28-6 敵か味方か! 謎の電次元戦士レクター

「確かにフェニックスで動けるのはお前だけだけどなぁ……!」

「バ、バン君落ち着いて、落ち着いて。アイラ君も無事だから」

「司令がなぁなぁでどうするんだよ!!」


 ――フェニックスのブリーフィング・ルームにて。アイラとフレイアが帰還するや否やバンは腕を組みながら、厳つい表情で睨みを効かせる。二人の間をガンボットが仲裁しようとするものの、彼にはとてもその務めが果たせそうにない。


「俺が言うのもガラじゃないがな、フォートレスのシステムを落とす奴があるか!」

「まさか、オマエに乗っ取られるとは……油断したパチ」

「……私もシンヤさんに協力してました。コンパチの構造は頭の中にあります」


 バンが指摘する通り、自分たちが出撃するためにシステムを掌握する事が命取りになりかねない。コンパチとして、自分の開発に関わっていたフレイアに掌握された事も含め苦々しくぼやき、


「けど何で俺がひどい目に遭わないといけないんだよ! 何故かロディさん出てたけどよ」

「でも、僕たちの交代で来るとか聞いてないけど……」

「まさか、あいつらまで……俺が出ようにも出れないのによ!!」


 才人もまた彼女たちの無断出撃に巻き込まれた被害者である。イチの一言から無断出撃が重なって生じた事態ではないかと、バンが思わず頭を掻きむしる。本来なら自分が前に出るべきだが、相方の容態がそれを許しそうにないだけにやりきれない様子の中、


「フレイアをそう仕向けたのはウチや、ほんまウチが謝っても許してもらえへんけどな」

「い、いや別に私はそこまで怒って……」

「司令がそれでどないするんや! ウチは逃げも隠れもせぇへんでぇ!!」


 アイラがフレイアを庇い立てるように一歩も前に出る。足を大の字に開いて腕を後ろで組む。顎を引いて歯を食いしばる様子から、彼女なりにけじめをつけようとしている。ガンボットが事なかれで終わらせようともする様子も断じて拒んでいる。


「お前がその気なのはわかった……ただな」

「……私は同じ女です。バンさんより抵抗は少ないかもです」

「なんや、後ろでボソボソ何言って……」

「あぶねぇ!!」


 最も大人の自分が手をあげる事に対し、流石のバンも躊躇した瞬間だ。すぐ後ろから口を開くフレイアの方を振り向いた瞬間、彼女の平手がアイラの頬を飛ばす。彼女の体が大きく後ろへのけぞると共に、バンが少し青ざめた様子で飛び出す。どうにかアイラの体を受け止める事に成功し、


「……フレイア、ど、どないしたんや、なぁ?」

「おい、意識はあるか!? 動いてるの分かるか!?」

「フレイア君、これは私やバン君のすることで……ハドロイドの君がやると」

「……手をあげて申し訳ないです、アイラ様。ただ……」


 呆然とするアイラに対し、彼女の目の前で手を振ってハッキリと意識があるかどうかを確認する。ガンボットが彼女の唐突な修正行為へ慌てて苦言を呈そうとするが、彼女は非礼を詫びながらアイラを見つめ続けており、


「……シンヤさんの元に逝けるから怖くない。あの時アイラ様は言いましたね」

「そ、それは……もうどうないしようも、埒があかんくて!」

「……あの時の可能性は私も計算してます。ですがアイラ様が死んで良い訳がないです!!」

「……!!」


 フレイアとしても、窮地に追いやられたあの状況から逆転の可能性は果てしなく低いと見なさざるを得なかった。それでもアイラが斃れる事だけは許そうとしなかった。アンドロイドとして計算ずくで動く彼女が初めて自らの意思を優先させた瞬間でもあり、


