27-6 重力下のアトラス、決死のライトニング・スナイパー

「ここでバグロイドが出てきてほしくないけどね……」

「ノン、心配はナッシングだよ! あと3つって考えるべきさ!!」

「……そうだね。覚悟決めたなら、ポジティブじゃないと」


 ――スコットランド上空からは3発の弾道ミサイルが射出された。シミュレートされる軌道はノルウェー近辺との事から、北海の上空にて、ミサイルの飛翔高度が最高潮に達する位置へと電次元ジャンプで陣取りつつあった。そして機首として装備されたライトニング・スナイパーからは直線状の閃光が炸裂し、


「オォ、一寸早いけど、いい感じだよ!」

「出来る事なら2発同時が良かったけどね……もっと狙いを定めなきゃ」


 一発の弾頭が電次元カノンを前にして飲み込まれるように粉々に塵芥と化す。ライトニング・スナイパーによる狙撃ではなく、電次元カノンを駆使した点はミサイルの信管を狙撃するよりも、ミサイルそのものを消し去る程の射程面積、火力がミサイルの処理には最適と判断された為であった。その電次元カノンもエネルギーの残量から2発撃つ事が限界の為、2回のチャンスで3発を消さなければならなかった。アトラスが一呼吸着いて照準を定めていくと、


「照準誤差込みでグリーン……ってノン、囲まれるかも!!」

「やっぱり都合よくはいかないんだ……けど!」


 クレスローが言うには、自分を取り囲むようにして5機程に取り囲まれようとしているとの事であった。一方的に撃ち落としていく状況をバグロイヤーが許すはずがないと苦笑しながらも、まとめて落とす絶好の時と定めた上で、


「フラッシュ・ヤード全弾発射! クレスローはユナイホルダーを!!」

「オーケー、グライダー・シーカー全開でいくよ!!」


 すかさず電装される位置を捕捉し、 フラッシュ・ヤードをぶちかましつつグライダー・シーカーからのユナイホルダーを展開する。左右の腕部が実際バグロイドを突いた手ごたえを感じると共に、


「いくよ、電次元カノ……」

『させるかよっ!!』


 絶好の位置でロックオンまで完了させた――その上で電次元カノンを展開しようとした所で、上部からの強烈な一撃が叩きこまれ、照準が下方へとずれる。弾道ミサイルを直線状の閃光が飲み込むものの、一発だけは尾翼が掠ったにすぎなかった。電次元ジャンプの消耗と重なり、ブザーが鳴り響き、


『どうだい、イギリス代表さんよ! もう少しだったのになぁ!!』

『どうした~、どうした~もう逃げられないんかよ!!』

『安心しな! 天空軍団の手土産にしてやるんよ!!』


 バグファイターを駆る天空軍団の面々は、一方的にレスリストを嬲り殺しにかからんとする。スコットランドの軍事基地から、放たれたミサイルはキエフの一件からレスリストが真っ先に出ると踏まえて、狙撃のタイミングを狙うように攻めかかる。既にエネルギーが2割あるかどうかの状況のレスリストへと、レールガンを放ちながら距離を詰めており、


「ノン、ここで失敗したら……バッド!!」

「そんな事、あって……!!」

『たまるから、俺ら天空軍団……がぁっ!!』


 既に電次元カノンが封じられながらも、脚部からのミサイルポッドを一斉に見舞う事で足元へと狙う2機を牽制しつつあり、その合間を突くように両足を展開させて蹴りをぶちかましていくシェフィールドスが1機のコクピットへ着くと共に、相手が小刻みに震えだしていた。四方のバグロイドをユナイホルダーと併用して動きを封じ込み、グライダー・シーカーをパージさせる事で半ば強引に包囲網を逃れ、


「ホワイ!? こんなことしたら無事じゃ!!」

「そうだとしても、最後の一発がまだ……何としても!!」

「それは僕が言う事さ! アトラス、先に逝くのだけはバッドで!!」

「ポジティブじゃ務まらないよね……こういう時さ!」


 ただ機首として接続されたライトニング・スナイパーを手にした状態で、自由落下の加速度と抗いながら狙撃を試みる賭けに出た。グライダー・シーカーを喪った状態で飛行手段がなく、電次元ジャンプで帰還する事も許されないとなれば、上空700mから真っ逆さまに落下しつつある。今のアトラスはコクピットの重力を減少させつつ、両脚のブーツの電磁石システムにより落下する中でも姿勢を保っていたが


