第27話「北海に消えたレスリスト」
27-1 夢から醒めて、意外な訪問者?
「なんで貴方が、よりによって貴方が……!!」
フェニックス・フォートレスにて、玲也はその拳を黒髪の彼目掛けて振るった――セルの罠に嵌り、アトラスが操られて引き起こした惨劇だろうとも、既にキエフを壊滅させた被害からして、世間がまず許す事はないであろう。イギリス代表のしでかした事は余りにも痛手として、彼は許せるはずもないが、
「玲也さん! 本当に悪いのはクレスローさんの弟で!!」
「なら、そうならないうちに片づけるべきだ! バグロイヤーに堕ちた時点で怪しいですよ!! 」
「確かに正論かもしれないですけど……いや」
玲也の憤りを一身に受けるアトラスとクレスローに対し、リンも玲也の怒りを肯定せず、二人の身を案じて意見したが――元凶となったセルを早く始末していればとの主張は結果論に近い。さらにかつて同じ立場だったイチの顔つきが微妙に歪み、思わず疑問視する意見を口にしかけており
「才人だってこうも腕を上げていますのに……恥ずかしくないのですか!?」
「だから、オマエ、そう直ぐにほめるのは止めるパチ。才人がまた調子に……」
「そ、それもそうかもしれないけど! 何かそこで俺を持ち上げてもちょっと……」
「……と才人も言ってるから猶更パチよ」
アトラスの不甲斐なさを責めるにあたって、玲也は才人の活躍を引き合いに出す。彼をその気成せるなとコンパチが窘めるも、調子に乗りやすい才人本人ですら、この気まずい雰囲気で自分が持ち上げられても困ると戸惑っており、
「お前なら同じ失敗はしない……まるで、アトラスより優れていると」
「俺はアトラスさんにも貴方にも勝ってますからね! 身内同士で庇いあうのは……」
「そういう話ではないわ! 余所者の馬鹿者が!!」
玲也が一方的に詰っている様子に対し、マーベルが痺れを切らせたように啖呵を切った――彼からすれば、まるで電装マシン戦隊の失墜を招いたアトラスたちが戦犯だと糾弾するスタンスを崩していないものの、彼女は一喝して玲也を黙らせ、
「玲也さん、やめて……アズマリアさんとルミカさんの事も……」
「お前もマーベルさんやアトラスさんの肩を持つ気か!!」
「そうじゃなく……あっ!!」
リンが触れる通り、アズマリアとルミカの二人はセルに催眠術をかけられ、長時間ムドーに操られていた。玲也に救出されて一命はとりとめたものの、催眠術の後遺症かのように意識不明のまま治療を余儀なくされており、マーベルとして苦楽を共にした子飼いの部下二人の容態に対し、穏やかの状態の筈がない。だが、玲也は冷静になれと促すリンの手をも払いのけ彼女に尻もちをつかせると、
「アンドリューも堕ちたようだな! こんな奴を後に据えるとは!!」
「……今ここで言う事ですか! 貴方に俺達の何が!!」
「分からないだろうな! リーダー気取りの思い上がりにはな!!」
猶更玲也へ冷たい視線を向けつつ、アトラスとクレスローへと手を差し伸べる。二人が立ち上がると共にガンボットも息を切らせながら駆け寄っており、
「僕達も用心していたつもりだったけど……本当取り返しのつかない事をしたよ。笑えないね」
「……クレスローさん」
「い、行こうか……私でも出来る事はするから」
「すみません、本当迷惑ばかりかけてまして……」
この手で弟を殺めたクレスローの胸の内も穏やかではないだろう。だが彼は弟を喪った犠牲者である以上に、電装マシン戦隊を失墜させた加害者であるとの自覚はあった。彼は自分の未熟さが引き起こした惨事だと頭を下げた後、ガンボットに連れられてアラート・ルームを後にしており、
「玲也ちゃん……俺もちょっと頭痛いから」
「あのバグロイドのダメージもあるパチ、少し休まないと流石にきついパチ」
「……!済まない、もう頭がいっぱいで。直ぐジョイさんの所へ行ってくれ」
どこか冷めた視線を自分に向けながらも、才人とイチが揃って後遺症があるかのように頭を抱えている。アトラスの件でないがしろにしてしまっていたと詫びながら、彼らをドラグーンへ向かわせた事で、一気にフェニックスのアラート・ルームに静寂が漂うものの、
