35-4 猛獣軍団の逆襲、たった一人の反逆

『つまり皇帝は既に偽物に置き換えられて』

『武装将軍は、それで天羽院って人に殺されたってことなのね』

「はい! 既にバグロイヤーは天羽院に牛耳られていることを暴露しますと」

「バグロイヤーからの投降、造反者も後を絶ちません」


 ――ゲノム解放軍はクラークを制圧し、次なる目標としてケーチェイスへの進軍を目指していた。ケーチェイスを経てバグロイヤーの総本山のスカルプへと王手をかけることとなり、その為に再度解放軍は軍備を整えつつあった。

 そのさ中で奪回したクラークの軍事基地から、オール・フォートレスへとケインたちは通信を交わしていた。メガージとミカはゲノムの地で、既にバグロイヤーが天羽院の軍団と化している事を知らされて、少なからず目を丸くしていたが、


『なるほどね……こちらもようやく地球との通信が回復してね』

『猛獣将軍は討ったとの情報が届いた……既に半数以上が壊滅だ』

「半数以上ね……その猛獣将軍がまだ若く、血気盛んとの事で」

「何らか死を急ぐ事が起こったと……」


 逆にメガージとミカは、太陽系の近況を説明するにあたり、猛獣将軍が斃れたとキースは知らされる。少し思い当たる節があるような顔をしたのち、

「まさかと思いますが、アオイという人物が投降したから」

『何かちょっと、裏切り者が出たような言い方だけど』

「彼女のおかげで、天羽院の事がわかりましたからね……」

『既にこの話が届いているとなれば……レーブンの事だ。直ぐに汚名を返上しようと』


 メガージが触れる通り、レーブンは父に認められないコンプレックスに加え、スパイ容疑をかけられた事で背水の陣に追いやられ、自ら死に急ぐ結果となった。まだ若い彼女が功を焦った事に対し、メガージはもともとは同じ側の人間だとして少し複雑な心境になるものの、


「もう七大将軍は鋼鉄、深海だけですかね……この情報が」


 七大将軍の半数以上が斃れたとなれば、自分たちが優勢であると捉えようとした矢先だ、モニター近辺のブザーが鳴り響き、サブモニターには機密として入室制限がかけられていた部屋へと、警告のメッセージが表示される――何者かが侵入をしつつあるのだと、


「サーバールーム……まさか、バグロイヤーの人間が!?」

「我々でしたら、入室用のコード請求がすぐ……となりますと」

「俺が見てくる! 通信の方は引き続き頼むよ!!」


 サーバールームには、自分たち解放軍のデータがバックアップで保存されており――もしこれらの秘密がバグロイヤーの手に渡れば、自分たちが窮地に追いやられる事も十分にあり得た。さらにこのブリッジ近辺の扉越しから、サーバールームへと侵入が推測されているに違いない。キースはサーバールームへと距離を詰めようとした所、


「こうもコードが発行されないとなれば……あまり考えたくはないけど……」


 キースの脳裏には、バグロイヤーからの投降者に疑いをかけざるを得ないと懸念が頭を持とうとしていた。解放軍として正規の一員として登録が間に合っていないためでもあり、


「人が……大丈夫ですか、しっかり!!」


 実際解放軍の中で凶事が起こってしまったと認めざるを得なくなった――これもサーバールームを管理する二人の隊員がうつ伏せとなって血を流したまま。さらに一人の女性が倒れていた事から、慌ててキースは彼らを抱え起こそうとしたものの、


「……うっ!!」


 女性を抱え起こそうとしたキースは、背後への注意が散漫となっていた。その為に反応が遅れ背中へ鋭い刃物が脊髄へとめり込む激痛を味わうこととなった、恐る恐る振り向いてみた途端、


「貴方は確か、こうも降ったはずが……うあっ!!」


 自分たちへと重要な機密を提供しながらも、彼女が突如自分に手をかけたことをキースは理解ができないまま――さらに、倒れたはずの女性もすぐ息を吹き返したように、腹へとドスを突いていく、


「ゼルガ様、それに……兄さん」


 逆転したかのようにキースが果てて、地にうつぶせ――逆に先程の女性は呼応するように下手人となる彼女へと顔を剥き、


「これでいい……レーブン様が殺されたとなれば何もかも遅い」

「ですがアオイ様、その……」

「私たちがバグロイヤーの機密を渡したとなればな……許されるはずがないが」


 天羽院とバグロイヤーの関係をリークするとともに、解放軍へとアオイは降ったかのように見えたが、あくまでレーブンへ仕える身として、天羽院の為と知らずバグロイヤーの軍人として従っている現状に危惧を覚えたための行動でもあった。本来彼女とハインツをバグロイヤーから引き離そうと動いていたもののだ、逆にスパイ容疑を彼らにかける事となってしまい、


「私がレーブン様を殺したようなものだ、それでいて……」

「私たちだけが生き残ることは許されないですね」

「そうだ、これで許されるとは思わないが……」

「キースさん……キースさんがまさか!!」


 アオイ達として、解放軍の人間として自分たちが勝者となる流れを良しとしなかった。そのさ中この現場をキースの部下に目撃され、すかさず通信基地へと警報が鳴り響く。その為彼女は直ぐにその場から逃げ出すことを選び、


「このまま戦っても、この場で生き延びられる保証がないですから」

「同じ死を待つなら、バグロイヤーの、ハインツの元で裁かれるほうがマシだ……!!」


 アオイ達は解放軍からの逃亡を開始した。本来救うべき相手を逆に死へ追いやった責任を取るため、あえて一度自分たちに手を差し伸べた相手に対し、手を噛む行為に出たのだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……キース達がやられたのは、本当か」