『……とっとと死ねぇ! 悪あがき……あぁっ!!』

『なんだ!? レスリストじゃねぇのに!!』

『なんかくるぜ! とんでもねぇぞ、おい!!』


 無論レスリストの追撃を試みるバグファイターだが、先陣を切った1機が胸部を射抜かれる形で四散する。僚機たちが一転して浮き足立とうとしている所に深紅のハードウェーザーは既に姿を見せ、彼らとすれ違いざまに


『エレクトリック・スマッシュ!!』

『あがぁ……!!』


 振り上げた右足から電撃と共に強烈な踵落としをお見舞い。バグファイターを脳天から真っ二つに勝ち割ってみせた。さらにバグロイドを浮足立たせる威力を見せつけるハードウェーザーはブレスト・ブースター――玲也たちの到着が間に合った事を意味しており、

「玲也!? これは僕が引き受けた筈なのに……」

『今、それにこだわっている場合じゃないですよ! アトラスさんは焦るといつも無理をするじゃないですか!!』

「無理をする……玲也だって人の事を言えないじゃないか」


 アトラスが単身でミサイルを処理しようとして窮地に陥った事を玲也は諭すものの、彼は苦笑と共に突っ込み返し、


『……本当にごめんなさい、あの時酷いことを言って』

「それは気にしてないよ。やらかした事は変わりないからね」

「オゥ、何かポジティブみたいだけど……』

「本当こんな気持ちになっちゃいけないけどね、何でだろう」


 ブレスト・ブースターはバグファイターを蹴散らして、レスリストを狙撃に専念させんとしていた。その最中で玲也が彼を執拗に詰った事を詫びると、アトラスは根に持っていないのだと、彼を心配させないようアピールして檻、


「これが可愛い女の子だったら言うことなしだけどね、まだまだ僕は懲りないけど!」

『……あんた、こんな時に何変な事言ってるのよ』

「ミス・ニア、もしよかったら君も僕の元に来るかい?」

『……本当貴様はどういう状況か本当に分かってるのか!?』


 相変わらずクレスローは底抜けに女が好きであった。ミサイルを処理しようと落下する中だろうとも、平然とそのようなアプローチを賭ける。その彼に生真面目なウィンも相変わらず呆れたように窘めるが、


『今ポータル・シーカー送りましたから! ドッキングしてくださいね!!』

「助かるよ……僕にここまでしてくれるなんてね」

『当り前じゃないですか! アトラスさんが、誰もが倒れていい訳ないですよ!!』

「……もっと信じても大丈夫だよ! 皆がプレイヤーとしてここに揃ってるんだから!!」


 仮に地面へ叩きつけられレスリストが大破する事を危惧し、ブレストからはポータル・シーカーが射出される。空戦での機動力を損ねる結果になろうとも、相手がバグファイターとなれば、ブースターは現地で到着するまでで十分でもあった。

 さらに、念には念を入れてウイング・シーカーからバトルホーク・ウェートを両手に取る。これもブレストの機動性を発揮するために重りを削ぐ意味も指す。バトルホークの先端からの鏃を突き出し、その重量でバグファイターを腹部から真っ二つに突き破り、



『アトラス君、やめるんだ! 君がここで落ちたらどうなるか!!』

「玲也達も必死なんですよ! 僕達がここで必死にならないと!!」

「ミスター・ガンボット、僕達を誰だと思っているんだい?」

『し、しかしだね……あぁ!』


 レスリストもまたギリギリの状況でブレストの為粘り続けている様子を、ガンボットからわが身を顧みない危険な行為であると警告される。それは分かっていてもクレスローだけでなく、アトラスも自分達を信じてほしいと強い自信を寄せており、


