35-6 涙のエクス・ファルコ、深海将軍は私の兄!

――北極海の一角となる、チュチク海。そしてシベリア海との境目に存在するウランゲリ島へ陣取る形で弾丸が飛び、すかさずに直線状の紫電も海上へと飛んだ。立て続けの砲撃を放つ重厚な機体は、師走に差し掛かろうとする北の海に揺さぶられる事もなく、その巨体を誇示しており、


『ロクな抵抗もないとなれば、もはや七大将軍に兵なしだな!』

『当然じゃないですか! マーベル隊長が直々に攻めかかったとなりましたら、相手が誰だろうと逃げるのがお約束でして、敵が慄けば味方も慄くダブルストと人は言いまして……』


 その機体の乗り手は4人、言うまでもない自信家の隊長はマーベル、そして半ば太鼓持ちのようなポジションに君臨する部下こそルミカ。そして、ドイツ代表のダブルストが遠方からの砲撃で畳みかけていたが、


「相変わらず、あんた達の自信はどこから来るかだけどな!」

「まま、バン君も自信持ちなよ、俺たちがこう前に出てるんだしな」

「誰が自信を持ってないといったんだ! 誰がよっ!」

「ほら、言ってる傍から足元にいるからね」


 相変わらず自信満々の彼女たちへと、バンが呆れたように突っ込むのだが、ムウの言う通り自分たちザービストが最前線で立ち回っていた。バグダイバーが足元目掛けてクローを伸ばそうとしていると気づけば、重力管制システムで軽く飛び上がり、バズーガンを脳天目掛けてぶちかましていく。水中での抵抗を前にして、リニアッグにより高速で射出された弾丸は貫通させるには十分な威力であり、


「っと、こう足元からちまちま狙ってくるとはよ!」

「上からも攻めてくるんだけどね、こうハードなほうが面白いんだけど! 」


 ザービストはバグダイバーだけでなく、空中のバグフォワード、バグガナーら鋼鉄軍団の面々からも狙われる囮役となっていた。バグガナーのキャノンやレールガンをも避け続け、バズーガンを引き続き撃ち続けるザービストだが、空を飛ぶには不十分で、深海での行動に適していない点から、分が悪い状況でもあり、


『私たちがいる事も忘れないでくださいねー』

『こういう無双する役どころですと、勿論私たち以外に適任がいませんし、活躍できるチャンスじゃないですか! ハイリスク……いえいえローリスクハイリターンといいまして……』

「相変わらずお前はうるさいんだよ! 少しは手を動かせ!!」


 ザービストの窮地を救うように、ダブルゴーストが最前線へと飛び込んでいく。アズマリア機がブレーネルでの狙撃として、ダブルストを足場として砲撃を続ける傍ら、ルミカ機はザービストが対応しきれていない空中のバグロイドを蹴散らす側へ回っていた。リュッケン・メッサーによって宙へ飛ぶとともに、アングラ・クローでバグフォワードを相手にその拳をめり込ませていく。囮となるザービストを食うような活躍を披露しているようで、彼女が鼻を高くしている様子へも、バンは辟易した様子で愚痴れば、


「まま、あそこまで前向きだとある意味楽だけど……俺らと違って直接じゃないからかな」

『直接ではない……ムウさん、一体それはどういう意味で、まさか私たちが遠隔ですから楽をしているとでも、私への侮辱はマーベル隊長への……』

「悪いけど、俺ら忙しいからね……大穴を狙わないと勝てないってね」


 最も空中のバグロイドだろうと、飛行能力を封じれば互角以上の戦いへは持ち込めていた。バズーガンを受けて墜落し、やむを得ずバグガナーが地上で砲撃に当たれば――重力管制システムを活かした彼の蹴りを受け止められるはずはない。さらにジャンバードを懐へと突き刺して引導を渡し、


「これで最後の弾だからね、ティンプラードかな」

「当たり前だ! 雑魚ばかりで歯ごたえがないからな!」


 そしてバズーガンを撃ちつくしたとなれば、素早く左腕からバズーカ砲をパージさせリニアッグの電磁波を真上のカーゴ・シーカー目掛けて照射すると――コンテナのハッチが開くとともに、ティンプラードの鉄球がザービストへ誘導されるよう、あらわとなり、