「……弟も万が一の事態は想定していた筈ですが、まさかあの女がこうも突然に」

「……キースの責任ではないのだよ。私もアオイ君の真意まで見抜くことが出来なかった事に問題があるのだよ」


 ――ケインが果てた凶報は、ゼルガの耳へと届いた。実兄のケインが顔を俯かせたまま、やりきれない表情でうつ向いたまま。悔やむ彼へゼルガは慰めの言葉をかけ、


「ケイン達を簡単に仕留める程の腕ながら、こうも証拠を残すには理由がある筈だよ……私にもつかみかねるのだけど」

「ゼルガ様、あの女を追う必要はありますか、追うのでしたら私が!」

「いや、その必要はないのだよ、追わせるとしても優先順位は低いのだよ」

「一体どのような考えがあってでしょうか……」


 少し諦めの色もゼルガの表情からは現れており、その上で本来の目的を優先する必要があるとキースを思いとどまらせる。念のためユカとして彼の胸の内を尋ねると、


「これ以上レーブンに戦わせたくないとの理由で、私たちの元へ投降した……彼女の口ぶりを思い出しての推測だよ」


 アオイとして、あくまでハインツやレーブンの為を案じた上で自分たちの力を借りて、戦いを避けようとしたのだとゼルガは推測する。

 だが現実は彼女の願いを見事に裏切った。自分が投降した真意を彼らが把握される前に、レーブンは電装マシン戦隊との戦いを前に倒れたとなれば、もう彼ら親子が愚かな戦いから抜け出せないとなれば彼女として、解放軍に身を置く理由がなくなってしまったのだと。


「もうアオイ君がここに踏みとどまる理由がない、だからあぁも敢えて証拠を消さなかったのだよ」

「つまり私たちの敵としてまた現れる事も……」

「考えたくはないが、そう考えないといけない時もあるのだよ」


 忠義を重んじる相手の為に、アオイは組織を平然と敵に回すことが出来る個人でもある。個人への忠義を貫くために、自ら平気で恩を仇で返すことも、手を汚すこともいとわない。アオイがレーブンに対しての忠義を胸の内で評していたものの、


「だが、仮にバグロイヤーとして現れるのなら、その時は躊躇する訳にはいかないのだよ……」

「それでこそ……キースも救われるのではと思います」

「すまないのだよ、復讐に兵を割く余裕はないけれど、仮に対峙するのなら君がアオイを殺めても構わないのだよ」

「……はっ」


 ゼルガの中で、アオイに対する温情を断ち切った瞬間だった。あくまでケーチェイスへ進軍することを最優先としている上で、個人の復讐を優先させる訳にはいかなかった。総力を挙げての激突で、個人の復讐を成し遂げる事を容認する事で、キースの無念を払拭させる事にした。


「……素晴らしくもあるが辛いのだよ。私も殺めないといけない理由が出来てしまうとね」

「……ゼルガ様」

「信念を貫こうとするのは、綺麗ごとではない。改めて思い知らされるのだよ……」


 アオイの信念が一途で認めるものだろうとも、互いが相互理解をしたうえで手を取り合う事はない。平行線に帰結する宿命を考えるや否や、憂いの漂う顔つきで苦笑いを浮かべる所、


『ゼルガ君、実現までに目途が立った』

「……秀斗さん、少し考え事をしていましたが大丈夫ですよ」

『DIGウェーブの発射を間に合わすことが出来れば……電装マシン戦隊は確実に勝つ。マリア君の設計もあっての事だが』

「それは心強い……となれば、クラークに指一本触れさせることは出来ないですね」


 クラークを支配下に置いた中で、秀斗達もまた奥の手を用意しつつあった。クラークの地下にてウェーブの発振装置が存在するとなれば、バグロイヤーへクラークを奪われる訳にはいかない。


『その為にも俺はスカルプへ向かう、無論人知れずでな』

「秀斗様、また一人で行かれるのですか? それもスカルプは……」

『無論、バグロイヤーの喉元に向かうのは無茶も良い所だが……喉元にそう簡単に俺が飛び込むとは中々気づかないだろう』


 秀斗として自ら囮の役目を果たそうとスカルプに向かう事を狙っていた。敵の総本山にたった一人で潜り込むことは無謀にも程があると、ユカですら流石に案じるものの、


「貴方は天羽院が真っ先に狙われている……その為に打った手ですね」

『あの男は、あくまで俺への仕返しの為に、バグロイヤーを旗揚げして、皇帝まで殺して実権を掌握する。そこまでして俺に仕返しをしたいとは……』

「本当、箍が外れたような方ですね……」


 あくまで天羽院の行動動機は、自分に並みならぬ恨みを抱いていた事に起因して今に至っている――自分一人へ報復する為に、バグロイヤーを旗揚げして、ゲノムを巻き込む戦乱を引き起こしている天羽院にユカですら恐れおののいているが、


『俺もあの男と同類かもしれん。俺も信念の為にどれだけ危ない道を歩んでいるか分からん』

「秀斗さん、貴方が自分を卑下してどうするのです。玲也の事も考えた上で打った手の筈ですよね?」

『……それはそうだ。もし俺もこの戦乱を玲也の為に利用しているのなら、落とし前はつけなければな』

「……それもまた信念」


 敢えて単身で死地に赴く秀斗は、それ相応の信念を背負って動いているに過ぎない。そのような彼の生き方を少し苦笑しながらも、ゼルガ自身また同じであると静かな笑みをこぼしていた。

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