33-5 やさしさは勇気、強さは愛
「くたばれぇぇぇ……うあっ!!」
岸壁へと這い上がったヴィトンの足元めがけて、ビームが何発も繰り出されていった。この思わぬ奇襲を受けて体勢のバランスを保てなかったのか、再度足を踏み外すように海面へと身が落下していった。リンも思わずヴィトンを狙い撃ったビームの射出元を振り向いた途端、黄色のスーツを着用した彼が着地しており、
「玲也さん……ですよね!」
「この姿でなかったら、ショックに耐えきれなかったかもしれないがな」
「……恰好はどうでも良い、お前も本当に来たのか」
帽子岩に転送された玲也は、プレイヤースーツを着用しておりレクターから借りたドラゴノガンの反動へもどうにか耐えきれた事を確信した。そんな彼の到着に対し、リンは前々から見慣れていたにもかかわらず少し呆然としており、逆に剣策はため息をつきながらも、少し嫌味ったらしい言葉とともに視線を送っていたものの、
「どうして! どうして玲也さんが無理をされて!!」
「それは俺が言う台詞だ! こうも思い切った事をするとしても限度がある!!」
「私だっていつも大人しいままじゃいられません! 玲也さんが殺される位でしたら私だって!!」
「やめんか! 感情をむやみに持ち込むな!!」
玲互いの思い切った行動により最悪の事態を想定するが故、玲也もリンも思わず感情的になって互いに主張をぶつけ合う。だが、剣策からしたら痴話喧嘩にしか見えず、戦場でもめて足を引っ張りあうようでは無意味と一喝。反撃の狼煙を上げるように、左手で鉄下駄を迫るレーブンへと投げつける。
「羽鳥玲也! よくここまで来たと褒めてやろう……今までの分を返してやるがな!!」
「お前は引っ込んでろパチ!!」
「貴様は一体……うあっっ!!」
剣策が投げつけた鉄下駄は、ガントレットのタービンを回転させる形で軌道をそらされ粉々に破砕された。レーブンとして本命の玲也を仕留める事へ躍起になっていたものの、彼女の顔へしがみつくように全身から電気ショックを放つ。小さなロボット・コンパチがその全身から力を放出させており、
「オレが止めてる間に逃げるパチ!! オマエがここに出てるリスク……も計り知れないパチからね!!」
「コンパチちゃんこそ、助からない筈じゃないですか!!」
「大丈夫パチ、無理しない程度には……」
玲也が生身の戦いを挑むにあたり、左方を負傷している事も含め経験が圧倒的に足りていない。その為同伴したコンパチは、レーブンの顔へ飛びつくと共に必死で彼女の攻撃を止めようと奮闘する。消耗が激しい手に出ているのではとリンが思わず叫ぶが、
「俺もお前達を憎んでるんだよぉ! エージェントの嬢ちゃんになぁ!」
「リンに手をかける位なら俺をやれ!!」
「だったらお望みどおりに……ビトロさんの分もなぁ!!」
レーブンを横目にデヴラがリンを目掛けて駆けた。自分たちが非合法のエージェントとして劣悪な環境を強いられた故に、正規のエージェントとなるリンに対しての敵愾心も突出していた。彼の標的として捕捉されたリンを後ろに突き飛ばし、思わず玲也が真っ先に飛び出した。ドラゴノガンが唯一の武器となるであろう彼めがけて、デヴラが鎖鎌を投げつけた瞬間、
「頼むぞ!!」
すぐさま3枚のショーピースをダーツのようにして、鎖鎌の軌道めがけて投げつけていく。飛、角、香と彫られた3枚の駒がロケットのように鎖へと絡みつき、自分から軌道がそれたと確信すれば金色と銀色の駒をすかさず投げつけていった。巻き起こる煙幕に彼の視界が奪われている隙をついてすかさず、ドラゴノガンで狙いを定めた時――密着した二人の影が視界に入った。
「さっきも言っただろ! 俺はこいつも憎くて仕方ないだってね!!」
「……素人の俺に、そう汚い手を使わないと勝てない訳か!!」
「黙れ! お前やこいつらに、俺やビトロさんの苦しみがわかるかよ!!」