「今だ……!!」


 真っ逆さまに墜落すると共に、最後の一発がすれ違おうとする瞬間。直ぐにスナイパーを炸裂させて先端の信管を射抜き。 、


「頼む! あと一発……あと一発!!」


 スナイパーを放った時点でエネルギーは1割をとうに切っていた。それでも信管だけでなく推進部を潰さない限り、ノルウェーへ落下していく事に変わりはないのである。それでも両手にスナイパーを握ると共に、一発をぶちかました瞬間――上空のミサイルは勢いを失い、力なく同じ北海へと落下していき、


「やった……やったよ! コングラチュレーションだよ!!」

「そうだね……って、シーカーは制御に置いてるよね!」

「勿論さ! ドッキングするまでは持つよ」


 クレスローが満開の笑みで燥ぎ立て、アトラスもまた一人のプレイヤーとして今成し遂げた瞬間を味わってもいた。エネルギーが消耗するあまり、装甲の金色が色あせつつあり、完全に消滅するまで時間の問題でもあった。それもあって、すぐにポータル・シーカーをバックパックに接続させ、最低限のエネルギーを確保せんとしており、

 

「……本当此処にいていいんだね、僕たちもさ」

『そうだね? 僕も待ってたんだし』

『この時が来るのをなぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

「えっ……!」


 ――生きて還る直前であった。ライトブルーとバイオレットピンクの機体が電装されると共に、胸部からの一斉に砲撃を畳みかけた。シーカーとのドッキングを前にしたレスリストは、もはや金色は消えうせ、ガラス細工のように透明な状態でその姿をさらし、バグロイドの攻撃に対しての装甲は紙同然でしかない。

 両方向からの衝撃に耐えきれなくなったレスリストは、北海に接する寸前で木っ端みじんに砕けて散り、二人は何処へはじき飛ばされていった


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「こいつは持って帰るけど、ハドロイドじゃない方は?」

「別にメリットはないでしょ? そのままほったらかしにしても大丈夫だよ」


 玲也より年下と思われる二人の子供は、クレスローを発見した。赤髪のロングヘアーをたなびかせながら少女は指からの熱を放射し、反重力状態に陥らせるように彼の身体が浮かせた――右肘と右膝から下の部位が本体から既に欠損していたが、彼女は特に興味を示す事も様子もない。


「どうせ死んでるしさ。僕達が持って帰るより本当に死んだって分からせてあげた方が効果的だからね」

「そうそう、その汚いお人形さんはプレゼントに取っておきましょうね~」

 

 一方青髪の少年は、アトラスに対してクレスロー以上にぞんざいな扱いで接した。仰向けに浮かびあがった彼を力いっぱい蹴りつけようとも、波に煽られ微かに体が動くだけ、何一つ顔が変わる様子もなく、瞳孔が開き切った驚愕の表情に変化がない事から既に利用価値はない――幼くして冷酷な判断を下す二人の肩を、後ろから抱きしめる手が伸び、


「「ママ!」」

「パラオードもディータも頑張ったわ~セインちゃんも嬉しいの」

「だったらもっと私を褒めて、なでなでして!!」

「じゃあ僕はぎゅーっと抱きしめてよ!」


 パラオードとディータと呼ばれる二人もまた超常軍団の構成員、ムドーと異なり彼女に従順なお人形さんに当てはまる。自分たちがレスリストを撃墜し、イギリス代表を殺めた活躍を褒められた事で、二人は年相応の無垢な子供らしさを見せつける。セインはディータの頭を撫で、パラオードをそのふくよかな胸で抱き寄せた後、クレスローの後ろ首を手提げ袋のように掴み上げて3人共々姿を消していき、



「これで、セインちゃん一抜けた、一抜けったったら一抜けたっと」



 ただ一人、陽が沈む北海を漂流するように彼の亡骸が取り残される。この悲報を電装マシン戦隊が知らされるのはもう少し後の話――イギリス代表プレイヤー、アトラス・ベルーソー戦死。


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次回予告

「――アトラスさんが死んだ。何故だ!? この報せを受けた俺はついに倒れてしまい仇を討つ事も出来ないでいた。アトラスさんを喪った事で重く辛い空気が漂う中、アイラが弔いに出ると無断で出撃してしまった! 俺に代わってアタリストを救うと名乗りを上げたのがあのロディだが、俺は彼に任せてよいのだろうか!? 次回、ハードウェーザー「吠えろロクマスト、ドーバー海峡の攻防戦」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」


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