28-3 アイラの斗い、夜の海原に死地を見た!!
「なぁ、こんな時だってのに寝たままかよ……なぁ!!」
「バ、バン君! 気持ちはわかるんじゃがあまり刺激を与えては……」
「なら、そっとして目を醒ますのかよ! 生きた屍じゃないだろ!!」
――フェニックス・フォートレスにて。ラボに設けられた医療用のカプセルへとムウは安置され、延々と闇の中で意識を彷徨わせていた。アトラスの部屋の爆発から、アイラを庇う形となった彼は意識不明のまま。ブレーンが制止しようとも、何度もカプセルのフロントガラスへバンが拳を打ち付けており、
「メルだってわかってるホイ! 打てる手は打ったみゃー!!」
「なら何で目を醒まさないんだよ! ハドロイドを作ったのはあんたじゃないのかよ!?」
帰還してから徹夜でぶっ通しのオペを行っているが故、メルもピリピリと気が立っていた。キレ気味の彼女を相手にしようとも、バンは元からの性格に加え、パートナーが生死の境目をさまよっている現状から、彼女たちの腕がなっていないと思わず詰ろうとした時、
「メル君がなんでもできるわけではないぞい、脊椎をやられたようなものじゃて!!」
「脊髄……そんなに酷いのかよ!!」
ブレーンがバンを諭す為、人体に例えてムウの受けた傷の深刻さを触れる。脊椎を痛めたならば手足をまともに動かせない植物人間と化す。事の重要さを理解したのか、バンが冷静さを取り戻し、
「アイラを庇った時に受けた傷が悪いんだホイ。メルでも初めてのことみゃー……」
「破片を取り除いても、いつ擦り切れるか分からん位じゃ。何度も戦っていればそのうち」
「待てよ! だったら俺達はもう戦えないって……」
「話を最後まで聞くホイ! 代用を移植したからその心配はないはずみゃー……目を醒ましたらだけみゃー」
アイラを庇うにあたって、爆発の破片がムウの後ろ首から背中まで立て続けに刺さる結果となった。その破片を取り除こうとも、神経の損傷が激しい。その為メルが移植手術へ踏み切ったとの事だが――彼女ですら祈るような心境に頼らざるを得ない事から、リスキーな手に出ていた事が伺える。
「けど移植って誰のだよ。スペアの体とかないんだろ?」
「正規のスペアは確かにないみゃー。セルの体から借りたホイ」
「セルのって……あんな奴のかよ!!」
最もハドロイド間での移植手術を行うにあたって、ドナーとなるハドロイドが存在しないのではとバンが疑問を突き付けた時だ。メルがセルの事を触れるものの、言うまでもなくクレスローの弟だった人物である。バグロイヤーの手先として改造された彼を、やむを得ず殺める結果になった後、クレスローが生前にメルへと亡骸を託した。それが今になってわずかながら可能性をこじ開ける術を与えていたともいえる。
「バン君の言いたい気持ちはわかるんじゃが」
「ムウを目覚めさせるにはそれしかなかったホイ。アトラスの形見とメルも捉えててるみゃー!」
「あんな奴、形見とも思いたくないけどよ……!!」
そのセルが、バグロイヤーの手先としてイギリス代表を死へ追いやる一因となった人物ともいえる。それが故にバンは彼をドナーとしてパートナーが目覚める事へ一抹の抵抗感があった。とはいえメル自身も苦渋の決断を踏みきった様子から、深く追求する事はやめた。
「あとはいつ目を醒ますかだホイ。無理やり起こすことも出来るんだがみゃー……」
「じゃが、それをやる訳にはいかんのじゃろ? ムウ君の負担があるんじゃろうしな」
「強いショックを与えようがないんだみゃー。こう不確定要素が多いのは嫌だホイ!」
ムウを起動させるにあたって、強い電圧を送って半ば強制的に意識を覚醒させる術はあった。だが神経の損傷が悪化して千切れるリスクを考慮すれば、強硬手段に出る事も憚ってしまう状況でもあった。この膠着した状況だけでなく、彼の精神力次第といった状況はメルもまたもどかしい胸の内。苛立ちを吐露していると、
「ちくしょう! 手をこまねいているうちになぁ、アイルランドがよ!!」
「わしらもこのまま見殺しには出来んのじゃ……出来んのじゃが」
バンが憤る事として、既にアイルランドの陥落を許してしまった為である。イギリスのミサイル基地を掌握した事も一種の囮に過ぎず、超常軍団の本部隊によるアイルランド上陸を許す結果となった。超常軍団が早々に侵攻への興味が失せた故、侵攻の足並みが遅れている事に救われているが、電装マシン戦隊がその事情を知る由もない。
それでなくとも占領下の国土で約490万人の国民が危機にさらされている事を考えたならば、気が気でならない事は当然である。ブレーンとしても直ぐさまアイルランドの奪還へ踏み出るべきと考えていたものの、
