28-5 無残! 天空将軍の敗北!!
『多分直撃したら、アタリストが浮かんでくると思うから』
『まな板の上の鯉……か。悪いな手を借りちまってな』
『天空軍団から頼んでくると思わなかったけどね……面白いなと思っただけ』
――アイリッシュ海上空にて、バグファイターを率いるバグリフォンは静観の構えを取っていた。彼らの足止めとしてアグリカがトート・シーカーを展開していたものの、アグリカの操縦もまたロクマストの窮地を前に精彩を欠いており、天空軍団は散開するのみ、始末しなくとも危害はないと見なしていた為だ。
それどころかマクロードはキャミィと連絡を取っており、自分の作戦が深海軍団と共同で成し遂げようとしていた。レーブンが一方的に深海軍団を嫌悪していたに過ぎず、キャミィとしてマクロードへは少なからず友好的な姿勢を取っていた。
『バグリフォンは海の中はイマイチだからな。一匹狼貫くのも厳しいんだよ』
『ですがマクロード様、深海軍団と手を組むことに』
『レーブン様の許可は得られてないのは、その……』
『つまらないプライドで勝てるのも勝てなくなる。何事も実を取れだ!!』
最もマクロードの独断で深海軍団と共同戦線を取っていた事へ、部下たちは不安を隠せないでいた。当の本人は特に懸念している様子がなかった所――金色のフレームが展開されて、瞬時に装甲が被さっていく。白銀の本体へ黄金の装甲と翼を纏った煌びやかなバグロイドこそ、
『バグイカロスだ……レーブン様!』
『あの、その……前へ出られるとの話は聞いていませんが』
『ちょっとマクロードが上手く行くか心配だったからね。僕が直々に来てやったんだ』
『本当信用されてないなぁ、俺……もう時間の問題なのにさ』
バグイカロスとのバグロイドこそ、レーブン自らが駆るバグロイドである。彼が参上した口実は建前に過ぎないと見透かしつつも、マクロードはお呼びでないと冷ややかな態度を取っているが、
『シラーケから聞いたけど、深海軍団と組んだんだよね。グナートに借りを作るんだよ?』
『そんな事、俺は興味ないね……勝つ事とどっちが大事だよ』
『両方に決まってるじゃん! わざわざ死んだ君が蘇って僕に雇われてるんだぞ!!』
『地獄の底から蘇ったら何でもできる……マジかよ』
既にマクロードが深海軍団と結びついている事を、トループは糾弾する。まるで上手く事が運ぶことを望んでいないかのように彼は難癖をつけており、一応上司となる相手に対して、マクロードが辟易とした心境となっていたものの、
『トループ様ぁーっ! まさかと思いますがこのまま……』
『そうだよ! 僕のバグイカロスは海も怖くないし!!』
『や、やめてください! もしトループ様が、その、あの……』
『わざわざ将軍様が前に出る間もねぇのに……どういうつもりだよ!』
シラーケを始めとする部下たちは一応制止しようとはしていたものの、トループは自らアタリストを仕留めようと意気込んでいた。少し声を荒げてマクロードが批判していたが、
『お前が天空将軍になったら、グナートの奴に跪くんだろ!? そんな奴に任せられないんだよ!!』
『にゃろう、最初からやっぱそのつもりかよ……本当利用しやがって!』
『うるさいうるさい! 僕が天空将軍、だから一人で倒してやるんだよ!!』
『……おい、退けるなら退いた方がいいぞ。俺が戦う理由もないんだしさ』
結局、天空将軍のポストをグナートは何があろうとも渡さない胸の内。本当に利用されていたのだとマクロードは完全に見限りつつあった。今の天空軍団についていくのが馬鹿馬鹿しいと密かに戦線から離脱しており、実際バグファイターの2、3機が躊躇しつつも離れいったのだが、
『アタリスト、僕が引導を渡してあげるよ……丁度出てきてたみたいだし!!』
海中からハードウェーザーが浮上する反応を捉えた――トループは好機だと早々に攻勢へ出る。マクロードからすれば脅威とならないトート・シーカーをデリトロス・ライフルで撃ち落とした後、浮上する標的へと直ぐ照準を合わせ、
『いっけぇぇぇぇぇっ!!』
すかさず、バックパックの8連ミサイルポッドが一斉に火を噴き、ライフルも立て続けに連射していく。これも浮上する獲物を射抜かんとするためだが――目の前に現れ出でた相手は余りにも小さい。ライフルからの閃光を何発か当てると共にあっけなく砕け散るものの、
