33-3 リン対レーブン! 帽子岩の決斗!!

「……まさか、ハードウェーザーのプレイヤーだったとはな」

「一度も会っていないなら無理はないが……バグロイヤーからしたら仕留めるべき相手だ!」

「相当恨まれながら、あいつが戦い続けているとはな……痛快極まりない!」


 ――帽子岩の超常には十字架のような磔台が設けられており、剣策は鎖に巻き付けられて体の自由が封じられていた。そしてレーブンからは玲也がプレイヤーであると知らされ、バグロイヤーと戦っている事を聞くと共に、不敵な笑みを浮かびあげていた。


「何そう笑っていられる!」

「落ち着けデウラ、いずれにせよ始末してやろうとは考えているわ!」

「このままだと、確かに俺は負けているがな……」


 剣策が人質の立場だろうとも、恐怖に陥るどころか達観したような姿勢で物事を捉えていたともいえる。彼が全然臆しない様子にデヴラは苛立っている。彼女自身も逸る心を抑えつつ、あくまで人質としての役目を果たしたら、始末しても問題ないとの選択を取る。それでも剣策は全く怯えを示していないのだが、


「ただ、この俺を生かしたままとは……生きている限り報復を考えた事はないのか」

「……今は人質として生かされているだけだ! 分かっているのか!?」

「これだから姑息な手を使う者は負ける。死ぬか生きるか死に物狂いでぶつかりあうからこそ、少雨には勝てると決まっている」


 人質として生かされていることが命取りになる――剣策が負けたら死に至るのではなく、生きているうちに逆襲の機会があると捉えており、若干考えが軟化しつつあった。勘当した秀斗の影響があったかは定かではないが、


 降り続く雨にヴィトンが不快感を露わにしており、デヴラはレーブンを気遣う言動をとっていた。彼の計らいにレーブンは少し声を荒げていたものの、単身で生身の戦いに踏み切る決意は固い。


「そもそも、お前一人が玲也と戦うつもりなら三人も必要かどうか」

「私は一人で戦うつもりだ! 貴様が逃げないための見張りで3人いるだけだ!」

「そうです。玲也が先に貴方を助けられたら困りますからね!」

「……全く、支離滅裂だな」


 レーブン自身が決闘へ応じるのだと剣策は把握しつつも、それにもかかわらず3人で待ち構えている事が矛盾同然だと鋭く突く。彼女としては仮に玲也が勝ったならば、自分の身柄を解放するつもりかもしれないが――なおさらその正々堂々なり、騎士道精神なりを主張する彼女へ苦言を呈せずにはいられない。ヴィトンに殴り飛ばされようとも、剣策は無抵抗ながらも信念を曲げることはなく、


「戦争を仕掛けているバグロイヤーの癖に何が決闘だ。あいつが応じる保証もあるのか?」

「応じないならバグロイド軍団を送るまでだ! この北海道が火の海になる事は望んでいない筈だ!!」

「そこまでして決闘であいつを始末したいとは……そんなに誇りや名誉が好きか」


 ――決闘に応じない場合としてバグロイドを送り込もうと圧力をかけている。これも全て玲也を討ち取った事をレーブンが誇りとする為だが、剣策が彼女の事情など知る筈もない。同じ戦う人間からすれば馬鹿馬鹿しいと剣策が一蹴すれば、デウラに殴り飛ばされており、


「……俺が気に障る事を言えばこうも殴り飛ばす。結局俺を力で従えさせようとしているのでは」

「やめろデヴラ! 私がどういわれようとも構わん!!」

「ですがやはり、この男をほったらかしにしては危険です! 殺しましょうよ!!」

「全く、チグハグな女よりまだお前たちの方が話せる気がする……?」


 決闘を重んじる者でありながら、相手を強要させ屈服させる力を平然と行使するレーブンをチグハグである――剣策がそう指摘した時、彼女は少し慌ててデヴラに彼の暴行を止めるように命じる。ヴィトンは彼をやはり殺すべきだと態度を改めない。むしろ剣策は彼のように憎まれる事を快いと見ていたが、