勝利を決定的なものとする為か、デウラはリンを人質にとる非道に出た。彼女の顔に鎖鎌の刃が近寄せながら彼が自分たちを憎む理由を口にしており、玲也も一瞬察したような顔をしたものの、
「そのビトロにジャレコフさんは殺された! 同じ非合法だ!!」
「それがなんだ! ハドロイドとして幸せになったからなぁ!!」
「そう御託ばかり並べてもだな……リン!?」
同じバグロイヤーの手先であったビトロは、ジャレコフと旧知の人物でもあり、彼によってジャレコフの幸せは踏みにじられて死を選ぶ結果となった――玲也としてデウラの言い分は都合が良いものだと憤った途端、リンの頬に鎖鎌の刃が掠り、赤い血が頬を滴る様子に我を忘れかけたはずだが、
(まさかわざとリンは……お前が動くと共に俺は、あれ……)
「光っているだと……まさか!」
リンの顔つきが恐怖と隣り合わせになろうとも、凛としたまま玲也へ静かに頷いていった。その瞬間玲也の胸の内で群がろうとしていた動揺が一気に収束していき、頭の中が急速に整理されていく――自然とヘッドギアのランプが緑色に灯っていた事はレクターしか知らないまま、玲也が首を縦に振った時、
「うお、まぶしっ……!!」
「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ポケットから取り出したリンの右手には、コンパクトサイズの手鏡が握られており――直ぐに手を上げて、直射日光をビトロの両目めがけて反射させていった。古典的ながら効果的な目くらましで彼が怯んだ隙を狙い、玲也は自然と咆哮を挙げながら間合いを詰めると共にドラゴノガンのトリガーを引き、
「うわっ……!!」
「あいつが……やりおったか」
これもタグが装着されていた個所を潰す事だが――タグだけを壊すような手加減を、生身での戦いで出来る域までに達していなかった。仮に出来たとしても、玲也は相手ごと確実に始末する事を最善の手と判断したであろう。例えその腕がその足が震えようとも必死にデウラの胸元めがけてうち続け、一転集中で打ち抜かれていく胸元から鮮血が溢れだしていたが、、
「……見誤ったか!!」
「お、お前もだ玲也……死ねぇぇぇぇぇぇっ! 」
完全に葬り去る事を待たずして、ドラゴノガンのエネルギーが尽きようとするブザーが鳴り響く――レクターから基本操縦のレクチャーを受けた事もごく僅かの間であり、実戦でエネルギーが尽きるタイミングまで把握しきれなかった。逆に胸を射抜かれたデウラが死期を悟っていた中で微かに口元が緩み、
「ビ、ビトロさん……!!」
「玲也さんを殺めるなんて……私は絶対許さないですよ!!」
「ごめんヴィトン、後は、後は……!!」
すかさず。腰のホルスターから取り出した短刀を握りしめようとすれば――自分を引き裂くほどの胸の痛みがさらに襲い掛かる。恐る恐るデウラが後ろを振り返った途端、赤毛の彼女がその殺気を自分へと突き付けていた。彼女の形相を網膜に焼き付けたまま、デヴラの瞳孔からは精彩が失われようとしていた。だが彼の背中からは、入れ違うようにライトグリーンの光が輝き始め、
「お前……まさかと思うが!!」
「こ、これがもしかしましたら……」
デウラが崩れ落ちた途端、リンの胸元のタグからは暖かい光が独りでに灯されていった。玲也が思わず戦場だろうと目を擦り、目の前の光景を疑っていたも――タグが独りでに光る意味を既にレクターから教えられていたが、実際にこうして発動した瞬間に直面した事は初めてだったのだから。
「何か、玲也さんの気持ちが伝わってきます……胸が温かいといいますか」
「……すまない。いや、有難うというべきか」
「やったか……?」
リンもまた自分と同じように相手へと手をかけた――彼女の方が元より命のやり取りと近い場所にいた人間だとしても、自分と同じように呆然と立ち尽くす様子からして、高ぶってあふれ出ようとする感情に直面していった。その対象は己が苛むものではなく、明るく光り続けるタグの色への興味に移ろうとしていた、レクターが傍から思わず安堵の声を漏らしていた所、
「……パチェ!!」
「……デヴラがやられた! ヴィトンはなりふり構わずに玲也を討て!!」
「デウラが、デウラまでビトロさんと同じように!?」
コンパチを引っぺがすように手を取って叩きつけた上で、レーブンは海面に落とされたヴィトンへと激昂する感情を叩きつけた。自分が玲也を殺める事よりも、ヴィトンの方がビトロだけでなく、兄弟のような腐れ縁だったデヴラまで殺められた事へ動揺を隠しきれなかった。
「私はリンを討つ、そうでもしなければ猛獣将軍として……!?」
「玲也さん! まさかと思いますが!!」
『まさかじゃないよ、姉さん!!』
『ちょうど合図が来たからね! レクターからさ!!』
レーブンもまたリンを討たんと決心した瞬間、自分たちの足場が突如隆起していき岩盤が細かく砕かれて飛び散り、流砂が落ちゆく様子を目のあたりにした。ライトブルーを基調としたカラーリングとともに、天を衝かんとする2本のドリルを備えた機体となればスフィンスト・キャタピラー他ならない。シャルが言う通りレクターからの合図を受けて行動を開始しており、
「これ目的は果たせたからな。ここでお前たちがやられては困る!!」
「レクターさん、まさかワイズナ―現象の為にわざと」
「極限まで追い込まないと発動するかもわからなかった。後は俺に任せて電装するんだ」
「電装しろとなれば、ドラグーンへ戻れとの事ですか!」
玲也とニアが揃って死地を乗り越えていった為、ワイズナー現象を発動させる事が成り立った。よって、これ以上彼らを直接危機に晒す必要はないと、忍ばせていたキャタピラーを展開させて反撃に転じる。レールガンを繰り出しながら玲也たちを守る盾として機能させながら、レクターは彼らに電装すべきとの指示を下す。ポリスターを喪っている身として、どのような術で電装をさせるかと思わず聞き返すと、
「ワイズナー現象の力で電装できる事を忘れたか!」
「……わかりました! 玲也さん、直ぐに向かいますから待ってください!!」
ワイズナ―現象を発動させると共に、自力で電装する事が可能となる――レクターからの言葉で思い出した瞬間、迷うことなくリンは帽子岩から身を投げだした。これも水中で彼女は電装を試みようとしており、ネクストが電装されるまでは玲也は帽子岩の元で立ち尽くす老人が視界に入ると、
「……丸腰のお前に守られる程、俺は衰えてなどいない」
「腕が折れていますのに、よくそう自信を張ってられますね。お爺さんが大人しくティービストに乗っていればこうも」
「全く、俺がいなかったら実際どうなったかも考えていないのか」
片腕が仕えない剣策に代わって、玲也はドラゴノガンを構えてレーブンに備えている。最も先ほどエネルギーを使い果たした為、実質空砲を構えての威嚇ではないかと――剣策は淡々と突っ込んだ時、玲也は図星だったのか少し苦しそうに話の内容をずらしており、素直に受け止めてはいなかった。たとえ武芸者の道を歩んでいようとも、バグロイヤーとの戦いに耐えうるほどの人物ではない事も、祖父である人物へ冷ややかに接している一因となっていたが、
「お前も曲りなりに戦っているとは認めてやろう……口だけではないとな」
「……下手に手加減をしたら返り討ちに遭うと思いました。その為でしたら止むをえません」
「……何人も散らしているお前が、今更その手で一人殺めてどうなる。深く囚われるな」
玲也が自分を祖父ではないと意地を張ろうとも、剣策は孫もまた戦う男だと認め始めていた。玲也自身頭で冷静に判断した上で、実際行動へ移すにあたって心に動揺があった事を何とか払拭したい胸の内を吐露した時、剣策は今のお前は過剰に捉えすぎだとどこか穏やかな面を見せ始めた。
「……あの小娘のように、甘く優しいだけでない強さと出会えたらな」
「何か言いましたか?」
「別にお前が聞く事ではない。術がないなら仕方なく退いてやろう」
玲也だけでなく、リンもまた戦う覚悟をその身に備えた者になる。その上で互いを想って支えあう心とは、剣策が生涯得られる事が出来なかった心の繋がりであると、どこか羨まし気にぼやいた。思わず玲也が尋ねようとしたものの、彼は自分の心にまだ宿っていた安らぎへの憧れを孫に吐露する事はなかった。ただ元々人質の立ち位置もあってか、孫に勧められた通り、戦線を離脱する事を認めた。
「ティービストは既に浮かしている。俺の事は構うな!!」
「勝負の最中によそ見をするな!!」
「しまった……!!」
レーブンの攻撃を受け止めながらレクターが玲也達へ逃げる方向を指さす。ティービストを浮上させて彼の逃げ道を確保していており、乗り出した身でドラゴノガンを彼女の右肩めがけて発砲し、
『レーブン、これ以上続けても無駄だ。玲也とかを倒すとしても追いやられているそうだな』
「私はまだ負けてなどいない! 私が負ければ猛獣軍団が、デヴラが……」
被弾した右肩を押さえても、なおレーブンは戦う意思を捨てようとはしなかった。半ば意固地になっているような彼女に対し、しびれを切らせたのかハインツから大人しく退くべきとの通信が遂に届く。彼女として自分の敗北は猛獣軍団の権威を失墜させるものに繋がる他、自分以上にこの戦いへ憎しみを込めているヴィトンが大人しく引き下がらない――それが故に断固抗戦を強く主張するものの、
『デヴラもそうだが、レーテが戦死した事を知っているか?』
「レーテまでも……何故! グナートの片腕の筈が」
「それよりも、グナートがお前の為にわざわざ兵を割いた結果がこれだ」
「くっ……こんなはずでは、こんなはずでは!!」
デヴラだけでなく、レーテもまた戦死したとなればレーブンの顔色が流石に動揺へ包み込まれる。また自分の負傷からして、レクターを相手に生身でも勝ち目が乏しいと認めざるを得なかった。渋い顔つきで、左手での煙幕弾を彼めがけて投げつけながら、帽子岩から身を投げる形で引き上げる事を決意した。
「その責任の為、お前が死ぬまで戦う事だけは何としても許さん……無駄死にだけはするな」
「はっ……許せ、ヴィトン! 私にお前を退かせる力がない事を!!」
ハインツはレーブンの行動によって生じた被害を責めるものの、彼女が責任を取るような形で自ら刺し違えようとする覚悟を持つ事は良しとしなかった。タグを握った上でレーブンの体が帽子岩から消えうせるものの、同じ猛獣軍団のヴィトンを置き去りにせざるを得ない事へ苦々しく感じてもいた。自分以上の怒りと憎しみに駆られる彼こそ、本当にこの戦いで刺し違えるに違いないと。
「……一先ず危機は去ったが。あとは玲也達次第か」
「あいつなら、あの程度の相手に勝てる筈だろう」
レーブンが退いたと重なるようにして、玲也の姿もまた消えていた――厳密にいうならば海面から浮上した1機のハードウェーザーへ転移されたのだ。プレイヤーとして、本来の戦いへ身を投じる孫の姿を剣策は見た事がなかったにも関わらず、確かな自信を彼の元へ寄せていた。
「やはり俺の孫だと誇りにしているようだな」
「仮に今俺が認めようとも、あいつが認める筈がない。そこでだ……」
――内心ではレクターの言う通り、剣策としてはバグロイヤーとの戦いに孫がいると肯定したかったのだろう。けれども今になって自分の過去へ少し臆病になっていたのか、少し気を滅入らせていたような表情を浮かべていた。そして孫を前に見せることのない顔のまま、レクターへとある事を頼んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『僕たちと同じように現れるとは思いませんでしたが……むしろ都合がいいですかね!!』
オホーツク海の上空に出現したバグケルベロスだが――宙を飛びダークパープルで塗りつぶされた事を除けば一見バグビーストとさほど大差がないバグロイドにも見えた。それにもかかわらずヴィトンはこの戦いを前にして感情の赴くままにデリトロ・スプリットを海面へと繰り出していく。
「本当に……私でも電装できたのですね、おっと」
「大丈夫パチか!? 顔色が良くないパチ」
「独りでに電装できるようになるとかだが……さすがに負担が大きいか」
拡散ビーム砲により、一発一発が微弱な攻撃は渦巻く海原に飲み込まれていき、ライトグリーンの機体が浮上しようとしていた――全貌を現わそうとしているネクストは、ドラグーンから電装された訳ではなく、ワイズナー現象に伴うリンの力によって引き起こされた様子でもあった。持ち場にかろうじて就いていたものの、彼女が消耗している様子からその力を無暗に濫用することは許されないと察し、
「それって玲也君にも当てはまるでしょ?」
「そうだな……流石にまともに動かせそうになくてな」
「電源が入ったら僕でも動かせるからね、コンパチも頼むよ!」
「分かってるパチ! オレがいないから、コンバージョンもしてるんだパチ」
リンだけでなく、玲也もまた左肩を負傷しているが故にシャルがサブプレイヤーへと回っていた。コンパチもリンのフォローに回っているとの事であり、自分が不在のスフィンストはネクストとコンバージョンさせているとのことだが、
『スフィンスト・ストロンガー……ですよね? 一応』
『玲也ちゃん、リンちゃん! 重すぎるとかないよね!!』
「まずいとなったら俺が言う! ハリケーン・ウェーブを使えとな!」
イチと才人が少し懸念していたが――スフィンスト・ストロンガーとしてコンバージョンされただけでなく、ネクストのバックパックへと連結された姿をさらけ出していた。ヴィータストとのコンバージョンより重量での問題があり、大気圏内での飛行能力に不安があると言いたげだが、玲也は心配無用と檄を飛ばしながら、
「才人! 狙い撃つパチよ!!」
『わ、わーった! アサルト・キャノンだな!!』
『っと、かかりましたね……!!』
頭上のバグケルベロスへ食らいつくようにネクストは飛び上がり、カイト・シーカーからのアサルト・キャノンを連射させていった。バグケルベロスがデリトロ・スプリットで弾幕を張りながら、ビームの軌道を逃れる形で宙へ高く飛び上がる。そしてヴィトンが静かにほくそ笑んだ瞬間
「足元です、足元に気を付けて!!」
「才人っち! ハリケーン・ウェーブお願い!!」
『おぅ! 今度こそ当たれよ!!』
同じ海面を割り、バグケルベロスと同型と思われるバグロイドが足元からとびかかった。1機だけではなかった事に思わず不意を衝かれた形となったが、シャルが慌てるようにスフィンストのハリケーン・ウェーブでの迎撃を命じた。ネクストの両脇から腕が突き出され、衝撃波によって2機が豪快に宙に舞うものの、
「3機がかりなんてね……祭りの夜じゃないのにさ!」
「何訳の分からない事言ってるパチ! また来るパチ!!」
「」
豪快に弾き飛ばされた2機であったものの――残された1機がすぐさま自分を踏み台とさせて、2機の体勢を立て直す役回りを買って出た。シャルが3機のバグケルベロスに何か思っていた様子はともかく、反動で飛び上がった2機はまるでドリルのように全身を回転させて突撃を仕掛け――ネクストの両手へと牙を突き立てて噛みつきにかかる。
『どうです! ネクストでしたら僕のライブライトでも!!』
「まずいですよ! 早く引き離しませんと!!」
「ごめん、両手飛ばしちゃうけど大丈夫!?」
「なら電次元サンダーも使うぞ! 強引にでも引き離す」