『な、なんだ……囮なら囮だと言ってくれたらいいのに』
『すまんのぉ、前もってそうだと言えばよかったかのぉ?』
『そうそう……ってえぇっ!?』
浮上した獲物は本体から射出された握りこぶし一つに過ぎなかった。トループが思わず拍子抜けするものの、休む間もなくしてその本体がお出ましとなる。海面を割る巨大な角と共に登場した相手はバグイカロスの倍ほどの巨体、それだけの体格のハードウェーザーとなればただ1機。
『ジーボスト……なんで、何でいるんだよ!?』
ジーボストは現れて早々、片手で掴みあげたバグダイバーの本体を力いっぱいぶん投げる。左手に装着された巨大グローブ“キャンドレッダー”を振るうと共に、すでに動かぬ深海軍団の亡骸を打ち砕いて防いだものの、
『ちっくは歯ごたえがあるかのぉ、海の奴はトンズラして退屈じゃったんじゃ』
『ふ、ふざけるなよ……おい、何とかしろ、その為にいるんだろ!!』
咄嗟に防いだ攻撃も、ラルからほんの挑発やあいさつ程度に過ぎない。真っ向からぶつかって勝てるはずがないと、バグファイター3機を前へ出るように命じる。マクロードが見限ると共に半数が戦線を離れており、留まっていた彼らもまたトループと板挟みになって躊躇していたにすぎない。彼らの動きは鈍く、レールガンによるロングレンジで攻め立てるが、
『もう、悪い虫ねぇ! 寄ってたかってヤな感じ!』
『図体ばっかデカいと損よのぉ……まぁ見ちょれ』
バグファイターのレールガンもまた、堅牢なジーボストからしてみれば蚊に刺されたような傷に過ぎない。チマチマと削るような攻め方にリズは少し苛立ち、ラルとしても拍子抜けした様子だが、
『悪い虫なら、とっとと追い払わんといかんのぉ!』
ジーボストがバグイカロスに対する囮として、既に左手を飛ばしていた――さらにアメンボ・シーカーがクアンタム・ガトリングへと姿を変える。アイブレッサーでレールガンの弾丸を薙ぎ払いながら、ジーボストの左手首へ装着された瞬間、
『悪いけど、少し黙っててよね!』
『名付けて、電次元ゴッドリンガーぜよ!!』
『ゴッドリンガーだと……うがあっ!!』
『……ひ、ひぃっ!!』
――左腕に備えられた4門の銃口が激しく回転する。低い唸りを挙げると共に、閃光が拡散した途端、胸部に見舞われたバグファイターが瞬時にして葬り去ってみせる。その威力だけでなく、データにないジーボストの大技へトループが思わず肝を冷やす程だった、
『プレッシャーをかけるのもプレイの一つじゃ、プレスとは違うぜよ!』
『最後の方わかんないけど……って、もう派手に壊れてるわ!』
『なんじゃあ……ちっくと祟った、ぶっちゅう手は通じんとも言うからのぉ』
電次元ゴッドハンドの威力に加え、ビートル形態の脚部を構成するガトリングアームの可動性が付加された結果、ショットガンのような拡散性を兼ね備えた。電次元ゴッドリンガーとラルが名付けていた。
だが本来一発一発の威力が微弱なガトリング砲から電次元兵器を展開するには、強度が不足していたともいえる。その負荷をジーボストの体幹で軽減させる為、右手でショットガンと化した左腕を保持していたが焼け石に水。既に各々の砲門は爛れて使い物にはならない。
『な、なんだ……とんだこけおどしなら先に言ってと』
『トループ様、あのその……私もトループ様も』
『て、敵はハッタリだよ! 早く倒せ、命令だ!!』
『め、命令ですか。それでも……がぁぁぁぁぁぁっ!!』
電次元ゴッドリンガーが一発こっきりだとして、トループは再度虚勢を張る。見掛け倒しだとジーボストを煽っていたものの、先ほどから一転して自らではなく、生き残ったバグファイターを鉄砲玉として動かしている様子から彼こそビビっていた事は言うまでもない。そして相変わらず保身と命令へ板挟みになっていた部下は、気づく間もなく背後から電撃を浴びせかけられる。バグイカロスが振り向いた時は既に粉々に砕け散っており、
『ネクスト……だと!?』
『まさか、あいつ起きただけじゃなくて……』
『心配せんくてええぞ。ざんしに分かるからのぉ』
バグイカロスだけでなく、ネクストがアイリッシュ海上空へと姿を現した事へエジプト代表をも驚愕させる。特にアグリカは彼が前に出ているのではと珍しく慌てているが、ラルは打って変わって平然と構えている。彼らは既にネクストの件を把握していたからであり、
