27-2 猛攻バグキマイラ、猛獣将軍レーブン襲来!

「こうも、同じ奴が出てくるなんてね!!」

「バグビースト……バグラッシュの後継機として猛獣軍団が配備してだな……」

「そういう話をしてるんじゃないわよ!」


 ――ウクライナとベラルーシを横断するように流れるドニエブル川にて、四本脚をホバー代わりとして、水上を滑走するウィストへと、カーキ色の機体の群れは迫りつつあった。

 サンが触れた通り、彼らは猛獣軍団が率いるバグビースト。バグラッシュを基に強化された主力である。洋上でバックパックからのマイクロミサイルポッドが飛び交うものの、


「全く、こうも川までおびき寄せないといけないなんね……」

「余計に風当たりが強くなった……あの馬鹿のせいでな」


 カイザー・キャノンによってバグビーストからの攻撃を撃ち落としていくが、積極的な攻勢にウィストは回らなかった。そもそもウィストが必ずしも得意とは限らない水上へ囮役を務めた事も、最小限の被害で一網打尽に一掃する事が目的であった。

 キエフからそう離れていないドニエブル川だけあって、戦火の傷跡は癒えている筈もない事が、猶更慎重な対応を彼らに求められていたが、


『おい待て、勝手に出たら……』

『このまま一気に止めを刺してやるからよ……!!』


 必死で追い続けるバグビーストの中で、1機痺れを切らせるように前の機体を飛び越し、前足からのデリトロス・フィンガンを展開させる。別方向からのミサイルを撃ち落とす事で精一杯のウィストの脇腹を狙ったものの――飛び上がったがゆえに、コクピットとなる胸部を露呈させていた為に、強烈な一撃をお見舞いされた。


「簡単にくたばる程、甘くはない……!!」

『うっ……!!』


 ティガー形態として尾に該当するブーメラン状のユニット――テール・シーカーの先端からニードルが撃ち込まれた。確実に手ごたえがあったと示すように動きが微かに止まった隙を突き、アイブレサーを胸部へと放てば瞬く間に爆破四散を遂げ、


「作戦にはないが……やむを得ないな」

「どうするの!? もう司令がその気なら動いてもいいけど!!」

『なら私が相手をしてやろう……!!』


 最もおびき寄せきる前に、ウィストがその力を見せつけたとなれば作戦に支障が生じる恐れもあった。コイが咄嗟にネーラへ確認を取ろうとした直前、紫色のフレームが生成されウィストの進路を遮るようにして立ちはだかる――ウィストやバグビーストと同等の形態ながら、二枚の翼を展開されまるで幻獣らしき外見であり、


「また新しいのって……何か知らないの!?」

「……何でも知ってる訳ではないが」

「知らないと思うから教えてやろう! 私が猛獣将軍レーブンだとな!!」

「……まさか七大将軍の!?」


 同じ猛獣軍団のバグロイドであるとまでサンは察していたものの、おそらくデータを入手できておらずその先まで把握しかねていた彼に代わる様に、当の本人自らが堂々と名乗りを上げる。七大将軍の独りが堂々と現れた事に思わず、コイが少し唖然としており、

 

『レーブン様何故、将軍たる貴方がそう簡単に動いては!!』

『膠着したままで良いのか! あのハードウェーザーにこのバグキマイラの強さを思い知らせてやる!!』

『ですが、もしレーブン様の身に何かありましたら!!』

『何かがある前に、カタをつけるだけだ……!!』


 バグキマイラもまたバグラッシュの流れを汲むバグロイドだが、猛獣将軍となるレーブン自らが駆るワンオフでもあり、猛獣軍団の象徴となる。それだけに象徴となる彼女が最前線へ現れると、部下からは危険であると忠告されるものの、聞く耳を持たず猪突気味に迫りつつあった。キマイラのように左右へ大きく展開された、デリトロス・シュナイダーをパージさせ、その口につがえて保持しながら進撃しつつあり、


「七大将軍がこうもに来るとは……馬鹿か?」

『だとしたら思わぬ結果じゃ! ちっくと時間を稼いでくれんかのぉ?』

『サン君、無理しないでね! 私まだ尼さんはゴメンだから!!』

「……わざわざ貴様が言わなくても良い、コイ!」


 ラルからはここで相手をして余計な消耗を招くより、あしらって時間を稼ぐべきとサンへ助言する。リズのフォローはイチに対する求愛と似た内容であり、当然彼が頭を抱える。それでも彼の主張は一理あると、直ぐコイに促す。デリトロス・シュナイダーを足場にして二段ジャンプで飛び上がった後、すかさず胸部からのカイザー・リボルバーを真下のバグキマイラ目掛けて放った所、素早く展開された尾の剣が唸りを挙げて腹部を掻っ切る。