「……本当、最低ね」
「コイも人の事を言えない気が……貴様の方が見苦しい」
「コイさんにサンさん! なんで貴方たちが!?」
マーベルに代わる様にして、中国代表の二人が揃って玲也を手厳しく意見する。彼らがフェニックスへ現れている事が唐突だと目を疑っており、
「ニェット、ニェット、ダー!」
「まるで玩具を手にいれたボウズのようだと言っているな。そう言われている事が分かるか?」
「カプリアさんまで……そんな、何故俺がそうも言われないと!!」
「あたし達もそういいたいの分かる、ノータリン君?」
ロシア代表もまた、自分を冷めた目で見ていた事はボウズと呼ぶカプリアの態度から察せずにいられなかった。さらに自分たちへ追い討ちするかと言わんばかりに、リズもまた自分が愚かだと言いたげと手厳しく評する。彼がいるとなれは他の代表たちもそろい踏みしており、
「玲也の兄ちゃんおかしいっぺー、大丈夫だべか?」
「若がこう不安に覚えられてますと、玲也様にイニシアチブをとらせる訳には……」
「ねぇ、シーン、イニシアチブってなーに? 」
「主導権だよ! 毎回出てくる主人公とかに回ってくる奴だよ!!」
――約1名明らかに個人的な嫉妬によるものはともかく、ドラグーンの面々からしても玲也はリーダーとしての器はないと立て続けに詰っていく。さらに追い打ちとばかりにシーンとヒロの間から割り込むように、2mほどの大男が現れると、
「馬鹿たる大将、利口すぎたる大将、臆病たる大将……おんしなら意味はわかっちょると思うがのぉ」
「国を滅ぼす大将ですか……俺が当てはまるとでも!?」
「……わしは馬鹿やから、よぉ分からん。馬鹿たる大将は才能より自惚れが問題らしいがのぉ」
甲陽軍鑑にて記された悪い大将の典型――それはリーダーにも当てはまる条件ともいえた。彼もまた自分を詰っているのではないかと、玲也は頭に血がのぼったように抗議する。彼と対照的にラルは鼻毛を抜いては、口で吹きかけて飛ばすなど自然体のままで。遠回しに自覚しろと促してもいるようで、
「わしも言わせてもらうぜよ、強過たる大将とのぉ……」
「強すぎる……そんな!!」
「確かに玲也は強いけどー、それって良い事じゃないの~シーン?」
「そ、そりゃまぁ俺達よりは確かに強いし、主役みたいにって……あれ?」
さらに国を滅ぼす大将として、真打たる強過たる大将だと玲也に突き付ける――外野となるステファーからすれば、甲陽軍鑑の内容を知らない事は言うまでもなく、シーンへと問いかけるが、彼もまた強過たる大将の意味を別の方向へと解釈違いを起こしており、
「強すぎる事は勇猛であっても慎重ではない事を意味しますぞ、組織としましては歯止めを喪い……“まっさかさま“ですぞ」
「まっさかさまって事は、おしまいってことだべか?」
「左様、玲也様まっしぐらとまっさかさまは違われます、どうか私から肝に銘じてもらえばと」
「俺が今までまっさかさまに向かったとでも!?」
オーストラリア代表だけでなく、主君となるラグレーにも分かりやすい解釈でヒロは強過たる大将の意味を解く。玲也にも意味の違いを理解させようとするものの、彼は意固地になってヒロの諫言も退け、
「ラルさんもラルさんだ! 貴方も年上だから偉そうですが、経験は俺の方が……あれ」
顔を挙げた玲也の視界には、既に先ほどまでの各国代表の姿は一人たりともなかった。ただポツンと取り残された状態で足を踏み出そうとするものの――何故か力が入らない。いつの間に自分が背後の彼女に強く拘束されており、
「リン、離せ! まだバグロイヤーを、七大将軍を八つ裂きにするまでは……」
「……玲也さんはリーダーとしての器ではないです、目を醒ます必要があります」
「そんな、リンまで……何故だ急に体が、眩暈が……」
リンが密着すると共に彼女の体が石のように重くなりつつある。そして彼の意識も急速に曖昧なものとなりつつあり、目の前の光景がホワイトアウトしていくと