『お、おいシラーケ! 直ぐ第3師団を出せ!!』
『トループ様ぁーっ! やはりここは退いて体勢を立て直した方がーっ!!』
『うるさい! 手柄もなくおめおめと引き下がれないよ……!?』
一方のトループはシラーケへと援軍を要請しているが、№2の彼からしても意地を張らず下がるべきだと進言せざるを得なかった。それにもかかわらず再三援軍を要請している訳だが、先ほどまで自分一人で片づけると息巻いていた頃からすれば見苦しい豹変なのは言うまでもない。
そんな折に自分を掠る様に飛翔体からビームを浴びせられる。微弱な威力だろうとも飛翔体は自分の気を散らすように飛び回っており、ミサイルをぶっ放して巻き添えにせんと判断した時だ。視界には紫のハードウェーザーがその姿を露わにしており、
『よりによって、こんな時に……!』
『こないな時で悪かったな。海の中もぼちぼちしんどくてな』
『お前だけなら、僕でも……うわっ!』
本来トループが仕留める筈のアタリストは、セーフシャッターが水圧で亀裂を生じさせながらも上空へと浮上した。ロクマストとジーボストによって深海軍団が退いたものの、バグダイバーの攻撃は彼女が海原に身を隠す事を阻害させた。
それでもなお彼女は抗う術を得るために再度飛び上がる。フィンファイヤーの一撃は微々たるもので、本体を撃墜せんとデリトロス・ライフルを構えようとした時だ――背中へとフィンファイヤーを上回るビームを次々と浴びせかけられ、
『ロディはん、ラルはんもやけど、玲也はんにも借りが出来てまうけど』
「……あいつほどではないが、そのつもりだ」
『すまへんな……って!?』
満身創痍のアタリストを囮とするように、バグイカロスの背後からネクストが迫る。アサルト・キャノンを一斉に浴びせかけて迫りくる様子へ、アイラが後を託そうとするものの――ネクストは“玲也以外の誰か“に動かされていた。戦場の中だろうと思わず自分の耳を疑うが、
『後ろからバッサリのつもりだなんて……そりゃないんだよぉ!』
薄い装甲であるにもかかわらず、全速力で畳みかけるネクストの存在にトループは戦慄を覚えずにはいられなかった。その胸の内の惑いを振り切る様に全身からのミサイルをあびせにかかったものの、数々の弾丸は直ぐに失速して海原へと沈む。その為にネクストが間合いを急速に詰めていき、
『い、一本調子で……!!』
「それはお前の事か!!」
『何を根拠に……あっ!!』
迫るネクストへと、バグイカロスはキャンドレッダーを展開して抑え込むが――それこそネクストの狙いと言えた。本体からパージされたカイト・シーカーは、キャンドレッダーに掴まれている様子だったものの、シーカー全体から小刻みに振動を起こしバグイカロスへも波及する結果となり、
「ブレイザー・ウェーブをこう使われますとは……」
「リンはそのままシーカーを、エクスに後は託すぞ」
「玲也様から言ってほしいのですが……手は抜きません事よ!」
ネクストへはリンだけでなく、エクスも搭乗して彼女の補佐に回っていた。そして彼女が触れる通り今のネクストを動かしているプレイヤーは玲也ではない。全身を黒ずくめの鎧で覆い、フルフェイスタイプのメットで素顔も見せない奇妙な男によって操られていた。
彼はカイト・シーカーからのブレイザー・ウェーブを至近距離で発動させるだけでなく、相手のキャンドレッダーを利用して逆にバグイカロスそのものへジャミングを仕掛け、動きを封じる奇策に出た。正体不明の彼を信じ切れないものの、ネクストを扱いこなす腕にエクスは委ねる事とした。
『は、離れろよ、畜生……!!』
「今度は足から攻める……あまり時間がないからな!」
『や、やめろ! 一体なにして……うわぁぁぁぁぁ!!』
カイト・シーカーをパージしたネクストは、自力で飛ぶ術も持たず重力の流れに従って海原へ落ちるかと思われたが――右のサブアームから、ジックレードルの刃を手に取ると共に、アームの基部に仕込まれたアサルト・ウィッパーがバグイカロスの足へと絡みついていった。
「電次元サンダー・フリクションスパーク……!!」