「うあっ……!!」

『貴様! 戦わずして生きて帰れるとでも思ってたか!!』


 自らの頭上を飛び越えて避ける真似は、レーブンには小癪と映ったのだろう。尾びれに仕込ませた剣ライブレールが縦一文字に掻っ切る。テール・シーカーのスラスターを咄嗟に展開して、体勢が崩れる事を避けるものの、腹部のダメージから回復しきれていなかった所から、対応に遅れが生じており、


『敵に背を向けて果てる屈辱……とくと味わ……!?』


 掻っ切ろうとして駆使したシュナイダーを再度バックパックへ装着し、バグキマイラが飛び上がる――ウィストと異なり大気圏内の飛行能力を持ったうえで白兵戦に転じられる点こそ、ウィストには存在しないアドバンテージでもあった。爪先からのデリトロ・スクラッシュを展開して切りかからんとするが、上空からのビームがバグキマイラを遮る。コイが思わず頭をあげた所、


「ユースト……もう引き返してきたの!?」

『俺達の出番の事もあるからな……!!わざわざ引き返したぜ!!』

「……まさかと思うけど、わざわざそれで来たんじゃないわよね、ねぇ!?」

『……おのれ、勝負に水を注す恥知らずが!!』


 パルサー・キャノンでウィストの窮地を救うものの、シーンが到着した動機が動機の為、コイが突っ込むがそもそもユーストがキエフの上空で、バグファイターを攪乱する事を目的としていたのだから、実際ユーストめがけてバグファイターが追撃しており、レールガンがユースト目掛けて飛ぶ。


『レーブン様、落ち着いて! こちらに戦力を集中させれば……』

「余計不利にしてどうするのよ、この馬鹿!!」

『えぇい! 分かっておるし、うるさいわ!! ハードウェーザーの首を掻っ切れば……』


 陸戦特化型故に飛行能力を持たないバグラッシュからすれば、バグファイターの合流は吉報ともいえた。猛獣軍団の優位性を確立するとともに、レーブンが血気に逸る必要がないと捉えていたものの――上空で1機が瞬く間にコクピットを刺されて、力なくドニエブル川へと墜落した。猛獣軍団からすれば青天の霹靂であり、


『な、何があった……あっ!!』


 すぐさまバグファイターのパイロットが驚愕するものの、僚機がスタンドレッダーを浴びせにかかり、怯んだ隙を突いて、デリトロス・セイバーを串刺しにする。味方を殺めた2機のバグファイターは直ぐレールガンで猛獣軍団目掛けて襲い掛かっており、


「時間差でハッキングか……考えたな」

『こうした方がうってつけですからね。俺だってそこまで馬鹿じゃないですよ』

「そ、それなら早く言いなさいよ! もう!!」


 ユーストのハッキング機能は機体を掌握した上で、あえて即座に干渉しなかった事でバグファイターに看破されないように、わざとおびき寄せた。その上でバグロイドが集結した時を狙い、バグファイターを制御下において同士討ちを引き起こして戦鬼軍団を混乱へ陥れる。シーンが少なからず考えた上で行動していた事へ少しサンが感心し、コイも少し咄嗟に手の平を返す中、


『どうした! 何を浮足立って!!』

『レーブン様、あいつです! 何故かデータが見つからないので良くわかりませんが!』

『あのユーストとかは、確かバグロイドを操ってきます! 時間差で仕掛けるとは!!』

『えぇい、面白みのない奴だ! それもつまらない手などを打ってきて!!』


 部下からの報告を受けて、ユーストが小賢しいとレーブンは激昂する。その為にすぐさま標的を切り替えて飛び上がれば、


『レーブン様おやめ……レーブン様を守れ! 急げ!!』

『は、早く急ぎたいですが、一体誰が……うあっ!!』


 短気を起こしてバグキマイラが飛ぶ。単身で一騎打ちに拘る彼女に対して部下たちは揃って彼女の援護に兵を回そうとしたものの、操られたバグファイターに足並みを乱されて思う通りに援軍を回せない。1機のバグファイターがこの状況を打破しようとしたものの、目の前に一回りも二回りも巨大な左手が炸裂。怯んで水上へと堕ちるバグファイターの背後で、巨大な球状のエネルギー弾が着弾。彼の背後が閃光に覆われると、


