第29話「大激突! アイルランド決戦の日!!」
29-1 アイルランド解放戦、アトラスの仇を討て!
「……で、そのレクターって人が何でネクストを動かせる訳なん!?」
「それが分からないから、さっきから気になってるんでしょうが!!」
――ドラグーン・フォートレスのカフェテリアにて。フェニックスへの出向から戻ってきた才人達は、定食の餃子をほおばりながらニア達へと尋ねる。彼女たちも良く把握していない事もあるが、妙にニアの気が立っている様子だが、
「でも何か心配ですよ、姉さんが玲也さん以外の男に動かされるなんて……」
「妙に誤解を招く言い方だが……そなた、心当たりはないのか?」
「はい……そのレクターさんから、私が一番向いているとの事で」
イチからの懸念にウィンが要らぬ誤解を招きかねないと突っ込みつつ、リンへと尋ねるものの彼女は本心からして身に覚えがないと言いたげだ。呼び出されたレクターから早々に指名されて電装される事になった経緯であり、
「ただ、レクターさんも初めてで、二人要るとの事でして」
「まぁ、結局あんたが行ってくれたから助かったんだけどね」
「別に私も好きで行った訳ではありませんこと! その……渋々ですわ」
リンと別に二人目の補助が必要とレクターは打診したものの、ニアもエクスも揃って信用できないと拒んだとの事。時間がない関係からじゃんけんで決める事となり、負けたが為にエクスが出る事になったに過ぎない。だが今の彼女はニアと張り合うにしてはどこか上の空。バツが悪そうな顔をしたまま、
「あのレクターという殿方ですが、腕は認めてもよくてよ」
「そうそう……って、あんたが玲也以外にそんな事言うなんて!」
「そういう意味じゃありませんことよ! 玲也様以外の殿方に心奪われるなど」
「二人とも落ち着いてください! あの人は玲也さんを助けに来たはずですから!」
ニアとエクスの間で口論が起こりうる恐れがあり、リンが咄嗟に二人を宥める。彼女はレクターに関してある程度好意的な目を向けている。実際彼女が玲也を助ける為、ゼルガの代理で出向した経緯があり、
「そういえばあの人、玲也君でも出来るようになるって言ってたね」
「玲也ちゃんでも出来るようになる……俺やシャルちゃんだったらなんとなく分かるけど」
「確かに、そなた達がブレストを動かせるなら意味は通じるが」
レクターが少なからず玲也に自分の術を授けようとする事が目的であり、プレイヤーとして成り代わるつもりはない――シャルも一応彼の言葉から理解は示していた。ただ彼の言葉が漠然としている事もあり、才人やウィンが頭を悩ませている。
「それでそれで、そのレクターって人は今どうして」
「玲也がまだ熱あるからって、それ以上話さないで帰ってたわよ」
「帰ったというより、アイルランドに向かったとかですけど」
才人がその先を聞こうとせがむものの、ニアが少し呆れたように答える。肝心な事は何も言わないままと少し憎らし気に貶めている彼女に対し、リンが訂正している通り、単身バグロイヤーの占領下となるアイルランドへ飛び出していった。これも電装マシン戦隊が総攻撃をかける下準備として、彼が囮を兼ねた斥候に出ているが為であり、
「大丈夫かな、玲也君酷い熱だったけど」
「ここに来る前見てきたけど」
「昨日の時より、どこか穏やかそうでしたから」
「その様子ならざんじに良くなるかのぅ」
玲也の容態を案じて一同の空気が少し重くなろうとした時だ。まるでマンモスの肉を鉄串に刺したかのようなボリュームを誇るシュラスコの大皿を乗せて、エクスの隣に座る大男が座る。彼女より一回り、二回りも大柄な男となれば、
「ラルさん! 今からメシですか!?」
「ラグ坊につきあっちょったらあっという間じゃ。今からたらふく食うのが楽しみぜよ」
「凄い量ですね……さっき食べたばかりですから……」
「あら~それじゃあイチ君もう食べごろかしら♪」
スフィンストを強化するにあたって、そのスパーリングパートナーとしてラル達が先ほどまで付き合っていた。ひと段落就いたことで鉄串を片手に豪快に肉を食いちぎるラルの様子睨意思、イチが圧倒されていた時、その彼に艶めかしい牙を伸ばそうと、後ろ首に手を回す相方の姿があり、
「リズさん! こんな状況で良くそんなことしてられますわね!!」
「あらごめんして~イチ君がいないと調子狂うし、疼きが酷くなっちゃうから」
「おんし、二人がこまっちょるぜよ。じゃが……」
実際リンが顔を赤くして、相変わらずの度が過ぎたリズのアブノーマルっぷりを叱りつける。彼女が叱責しようとも相変わらず彼はネアカな態度を取っている。そんなパートナーに対していつもの発作だとラルがやんわり叱ると共に、
「いつ大勝負が来るか分からんからのぉ。ぎっちりピリピリしちょったらいかんぜよ」