『なっ、なぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
ネクストの左手が、アサルト・ウィッパーのワイヤーを握りしめた瞬間だ。発動させた電次元サンダーは摩擦熱が伝導するように、ワイヤーを経てバグイカロスの全身へと熱を及ぼしていく。無防備な状態で電次元兵器を浴びせかけられた事で、全身が赤熱化しており、
『ト、トループ様ぁーっ! 早く引き上げてくださいー! でありませんとー!!』
『ひ、引き上げられるなら、今頃とっくに僕は…!!』
シラーケが呼び掛けても、既に自力で脱出できない状態だったかどうかは定かではない。ただトループが最後の間際まで権力欲が尽きる事はなかった。しかし現実は非情でありアイリッシュ海を突き破るように、自分めがけてドリルが飛び出し、
『ぼ、僕は! 僕は七大将軍のトップに……!!』
既にネクストはアサルト・ウィッパーを手放しており、風穴を開けられたバグイカロスは糸が切れた凧のようにアイリッシュ海へ叩きつけられ、ジーボストの背丈ほどの水しぶきを最期にまき散らした。そのトループからの催促でバグジェッターが今頃到着していたものの、
『ト、トループ様が……退け、退けぇ!!』
『だから私は嫌だと……ああっ!!』
既に天空将軍が斃れたならば、天空軍団は本当の烏合の衆と化したともいえる。遅すぎた援軍はまさに無駄骨、その場から退くにあたって無防備な状態をさらけ出す結果となる。直ぐに退いていく天空軍団の面々だが、その最中にジーボストのクアンタム・ランチャーの直撃で、無残に散る者も少なからず存在していた。
「流石にこの手で討つ迄は至らなかったか」
「全く、まさか貴方たちに手柄を取られますとは……正直歯がゆいですわね」
「エクスちゃん、気持ちはわかるけど認めてあげたら」
「別に構いませんが、玲也様と違いまして調子に乗られましてよ!」
リンに宥められつつも、エクスが不機嫌そうな態度を取っていたのも、バグイカロスへ引導を渡したドリルを放った相手に起因していた。静かにアイリッシュ海をオリーブ色の機体が浮かび上がる。海に伏せると共にロクマストはアリゲーターへと姿を模している。そして尾の先端に備えられたリーンフォース・スクリューは既に存在していない事から、
『お、おぉーまさか本当にやっちまうとはよ……』
『アイラが浮上するとなれば心配でな……無我夢中で放ったものだが』
『止まってる的にはあんたでも撃てたんだと思うけどな……まぁ、誇れよ』
『……ほ、誇るより腰を抜かしてな』
やむを得ずアタリストが浮上するにあたって、万が一を想定した切り札としてリーンフォース・スクリューを放ったようなものであった。それが偶然にもバグイカロスを仕留める一撃となり、結果的に自分が手柄を立てた事へロディは呆気に取られていた。
アグリカもまた、ロディの大金星へ少し戸惑いがあったものの、素直に彼の活躍を称賛する。彼が腰を抜かしていた様子へも思わず微笑みを浮かべ、今までの鬱憤が晴らされたようだが、
「確かに手柄は立てられましたが! そもそも貴方たちが勝手に出てきましたのは……」
『なんじゃあ、おんしらは知らなかったかのぉ』
『一応将軍からの命令で出向してたらしいのよ、ノータリンにそうお達しがくるってちょっと信じられないけど』
「そうですか……私は何も聞いてないですけど」
エクスはロクマストの無断出撃を詰ろうとしたものの、意外にも彼らは許可を得ているのだとラル達から逆に説得される事となった。リズが触れる通り信じがたい話であるとリンが首をかしげていたものの、
『それよりさ……玲也じゃないんだって? アイラから聞いたけどさ』
『おぉ、それはおんしらに話ちょらんかったのぉ。まぁ直ぐに分かるから帰るぜよ!』
『そうそう、これからちょーっと忙しくなるから。手短に済ませないと』
アグリカとしても、何故に玲也しか動かせないはずのネクストへ搭乗しているか疑問を呈そうとしている。彼女たちと違い、ラル達ブラジル代表だけ唯一この状況を把握している。これ以上バグロイヤーの戦域となるアイリッシュ海への長居はタブーでもある。彼に引率されるようにアイリッシュ海からの撤収するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます