27-5 くたばれバグストーム! ノーベルの大誤算

『……申し訳ない、ローマン首相の要求に私は何一つ』

「司令も責任を取らなくて済みますし、僕だってお咎めなし……かは分からないけどね」

『けど、レスリストでもその時が来たら無事とは』

「僕もクレスローも、もう無事で済まないですから……しょうがないじゃないですよ」


 エスニックへとミサイル基地の報が知らされる少し前――ガンボットからはイギリスのローマン・ドルチェ首相からの要請で、レスリストへ出撃要請が届いた。これも万が一バグロイヤーが、他国へとミサイルを発射したとなれば、キエフの一件以上にイギリスの信用が失墜しかねないと危惧されていた為である。最もアトラスは苦笑いしながらも受け入れており、


『気休めになるか分からないけど、君の部屋に爆弾を仕掛けたのは君じゃなかったよ……安心して』

「操られた時の僕かと思いましたが良かったです……これで僕の心配も」

「それで悔いはないというつもりか!!」


 ムウが巻き込まれたアトラスの部屋の爆発は、セルによって催眠術をかけられた相手がクルーの中に存在した故に生じた事を明かされた。操られていた自分が他の面々に迷惑をかけていたのではないかとの懸念があり、その濡れ衣が晴れた事で安堵する想いだったものの――死地へ赴くような彼へ待ったをかける声が背後から聞こえた。振り向けばアイボリー色の頭髪の彼の姿があり、


「……ロディさん、これは僕が出ないと収まりがつかないよ」

「そうは言うが、貴殿も無事で済む保証はないぞ! そ、それを分かってだな!?」

「大人しく黙っても、僕はどうなるか分からない……って言ったじゃないですか」


 アトラスを引き留めようとするロディだったものの、彼はどの道自分が極刑を免れない事を改めて提示する。彼がイギリス代表プレイヤーであると公表はされてなかろうと、キエフの惨劇からイギリス側は当事者として彼を裁かない限り、他国に示しがつかないとの事であった。その為にミサイルの処理要請を受け入れたが、


「これで上手く行ったら、帳消しになるかもですし、別にこれで死ぬ訳じゃないですしさ」

「そうそう、何か会った時よりいい面構えじゃん」

「アグリカ……言葉が過ぎるぞ。貴殿も分かる様にアトラスは」

「あたしにも無理だよ。もう本気みたいだしさ」


 アトラス自身、寧ろこの国家の命運をかけたミサイルの処理に対して汚名返上。プレイヤーとしてあり続けるチャンスであると捉えていた。その為に輝きを発している彼の瞳を見れば、自分たちでは止められないと、


「まっ、腹をくくったなら根性見せなって。こいつにも爪の赤煎じて飲ませたいしさ」

「き、貴殿はこの期に何をふざけた事を!」

「そんな、手本だなんて初めていわれましたよ。僕もプレイヤーとして此処にいるんですね」

「何を今更。少し自信持っていいんだしさ……おや」


 アグリカは本人が強い意志を持っているならばと、無事を信じて送り届ける事しかできないとのスタンスだ。そして当の本人は、ロディからすれば手本に相応しいと評されて少し照れ笑いを浮かべる。大勝負に出る割に彼はどこかリラックスしている様子である。その折にアトラスの名前を呼ぶ声に気づき、


「あいつら、お前の事探してるっぽいな~あたしが時間稼ぎしとくし、お前はまだ部屋にいてな」

「そうか……すまん、余にできる事は……」

「僕の無事を祈ってくれればいいですよ。急ぎますからこれで!!」

「あ。アトラス、待……」


 ニアとリンがアトラスを探しに向かっていると気づき、アグリカが足止めに出たと共に、アトラスもまた転送装置の扉を既に閉めていた。その場でポツンと取り残されながらも、ロディが左手に力を入れて壁へ拳を打ち込むと、


「何がエジプト大統領の三男坊だ……それで勝てぬのが現実ならまだよい……!!」


 ロディはひたすらに己の至らなさを受け止め、打ちのめされんとばかりに体を小刻みに震わせていた。彼の鼻頭が赤く、目頭が潤んでいたが、


「こうも、こうも……死に行く者の力になれぬのか! 余に任せられる力があれば……!!」


 壁へと打ち付けた拳が腫れた事だけではない。自分の非力さを思い知らされた事は、決してコテンパンに自分が敗れただけではなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『羽鳥玲也という少年がブレスト、クロスト、ネクストのプレイヤーですから、想像力を更に働かせて出る答えは』

『ハードウェーザー3機分が使い物にならずシオシオのパー……でありますな!』


 引き続きコクピットでその肥えた体で胡坐をかきながら、ノーベルは玲也を人質に置く事での有用性を語る。通信越しからの目に隈を作った細身の男、天空軍団№2に位置するシラーケは半信半疑でその作戦での旨味を触れていると、