「……シンヤさんに続いてアイラ様まで逝かれたら、私はどうすればよいのですか!? あの時何もかも捨てて逃げるつもりでしたか!?」

「逃げる……ウチが、ウチがなんか?」

「……無事助かりましたから私も言わせてもらいます。二度と私の前でそのような事を言わないでほしいです。言葉のあやだとしてもです」

「ホンマそう思っとたんは確かなんや……けど!」


 端を発したように、フレイアが自らの感情をアイラへと畳みかける。口ぶりも淡々とした普段の様子と異なり、アイラの心もまた強く打たれようとしており、


「フレイアさん、いつもと違う……」

「そうだね。こういうフレイアを見れるなんて……本当俺でも先が読めないね」

「本当そうで……って!?」


 フレイアがパートナーを叱咤激励する様子に対し、外野の才人とイチが物珍し気に眺めていた時だ。二人より遥かに背が高く、二枚目の色男がこの場にいるのだ。青髪の彼が何食わぬ顔で平然とした姿でいる様子へ思わず二人が驚愕しているが、


「ムウ……おい、ムウだよな! ちゃんと足が二本あるし」

「まま、その通り。俺がハドロイドでも、幽霊じゃないからね」

「それは分かったけ! けど、メルが打てる手は打った筈とか……」

「実はじゃな、何というか……」


 二人以上にバンが目の前の現実を受け止めきれていない。だがブレーンが言う限り、フレイアがシステムを掌握した関係で、メルのラボも一時的に電源が落ちた事が結果的に強いショックをムウに与える事となった。つまりフレイアが起こした行動が結果的にムウを蘇らせる事となり、


「傍から見たらビギナーズラックかもしれないけど……感謝するよ、心からね」

「……嬉しいです」

「オレが操られて起こしたと思うパチが、ここは口にしない方が良いパチね」


 コンパチが少し突っ込みかけていたのはともかく、蘇って早々ムウは最愛の彼女へ心からの礼を述べた。フレイアが顔を俯かせ、顔を赤らめている様子は以前よりも感情的にも見えた。


「ムウはん、ホンマ良かったな……うち守ってオダブツは縁起悪いじゃ済まへん」

「丸く収まるとしても、私抜きで終わらせられたら困る」

「マーベル君!アトラス君の事はもう……」

「一部始終見させてもらった。後は私が話をつけるだけだ」


 ムウの復帰でフェニックスの空気は少し明るくなったものの、マーベルは厳しい表情でこの場を仕切る。彼女の眼光に圧倒されるようにガンボットが退散し、すぐさま目と目が合ったアイラが恐る恐る前に出ており、


「私の許しがあるまで、二度と実戦には出るな……謹慎だ」

「待てよ! 今謹慎とかしてる場合じゃないだろ!!」

「お前と私でどうにか回る! だからケジメはつける!」

「せや、何を取り上げてもウチが悪いんやさかい」


 実質謹慎の沙汰が下されるが、アイルランド奪還を目前としてのマーベルの裁きはバンが疑問を投げかける。それでもアイラが受け入れている様子を目にすれば、そのまま彼女を手招きしようとしており、


「いくらでも歯くいしばったる。それがケジメの……」

「生きて還ったお前に無理させなくてもな……私とバンに任せろ」

「マーベルはん……まさか!」


 改めて修正を受ける覚悟を示したアイラだったものの、彼女を暖かく抱き寄せると共にねぎらいの言葉をマーベルはかけた。彼女の意外な一面へ少し呆気にとられたものの、彼女の頬が赤く腫れていた事に気づく。すると少し顔を赤くしながら、


「アトラスの事は気にするな……リーダーとしての務めだ」

「大丈夫なんか!? いくらマーベルはんでもボロボロやったら」

「今、ボロボロなのはお前だろう」


 マーベルが席を外していた事は、アトラスの遺族へと彼の戦死を報告する為であった。自ら足を運んで頭を下げただけでなく理不尽な彼の最期へ、やり切れない遺族の憤りを一身に受け止めた――リーダーとしての責務を彼女は果たしたが、自分よりアイラの身を案じていた。そして、


「許しが出るまで、腕を鈍らせていい訳ではない……良いな」

「あ、当たり前や! 二度とくたばらへんとフレイアにも、フレイアにも……!!」

「人目を気にする事は……男どもは早く持ち場に就け。ムウもだ」


 謹慎処分は建前に過ぎず、ポルトガル代表が傷ついた羽を休め、再度飛ぶまでの猶予を与える意味合いであった。彼女が気のすむようにさせる為、彼女は少し荒い口ぶりで男たちを部屋から退散させる。


