33-4 小樽決戦の日、石狩湖の敵を討て!

『俺たちがどう戦おうと構わん! 遠慮はするな!!』


 ――小樽港近辺にて、電装マシン戦隊は交戦状態に突入した。決闘の約束を反故にされた事もあり、レーブンは本当にバグビースト、バグファイターの編隊を送り込んでいたのだ。特にバグビーストは、平地だけでなく砂地や荒れ地での高機動戦にも対応しうる四足で駆動しており、小樽の市街地だろうとも、建築物をデリトロス・フィンガンで焼き払うなり、デモンクラッシャーで高層ビルをへし折るなり、切り落とすなりと構いなしに突き進むが、


『こう街中で戦われると面倒だからなぁ!!』

『……ステファー! 急いで!!』


 だが、バグビーストへと空からの脅威が迫りつつあった。両足からのアーケロ・クローが彼らの背中を捕捉した途端に頭部のタービンが唸りを上げながら掌握を試みる。これも市街地への被害を最小限に抑える為であり、ステファーは手間がかかると苛立っており


『いい気になるんじゃねぇ! 誰が好きでやってるかよ!!』

『ちょっと! そんな所で使ったらエネルギーが……』

『だから俺が出てやるよ!!』


 空中からバグファイターがユーストを狙う。これもタービンを回転させてバグビーストを掌握しているため、隙を生じさせている格好の的でもあったのだから。猶更彼女は腹を立てて、バグファイターめがけてプラズマ・フォースを発動させ、2、3機を電磁波の渦へと巻き添えにしていく。無防備と化した相手へと、パルサー・キャノンを直撃させて仕留めにかかっているもの――シーンが警告する通り、極力市街地へ被害を出さない事もあるが大技に出てしまっていた。その折にライトグリーンの1機が宙を横切り、


『アラにい! 確かそれってよ!!』

『ステファーに手出したから当然だよなぁ! この野郎!』


 妹に代わって兄がバグファイターへ報復に出るが――サザンクロス・バディは姿を変えていた。バックパックに備えられたスパイ・シーズを下にして、折り曲げられた両足は機種のように二本の剣ガーディ・ベールが突き出されていた。衝角の要領で突撃を仕掛けて串刺しにして、折り曲げられた両手首からガーディ・ガトリングを浴びせにかかり、


『お前は前に出すぎだ! 動きを止めとけ!!』

『な、なんか早々に俺たちの存在が……』

『ボヤボヤするな! アラにいを助けるからよ!!』


 ステファーを救うアランはやはり、彼女へ後ろに回るよう檄を飛ばす。ただ彼女が妹との理由から案じているより、相手への電子線能力が自分たちに備わっていないアドバンテージであると踏まえた故でもあった。ユーストには、直接バグロイドを撃墜するよりも優先すべきと判断した為でもあった。

 最もユーストがアランの指示通りに後方へ下がりつつも、下半身のナッター・シーカーをパージさせて、戦闘機として兄へと同伴させていた。機首からのEガンと両側部からのミサイルを次々と繰り出しており、


『た、隊長! 妹さんの為だけではないと思いますが』

『やはり、ジーロさんに手を加えられたからと……』


 アランの部下たちが評する通り、サザンクロス・バディはジーロの手によって強化が施された。それもあり空戦での突撃形態を新たに備え、アランがいつも以上に張り切っている様子すらあった。


『それもあるけど、口を動かすより手を動かせよ! いくら強化されても……!!』


 部下たちへ檄を飛ばしつつ、スパイ・シーズに設けられたミサイルがバグファイターに炸裂したが――すかさずコバルトブルーの1機が回り込み。ライフルからの閃光で仕留めてみせた。同時に左右から迫るバグビーストめがけ、両肩からのミサイルでけん制した後に、手にしたジャベリンで双方の頭部を貫いてみせた。


『流石、カスタムなだけあるわね! あたしも同じだけどさ!!』

『……そりゃお前なんかより俺の腕がいいだけなんだよ!!』

『じゃあ、あたしより早く片付けないとね! あたしだけでも間に合ってるけどね!!』

『それは俺の台詞だ』


 彼女へアランが相手にしていないような口ぶりだが、冷静に徹しきれるわけがなく、何だかんだと彼女に張り合おうとする意志も見せている。だが口ではぶつかりつつも、2機は率先して残りのバグビーストを仕留めようと飛び出しており、