「そりゃそうですけど、玲也が倒れてから色々あったから」
「確かにそうじゃ。でもその玲也は今休んでるぜよ」
「あの子も本当慌しかったからね……今がちょうどいいくらいかしらね」
ラルとしてニア達にも十分な休息をとる事を促す。玲也がメディカル・ルームで今は休むことに専念していると触れるが、彼自身自分が外れざるを得ない状況下でも、チームは纏まりを維持している事に悟った事もあるだろう。玲也の心にはゆとりが生じつつあることを良い変化だと、ブラジル代表の二人は見なしており、
「サッカーも戦争も休養は大事じゃ……いつ戦うか分からんから難しいかもしれんがのぉ」
「でも休める時は休まないと~、ちょうどイチ君と同じタイミングだなんて・ス・テ・キ♪」
「だーかーらー、ラルさんが休みなさいと言ってますに! そんな事言われたら休めないですよ!!」
「姉さん落ち着いて! ここで喧嘩沙汰になったら大変ですよ!」
ラルが休養の必要性を述べていた所、リズがまたイチを誑かす。その為、リンがカフェテリアだろうと思わず大声で怒鳴るだけでなく、食器の皿を両手に投げつけんとまでしている。やはりイチによって必死に宥められている中、
「おんしら平らげたら、はよぅ寝るんじゃ。明日がどうなるかもわかっちょらん」
「ラルの言う通りかもね。僕がスタンバるのもまだ後出し」
「俺もそうしようかなー、色々あったしさ」
「まぁあたし達も、玲也が寝てるんだしね」
アイリッシュ海での戦いを経て間もなくとの事で、シャルと才人達はラルの言う通りに休息へ入ろうと席を立つ。少し間をおいた後、ニアが飲みかけのコーラを口に流し込もうとしていると
「しかしおんしら、ほんに玲也が好きなんじゃのお」
「……!?」
「ニアちゃん、落ち着いて! 大丈夫!?」
突拍子もなく、ラルが笑いながら3人をこのように評するが――タイミングが悪かったことは言うまでもない。コーラを流し込む途中だったニアが、思わずその場で噴出しかけ、どうにか喉に流し込んだ後は激しくむせていた。リンに背中をさすられながら介抱されていると
「ちょっとラルさん! 何を根拠のない事を言ってるんですか?」
「あら、根拠もないとなりますとやはり貴方は玲也様の事を……」
「それとこれとはまた話が……!」
「まぁ、今はニアの言う通りじゃのぉ」
必死にニアが否定すれば、エクスが図に乗って玲也との仲でリードしようと動き出す。二人の間でまた喧嘩が怒ろうとするものの、言い出しっぺのラルが直ぐニアに同調した為、彼女が拍子抜けしたように椅子からズッコケてしまい、
「ラルさん、あのですね……」
「本当、女心が全然わかってないのね~流石というか、何というか」
「わしは馬鹿じゃからのぉ、おんしらが玲也を信じちょるんじゃなと思ってのぉ」
「……相変わらず、貴方という殿方は読めませんわね」
リズに突っ込まれる通り、デリカシーがない事をラルが豪快に笑い飛ばす。相変わらず豪放でマイペースなラルに対し、エクスでさえついていけないように述べていたものの、当の本人は全く気にはしていない様子だったのは言うまでもない。3人がそのまま退室していく際に、
「玲也は大丈夫じゃ! わしがこう信じちょるのに、おんしらが信じのうてどうするぜよ!?」
「あ、貴方に言われなくてもそのつもりでしてよ!」
「それでええんじゃ、よぉ寝とくんじゃぞ!」
エクスが少し顔を赤くして、素直になれない様子だったものの、ラルからすれば彼女たちを心配する事はないと察したようだ。彼女たちがいなくなると共に2m以上の巨体をストレッチするように伸びあがらせていた。
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『みんな、持ち場に就いたようだね』
「えぇ……何とか熱も下がってくれましたから」
『解熱剤でダメ押しだから無理はいけないけどね……そうも言ってられないのが現状だ』
翌日の23時30分――アラート・ルームへエスニックからの通信が届いた時、シューター近辺の席にはシャル、才人、ステファー、そして玲也の姿が既にあった。彼として玲也の参戦に対して心強く思う傍ら、無理を推しての出撃となる点には罪悪感がやはりあった。それでもやむを得ないと述べていたが、
『レクター君のお陰でアイルランドの内情はつかめたからね』
「ベルファストに向けて、既にマーベルさん達が上陸してるから」
「ダブルストが引き付けている隙に、僕が頑張らないと。ロングレンジでぶっ放さないと」