「……何だかんだと、やっぱ俺達のリーダーだね。バンも同じだろ?」

「いちいち決まっている所が気に食わないけどよ……たいした女だぜ」

「おや、やっぱバンくんも妬いてるって奴?」

「誰がだよ! 変な事言うなって……」


 ブリーフィング・ルームを後にして、イタリア代表の二人はマーベルの心意気を評する。バンとしては彼女への対抗心も少し引きずっている。そんなパートナーへとムウは手を差し出し、


「もうスタンバってるからね……ファインに決めようじゃん。そうだろ?」

「……エンジンは暖まってるからな。望むところだ!」


 復帰間もなくとも、パートナーの闘志は常にぎらついている自分に勝るとも劣らない。改めて固く握手を交わす二人の後ろ、ブリーフィング・ルームの奥で彼女は声を挙げて哭いていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「アグリカ姉ちゃん! ロディの兄ちゃんが凄かったぺよ!!」

「ありがとな、まぁラグ坊の方がずっと凄いけどさ!」


――ドラグーンのアラート・ルームにて、エジプト、ブラジル両代表が帰還する。ラグレーが早々に感動を露わにして飛びつき、アグリカがまんざらでもない様子で彼の頭を撫でた所、


「アグリカさん、まさかと思いますが……」

「あぁー、やっぱり起きてたか。そりゃ色々あったから無理ないけど」


 そのアラート・ルームには玲也の姿があった――半纏を羽織る病み上がりの中だろうとも、彼の眼光はぎらついており自分へ鋭い視線を突き付ける。流石のアグリカも言葉を濁らせようとしており、


「玲也の兄ちゃん! ロディの兄ちゃんは頑張ったっぺよ!?」

「いや、だからと言ってそれとこれは……」

「今熱くなっちゃだめだよ! 玲也君無理してるのに!!」

「そ、そうだぞ。アグリカにはおそらく事情があってだな……」


 ラグレーやシャルが玲也を宥めようとしており、ウィンもまたアグリカの心境を知る身としてはぎこちないながらも擁護に回っていた。その最中突然豪快な笑いが響き渡り、


「何を勘違いしちょるかのぉ、二人とも命令があって動いたんじゃ」

「命令……将軍からですか!?」

「すまんのぉ、将軍もワシも忙しく伝えてほしいと頼んだんじゃが……」


 少し険悪な空気だろうと、お構いなしにラルは笑い飛ばして真相を明かす。キョトンとする玲也達を他所に、ラルの視線は最年長の彼へと動き、


「おぉ、私とした事が大事な伝達を忘れていたとは……」

「伝達……爺は知ってたんだべか!?」

「いやはや、若の事で手一杯でして……皆様に余計な心配をおかけしまして申し訳ございません」

「ヒロさんが頭を下げる事ないわよ~、アグリカもノータリンも無事だったんだし♪」


 ラルに呼応するようにして、ヒロが自分の伝達が行き届いていなかったのだと頭を深々と下げる。これまた周囲が呆気にとられており、リズがヒロの責任ではないとフォローを加えた。相変わらず小馬鹿にされている事へ、彼が微かに眉を顰めながらも、玲也の元へと出ており


「これで余が認められたかは分からん……精一杯やったつもりだが」

「結局、ラルさんが出たからなー。俺も何時でも出れたのにさ!」

「……余がまだ至らなかったのは認めるとしよう。でもだな!」


 半分私情が入り交ざっているシーンに突っ込まれていたが、ロディは依然と違って未熟さを受け入れつつあった。それでも声に気迫が宿った瞬間、


「余も後には退けん! 大統領の三男坊など関係なくだ……!!」

「……!」

「せめてアトラスの分までは戦わせてくれ! 余が貴殿に言えた事ではないが……頼む!!」

「嘘、玲也君に頭下げてるの!?」


 玲也を前にして、ロディが深く頭を下げた――シャルが驚愕しているが、彼の後ろでアグリカの視線が穏やかな物へと変わりつつあった。つまらない権威やプライドを投げ打ってまで、一人のプレイヤーとして戦おうとする心構えが芽生えてきていたのだから。玲也はしばらく黙った後に首を横に振り、


「これからも厳しいかもしれないですが……本当ですね?」

「あ、当たり前だ! 二度と逃げる事も引きこもる事も……余を信じろと急に言われても、その」

「でしたら、俺からも頼らせてもらいます」

「そ、そうか。余を頼って……何?」


 玲也の返答はロディからしてもまた意外な方向に飛んだ。立ち上がった彼が手を差し出した様子に対し、思わず躊躇もしていたが、


「一人じゃない、みんないる……アグリカさんがそう言ってましたからね」

「おぉ、アグリカもえぇ事を言っちょったなぁー、そう思わないかのぉ?」

「ラルさん、そんなに乗せないでよ。ほらお前も応えてやりなよ~」

「わ、分かっている……こうまで言ったなら当然だ!」


 ロディが少なからず傲慢で素直になり切れないとしても、今の彼は玲也の信頼を裏切らないと握手を交わして応えた。ドラグーンに生じた緊張感がここで遂に消えうせると共に、


「俺もみんなを信じて託します! アトラスさんの分だけでなくバグロイヤーを叩きのめす事も!!」

「新しい風が吹いちょる……えぇ事じゃ!」


 玲也がリーダーとして決意を新たにした様子へ、ラルとして理想のチームに近づいているのだと、彼を後押しするように周囲へ力強く語りかける。アトラスの犠牲を乗り越えようと結束が始まろうとしている中、


「まぁ、あたしらもハッタリ野郎で終わるつもりないからなー、これから気を付けろよ?」

「まだ根に持ってたんですか……本当不思議な事ばかり起きますね」

「不思議な事―? シーンが出番ない事気にしてるいつもの事~?」

「い、いつもの事ってステファー……ロクマストじゃなくて、ネクストの事だよ」


 先ほどの暴言をアグリカが突っ込んでおり、シーンも渋々認めざるを得なかった。ただステファーさえ指摘する彼の出番と別に、玲也が不在だろうとネクストが動いた事を触れた瞬間、


「そうだよ! 何で玲也君が休んでたのにネクストが出てたかだけど」

「後になって申し訳ないね。色々立て込んでいてね」

「将軍! それにニア達も……って!?」


 シャルが疑問に感じた瞬間、エスニックに連れられるようにしてニア達が姿を現す。玲也が目を点にしたのは彼女たちではなく、全身を覆う仮面と鎧で包み込み、背丈より少し短いサイズの棺を背負っている男の存在。先ほどまで自分に代わってネクストを動かしていた人物その人であり、


「……この人は一体誰ですか?」

「あたしにもわからないわよ! 会った事が一度あるって言ってるけど!!」

「その事もいずれは分かる。ゼルガからお前を助ける為に来たとだ言っておこう」

「ゼルガから……正直貴方が誰か見当がつかないですが」


 この仮面の男に対し、ニア、エクス、シャルの3人とも面識がないと言いたげではある。だがゼルガから送られてきた人物との事で、玲也が彼への関心が強まった所、


「俺はレクター。地獄の底から蘇った電次元戦士とでも名乗ろうか」


 死の淵から這い上がった仮面の男――電次元戦士レクターは何者であろうか。アトラスの犠牲を乗り越えて立ち上がろうとする玲也が更なる高みへ上り詰める事を、彼は示唆しようとしていた。


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次回予告

「電次元戦士レクターは一体何者か? だがそれよりもアイルランドの奪還を急がなければならなかった。セインクロスを討つため単身で殴り込んだレクターに対し、俺たちはアイリッシュ海のバグロイド軍団を迎え撃つ。レスリストを葬ったパラオードとディータもまたアイルランドにいた。みんな、アトラスさんの仇を討つぞ! 次回、ハードウェーザー「大激突!アイルランド決戦の日!!」にクロスト・マトリクサー・ゴー!」

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