『隊長、あいつ確かヨーロッパ支部だったと思いますが』

『隊長以外にもカスタムが出てるとか、出番がなくなってしまいそうですね』

『何シーンみたいな心配してやがる! 腕より手を動かせ!!』


 サザンクロス・バディ以外のカスタム機が登場している事へ、アランも少なからず意識していたのだろう。その裏返しのように出番を危惧して揶揄う部下たちへ思わず怒鳴り散らしてもいたが、


『あの四つ足はあたし達でなんとかします! このアトラス・バディを駆るからには!』

「全く……と言いたいが、一応フェニックス所属としてその力を見せろ! 口より行動で示すんだ!!」

『わかってます! みんなの仇もですし、アトラスの為にもかっこ悪い所はみせないですよ!!』


 本来ダブルストの護衛にあたる筈のイシュカだが、バグビーストを相手に自分へ任せろと少し強気な自信とともに動き出していた。彼女もブレイブ・バディから改修されたアトラス・バディを今こうして駆っている。それも志半ばで倒れたイギリス代表の名を引き継いだ機体ならば猶更奮い立たされており、


「イシュカなら、私が見込んだライバルですから勿論出来て当然のようなものですよ、もしイシュカが不甲斐ない事をしたとかでしたら、その時はイシュカにアレをお見舞いすればいいだけですから! あくまで私では……」

「だったら、ルミカがやられたらメルもお見舞いするみゃー」

「アズマリアもルミカも必死だというのに……この私に出番が回ってこないのは退屈で仕方ない」

「実際丸腰ですとー。小回りが利かないですからねー」


 少しルミカがイシュカを茶化していたものの、遠回しにメルが慢心してはならないと釘をさす。そしてその傍らでマーベルも少し退屈そうな顔を浮かべ愚痴もこぼしており、


「まぁ大丈夫ですよ! 私とアズマリアならしっかり役目を務めてますから!! イシュカがあぁも頑張ってるのでしたら、私が手を抜けないのは当然のことでして……」

「そもそも、ダブルストを守ってるのはお前達じゃないみゃー」

「そうだな……彼らで務まるかだが」


 本来ルミカとアズマリアが遠隔で操縦するダブルゴーストが、小回りが利かないダブルストの護衛を務める運用が想定されていたが――メルの言う通り彼らは石狩湾へと回っていた。その為港近辺のバグファイターを相手にクリーム色のハードウェーザーが立ち向かっていたが、


「ちょ、ちょっと無茶苦茶な気がするけど大丈夫だよね!?」

「大丈夫も何も僕たちが食い止めないと、被害が増えてしまいます」

「弟の言う通りですよ。クラッシュアームでしたら問題ありません!」


 マイが弱気を見せているものの、テディとアンディが揃って冷静に息を揃えて操縦へあたっていた。ナーガ・シーカーから展開したクラッシャーアームでバグファイターを何度も殴打して、中のパイロットへ著しい衝撃を与える。さらに右手のスクリューアームをコクピットに向けて鋭くえぐり込んで引導を渡す――揃って線が細く大人しい二人だが、実際のバトルスタイルは容赦ないものであり


『マーベルさん、僕たちはまだ至らないかもしれませんが!』

『貴方達に指一本触れさせないようにします! 死ぬ気で何とかします!!』

「ほぉ、新入りのくせに随分と……カプリアがそう教えたものかな」

「ただ、一番軽い役回りでも良い具合に動いているみゃー」


 石狩湾と小樽湾近辺にバグロイドが出現した時、電装マシン戦隊は3か所に戦力を分散させた。まず、猛獣軍団が小回りの利く身で市街地を蹂躙している観点からして、空戦戦力かつ電子戦を重視したユーストが機体の制御へ干渉し、アランやイシュカらのライトウェーザー部隊で被害を最小限に引導を渡していく。