レクターからアイルランドの現況を伝達された事もあり、電装マシン戦隊は行動を開始した。ドラグーンとフェニックスの共同戦線で作戦が実行される事となり、第一陣としてダブルストがベルファスト制圧を目指して、既に本土へ上陸していた。最も彼女たちが一種の囮であり、ヴィータストがバグロイヤー側の拠点を片っ端から潰していく事が、ドラグーン側が行動を開始し、
『シャル君が狙撃を続けると共に、我々も進軍する。それによって』
「だから俺達で蹴散らしながら上陸していく訳ですね、こう晴れ舞台に俺が選ばれるとか、戦ってりゃいいことあるって……」
「俺も一応いるよ! あとフラッグ隊の人たちも一緒なんだし!!」
ドラグーンもまたアイルランドへ進軍する事となれば、バグロイヤーの戦力は自分たちの方へも割かれるであろう。彼らの迎撃にスフィンストとユースト、それにフラッグ隊が応戦しながら進軍していくとの事だが――シーンが自分の晴れ舞台だと舞い上がっている様子に、才人が突っ込みをかましている、
「俺はクロストに電装するが、直ぐには出ないつもりだ」
「玲也が無理してるかもしれないから~ステファーが頑張る訳で~」
「とまぁステファーもその気だからね! 主役に恥じない活躍をするから安心しろよ!」
「……い、いや本当、そうも言ってられない場合なら出るぞ」
玲也としてコンバージョンでヴィータスト、スフィンストを強化するため、クロストで電装する、あくまで前線に出る必要がない為、ユーストを含めた3機に任せて、自分は後方で構えるとのスタンスを取る。ただシーンが異様に意気込んでいる様子へは、むしろ自分が出た方が良いのではと考えていた。
「もっともアイルランド上陸するにあたって、俺が出る必要もあるがな」
「その為に、まぁあたしたちがいる訳だね。リンもいるけど」
「バンさんの援護に回るとかでしたら、ネクストの方が良いですからね」
実際控えのベンチにはニアとリンの姿があった。玲也が出撃するにあたっては珍しくない事例だが、ニアからすれば自分よりリンの方が適任だと少し謙虚な姿勢をとっており、リンもまた珍しく自分の方にアドバンテージがあると肯定する。
これもドラグーンが相手をおびき寄せる隙を突いて、ザービストが乗り込む流れになっていたものの、市街地での戦闘になり得る恐れがある。その為、小柄なネクストの方が人的被害も少ないと踏まえての事であり、
「もし俺が向かった後にドラグーンが狙われるとなれば……ロディさん」
「う、うむ。まさかこうも直ぐに貴殿が頼るとは思わなかったが」
「ですが大丈夫ですの? ロディさんにこうも後を任されるなど」
そして万が一自分たちが陽動を賭けられた事を想定し、ドラグーンの守りとしてロクマストが抜擢されていた。底辺に近いロディの起用へエクスが若干疑問を呈しており、
「あーあ、まだラグレーの方が任せられるけど……っていでで!」
「馬鹿だなー! スフィンストは泳げないのを忘れたのかい?」
「あ、あんたって人は、ラグレーがダメならラルさんが!」
シーンが追随してラグレーの方が信用できると言おうとした途端、アグリカが耳元で彼に少し大声で張り上げる。それでも彼はラルの方が信用をおけると突っ込もうとすれば、
『キーパーのわしゃ、フォワードに出る訳にゃいかんからのぉ』
「おいおい、それじゃやっぱりラルさんが真打って言ってるもんじゃん」
『わしとしては、そうならんようにしてほしいがのぉ……』
「そうですね、俺達だけでやり遂げるようにしたいですからね」
ラルとしては、強化されたスフィンストの慣らしをすることを今は優先させていた。自分が前線に出なくても玲也達ならやり遂げる事が出来るとの事であり、玲也もまた同じスタンスだった。
「そうそう僕たちが頑張らないといけないんだからね!」
「シャルちゃんの言う通りだぜ! ここからが正念場だってね!!」
『そういう事じゃ、なるべく無理はしてほしくないんじゃが』
『博士、それを言うなら私たちも頑張るでしょう……健闘を祈る!』
シャルと才人の士気が高揚している様子に対し、ついブレーンは彼らの身を案じようとしていたが、エスニックが言う通り自分たちもまた前線で戦うのであり、人の心配をするよりも、彼らに恥じない戦いに出なければならないのだと諭す。玲也達へ健闘を祈る事を伝えられた後、玲也は顔を上げ、
「見ててくれアトラスさん、この手で仇を……!」
“アトラスの死を経た中で、決意を新たにして立ち上がる一歩を踏み出していく。ドラグーン・フォートレスもまた一つに纏まろうとしていく中、玲也はアトラスの弔いとして、超常軍団との一台決戦に挑もうとしていた。アイルランドで繰り広げられる戦いの結末は――この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”
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