バグケルベロスの牙そのものでかみ砕かんとする“ライブライト”の威力は、ネクストの両手をかみ砕く鈍い音を既に立てる程であった。本体までにそのダメージが及んでは危険だとシャルは直ぐにアサルト・フィストを飛ばす形で対応を試み、さらに玲也の案で電次元サンダーの力を借りて強引に弾き飛ばす術を取って危機を脱したにみえたが、
『本命ですよ! このライブスラッシュの餌食に……!!』
『させるかよ!!』
三位一体の攻撃のオオトリとして、最後の1機は両足の爪ライブスラッシュを展開して縦一文字にネクストを掻っ切ろうとしたものの――才人がスフィンスト伝家の宝刀、1回こっきりの切り札を発動させた。ミラクルドリルプレッシャーの一択であり、
「しまった……まだこいつが!!」
『ダメです! 壊されてしまいましたけど!!』
「いや、まだ手がある……俺たちが少し不意を衝かれただけで十分勝てる」
スフィンストの切り札を前に、ヴィトンは少し慌てた様子で対処する。展開したライブスラッシュによりボタン・シーカーを切り裂いて無力化させたものの、両足を着水させると共に3機のバグロイドから間合いを取ることに成功した。切り札を破られて少し自信を喪失しかけたイチを玲也が励ますと共に、
『か、勝てるってきっぱり言っちゃうね。1対3、いや2対3かもしれないけど!』
「もう才人っちったら! 僕たち3人で1人相手に戦ってるんだよ!?」
「シャルの言う通りだ。“その1人”を潰せば俺たちの勝ちだ」
3機がかりでの連携攻撃を仕掛けるバグケルベロスへと、多少才人が臆してもいた。けれどもシャルの言葉を足掛かりにして、玲也はわざわざ3機を相手にする必要はないと意外な事を口にしだし、自分が脳裏で描いた戦術を直ぐに説明し
「なるほどね、相手が3機でも“3人”じゃないんだしね!」
「その一人を割り出すからな……頼むぞ!!」
『お、おぅ! 一度のチャンスに任されたよ!!』
玲也の作戦に一同が納得した直後、水上へとネクストは自分からバグケルベロスへと間合いを詰めていった。アサルト・キャノンによって3機を近寄らせないようにしていたものの――ボタン・シーカーと両手を喪った状態のネクストは手負いであり、
『自分から近づくなら手間が省けましたよ! 仇を討つことも!!』
バグケルベロスが3機それぞれ入り乱れるような軌道を水上へと描く――ネクストを前に真正面の1機が突如足並みを止めてデリトロ・スプリットによる弾幕を張る傍ら、両側の2機が取り囲まんと左右それぞれから回り込む。アサルト・キャノンは目の前の1機を集中的に狙い続けていたが、
『取り囲みましたからね! トリプル・ライブバイトだよ!!』
「玲也の言う通りになったパチ!!」
「電次元ジャンプだ! 有効範囲だ!!」
「オッケー! ちょっとの間頼むよ才人っち!!」
そして三方向からバグケルベロスが取り囲み、一斉にとびかかった時こそ玲也が狙った絶好のタイミングでもあった。ネクストだけが電次元ジャンプで行方をくらませた後、スフィンストだけが取り残された結果となるものの、
『ハリケーン・ウェーブと』
『ブレイザー・ウェーブですね、才人さん!!』
『チャンスは一度だからね! しっかり見ててくれよ!!』
すかさずに両腕のハリケーン・ウェーブを掃射して左右のバグケルベロスを微かに怯ませた後に、カイト・シーカーからのブレイザー・ウェーブが放射円状に発動していった。正面の1機が電磁波に操縦系統を干渉されたのか、四本脚を着水させて生後間もない仔馬のようによろよろとしたい姿勢でかろうじて直立していたものの、
『こ、こんな小細工なんかに、やられるわけには……』
『左右のバグロイド、浮上なし……うわあっ!!』
『玲也ちゃん早く! 正面だからさ!!』
3機のバグケルベロスは本体として1機が君臨しており、残りの2機が本体から遠隔操作によって動かされる仕組みを取っていた。それが故にブレイザー・ウェーブで操縦系統を干渉された時友人による復旧がない分制御の回復に遅れが生じていた。すかさずネクストへと本物の存在を打ち明けた途端、正面のバグケルベロスが馬乗りのようにとびかかり、
