちゃうんだから!』

『おんしが今、何心配しちょるかよお分からんがのぅ、気を引き締めないといかんぜよ!!』


 シーンが捉えたエネルギーの総量は、ジーボストを上回るものである。リズは何を感じ取っているかはともかく、ラルは何時ものように落ち着いて構えていながらも、心の内では気を引き締めなおした。

 そして実際感知されたエネルギーの質量に押し出されるように、オスマン海に波が揺らぐ。島の表土が微かに波へ飲まれ――そして解き放たれた光からは群青色の巨体が出現する。カブトガニを模した円盤状の表面に、ヤドカリのような頭部を兼ね備えている。さらに巨大な鉈を備えた2本の腕を突き出しており、


『いやぁ! もう本当に太くて大きくて長いんだからぁ!!』

『流石に太いのぉ……これは、久しぶりにワシも負けたかのぉ!』

『ちょっと、出てきて早々縁起が悪いこと言わないでくださいよ!!』


 実際ジーボストもまるで見劣りうる程の巨体を目の前のバグロイドは誇っていた。彼に追随するよう上空にはバグガナー、バグフォワードが次々と電装され、洋上にはバグダイバーらしき影も捉えており、


『……いくわね』

『私がこうゲノムの人間に……やむを得ない』


 カブトガニを模したバグロイド“バグポセイドン”へは深海将軍その人――グナートがコクピットで構えている。通信越しにジェルノからは惨い戦いに身を投じようとしている彼を案じつつも、彼の決意が揺るがないとなれば後押しする事も躊躇わない。そしてすかさず胴体から展開した砲門からオークランドへとさく裂する。島に住むゲノムの人間を巻き込む事へ一抹の葛藤を振り払いながら。


『な、なぜこうも大きく、壊せないんですか!』

『だったら張り付いてもだよ!!』

『た、隊長!? い一体何を』


 弾頭に向けてサザンクロス・バディが立て続けにミサイルを放つ――直撃の筈だが――弾頭は爆発に巻き込まれようとも砕け散る気配を見せない。戸惑うトオルをよそに、アランはスナイパーライフルを僚機へと託し、


『こいつを囮に、俺も狙うんかよ! ざけんじゃねぇ!!』

『二人はあのバグロイドを撃て……あれさえなければ!』


 少し強引に弾頭すれすれまでサザンクロス・バディで密着しようと食らいつくが、一方的にバグガナーがレールガンを撃ちだしていく。一方的にアラン機が狙われようとしていると。ラディが直ぐ2機にバグガナーの相手をさせるよう命じた。


『アラン、焦ってことをし損知るな! 慎重にな!!』

『わかってますよ! これでどうだと……何』


 その上でラディはアランへ血気に逸るなと釘を刺しつつ、自分はバグフォースの懐へもぐりこみ、サブアームからのセイバーを胸倉へと突き刺して一矢報いる。アランも負けじと、弾頭目掛けて右足のガーディ・スライサーで弾丸を真っ二つにしたが――爆発は生じなかった。


『なんだこれは……いう事を聞かねぇ!!』

『た、隊長! このままですと……』

『俺に構うんじゃねぇ! お前らまで死ぬぞ!!』

『りょ、了解……!!』


 代わりとして噴出された冷凍ガスは切り付けたスライサーの刃から、瞬く間に右足が蝕まれるように凍結していく、隊長機が凍結していく危機に部下たちが動揺を見せかけたものの、窮地に追いやられようともアランは迎撃へ専念せよと檄を飛ばす。


『アラにい死ぬんじゃねぇ! アラにい!!』

『馬鹿野郎! ステファーも持ち場から離れるんじゃねぇ!!』

『い、いやアランさん、シーカーで足を切り落とす事ぐらい……』

『それを早くいえよ! 高度を下げるからついてこい!!』

『なんか俺だけ怒られた気がするけど……はい!』


 ただ、ユーストからナッター・シーカーがサザンクロス・バディへと近寄りつつあった。患部ともいえる右足を切り落とすことができれば、戦闘を継続することは可能とアランは捉えていた。もっとも接触すれば僚機への被害が及ぶことを想定し、無人のシーカーによる破壊作業へと回す手をユーストは取り、


『ここは俺が何とかする、早く済ませてほしいが……』

『すみません、けどちょっとやそっとじゃ砕けませんぜ!』

『あの冷凍弾には……溶かせるかもしれんな』

『ラディ隊長……いえ、援護に回ります!』


 アランに代わるよう、ラディはすかさずバグポセイドンへと距離を狭めるよう、切り込んでいく。彼が取る決死の行動にルリーは一瞬戸惑うものの、止めるよりも援護に回ろうと追随ことを選ぶ。バグガナーから繰り出される弾頭をルリー機が迎撃するとともに、スパイラル・シーズは射出された青白い弾丸に狙いを定めて機首からの業火をさく裂させていく。