『オフサイドトラップかしらね、これ……?』

『ちっくと違うがのぉ、誘われちょったのは同じじゃのう!!』


 ――ウィストがドニエブル川にてバグロイドをおびき寄せた事も、ユーストがわざと誘き寄せた事も全てが電次元ゴッドハンドで一掃するための前座に過ぎなかった。ほぼ一か所にバグロイドが群がった所を目掛け、巨大なエネルギーを着弾させたのであり、


『おのれ……退けぇ、退けぇ!!』

『私たちより、レーブン様こそ早く……がっ!!』

『ステファーが相手だってこと忘れるんじゃねぇ!!』

『皿のような貴様の首、噛み切って跳ね飛ばしてやるわ!!』


 過半数以上の兵が犠牲となった事へ、流石のレーブンが少し狼狽えながらも部下への撤退を促す。ただ彼女自身撤退を望んでいない様子故に、部下も逃れる事へ躊躇がありパルサー・キャノンの直撃を受けて果てる。目の前のユーストを討ち取るべき相手と見なし、デリトロ・スクラッシュを展開させ、ユーストの繰り出す両足のアーケロ・クローへと爪を突き立てる。自分の前足も鉤爪のような足を潰さんとしていたが、徐々に足先からのセイバーの出力が弱まりつつあり、


『ど、どうした……何故パワーがあがらん!!』

『あんたって人は本当馬鹿だな! この俺が相手にしてるってのによ!!』

『貴様が誰か知らんが、まさか……くそっ!!』


 ユーストが敢えてバグキマイラへ受けて立った理由も、白兵戦主体であるがゆえに相手が自分と接触する点を踏まえての事だ。部下たちの進言を思い出した事には既に自分がユーストへと掌握されつつある。制御が効く内にプロメテウス・ロガで反撃に出る。ザオツェンと同じように業火を吐きつけると共にユーストの下半身を炎上させんとするも、盛大な爆発を巻き起こすと共に本体は平然と飛び上がっており、


「ちょっと! まさかあんた達こいつを生け捕りに……!!」

『生け捕りが嫌なら、ぶち殺したらいいのかよ!?』

「そういう事言ってるんじゃないわよ! そう簡単に出来る訳」

『ユーストだから出来るんだし、何せ俺はこの瞬間を待って……』


 レーブンが曲がりなりにも猛獣将軍である――七大将軍の一人をそう簡単に生け捕る事が出来るかと、コイがオーストラリア代表へと尋ね、深追いは危険だと促した時だった。ドニエブル川へと背を向けていた瞬間、幾多ものビームがユーストの背中へ立て続けに炸裂し、


『う……動けた、一体何が!』

『レーブン様、速やかに撤退を! ここは私が食い止めますから!!』

『シュダール……お前迄ここにくるとは!!』

『レーブン様がこうも前に出られてるからですぞ! 半数以上を喪ったとなれば!!』

 

 白髪の入った長髪と顎髭を持つこの屈強たる男“シュダール”はレーブンへと撤退を諫言する。猛獣軍団の副官かつ、先代将軍の腹心として君臨した老将もまたバグロイド・バグガゼルへと姿を変え殿の為に参上した。バグキマイラを救わん為、ユースト目掛け首周りから拡散ビーム砲デリトロ・スプリットを連射した結果


『おい、あいつ動いてるぞ、シーン!!』

『タービンがやられたのかよ! これから俺のターンだってのに……ってうわぁ!!』

『私を手駒にして辱めた貴様だけは! なぶり殺しにしてや……!!』

『なりません! 勇猛だけでは戦えませんぞ!!』


 バグガゼルはユーストのヘッドム・タービンを潰す事で、バグキマイラを支配下から脱出させんと出た。タービンが潰されたユーストはアドバンテージを潰されたようなものであり、自分を捕虜にせんとした憤りから、レーブンは真っ先に向かう所をシュダールに制止され、