『確か君もエージェントでしたからね……これで!!』
『ぼ、僕はまだ……姉さんもあきらめてませんから!!』
『なら君の姉さんも直ぐに、うあぁぁぁぁぁっ!!』
ライブスラッシュの為展開された爪がスフィンストを取り押さえ、そのままカイト・シーカーの甲板へと爪をえぐりこませて引導を渡そうとしていたものの――天から制裁が加えられたかのように雷撃がバグケルベロスの体を包みこむ
『姉さん、やはり間に合って……!!』
「当たり前じゃない! それより直ぐ逃げられそう!?」
『確かに逃げ出せるけど、抑え込みが甘いみたいだし!!』
「ならそのままぶっ放しちゃってよ! ここから一気に逆転するしさ!!」
天からネクストが自由落下の勢いとともに、両手首からの電次元サンダーを透かさず浴びせかかっていた。またスフィンストも囮としての役目を果たして電次元ジャンプでの撤退に映ると思いきや。カイト・シーカーからのアサルト・キャノンを腹部めがけて見舞い続けており、
『ま、まさか……こんな所で僕は!!』
「もう十分だ才人! 直ぐに引導を渡す!!」
『おぅ! スフィンストはこうして無事だから』
『ハリケーン・ウェーブもお見舞いしますよ……!!』
バグケルベロスがあくまで、カイト・シーカーだけを抑え込んでいたに過ぎなかった。その為にスフィンストがカイト・シーカーからパージされ、念には念を入れる為自分の体が海原へ沈もうともハリケーン・ウェーブをエネルギーが持つ限り照射させており、
「姿勢制御、誤差0.01以内パチ!」
「このままの姿勢で引っかかると思います! シャルちゃん!!」
「オッケー! ジックレードルをこう使うとか考えてもいなかったけど!!」
電次元サンダーの放射が一瞬やんだ途端、そのまま頭から真っ逆さまに落ちゆくネクストはバグケルベロスとすれ違う。同時にバックパックのジックレードルを相手の首元へと突き刺す荒業へと出たのちに、
「これでフィニッシュだ……!!」
『デ、デウラにビトロさん、それにレーブン様……!!』
バグケルベロスへと両手首を押し当てる形で、電次元サンダーを押し当てるように炸裂させていき――やがてネクストのエネルギーが3割を切ろうとした時を見計らって、電次元ジャンプを再度発動させた。その途端、電次元兵器のエネルギーを一気に浴びせられたバグケルベロスの体が粉みじんに吹き飛んでいった。
『バグロイドの反応消失です! あの2機も一緒ですから!!』
『なら玲也ちゃんたちが勝ったんだよ! あとはネクストがどこにだけど』
「ここだ……何とか間に合ったようでな」
ヴィトンの最期とともにバグケルベロスの反応は全機消失した――勝利を得たのだと才人が確信すると共にスフィンストが浮上しており、ネクストも良いタイミングでその姿を現した。既に3割のエネルギーしか残されていなかったものの、カルドロッパーによる予備エネルギーで辛うじて機体そのものを維持した状態であり、
「何とか勝てたみたいだね……」
「……これも玲也さんのおかげです、久しぶりに少し怖いと感じましたが」
「だがそのお陰でこうして……リンも本当に思い切ったことをするが」
――玲也もリンも苛烈な闘争心を内に秘めている事は同じだ。そして、その闘争心は戦いの中で背負うものがあると知るからこそ、己が信じる者の為に闘争心を発揮させる事が出来たのだとは既に互い気づきあっていた。
「俺もあぁせざるを得なかった事は確かだ。だからお前が怖いとしてもだな……」
「わ、私もですよ! これからも一緒のつもりで、あのその……私が守るだけじゃなくて」
「あぁ、お前が危ない時は守るつもりだ。持ちつ持たれつだ」