 続いて小樽港の第三埠頭へ陣取る形でダブルスト、ウーラストが配置された。彼らは石狩湾に出現した深海軍団の迎撃が主な任務であり


「質量を活かして中のパイロットにもダメージを与える……となれば、あの双子が良い着目点から攻めてるホイ」

「だから、スクリューやバイスを使っているって言いたいんですねー」


 ウーラスト本体が、バグファイターのスタンドレッダーに対してバイスアームをぶつけてつぶし、スクリューアームで引導を渡す。白兵戦に応じる彼らを前衛で壁代わりとして、後衛からレールガンによる砲撃へ持ち込む者もいたものの、シーカーへマウントされたランチャーアームから火を噴かせる。同じ汎用型だろうとも備えられた武装の数が違う――コブラームこと7つの腕がアドバンテージだと証明するような戦いともいえた。


『け、けどまだ来るなら大丈夫、ねぇ!?』

『僕に聞いても分かりません、ロディさんに聞いてみましょうか?』

『やめた方がいいよ弟、あの人もあの人で凄い必死だと思うし』

『ふぇぇぇ、必死なのは私も一緒だよ……』


 最もアンディとテディと対照的に、マイは次々と現れるバグファイターへ思わず弱音を吐いてしまっていた。アンディが触れる通り、石狩湾上にて第3の部隊が応戦しており、彼らが撃ち漏らした相手をウーラストが引き受けている――つまりその撃ち漏らしている遠因がロクマストになるが、


「まぁシミュレーターで習うより、実戦で慣れるのも大事みゃー。こう何とか渡り合えっているなら自信を持っていい気がするホイ」

『私もそれは否定しないな。パルルに怒られたくないなら弱音を吐かない方が良いぞ』

『ふぇぇぇ……パルルちゃんより私、年上なんだけど!』

『……?』


 相変わらず憶病なマイへ苦笑するようにメル、カプリアが励ましの言葉を送る。ただパルルより自分が子供のように扱われているのではと感じたのか、マイは自分が子供ではないと咄嗟にアピールもかわしたが、


『……いや、僕もそれ位は知っていますけど』

『マイさんが主張する事と、カプリアさんが言いたい事はおそらく違います』

『そ、そうなんだ……う、うんもしかしたらなーって思ってたけど!』


 カプリアは何もそこを突っ込もうとしていない時点で、アンディはどう答えればよいか困惑した。これもマイが真っ向から主張している内容が、あまりにも低レベルすぎると捉えた為だが――パートナーの彼女がおそらく本気で言っていたので、猶更否定しづらい空気もあった。テディが彼女の為と案じきっぱり断言した為、ようやくマイが気づいた様子でもある。同時に苦し紛れに誤魔化していたものの、


「それよりもそっちはどうだ。こちらから二人貸してやっているから早く片付けたらどうだ?」

『他人事のように言ってくれる。目の前のバグロイドが只者ではないのにな』

『ニェット、ニェット!!』

『何、私ならマーベルの助けを借りずに仕留める事が出来るか。勿論私もそのつもりだから安心していいぞ』


 石狩湾上にてロクマストとダブルストが配備されており、深海軍団との応戦を務めていた。彼らの元にバグダイバーが迫りつつあり彼らを駆逐する事も託されているが、彼らの戦域にはワンオフタイプのバグロイドが回されていた。それでもカプリアはパルルを安心させるためか否か、強い自信をマーベルへ見せつけている。


「それはそれで、お前らしくない自信の持ちようだな。美味しい所は私に残すのを忘れる……」

『そこまでは残念ながら約束できない、もう一度言うがそれだけの相手だぞ』


 自分の出番がない事を案じて、マーベルが釘をさしたものの――そう尋ねられる事を予想した上で、カプリアは類に見ない速さで即答していたと付け加えておく。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『そうそう、慣れてない状況なら無理しちゃいけないよ』

『余は別に好きでこのような戦い方をだな……』


 石狩湾深く、ロクマストがバグダイバーとの交戦を展開していた。ロディが慣れない戦いと触れるのも、両手にはアイアン・シュナイダーとアイアン・エッジが備えられていた。それもディエストが彼の為にホースシェル・シーカーを貸し与えた為であり、ロクマストのサイズからして少々小ぶりなものとなっていたが、