「どうやら、来たようだな……」

「……来るなと言ったが、情に溺れたか」


 ――剣策の後方から波を蹴りたてる音が響き渡っていた。彼が振り返れば、銀のバイクが海原を突き進んでおり、キャノピーに片足を乗せた一人の少年が現れつつあった。玲也の接近に対し、剣策が弱腰だとどこか辟易とした渋り顔をを見せていたものの、


「よく私の挑戦に応じたな! 礼を……!?」


 フードをかぶりながらも深紅のパーカーと青のジーパンを着こなした彼に対し、レーブンは敵でありながら、決闘を受けて応じた事を快く思うものの――帽子岩のおおよそ40mの全高よりも高く彼は飛び上がった事へ思わず目を疑った。


「貴様が玲也か! そのフードを……おい、相手は私だぞ!!」

「俺を相手にするとはいい度胸だ! むしろ望ましい!!」

「待て! この私が止めを刺さなければ……」


 更に玲也はレーブンではなく、剣策を見張っていた筈のデヴラに向けて、すぐさまポケットから取り出したロングブレードで切りかかった。

 予想外の展開であったものの、デウラは鎖鎌のチェーンを駆使してその刃を受け止め、ヴィトンは背後から太刀で彼の首を刎ねようと横一文字に振るったものの――玲也がすぐ身をかがめ、デウラの胸元めがけ、逆にタックルをお見舞いして突き飛ばす。


「やはり、替え玉か……よくも私を侮辱したな!!」

「……玲也さんを死に行かせる事を私は許しません! 私が来たからには生きて返れないと思わないで!!」


 身をかがめてわが身を守ったものの、ヴィトンの刀を前に、フードの頭頂は横一文字に切り落とされた。その為フードで隠していたリンとしての素顔が露出してしまった。

 無論決闘の約束を反故にされたのだと、レーブンは騙されていたと怒りをあらわにした。けれどもリンはいつもの彼女らしからぬ闘志を、それも殺意を乗せて逆に眼光で彼女を威圧する。


「バグロイドを既に呼んだが、これで怒りが収まらるなど……!!」


 すかさず突き飛ばしたヴィトンの元に起爆式のクナイを右手から投げようとするも、逆にリンが目の前の相手の一撃により宙を舞った。レーブンが両手に装着したガントレットを回転させて、顎から真上へアッパーをぶちかました。

 そのまま追い打ちをかけようと飛ぶものの、身にしていたパーカーとジーパンをまるでマントのように軽やかに脱ぎ捨て、レーブンの視界を防ぐように投げつけて追い討ちを防ぐ。


「そのような姑息な手を!!」

「貴方が言えた事ですか……私の勝ちですよ!!」


 受け身を取ると共に、リンはレオタードを模したエージェント服姿をさらしだす。剣策の付近へと軽やかに着地した後、目を合わせた途端、彼が今置かれた状況に気づいた様子だが、


「……お前が玲也の代わりと思うが、筋は悪くないようだな」

「それよりお爺さんは直ぐ逃げてください。手筈は整えていますから」


 十字架の磔から剣策を拘束する鎖は既に外されており、3人の刺客からリンが彼を庇うように構えている。あとは彼を無事逃がして自分の役目は果たされる筈だが、この状況だろうとも剣策は冷静に自分の腕を評していおり、


「かかれ! 二人とも血祭りにあげろ!!」

「言われなくても」

「爺さんは元々殺すつもりでいましたからね!!」


 体の自由を取り戻した剣策に、自分がますますコケにされているとレーブンのプライドは傷つく。既にデヴラとヴィトンに二人もろとも仕留めるように命じていたとなれば、


「お爺さん! ここは私が食い止めますから早く!!」

「言われなくても分かっている。早く片付けたかったから寧ろ都合がよい」

「片付けたかった……ってえぇ!?」


 剣策は岩の後ろへ控えたティービストに向かうどころか、逆に自分からレーブンの元へと飛び出していった。まるでわが身の危険を顧みていないような行動だが、リンが止めようとも彼は退くことを選ばない。