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「う、うぅ……」
「……玲也さん、目を醒まされたのですか」
「その声は……リン、かとすれば」
――悪夢から玲也は抜け出そうとしていた。魘される彼の背後から聞こえる声から、リンではないかと推測するものの、その彼女が後ろから自分に手をまわして同じ布団の中に身を投じているのだから。
「……いや、これも何かの夢だ。俺もあそこまで酷い事をしていたとなれば」
「……夢ではないです」
だが、夜這いをしかけてくるとなればエクスはまだしも、リンがそのような大胆なアプローチをしかけてくるとは思わない。何かの夢であると自分に言い聞かせるとと共に、彼自身アトラスやクレスローだけでなく、他のプレイヤー達までも否定するような暴言を吐いて、意固地になった記憶はない。悪夢の中の自分に嫌悪感を覚えるものの、背後の彼女は夢で同じ布団に入っていないのだと釘を刺し、体を密着させる。
「まさか……それにしてもリンがこれほどの、その……ごほっ、ごほっ」
「……互いに体を温めあう事が良いらしいです。アイラ様の本から学びましたです」
「アイラ様……?」
想像以上にたわわな膨らみだったことへ疑問を抱くものの――彼女がアイラから学んだとの口ぶりからして、リンではないと気づいた。直ぐに顔を彼女の方に向けるや否や顔色一つ変えず、自分の元に手を伸ばして密着させる。それもはんてん姿の自分に対して一糸まとわない彼女がそこには存在しており、
「……おはようございます、玲也さん」
「フレイア……って、うわぁぁぁぁぁぁぁつ!?」
エクスどころかリンでもなく、何故か知らないが自分のそばにはフレイアがいた。それも純然たるアンドロイドたろうとも、純粋な女性と何一つ変わる事のない裸体を直視してしまっていた――日々の中でニア達の煽情的な一面を目にして心揺らぐ時があれど、それ以上の刺激や衝撃を玲也は今味わっていた。シチュエーションやボディラインで3人を凌ぐ他、自分とそのような接点があった覚えがないフレイアがそこにいる事も起因していたのだろう。ひたすら驚愕の声を彼が挙げつづけており、
「……平均体温を上回っています。大丈夫ですか?」
「勝手に起き上がるな! まずは服を着ろ!!」
「……私の体温は平熱です」
「問題になる所が違う! 恥ずかしくないのか!!」
「……恥ずかしい……ですか」
玲也が少し風邪気味であるとフレイアが述べるものの、今の光景からして彼女が纏わない姿で布団から起き上がる事こそ最大の問題であろう。玲也が顔を後ろに向けながら服を着る様にと最もな事を命じる。良く把握していない彼女が羞恥心へ突き当たると、
「……確かに、ムウさんと会う時は変です。よくわからないですが玲也さんを前には変でもないです」
「……あのなぁ! 俺が困るから服を着ろ……ゴホッ、ゴホッ!!」
「玲也いるの!? 一体何があったか返事して!!」
「いや、何でもない! 直ぐに開けるから待って……」
フレイアが羞恥心をおぼろげに理解してはいるものの、今その話をしても余計状況がややこしくなるだけであった。そうこうしている間に、先ほどの悲鳴を聞きつけたのだろう。ニア達が必死に駆け寄って何度もドアを叩いており、
「リンさん、開けてくださいませ! 3人で入りますから!!」
「やめろ、勝手にハッキングこじ開けられると……」
「玲也様、大丈夫でして、どこもお変わり……」
“エクスがリンにハッキングを仕掛けるよう、促した結果一人を除き、玲也の部屋へといた面々は揃って錯乱状態ともいえる様相を示していった。だがそのような色恋沙汰によるいざこざが吹き飛ばされる慟哭へ、玲也は電装マシン戦隊は遭遇しようとしていた……この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”
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