「的がでかいからな、これでぶちかましてやるよ……!!」


 すかさずティンプラードを青白い四本足のバグロイド目掛けて振るいだす――ザービストとして切り札でもある鉄球をワンオフタイプのバグロイドへ打ち付けたように見えたが、


『そうデカい奴ぶつけられたら痛いけどなぁ!!』


 間一髪、姿勢を変えて左足でティンプラードの球をえぐる様にして掴みにかかった。その前足のクローから射出されるビーム刃に鉄球はめった刺しにされて、零れ落ちるようにして破片が落ちていく、まるでザービストの攻撃を物ともしていない様子であり、


『やっぱりここは私が動かないといけませんかね! アングラ・クローでしたらティンプラード以上のですから、直接乗っていないからこんな無茶が……』

『ハイマット・オーロラなんだよ!!』


 先ほどのムウの言葉を根に持っていたのか、彼に代わるようにルミカ機がアングラ・クローを手に切り込みをかけていく。右手のクローが電磁波を帯びながら高速で回転し、相手の装甲をえぐろうとしていたものの――相手の開いた口からは水色の光線が、バグポセイドンと同名の武器をぶちかましており、


『おっと、そう簡単に私のゴーストが貴方にやられるとも……あれ、何か急に動きが遅くなってますが、そのあれ、えぇとまさか……』

『そう闇雲構わず突っ込むからなんだよ!!』


 ルミカの自信に反して、オーロラを真っ向から受けるゴースト2はアングラ・クローの回転が鈍るとともに、徐々に凍てつき、氷細工のように凍結するまで時間はかからなかった。バグフォワードが振り下ろすデリトロス・ベールへなすすべもなく、抵抗もできず真っ二つに砕かれる形で退場となり、


『グナートから別動隊を任されるとは思わなかったけどよ……ま、トループとかとは大違いだな』


 グナートから北極海から別動隊を率いる事を命じられ、電装マシン戦隊の戦力を二分させる役回りを担うのがマクロードだ。少し予想外であったと零すものの、トループと違い自分の腕を見込んだ上の依頼であるとなれば別に責める必要もない。どこか嬉し気な顔を見せるとともに、


『まぁ、一度死んだ身だし……あいつもそのつもりだから、俺もなぁ!!』

「おっと、こちらから来ますか……どうするの、バン君」


 グナートがまた死を覚悟して前線へ出ている事を踏まえ、自分もまたもう一度授かった命をこのために捨てる覚悟はあった。その決意とともにバグリフォン・バーサクとして新たに手を加え、ハイマット・オーロラを放つ能力も備えられていた。ゴースト2に続いてザービストへ狙いを定め、高度を下げていくが、


「ギリギリまで逃げきってからな、隙をついてとどめかな!」


 ザービストはスピードがウリである事から、迫るバグリフォンだろうと極限まで逃げ切ってからの逆転に勝機があると見出していた。実際海上をホバーで疾走しながら左のジャッジメント・スクリューによる一撃で引導を渡すタイミングをうかがっており、

 

「おっと、隙を突くってなら左手が……」

「リニアッグだけでも出来るかもって奴か! 生憎時間がないから……!!」


 ムウからリニアッグの電磁波でバグリフォンの動きを封じ、その隙でジャッジメント・スクリューの一撃を見舞おうとした。燃費が悪いザービストとして、短期決戦に持ち込むことが望ましい――左手首を折り曲げるとともに、リニアッグの電磁波を浴びせようと照準を定めたが、


『っと、後ろが疎かになってたかな、敵さんよぉ!』


 突如ザービストが両足を切断される形で、姿勢を崩して海原へと身を沈める結果となった。マクロードが嘲笑するが、それもザービストの後方へと軌道を描いて光輪を飛ばしていた為。デリトロス・チャクラムがザービストの動きを封じるとともに、腰のハードポイントへ装着され、


『バン君、ムウ君、大丈夫!? ぶ、無事なら返事でも』

「こんなことでくたばる訳ないだろ!!」

「まま、そうかもしれないけど……流石にこれは」

『一度死んでみる恐怖を味わえよ、なぁ……!!』


 両足を切断されようとも、ザービストのコクピットまでに被害は及んでいなかった。ガンボットからの心配を他所にバンは自分が健在だと悪態をついているものの、ムウが指摘する通り強がるには少なからず無理がある状況でもあった。そして実際足を潰されたザービストへ向けて、バグリフォンがハイマット・ブラストを浴びせにかかっていた。

 

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「お父様の艦に指一本触れさせませんわよ!!」

『まさか……エクスか!』


 ――ハイマット・オーロラは何者かの力によって弾かれた。展開された光の壁をフローレンス級の前方へと展開する形で傷一つ付けることなく踏みとどまった。このマリンブルーのカラーリングと共に海面へそのキャタピラを浸す――このハードウェーザーの姿をビルが忘れる事はなく


「ラルさん……ジーボストでもそこまで追い込まれるとは……」

『なんじゃあ、首の皮一枚は繋がっちょる! 流石にわしもちと厳しいかのぉ!!』

「でしたら、任されますよ! この勝負絶対に勝ちまして……」

『……ダメじゃないか、エクス』


 ジーボストはビートル形態に変形して、被弾箇所を少しでも隠そうと対処していた。そこまで彼を追い込むバグポセイドンを前にして、玲也とエクス共々万全の態勢で迎え撃つ決意を見せつけた所、彼女を呼びかける声がした。


「何を軽々しく呼ばれまして!? 貴方は私からして敵以外でも何も……」

『そうだね、8年前に私の未来を奪ったなら、敵以外の何物でもないって事でいいよね』

「は、8年前……何、何の事かしら……」


 エクスを飼いならした子猫のようにあやすグナートの声は、当の本人からすれば最初首をかしげるものであった――8年前の過去を彼が触れた時までは。すると彼女の声のトーンが微かに代わった様子で、


『宇宙服の実験に、エクスが来たから、エクスを守ろうとした結果私は……』

『ま、まさか……』

『放射能で汚染されて軍人の道を閉ざされた。それなのに君が私の代わりに勤めを果たそうとか言いだして……』

「エクス! やはりあのバグロイドには!!」


 グナートが延々と過去を語りだしていくにつれ、ビルが思わずブリッジで立ち上がって微かに狼狽えを見せる。

 第2艦隊の司令の彼がどうにか冷静さを保とうとしながらも、完全に戸惑いを隠しきれないのであり、玲也が思わず真実を確かめようとして振り向いた時、エクスはコクピットで果てしなく震え上がっている。今自分が何か尋ねれば彼女が立ち直れなくなる――それだけ残酷な戦いが現実になろうとしているのだと思い知らされようとしていた。


「お、お兄様……まさか!」

『そうだよ……深海将軍グナートは、エクスに未来を潰され、そのエクスがファルコ家の人間として誇りを果たそうとしている事が憎くて仕方ない……!!』


 既に目の前の人物が何者かエクスにはわかっていた、いや“分かってしまっていた“。ハイマット・ブラストが自分目掛けて繰り出した途端、クロストは展開したゼット・フィールドで受け止めるものの――トライ・シーカーの1基に直撃、凍結するとともにフィールドの一角へ綻びが生じた。


「大丈夫かエクス! いや……」

『ねぇ、まさかと思うけど!!』

『エクスの兄の事は今まで聞かされていたが、その……』

『そんな立派な兄貴が何で、バグロイヤーなんかに!』

「いや、やめて! やめてくださいまし!!」


 今のエクスがシーカーの制御を司るまでの余裕はない故か、玲也が慌てて彼女の元へと駆け寄ってシーカーの制御に回る。トライ・シーカーの補充が間に合い再度フィールドを展開して冷凍弾を受け止めていく。シャルやウィンが目の前の兄が彼女の話とかけ離れている事に動揺しているが、才人の言葉は今のエクスを苦しめており、


『どうだ……深海将軍がお前の兄、お前が言っていたゲーツお兄様がバグロイヤーの手先だとは思わなかったのだろうに!』

「こ、これは悪い夢ですわ……あんなに優しくて凛々しく賢いゲーツお兄様が、バグロイヤーにいるなんて……!!」

『父さん、エクス! 私はこの時をこの時の為にバグロイヤーで上り詰めたんですよ……それがファルコ家の人間』

「ゲーツ・ファルコ……貴様!!』


 エクスとビルを前に、ファルコ家の人間として将来を約束されていた筈のゲーツ・ファルコ、同じ血でつながった男が深海将軍グナートであると公になった――父と姉が慟哭し、玲也の脳裏には何故と答えが出ない疑問が渦巻いている。ただそれでも彼だけは目の前のグナートへ鋭い眼光を突き付ける。間違いなくして、目の前の男がパートナーを不幸へ陥れようとしているのだから、



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次回予告

「エクスの兄さんが深海将軍グナートその人とは……何故だ!何故こうも戦いは非情なのか!? 俺はこの運命(さだめ)を呪うと共に、次々と戦火を巻き起こしていくグナートを許すことは出来なかった。お前がエクスをこれ以上悲しませるのなら、俺がこの手で引導を渡さなければならない。その為に俺はエクスに恨まれる覚悟は既にある!次回、ハードウェーザー「たたかいの海に花束を……!!」にクロスト・マトリクサー・ゴー!」

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