『あんたやあたしの判断より、カプリアさんの計らいだって分かるよね?』

『出来る事なら、ロクマストの力を見せてやりたいものだが……悪くはないな』


 ロクマストに備わっていないタイプの武装だと、ロディは慣れていない事をぼやいていた物の――カプリアが有効と判断した事には間違ってはいなかった。バグダイバーの装甲を紙のように切り裂いていく事に効果はあった。

 そして自分から遠ざかろうとする相手へは、リーンフォース・フンドーを放ってからめとたんとする。ただ両腕が剣と盾を保持することで封じられていたにも関わらず、フンドーは両肩から射出されていた。そしてフンドーが引き込まれていくと共に、手にしたシュナイダーで引き裂いていく。


『おいおい、別に今一気に相手しなくてもいいのによー』

『そうですよー、私もいるんですからー』


 ただ、剣と盾を握りながら多勢の相手へ立ち回ることは、ロディには荷が重いのだとアグリカは彼の慢心をたしなめていた。そんなロクマストを他所にゴースト1がアングラ・クローを振るう。思わぬ第三者が介入していたものの、。


『私もー、ルミカじゃないけどやっぱり活躍できるときはしたいですからねー』

『そ、それで余の活躍を……』

『あー、こいつの事気にしないで片付けといてよ。マーベルさんの片腕のあんたなら信頼できるから……って?』


 やはり自分の腕を主張して素直になれないロディに代わって、アグリカがアズマリアに激励をかわしながらフォローする。小回りの利く敵にはゴースト1が有効と捉えたが――バグダイバー以上のサイズ、それも重厚なエメラルドグリーン色の巨体が迫りつつあった


『まぁ、あんたがクサる気持ちも分からなくないからさ……あのバグロイドを倒そうじゃん』

『そう来なくてはな……私はここでくすぶるだけの男ではないと!』


 迫るワンオフタイプのバグロイドは、同じ堅牢な巨体でありパワーを備えるロクマストでぶつける事が賢明である――アグリカがロディの逸る性格を上手くコントロールして、本来戦うべき相手とぶつけさせる。


『キャミィ、相手が同じ水中に特化したタイプのハードウェーザーだ……ぬかるな』

『はい、あのハードウェーザーが私たちの調べでも最弱の筈ですが……』

『ハードウェーザーのスペックは概ね上回っている。それに腕も伴い始めればな……』

『ハプリコの二の舞だけは避けるつもりです』

 

 亀のような形状をしたバグロイドはかつてロクマストが交戦したバグテテュスであり、グナートからは、猶更警戒を怠ってはならないと今の戦況からキャミィに釘を刺していた。前面からの射出口が一気に展開して、ミサイルとレールガンを一斉に放っていく。彼女の猛攻に対してアイアン・シュナイダーを前面に出して耐え続けるものの、


『ロディ、正直に言ってほしいが持ちそうか?』

『ま、まだ競り負けてないぞ、余の意地に賭けてもこの場は踏みとどまるつもりだ……!!』


 ロクマストへとカプリアの通信が入った。自分の助けを必要とするか否かの確認であり、正直な現状を知りたい故に釘を刺して例えるものの、ロディとしては意地を張るとしても、少し控えめな内容で報告する。


「それなら助かる。生憎俺も加勢する余裕はない」

『……余にこれ以上の援軍はいらん! 問題などない!!』

『おいおい……まぁカプリアさんは見栄やハッタリを張らない人だと思うけどよ?』


 ロクマストも決して優勢ではないと察しながらも、カプリアは加勢に回れないとシビアな答えを突きつけていた。内心では心細かったのか、虚勢を張るロディへ多少の震えがある様子だったことから、アグリカは彼をなだめつつも口ぶりにはどこか思うところがあったようで、