「いずれは消そうと考えていた! 今ここで……おわぁっ!!」

「本当に決闘を望むだけ一本調子だな!!」


 レーブンの両足に装着されたローラースケートにより、一気に剣策との間合いを詰めようと急速に迫る。白兵戦ならば明らかに彼女に分があったはずながら、剣策は直ぐにしゃがみ込んで右足で彼女のローラースケート目掛けて足払いを放つ。鉄下駄を着用しているとは思えないほどの素早い足の動き、ローラースケートにぶつけるようお見舞いした鉄下駄の質量は、彼女の足を引っかけて転倒させるだけの威力を発揮した。


「ちょっとお爺さん……!?」

「戦いで他の事を考えるな!」

「は、はい!!」


 剣策の想定外の動きに、デヴラとヴィトンの相手を務めるリンは呆気にとられる。剣策へ一喝される時、デヴラの鎖鎌に彼女のロングブレードは巻き付けられた。思わす生じた隙を突かれたと気付くと、


「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 直ぐ彼女が右手に力を入れてロングブレードの刃を岩盤へと突き刺し、デヴラの鎖鎌ごと彼の体を前のめりに引きずり込む。そのロングブレードの柄を軸と見立て、手のひらを押さえつけてバネのように体を高く飛び上がらせた後に、後頭部に向けて回し蹴りを浴びせた。


「……身代わりだろうと戦いの場に出たのなら勝て! 殺しにかかってくる相手なら返り討ちにしても勝て!!」

「そのつもりです! 玲也さんを守る為でしたらこの手がどう汚れても構いません!!」

「……玲也の為に体を張り、屍を踏みつけてでも生きて帰る気だな!」


 リンは自分自身が玲也の犠牲になる事を考えていない――彼の為に自分はこの手で敵を仕留めて、生きて帰る。普段のリンを剣策は知らないが、彼女が心の内にある信念と闘志に突き動かされていると見た。


「ぐはっ……」

「悪く思うな。そもそもお前が先に攻めてきたから受けて立っているにすぎん」


 リンの戦う姿を遠目にして、剣策はかすかに笑みを浮かべる。そして先ほど自分が転倒させたレーブンの後頭部を思いっきり踏みつける――たとえ鉄下駄だろうと何度も足蹴にすることに躊躇いはない。

 レーブンが決闘へ固執していた筈だが――自分の身柄が解放された途端冷静さを欠き3人がかりで襲ってきた事により、改めて彼女の誇りや名誉は薄っぺらいものだと判断した。その薄っぺらい拘りなど、己の力で粉々にすることもできる。生身の老人だろうとも容赦しない攻めであった。


「おのれ……!!」


 猛獣将軍として生身の戦い、それも電装マシン戦隊と関係ない一人の老人にこうも圧倒されている。地に塗れるレーブンはガンドレッドとローラースケートに設けられたスクリューを回転させ、寝そべった状態で前進する。その結果足蹴にした剣策の体がバランスを崩し後方に倒れ込む所、


「だから小娘は手間がかかる……!!」


 直ぐ両手を地について逆立ちさせたの体勢となり、両足をVの字に広げ体をひねって勢いをつけ、右の鉄下駄を飛ばす。リンに切りかかろうとするヴィランめがけて。デヴラの鎖鎌へ楔を打ち付ける要領でロングブレードを犠牲にしてしまったため、リンが予備のロングブレードを取り出そうとした瞬間を突こうとしたのだ。


「だからあんたは一体何なんですか!!」

「俺は羽鳥剣策、それ以上でもそれ以下の存在でもない……」


 逆立ちから起き上がる要領で、剣策はもう片方の鉄下駄を脱ぎ捨て、代わりに右手で鉄下駄の緒を握る。度々自分の攻撃を妨害されたヴィトンは我慢の限界に達し、自分を標的と定めた事を見据えている様子だった。