「ビャッコはウクライナ奪還で手が空いてないホイ、フェニックスも才人を借りてる程だみゃー」
「ちくしょう……おい、ムウそういう事だから目醒ませ! ここで燻ったままじゃなぁ!!」
「だから刺激を与えたらだめミャー! 言う事を聞くホイ……」
他フォートレスの後発に力を借りている状況を、バンやはり苦々しく思う。だからこそムウへ早く目覚めてほしいのだと、カプセルの外壁を何度も拳で叩く。メルが少し声を荒げた時、周囲を闇が包み込んだ。
「停電じゃと……おや?」
「非常用電源がついただホイ。しかし何かあった……」
「大変ですよ、博士!」
「……何があったんじゃ!? 特に才人君!!」
有事に備えて、ラボへ非常用電源を組み込んでいた為に最悪の事態までには至らなかった。しかし一度フォートレスのシステムが落ちたのではないかと、メルは気が気でならなかった。そんな矢先フェニックスへ出向していたイチが才人を担いで飛びこんでおり、
「コンパチさんが乗っ取られました! 才人さんもフレイアさんに気絶させられて……」
「一体俺が何をしたのかさっぱりで……ちょっと用足してたら」
「……まさか! スタンバってたのに持ち場から離れたのかよ!!」
「そ、そりゃそうだけど、生理現象だし、ここのトイレ異様に遠いし!!」
才人が言うには、催してきた為用を足した直後にフレイアへ鳩尾を突かれて気を喪ったとの事。さらに二人が分断された間に、コンパチが何者かに操られ、イチの元から離れたとの事だ。ろくに戦えるハードウェーザーが不在のフェニックスにて、持ち場から離れてた事をバンが叱責するものの、
「まさかと思うけど、そのコンパチが……大丈夫かホイ!?」
『だ、大丈夫じゃありません! そのコンパチがシステムを乗っ取って』
『ハードウェーザーが勝手に電装してます! アタリストとそれに……』
「やっぱりだホイ!!」
――フレイアによってコンパチが掌握された。それも電装システムを支配下に置いて自分たちアタリストを電装させる為、ポルトガル代表がそのような行為に至った背景を、メルが感づくまで時間はかからなかった。
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「ありがとな、ウチに付き合ってくれてな!」
「……アイラ様が決心されたのでしたら、私に止める理由はないです」
「コンパチを操ったのも、ウチがやれって言ったからにしとき。責任はウチだけでええんや」
――アイリッシュ海上空にアタリストが電装された。システムを掌握してまでの無断出撃は、最悪フェニックスの全機能を停止させかねない極まりない手でもあった。それだけの大博打を打って、背水の陣として彼女が前線に出ている
「……前方にバグロイド発見、おおよそ20機と思われます」
「そんだけぎょうさん追ったら、手っ取り早いってことやな……!!」
そしてペルナス・シーカーが敵機を捉えた――20機ほどのバグジェッターと思われる相手に対して、一網打尽の先制攻撃を仕掛けたなら十分な打撃になると見た。透かさず手にしたホルダーを前方に構え、
「アポロ・スパルタン、ぶち込んだる……!!」
かくしてアポロ・スパルタンが撃ちだされた。先制しての殲滅戦を得意とするアタリストとして得意の戦法に出たが――着弾前に弾頭の反応は消失し、
「……撃ち落とされたようです。私の計算上ですと」
「まさかやけど、ウチをおびき寄せるため……そげなこと!!」
『そう簡単に引っかかるとはなぁ……!!』
無断で飛び出したアイラは、アトラスたちの報復として頭に血がのぼっていたともいえた。天空軍団の大群がまるで自分をおびき寄せるための囮だと気づかされた時は既に遅く、琥珀色の
バグロイドが急接近して圧し掛かり、全重量を浴びせられる形でアタリストが吹き飛ばされ、
『第2師団は第1師団の到着まで踏みとどまれ! それ以外は退け!!』
獅子の顔を備えるバグリフォンを駆るマクロードの指揮もまた迅速なものであった。これも他軍団と異なり個々の性能が乏しいバグジェッターは、真っ向からハードウェーザーへ太刀打ちできないと踏まえての行動でもあった。
第1師団のバグファイターが到着するまで踏みとどまる第2師団を除き、殆どのバグジェッターをあくまで囮として使い、一網打尽にせんと放ったアポロ・スパルタンを撃ち落とした。殲滅戦を得意とするアタリストのアドバンテージが失われ、バグジェッターから一方的に攻め立てられており、
「寄ってたかってチマチマ攻めおって! フィンファイヤーで!!」
「……アイラ様、ですが本体の制御が遅れます」
「オトンがおったら、こうもならへんのにな……!!」