『ロディの奴も死に物狂いだぜ? あんたはこう余計な事を言う人だったんですか?』

「ニェット、ニェット!!」

「すまないな、私がお前たちに助けてほしいと考えているくらいだ……単刀直入に言わせてもらうとな」

『なんだいなんだい、しんどいのはどっちもですか』


 アグリカがカプリアを軽蔑しているのではと、パルルの怒りを買っているようだが、カプリアがすくに宥めた。これも彼女が本心を察した上でわざとおどけていた事がわかっており、彼女がまだ余裕を失っていない事へむしろ安心を覚えてもいた。


「こうも膠着したままではな……まずいようだな」

「……ダー!!」


 ――そして石狩湾上空。ディエストを目掛けて次々とバグリフォンがミサイルを繰り出しており、ディエストから常に一定の距離を取り続けている。ディエストもまた時には、その身で耐えるように受け止めてもいた。

 同時にディエストもまたミサイルポッドからの弾丸で、牽制を図ろうとしていたものの、バグリフォンは足の爪のように展開したデリトロ・スクラッシュで薙ぎ払い、両者の戦いは膠着していた様子であり、


『せめてあのロケットか竜巻をなんとかしねぇと……おや』


 この泥沼化していく戦いのさ中、マクロードはコサック・トルペードかストリボー・ブレークのどちらかを潰す必要があると見据えていた。その為には先に相手が動いてもらうよう、相手の出す手をうかがっていた訳であったが――ディエストの後方から割り込むようにして、小柄な藍色の機体が割り込むように攻めかかった。


『こうも攻めにかかってるとなりゃあな……俺の勝ちかよ!!』


 ゴースト2が背中に帯びたハウンド・シュナイダーで切り込もうとした瞬間、ディエストの腹部からはコサック・トルペードが展開されようとしていた。まるで味方を巻き込むように無差別な攻撃を仕掛けているようだが、ゴースト2が遠隔操作によって動かされる無人機なら躊躇う理由にはならない――ハードウェーザーなら猶更だ。

 かくして、バグリフォンは逆に前方へと攻めかかり、ゴースト2を踏み台にして、デリトロ・スクラッシュを展開する。ゴースト2のバックパックを潰しながら、踏み台の要領でディエストに向けてライフルを展開した瞬間、


『もらったぁっ!!』

「その馬鹿でかいトーペドーなど、くれてやろう……!!」

「ダー!!」


 コサック・トルペードが自分目掛けて撃ちだされたと共に、デリトロス・ライフルによっては粉砕されていったものの――入れ違うように水面を打ち破ってオリーブ色の機体が射出された。トート・シーカーに備えられた6門の砲門から、一斉にビームは放たれた。マクロードが想定していた奥の手をカプリアは逆手にとって攻勢にかけたのであり、


『無茶苦茶な手を使ってくるとは……やべぇ!?』


 ロクマードとしてはこの思い切った一手にどこか感心したような感情を抱いていたも、その余裕を相手は抱かせる猶予も与えなかった射線上のバグリフォンを飲み込むかのような、大口径のエネルギー砲が――遥か遠方、小樽港に駐留していたダブルストはシュツルム・スナイパーを駆使する固定砲台としての役割も与えられていた。


『ふふ、こう美味しい所を何だかんだ用意してくれているとは。カプリアはやはり……』

『ただ、直撃する寸での所で奴が消えた気がするみゃー』

『だとしましたら、マーベル隊長は寧ろ仕留めそこなったのでしょうかー』

『……』


 バグリフォン目掛けて、シュツルム・スナイパーが決まった事へマーベルは勝ちを確信したものの――メルが言うには間一髪電次元ジャンプで行方をくらましていったとの事であった、うち漏らした事を指摘されたようなものであり、気のせいかマーベル本人も流石に開いた口がふさがっていない様子だった。


『これ以上戦力を消耗する必要はない。マクロードも先ほど戦線を離脱した』

『戦線を離脱……まさかマクロードが退くなら私に退けと!!』

『レーブンの為にこれ以上犠牲が出ては、流石に私としても……いやそれ以上にハインツが』


 直ぐグナートからはキャミィへ撤退を促すよう進言された。マクロードの無断での撤退も、彼からすれば寧ろ賢明な判断だと捉えており、キャミィにも引き際が肝心であると促す。もともと猛獣軍団の援軍として参戦していたにすぎないのだから。