 実際太刀が振り下ろされる瞬間に、剣策は右手にした鉄下駄を盾の代わりに突き出し、柄を握る手に向けて鉄下駄の歯を勢いよく命中させた。メリケンとして鉄下駄を駆使することで、ヴィトンの手を痺れさせた上で、今度は顔面目掛けて何度も鉄下駄で殴打する。


「さて、あと何回でくたばるか……と言いたいがタフだな」

「あ、当たり前ですよ、僕のようなエージェントが、お前みたいな……」


 剣策に何度も殴り飛ばされ、ヴィトンの顔が少し腫れあがり、眼鏡も粉々に砕けていたが――それでも彼へ目立った外傷は然程見られない。既に人間を相手にお見舞いしたならば、撲殺される程殴り飛ばしていたにも関わらず。


「お爺さん、エージェントとして強化されているかもしれません、武器に余裕があれば貸したいのですが……」

「――なら、お前の武器なら殺せるのか」

「……そうですね。敵もなかなかですが上手く隙を突いてみます」


 ヴィトンを相手にすることに面倒だと感じたのか、剣策がダメ押しに放った一撃で彼を帽子岩から転落させる。この手で一人戦線から一時離脱させたためか、僅かながら余裕が生じたのだろう。彼の近くへとリンが歩み寄っていたが、いつの間にか共に戦う相手として気遣う言葉を述べた。


「……俺も優しく癒すだけの女を選ばなければ、また違ったかもしれん」

「この時に何の話ですか?」

「いや……玲也が死ぬか生きるかの戦いをしているなら、その位の闘争心は当然かもしれないな!」


 ――起き上がったレーブンだが、顔を抑える右手から赤い液体が垂らしていた。それまで着用していたアイマスクが粉々に砕け散り、既に自分の顔を覆う機能も果たしていない。剣策に後頭部を何度も踏みつけられた結果、額が割れてのだ。それだけの傷を負わされた彼女として、もはや剣策こそ自分のプライドを踏みにじった相手だと殺す対象と見なされていた。ローラースケートを駆使して迫る彼女に対し、鉄下駄を脱いだ裸足の彼は彼女に追随する素早さを発揮しているが、


「くたばれぇぇぇぇっ!!」

「……何と! ぐあっ!!」


 すぐに飛び上がったレーブンは、両足のローラーを生かしての蹴りで剣策に一矢報いる。鋭利なブレードを展開させる彼女のローラーに対して、彼は鉄下駄を盾として受け止めるものの――彼女の全体重が集中した脚部のブレードは、右手だけで威力を殺しきる事は出来なかった。


「お爺さん、大丈夫ですか!?」

「腕一本どうなろうとも、勝てば問題ない……そう言いたいが」

「いつまで強がっている! もう丸腰で片手の貴様に何ができる……!!」


 右手首から奇妙な音が鳴り響き、剣策は思わず鉄下駄を手放し、左手であり得ない方向に曲がった右手を抑えだした。レーブン達に対抗できるだけの二足の下駄を喪った剣策は窮地に立たされようとしており、


『俺がここで助けたら意味がなくなる。あいつが自分を解放して戦っているとなればな』


 ――ティービストが帽子岩の影に隠れながら、ニードル・シーカーを射出して剣策を拘束する鎖を焼き切っていた。しかし剣策が自ら前線に出て戦いを繰り広げていった結果、リンの闘争心に火を点いたのだとレクターは見做していた。今まで周りを気遣い、控えめな姿勢へ甘んじていた彼女が、りのままの自分をさらけ出しているこの現状を好機と彼は見ており、


『あとはお前が早く来るだけだ、玲也……!!』


 リンとの想いが通い合おうとしている――ワイズナー現象を発動させる玲也がこの帽子岩へ辿り着く時が運命の瞬間であったが、帽子岩に一人の影が再び飛び上がる事をレクターは捉えた。

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