『火に弱いようだな……このまま報いることができたら……!?』


 ライトウェーザーのミサイルやビーム兵器を前に、弾丸はびくともしないように見えたがガーディ・ファイヤーにあぶられていくとともに固体から気体へと昇華されていく。バグポセイドンの攻撃から攻略の糸口を見出したラディは、一斉にミサイルをバグポセイドンの本体へと浴びせて反撃に出るが――その直前に展開された青白い壁に弾丸が遮られてしまう。バリアーが展開したようなものであり、


『ぐっ……』

『ラディ隊長……!!』


 水晶のようにバリアーを展開して身を守る傍ら、ヤドカリのような頭部からは藍色の球体が浮上する。射出速度が控えめであったものの、バリアーを貫通するように展開した光弾の存在はラディの不意を突くには十分だった。右翼を掠めてスパイラル・シーズの制御が不安定になったとともに、ルリーが思わず叫べば、


『んもぅ、小さい子におイタしちゃ、メッなんだから‼!』

『そうじゃのぉ、敵さんからすればワシらもチビかもしれんがのぉ!!』


 バグポセイドンの注意をそらすように、すかさずジーボストはヘラクレスホーンからのランチャーを見舞っていく。高出力のビーム兵器だろうと、多少バリアーの表面が揺らいだ程度の損害しか与えることはできない。けれども海上を進軍しながら敵陣の真っただ中でジーボストが変形を始めており、


『あのハードウェーザー……あんな無防備な事を』

『気をつけろ、確か電次元兵器を使う相手だから……』

『するとハイマット・フィールドでも耐え切れないと……』

『その為のバグネプチューンだ。ハイマット・ボールも頼む』


 ジーボストが第3世代として電次元兵器を持つハードウェーザーであると、グナートは警戒を怠ろうとはしなかった。電次元ゴッドハンドで強引に展開したハイマット・フィールドのバリアーを突破して一撃をお見舞いするのだと捉え、探りを入れるためにハイマット・ボールの発動をレズンへ命じた――バグポセイドンの頭部として合体したバグネプチューンの鶏冠から、球状のエネルギー兵器でもあるハイマット・ボールをさく裂させ、


『あのバグロイド目掛けて撃つんだ! くれぐれもジーボストに当てるな!!』

『んもぉ、もう少しで変形が終わるから悪いわね』

『あとちっとの辛抱じゃ、すぐ点を取りに行くぜよ!!』


 そしてビルからの指示で、フローレンス級ら艦隊の砲撃が繰り出されていく。それもジーボストの変形が完了するまでの時間を稼ぐ為である。彼ら艦隊の助けを借りている現状を少し申し訳なく思うリズだが、ジーボストは海原を背にして、背中を浸しながら全身の変形を終えたばかりであった。そして、


『ゼット・フォーミュラじゃあ! 速攻ぜよ!!』


 ジーボストの狙いこそゼット・フォーミュラを展開させる事だ。その巨体故に鈍重である弱点を取っ払う起死回生の一手であり、バックパックに設けられたアメンボ・シーカーの足が放射状に回転しながら巨大なファンとしてジーボストの全身を直立させていく。

 同時に着弾しようとしていたセイリング・ボール目掛けて、ヘラクレスホーンが禍々しい青の光をかき消していく。角の先端から丸鋸状にビーム刃を生成させたバズソーとして、熱量で強引に引き裂いており、


『本当、一気に詰めていくみたいね……』

『ハイマット・ブラストだ! 通じなくても構わない!!』


 一時ハイマット・フィールドを解除させ、中心の砲門から冷凍弾“ハイマット・ブラスト”を連射していく。自分より小柄だろうともハードウェーザーで最大級のサイズを誇るジーボストの場合、例え高速で移動していようとも、命中させる事へのハードルは決して高くない。実際ジーボストは簡単に被弾しており――それどころか避けようとする気配がなく、


『ちょ……なんでそれ食らって無事で』

『あら、今凄い速さで動いてるんだから! その熱量もすごいことになってるわよ!!』

『ジーボストは大喰らいじゃからのぉ、熱後からも馬鹿にできんぜよ!』


 ゼット・フォーミュラの副産物として、ジーボストの全身が赤熱化して強力な熱を発していた――直撃したハイマット・ブラストの威力を殺すには十分な熱量であり、間合いを詰めると同時に右手のクアンタム・フィストを射出する。巨大な質量の拳が自分目掛けて飛ぶとなれば、再度バグポセイドンはハイマット・フィールドを展開。接触した右手が強力な冷気に当てられて凍結していき、


『美しいガラス細工……なんて悠長なこと言ってる場合じゃないわね!』

『美しうても、脆ければ話にならんからのぉ! 一気に攻めるんじゃ!!』


 ハイマット・フィールドが相手の攻撃から身を守るだけでなく、触れた相手を凍結させる代物――右手を敢えて飛ばしてバリアーの性質をラルは把握し、そのバリアーだろうと受け止められないであろう切り札で息の根を止める判断を下し、


『電次元ゴッドハンドじゃあ……!!』


 ジーボストの右手首から、巨大な光の拳が生成され、強力な拳骨としてバグポセイドンの前面目掛け殴りつける――ハイマット・フィールドの冷気で氷漬けへ至ることはなく、逆に電次元兵器の熱量で、バリアーがかき消されて、表面の装甲を熱で潰す手ごたえを感じ、


『嘘、いい感じみたい! もう一発行けそうだけど!?』

『こうも図体がでかい敵さんとなればのぉ……無茶も承知で……!!』

『まって、何か反応がきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 巨体のバグポセイドンを潰すにあたり、もう一撃をお見舞いする必要がある――ラルがそのように判断してもう一撃を叩きこもうとした瞬間だ。首元に仕込まれた砲門が七色の光をジーボストへとぶちまけていき、


『ジーボストが……倒れた!?』

『こんなことってマジかよ、ちょっとラルさん、リズさん!?』


 胸部への直撃を受け、ジーボストは胸部から頭部、および両肩へと氷結をしつつあった。胸部に冷気が真っ先に襲い掛かる故、既にセーフシャッターが展開される状況へと追い込まれていた――ステファーとシーンが動揺するとおり、目の前でジーボストが倒れる事があり得ない状況だが、


『ま、まだお陀仏じゃないわ……って流石に洒落にならないけど』

『直撃したらしまいかもしれんのぉ……手ごたえはあったんじゃが!』

『行くぜシーン、あのバリアーも消えたんだからなぁ!』

『言われなくてもわかって……って!?』


 ゼット・フォーミュラを機動力ではなく、全身の熱量を限界まで上昇させていく術へ応用する事で、ジーボスト自体凍結をどうにか防ごうとしていた。それが故に身動きが取れない状況でもあり、海原へと身を潜めて身を守ろうとしている。

彼にとって代わるようユーストが電次元ゴッドハンドを見舞った箇所へ向かおうとしていた。パルサー・キャノンで被弾箇所に狙いを定めようとしたが、


『おいシーン! こんな時に何素っ頓狂な!!』

『だ、だってよ……修復が始まってるからよ!!』

『修復が……って一人でにできるの!?』

『電次元兵器でも、倒し切らんと意味がない……難儀じゃのぉ』


 ナッター・シーカーで捉えたバグポセイドンの様子は、電次元ゴッドハンドでの被弾箇所へ、急速にパテらしき白い固体が生成され、まるで瘡蓋のように箇所を覆った後に本来の装甲へと復元していく。ナノマシンを宿しているようなバグポセイドンの性能は、電次元兵器だろうとも無力であると証明していたかのようであり、


『こうデカイだけでいい気になるな……!!』


 少し恍惚した表情でグナートはコクピットで己の力に酔いしれている。彼の今を知る訳ではないが、コイは怒号を露わにしてウィストで一気に切り込みをかける。アイブレッサー、カイザー・ソードガン、そしてカイザー・フレイム。13の射出口から一斉にエネルギーを炸裂させるサーミック・フォーメーションがバグポセイドンへ直撃させると、


『こう一気に畳みかけたら……えぇ!?』

『まだ生きている……!?』


 煙に包まれながらも未だバグポセイドンは健在。そういわんばかりに、両腕のセイル・ブレイカーを駆使しウィストを串刺しにせんとアームを動かす。サンが咄嗟に判断した上で電次元ジャンプを発動させる。仮に判断が遅れていた場合、ウィストがその巨大な刃に貫かれる可能性も十分にあった。


『だからハイマット・オーロラを見くびるなと……』

『これがある限りバグポセイドンはね……例え私がどうなろうともね』

『誇りは力だと貴方は言ったが……』


 ジェルノの一途な想いへ、グナートは複雑めいた心境を示していたが、それでも誇りある己が力を振るわなければならないと専念する。その為ライムグリーンの艦――微力だろうとも抵抗を続けるフローレンス級へ照準を定めた上でデリトロス・レールガンを牽制としてはなったのちに、


『力は誇り、それこそ私が選んだ道ですよ、ビル・ファルコ司令!!』

『ビル・ファルコ司令……その声は、まさか』

『こう私をさせたのは貴方の責任もありますよ、父さん……!!』


 目の前で立ちはだかっているバグロイドのパイロットが何者か、今ビル・ファルコは察してしまっていた。そして目の前の相手は自分が力を渇望する人間へ追い込んでいった相手であると憎悪で目を光らせていた。断ち切ろうとも断ち切れない親子の情けをこの手で断ち切らんと――グナートが目の前の艦へとサイマット・オーロラを射出した瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る