 冷淡な判断かもしれないが、自分たち深海軍団へ致命的な損失は何としても避けたい。さらに言えば猛獣軍団の為に深海軍団の戦力が消耗すれば、ハインツは自分以上にレーブンを許さないと捉えた為であり、


『で、ですが相手がロクマスト……最弱のハードウェーザーなどに!!』


 ただ、マクロードがディエストを相手に撤退を余儀なくされたならば、バグテテュスが相手に回しているハードウェーザーはロクマスト、自分が最弱と見なしていた相手なのである。ひょうひょうと冷静な彼女ながら、微かなプライドが彼女の判断を鈍らせた――命取りへつながっていった。


「悪いが私はまだ健在だぞ……」

『しまった! うあぁぁぁぁぁっ!!』


 バグテテュスの背中へめがけて、ディエストはグレープ・クローによってデリトロス・レールキャノンの砲身を両手できつく握りしめる。押し付けられた指先からセイバーが展開した瞬間、砲身が圧壊していき、


『こ、ここで私がくたばるなら……あっ!!』

『それはこっちのセリフだ、バーカ!』

『ようやく見せる時が来たな……ガブリ・マウスターをな!!』


 背後から奇襲を仕掛けたディエストの対応へと、キャミィは気を取られていた。ミサイルを放つどころではなくなったバグテテュスの懐へとロクマストはアリゲーターの顔を模した頭部を突き出し、強烈なヘッドバットを胸元へと浴びせ――ワニの口そのものでかみ砕かんと装甲と装甲の隙間に牙をめり込ませていた。ロディがガブリ・マウスターとの口に出しており、


『こ、この技は……データには!』

『無理もない! 余のロクマスト・ロードはこれがお披露目だ!!』

『おいおい、そうペラペラ喋るならとっととやっちまいなよ』

『わ、わかっておる! 一味違うメーザー・サイクロンでな!!』


 リーンフォース・フンドーの部位が両手から両肩へ移設された事も、ロクマスト・ロードとして強化された為でもあった。彼が見舞ったガブリ・マウスターはアリゲーター形態の口で豪快にかみつく荒業であり、零距離の状態でメーザー・サイクロンを胸部へと掃射していった。食らいつく形で捕捉した相手を確実に仕留める為、一転にエネルギーを集中させ熱線を浴びせにかかっており、


『こ、こんな……最弱のハードウェーザーになんかぁ!!』


 胸部へ狙いを絞り熱線が勝者され、さらに自分をかみ砕かんとするロクマストの顎により、キャミィは押し潰されるのも時間の問題といえた。窮地に追い込まれてキャミィですら冷静さを失っており、両腕のガトリングをロクマストへ押し当てるように連射して、彼の装甲を意地でも風穴を開けようとしていた。

 リーンフォース・フンドーで砲身を巻き付け、両手の力で必死に押し戻そうとするものの、ガトリングの砲身はキャミィの執念が宿ったかのように動く気配がなかったものの、


「私も最弱と見なしているつもりか……まだ侮られているとは」

『か、カプリアさんとなれば、余も認めますが最弱が余だとは……』

『おいおい! 今そんなこと突っ込んでどうするんだよ!』

「ならフンドーを外してくれ、こいつで握りつぶすぞ!!」


 しかしキャミィの執念はむなしく、2機がかりのハードウェーザーを前に潰えようとしていた。カプリアの指示を受けて、フンドーを直ぐにパージして今度はグレープ・クローをガトリングの砲身を握りしめ、ディエストの握力とビーム刃で捻りつぶしながら、強引にバグテテュスを大の字に開かせ、


「ダー、ダー、ニェット、ニェット!?」

「何、ロクマストのエネルギーが少ないかもしれないか……とパルルが言っているぞ!」

『き、貴殿に言われなくても……敵が思っていたより頑丈で』

『まだ右手が開いてるからよ! 串刺しにしちまいな!!』


 メーザー・サイクロンを照射し続けていくにつれて、ロクマストのエネルギーも3割を切ろうとしつつあった。同じ水中戦を想定した相手として、バグテテュスの装甲が堅牢だと多少たじろいでいたロディだが、アグリカの言葉で右手に握られていた切り札の存在に気づき、


『リーンフォース・エッジだ……!!』

『あ、あぁぁぁぁぁっ!!』


 振り上げた右手にはアイアン・エッジが握られており――バグテテュスの脳天めがけて串刺しにしてみせた瞬間に、海原にキャミィの断末魔が響き渡っていった。引導を渡したと察してか自然と剣からロクマストは手放しており、


「よくやった! 直ぐに退避するぞ!!」


 咄嗟にカプリアが叫ぶと共に、ディエストがグレープ・クローでバグテテュスを握りしめたまま浮上を開始した。背中のストリボー・ブレークによる推力でロクマストから距離を取ったのち、ディエストの姿が消えうせるのと同時に、粉々に爆散する様子はロクマストにも見えており、


「や、やったぞ……どうだ、余を、これでも、ハッタリ野郎と……』

『それよりリーンフォース・エッジってなんだよ。人の借りて図々しいだろ?』

『……き、貴殿はまずそこを突っ込むのか』

『悪い悪い、まぁ良くやったよ』


 バグテテュスを討ち取った事へロディは緊張の糸が切れたのか、ぐったりと全身から力が抜け、感極まるあまり、半分虚脱したような笑い声が響いていた。けれどもアグリカは些細な突っ込みを敢えてかまして、拍子抜けさせることによりロディを我に返す。その後に、いつもながらの口調とはいえ彼の活躍を評価した。


「口とプライドだけの男ではない……改めて私も見直したぞ」

『まぁーあたしも嬉しいけど、こいつを下手に褒めないでくださいよ』

『まだ貴殿はそう……といいたいが、確かに余だけで倒したわけではないからな』


 カプリアが少し目を細めて褒めるも、大体誰に褒められようとも、アグリカが彼の増長を防ぐように釘をさす。けれども自分だけの力ではない勝利だと――我に返った今の彼は普段と異なりどこか遠慮しているのか、少なからず今、お高く留まっているロディの姿はそこにはない。


「……私たちに助けられた事を気にしているなら、寧ろ良くある事と考えた方がいいぞ」

「ダー、ニェット?ダー……ダー!」

「何? 私はちゃんとみんなを見ている上で動いているから強い、みんなをしっかりまとめている姿は格好良い……それは少し褒めちぎりすぎだが」


 カプリアは自分なりの経験をロディへ説く。彼がアンドリューやマーベルと異なり昔から地味な役回りが多く、かつて人気の観点としても控えめな存在であった――との自虐も少し交えつつ、それでも個々の強さより、個が各々の役割を果たしていく事でまとまりを見せていく強さを彼は信じており、


「少なからず、この勝利を誇っていい。私たちの勝利はお前たちの勝利でもある筈だぞ」

『よ、余は常に誇りをもっているのに何を今更! 胸を張ることが出来なくとも意地位は……』

「なら、胸も張ればいい。その上でお前が戦い抜いて、勝って生きて帰るようにすれば良い筈だぞ」

『……とカプリアさんからありがたいお言葉をのようですが、今の心境は?』

『……わかっておる』


 自分自身の力による勝利ではない。ロディがプライドの高さから意地を張って主張しようとした所、カプリアは胸を張って今の自分に誇りを持てと穏やかながら確かな口ぶりで激励をかわす。少しわざとらしくおどけ乍らも、カプリアがもっともな事を口にしているとアグリカが触れた途端、ロディは面倒くさそうに応対していたが、彼の顔つきは柔和な様子で緩み始めていた。


『カ、カプリアさん、ちょっと私のゴースト2が撃墜されてしまった場合、メルからお仕置きでされるみたいでして……この場合ですとその……カプリアさんの指示で動いたにすぎませんので! 私の過失ではないと。あぁ、いえ私はカプリアさんに責任を擦り付けるようなことは……』

「残念ながら、私は他のチームに深く介入しない人間だ。そこまでは責任を持てないぞ?」

「ダー!!」


 なお、先ほどイシュカとの一件でのお仕置きを思い出したルミカがカプリアへ助け舟を求めてい。しかし彼は苦笑しながらも関係ないと一蹴した事は言うまでもない。


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