バグジェッターを蹴散らさんとして、コズミック・フィンファイヤーを駆使しようとしたものの、フレイアが進言する通り、本体の制御が鈍る恐れがあった。大気圏内では本体が無防備になり得ることが命取りとなり、そのアタリストの弱点を補うためシンヤが搭乗していたが、そのシンヤが既にいない現状を苦々しく思い、
「シーカーの方頼むで! それ位なら大丈夫やな!」
「……問題ないです、アイラ様?」
フィンファイヤーよりシーカーの方がフレイアへの負担が少ない。小回りなり追尾能力が劣るものの、備えられたオリオン・ライフルを駆使してバグジェッターを迎え撃つ。さらに両肩からフィンファイヤーをアタリストが手に取り、
「フィンファイヤーはこう使った方がええ! そうかもしれんのや!!」
フィンファイヤーを両手にして、手持ちのビームガンとして転用した。フィンファイヤーそのものに内蔵されたビーム砲の威力はバグジェッターを相手には十分な威力を発揮する。シーカーと連携しつつアタリストとしては、俊敏な戦いを見つけるものの、
『的が少ない分、狙いが絞れるからな!!』
あくまで、バグリフォンにはその戦法は通じなかった。アタリストと同等のサイズながらも、空中での機動性はバグジェッターを凌ぐ。それが故にオリオン・ライフルやフィンファイヤーの攻撃を掻い潜りながら、間合いを詰めていき、
「のわぁぁぁぁぁっ!!」
グリフォンとして獅子の顔をもってアタリストへと噛みつきにかかる。口からの業火キベル・フレイムがアタリストの胸部を焼き払うように吐かれており、
「……セーフシャッターが展開します。アイラ様」
「このままオダブツに……なるんかいな!!」
胸部の装甲が破損した為、セーフシャッターが展開された。最もバグリフォンが胸に食らいついている状況からして、そのシャッターまで焼き払われる結果になるであろう。どうにかしてバグリフォンを引きはがさなければ助かる術がない。腰のホルダーに収められたオリオン・ジャベリンを展開し、バグリフォンを串刺しにせんとしたが、前足を突き出したバグリフォンはすかさず、デリトロス・スクラッシュを展開しており、
「あかん、オトン助けてや……オトン!」
「……何を言っているのです。それだけは……ああっ!!」
スクラッシュによって、アタリストがジャベリンを持つ間もなく腕を潰される結果となった。電次元ジャンプすら封じられた状況となれば、アイラの顔色に諦めが浮かび出ようとしている。フレイアの顔つきが少し変わった途端に再度業火が自分たちを焼きつけんとしており、
『悪く思うなよ! ガキだからって加減できなくてよ!!』
「やるならやってみんかボケェ! オトンの元に逝けるから怖くあらへんで!!」
「……アイラ様!」
『死んだことないガキが生意気なんだよ!!』
もはやシャッターも焼け爛れ始めた状況にて、半ば狂乱したように一思いにやれと叫びをあげる。その一言は逆にマクロードの怒りへ油を注ぐ結果となる。業火だけでなくその牙で一思いにコクピットを突かんとするものの――アイリッシュ海を突き破る様にして放射線状の熱線が炸裂し、
『……ちっ!!』
咄嗟に前足を突き出す事で、アタリストを突き放す。バグリフォンが咄嗟に海面からの攻撃を逃れるものの、スクラッシュを展開する前足は間に合わずに焼き払われる。逆にアタリストが海面へと堕ちていくものの、
『大分やられてるじゃん……とにかくあたしらが来たからさ』
「確かアグリカはん……という事はつまり」
「……エジプト代表のアタリストです。私が計算しまして後を任せる信憑性は……」
『い、今は余計な事を計算しなくても良い! 助けに来てやった余を信じろ!!』
アタリストへとアグリカからの通信が入ったならば、アタリスト他ならない。だが実戦経験があろうとなかろうと、自分たちよりも腕が劣るであろう相手の救援は、寧ろ余計足を引っ張りかねない。ロディ自身も薄々は自覚していたが、そのようなネガティブな状況は戦況を余計悪化させない。フレイアの台詞を咄嗟に遮り、
『まぁまぁ、潜って逃げなよ。あたし達で守るからさ』
「……フィンファイヤーを使うにはそちらの方が良いです。貴方がたが守ってくださる確率はすこぶる低いですが、やむを得ないです」
『そこまで言われるのも癪だが……余も後には退けんのだ!!』
フレイアから辛辣な評価をなされようとも、今のロディは彼女たちを救わんと動く事に変わりはなかった。アイラと同じく彼にもまた後を退く事を良しとしない魂が芽生えつつあったのだから。
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