玲也からすれば、リンが戦いの中で示した苛烈さは玲也を守ろうとする為であり、また普段の彼女が優しく控えめな姿でいられるのも、腹を据えた時に覚悟が備わっていた為だともいえた。互いの気持ちを知らされ、玲也が上げた左手に対して、リンも応えるように右手でハイタッチを決めて応えて見せた。
「まぁ、本当リンちゃん必死だったからね、僕の事気にしないで玲也君とラブコメやってていいよ?」
「シャルちゃん、一体何言ってて……ニアちゃんやエクスちゃんに知られたらただ事じゃなくなりますから!!」
「それなら僕がばれないように上手くやるからさ♪まぁ借りは大きいかもしれないけど」
「も、もしかして怒ってるの!? 皆さん見られてですと私も玲也さんもまだ、その……」
二人の間に微笑ましい空気がよぎっており、シャルは少しやきもちを妬いて揶揄いながらも、二人の間で気を利かせてくれていた。それでもこの状況で二人の世界に至るには落ち着かないと、リンは彼女の好意がちょっとお節介だと困惑していた所、
「姉さん! やっぱり僕は玲也さんには姉さんが相応しいと思いまして!!」
「いや、その、あのな……確かに今は甘えたいと言えばそうだが」
『……玲也ちゃん、俺はリンちゃんとの仲を陰ながら応援する立場だぜ。そりゃ俺だって本当は羨ましいし、リンちゃんとラブい関係とか憧れてるけど……』
「オマエの言ってる事も分かる気がするパチ……けど、未練たらたらは格好よくはないパチよ」
一方の玲也もイチから、姉を任せたいとまるで未来の義兄に対して、以前よりも後押しが強くなっていた。才人も未練がある事をコンパチに揶揄われつつも、二人の仲を応援するような状態にスタンバイしている。周りがチヤホヤする中で、玲也とリンが顔を合わせると少し後ろめたいように顔を赤くしており、
「と、とりあえずマルチブル・コントロールの為にもう少し待ってくれないか。バグロイヤーを倒してから決める話のような気がしてな」
「は、はい。それがお互いとしてもきっと一番良いはずですよね……」
「ということで、この話はニアやエクスには……」
結局、以前より距離が縮まったと互いに確信しつつも互いに答えを選ぶには時期尚早だと判断して、周囲を一応は納得させようとした。その折に帽子岩には誰一人の姿もない事が視界に入り、
「レクターさんがきっとお……剣策さんを」
「やはり俺からすればお爺さんであって、お祖父ちゃんではない……今はそう思わせてくれ」
「やはりまだ剣策さんの事を……」
レクターが避難させた剣策の事を脳裏へ思い描いたものの、玲也としては彼が両親を捨てた男だとの憎しみを抱く対象に変わりはなかった。祖父ではないと頑なに否定する背景も、同じ血が流れる事が彼をかえってそう思わせていた様子だが、
「剣を振るうにも策を成せ……お爺さんと同じように父さんも、俺も羽鳥家の人間の宿命かもな」
「れ、玲也君。何か凄いオカルトというか、ホラーというか」
「いや、俺はこれからも俺だから心配しないでくれ」
ただ戦う者として剣策から感じ入る所はあった。戦うには力と術を振るえと道は異なれど剣策と、秀斗が同じ道を歩んでおり、実際秀斗を超える為、玲也が己に課した道も同じだと気付いた時には羽鳥家の人間として血が繋がっている事実へ直面した。少し超越したように悟っている彼の姿へシャルが思わず心配していた時に、彼は今までの自分と変わりないとアピールして顔をあげた。
(信念の為には覚悟を決め、心が折れぬよう不屈であれ。そうありたいと思います、お爺さん……)
祖父として認めなくとも、戦う者として認めており、同じ血が流れる羽鳥家の人間だと玲也はふと苦笑を漏らしてしまっていた。もし次に会う機会があるならばと、剣策へ次に向かい合うことを微かに思い描きながらも、ネクストとスフィンストはオホーツク海からドラグーンへと帰還していくのであった。
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