『そうなると、僕達が七大将軍のトップに立つわけだね』

『ト、トループ様ぁーっ! 何を、何をそうスケールの大きなことを言っているのでありますか!?』

『そうかな。あのガレリオとかが大将軍で、僕達をアゴでこき使おうとしてるんだよ?』


 トループはノーベルの計画が、自分の野望を果たす為の足掛かりになると捉えている。本人の前では異様におべっかを使っていた彼であったが、ガレリオへはやはり臣従していたのは建前に過ぎない。シラーケだけ主君の野望が危険なものではないかと危惧していたが、彼の耳に入っても頭に入る事はないと言わんばかりの態度だ。


『天空軍団が七大将軍のリーダーだね。最もこの作戦を考えたのは僕だから当然だよね』

『は、はーっ! トループ様こそ七大将軍のトップになる器でございまーす!!』

『想像して考えますと、私も№2にはなれますかね……トループ様が勿論トップですけど』


 トループの野望に対して、太鼓持ちのようにシラーケは褒めちぎり、二人の様子にノーベルが人知れずほくそ笑みながら通信を切ると、


『想像したくないですが、このキャンタイフーンも消耗しますから、そろそろ……』

「想像通り俺は来たぞ! 有難く思え!!」


 既にバグストームのエネルギー残量は半分を下回ろうとしていた。サンディストのような重量級のハードウェーザーを宙に浮かせて巻き込むだけの竜巻を発生させるとなれば、それ相応のエネルギーを消耗する。

 それだけに玲也が早く人姿を現してもらわなければ困る。それゆえの焦りからノーベルも微かな不安を不愉快に捉えていた所――彼の声が響き渡る瞬間に、思わずコクピットの中でも顔をあげる。モニターへはバグストームの全身を上回る巨体のクロストが落下しつつあり、


『本当に想像力がないんですね、貴方も! 想像しなくても、想像してしまうじゃないですか~!!』

「話が早いと助かる。このまま中にいる俺達を好きにしてみろ」

『も、勿論私の想像力からですと、貴方たちは……!?』


 どうにかキャンタイフーンを最高出力にして、竜巻の規模を更に高める事で、どうにか天から急転直下で落下するクロストの巨体を宙に浮き上がらせる――最もサンディストだけでなく、倍以上の重量を誇るクロストまでを巻きこむ程の竜巻を出せば、バグストームの消耗はさらに拍車がかかる。その上クロストの重量で一気に自分めがけて落下したならば、バグストームは無事で済むはずがない――これに気づいていたか否か、ノーベルの声が少しこわばっていた。


「オレに玲也が頼るのは珍しいと思ったパチが……そういうことパチね」

「流石にこの状態だと座って握る事で精一杯だ……早く頼むぞ!」

「わかったパチよ、オレがなんとかするパチ!」


 振り回されるクロストの中で、玲也はシートベルトに体を固定させながら、左手でコントローラーを、右手でポリスターをどうにか握る事で精一杯だった。困難な姿勢ながら、至近距離で同伴させたコンパチにポリスターが火を噴くと共に、


『コ、コンパチ様! 玲也様が来られたのももしや!!』

『オマエが座らせたパチか……流石パチね』

『……ど、どうか細心の注意を、若少しの辛抱ですぞ』

『いくパチよー、プレイヤーのお前に使いたくないけど仕方ないパチ!』


 コンパチが転移されたサンディストのコクピットでは、ヒロがどうにかラグレーを同じく席に座らせて、激しい回転が襲い掛かる仲だろうとも、シートベルトで彼の体を拘束し、念には念を入れてパートナーの彼をその身でしっかりと押さえつけていた。

 執事として身を挺してラグレーを守ろうとする姿勢に少し感心しつつも、コンパチは両足を吸盤のように変形させ、頭部へと接触させる。彼が行わんとする術の意味をヒロは把握しつつ、やむを得ないとラグレーの両手を握った途端、


『にゃぱ……!?』

『わ、若……大丈夫でございますか!!』

『爺? おいらどうしたっぺか? 何かぐるぐるしてたまでは覚えてるっぺ……』

『すっかり大丈夫そうパチが……これで結果オーライパチね』


 コンパチがプレイヤーとしてサポートする術だけでなく、プレイヤーの有事に対処する能力も備えられていた。両足から電気ショックを流し込む術は護身用であったが、強烈な回転に巻き込まれて意識を失ったラグレーへのショック療法として駆使された。護身用より微弱とはいえ、脳に電気が走ったと共に、素っ頓狂な声を彼はあげるが、確かに意識を取り戻した。それどころか最高出力のキャンタイフーンで、サンディストが激しく回転しているにもかかわらず、彼がケロリとしている表情に多少驚きを示していたものの、


『電次元ジャンプと叫ぶパチ! オレが制御するパチから!!』

『か、忝いですぞ! 若、いいですな!!』

『行くっぺよー! 電次元ジャンプだべ!!』


 ラグレーが意識を取り戻すと共に、サンディストが電次元ジャンプでキャンタイフーンの渦から逃れた。それもあり微かにクロストが渦の中で浮上しつつあった事で、


『サンディストが逃げたのですか……な、なにクロストがあのまま、羽鳥玲也がくたばる事を想像しましたら』

「玲也様がどうなるかが、既に想像がついていまして?」

『えぇ、キャンタイフーンは中の人間だけをそのまま……ですから僕の想像……!?』

「まだクロストの中に俺たちがいると思っていたようだな……何が僕の想像だ」


 ――ノーベルの誤算、ここに極まれり。玲也は少し呆れたように彼へ突っ込みをかわした。クロストが駆使する微塵隠れはクロスト・ワンが脱出する事で本体を爆破四散させる事を可能としたが、玲也は応用としてクロスト・ワンだけ脱出し、そのままクロスト本体をもぬけの柄として勝負に出たのだ。今のバグストームは無人のハードウェーザーを延々と回し続けているだけである。

クロスト・ワンへと向けて近接防御用のEガンを連射させているが、脱出用のコクピットメカが微弱だろうとも、射程が届かなければ相手にならず、


『ま、まだ囮がいたのを忘れてました~いや、僕の想像力の賜物で……』

『……玲也さんとエクスさんがもう人質ではないです、遠慮はしないです』


 サンディストをおびき寄せるための囮がいたと、ノーベルはまだ負けていない事をアピールするものの、クロスト・ワン目掛けてミサイルポッドが開く直前に、ハウンド・ライフルが炸裂する。既にノーベルの後ろ盾はないも同然であると、フレイアのゴースト1は畳みかける。怯んだ隙を突いて、手にしたジャイローターからシュツルム・ストリームを発動させた事により、双方は引き離されるように弾き飛ばされていく。ゴースト1が大きく後退するものの、


『おわっ……僕の想像もしてましたが、流石に……』

「貴方にはもう時間がございませんこと。私の想像ですが……!!」

『ぼ、僕の想像を上回る事など……!!』


 ストリームで弾き飛ばされた子機がバグストームへと叩きつけられ、クロスト・ワンのバスター・キャノンが直撃すると共に子機の爆発が、バグストームの本体をも巻き込んでいく。これによって、ローターを損傷しキャンタイフーンの出力が落ちると共に、落下するクロストが咄白光を放ち


「……何が想像だ、お前の思い込み通りに行く訳があるか!」

「本当、玲也様の言う通りあっという間でしたわね」

「あそこまで敵が馬鹿となれば……頭が」


 クロストが爆破四散を引き起こせば、バグストームは簡単に巻き込まれていった。ノーベルが自分の想像力を上回る玲也たちの行動に翻弄され続けていたが、彼は想像以前の問題だと吐き捨てた。


『玲也君、早く戻ったほうがいいよ! 結構無理してるみたいだし』

『だからシャル君、直ぐにレスリストを追ってくれないか!!』

『レスリストですと……まさか本当にミサイルが!!』


 そんな玲也の身を案じるように、シャルはすぐさま帰還すべきと促した所、エスニックからはイギリス上空へ向かうようにとの指示が下された。フェニックスから出撃しており、現在で大気圏内の飛行能力を持った数少ないハードウェーザーとの事もあって、前もってミサイル基地の一件が伝えられていたものの、


「レスリスト、ミサイル……将軍、何々ですか! アトラスさんが何か……」

『しまった! 玲也君との通信を入れっぱなしで……』

『やむを得ない……バグロイヤーにスコットランドの軍事基地が乗っ取られてな……』


 シャルがちょうど玲也へ帰還を進めていた最中に、エスニックからの通信が入った為、玲也にその話が筒抜けとなってしまった。玲也の追及に対して今更誤魔化そうとしても意味がないとばかりに、直ぐエスニックが経緯を説明すれば、


「ヴィータストもいるとなれば、ブレストで出ます! アトラスさんにもしもの事があってからでは!!」

『……この事態で間違いなく君は行くであろうし、確実性を望めば無理強いもさせてしまうが』

「ヴィータストよりブレストの方が体裁を保てますからね……考えたくもないですけど!」


 玲也はミサイルの処理にあたってブレストが必要だと判断を下した。エスニックが懸念する事態と別に、イギリスが引き起こした不始末を処理するにあたって、表向きは正体不明のハードウェーザーである方が角も立たない為でもあり、


「ブレストで処理するとなれば、ブースターだね! 僕が玲也君の分も動かすからさ!!』

「済まない。クロストはフェニックスに回収させて対処する。お前には悪いがち」

「……確かに急を要しますから、仕方ないですわね。玲也様、どうか……」


 急を要する中、ブレストより空戦能力と機動性に長けたブレスト・ブースターへのコンバージョンが最善と玲也は判断を下した。エクスをその場に取り残す事へ若干の躊躇が有れど、自分の隣へと電装されたブレストへ乗り換えんと、我が身をポリスターで撃つのであった。


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