『えぇい! ハインツの押し売りはたくさん! まだハードウェーザーの首を!!』

『ハインツ様は関係ありませぬ! レーブン様とて長く戦えるわけではないのか!!』

『エネルギーがだと……うあっ!!』


 消耗しつつあった身で、パルサー・キャノンによる報復を受けてシュナイダーが破損する。飛行能力が損なわれ着水してしまった事でアドバンテージを喪ったようなものであり、


『くそっ、覚えてろ! お前も直ぐに逃げろ!!』

『無論です、必ずしも戻りますので今、暫しのご辛抱を……!!』


 ユーストを追撃する術だけでなく、電次元ジャンプでの帰還も困難になると判断せざるを得なかったのだろう――シュダールの無事を信じて先に戦線を離脱すると、


『その上で猛獣軍団の汚名を禊がねば……!!』

「……こっちにくる!? まさか本当に死ぬ気じゃ!!」

「手負いの獣は何をするか分からないからな……!!」

『そうじゃのぉ、0-0の試合はまだおわっちょらんぜよ!!』


 レーブンの退却を見届けると共に、シュダールは単身でウィストを仕留めにかからんとした。頭部の一本角クロスキャリバーを前のめりに倒し、ドリルのように唸りを挙げながら、ウィストを貫かんとした。カイザー・フィンガンよりリーチに長けるクロスキャリバーを前に、サンが警戒せざいと捉えていた所、両者の激突を前にして別の軌道が急速に迫りドニエブル川を真っ二つにせんとばかりに突き進む機影があり、


『脇腹を突くか……うぐっ!!』

『悪いけどこれ以上のオイタはめっ!なの、ゴメンしてね!!』

『おんしに点を取らせちゃいかんからのぅ、悪う思うなよ!!」


 ゼット・フォーミュラを発動させることで、50m以上もの巨体が水面に沈みゆく前に強烈な体当たりをバグガゼルへとぶちかます。同じ陸戦に長けた機体だろうとも、ジーボストの重量が桁違いであったゆえ、その全重量を乗せたタックルは強烈な威力を見せつけた。宙にバグガゼルが吹き飛ばされると共に、


『横槍がこうも……くそっ!!』

『逃げてったみたい……反応もないかしら』


 宙へ煽られながらもシュダールは無駄死には避けんと、電次元ジャンプで戦線を離脱する。直ぐアメンボ・シーカーをパージさせリズが念には念を入れて探る中、西方からは4機もの機影の姿があり、


『サザンクロス・バディって事は……』

『アラにいー、アラにい無事だったかよ!!』

『……勝手にオダブツにするんじゃねぇよ』


 ステファーが触れる通り、ライトウェーザー部隊を率いるサザンクロス・バディはアランの愛機。妹からやられていたように扱われていた事へ多少突っ込むが、ユーストと別方面の抑えに回って猛獣軍団を退けたのであり、


『ったく、こうも嫌われるといい気はしねぇけどよ』

『やっぱりキエフの件ですか……』

『ったくよ! そんな嫌いなら、とっととくたばればいいんだよ!!』

「ステファー! あんた言っていい事と悪い事があるわよ!!」


 アラン達ライトウェーザー隊も、現地の人々からしてみれば、守られようとも歓迎される存在ではない――兄たちが蔑ろにされている事へステファーが怒気を発しているものの、コイは迫害されようと自分たちがプレイヤーとしての使命を放棄する理由にはならないと窘めており、


『そうだ! 別にちやほやされたいから戦ってる訳じゃねぇ! ステファーもシーンもそれ位分かってるだろ!?』

『アラにいがそういうならいいけど……なぁ』

『は、はい! そりゃもうアランさんの言う通りで、別に主役だとか目立つだとか考えてるわけじゃ』

「なーんか、凄い白々しく聞こえるんだけど」


 アランもまた兄としてではなく、バグロイヤーと戦う者として甘やかす事はしなかった。渋々ステファーが受け入れている傍ら、シーンはまるで従順な舎弟のようにアランへと媚び諂っている。彼の言動はある意味うさんくさいとコイが呆れているが、


『そうだ! バグロイヤーをぶっ潰すまでは負ける事も辞めることもない! 目だってちやほやされる事もだ!!』

『でも隊長も、妹さんばっかにいい恰好させないとか言ってたんじゃ』

『馬鹿野郎! そこで言う奴があるかよ!? 俺はステファーが心配でな……』

『じゃが、おんしらはわしらと一緒にたたかっちょる。あんなことがあったのにじゃ』


 アランはアランでライトウェーザー乗りとしての意地がある。部下にそのライバル心を指摘されて慌てて否定するものの、ラルは彼の対抗心を承知の上で、ベラルーシ防衛のため共闘てくれたことを感謝する。自分が感謝された事に少し首をかしげていたものの、直ぐに思い出し


『あんたん所のハードウェーザーだけじゃねぇ。ヨーロッパの奴らもやらかしちまったからよ』

『つまり、どっちの責任でもないって事? 意外と物分かりが……』

『リズ、そげな言い方はよすんじゃ。おんしも辛い身じゃろ』


 アランとして、キエフでの惨劇はPAR側にも責任があると捉えていた。レスリストが操られて攻撃した事が糸口になろうとも、同じく操られたカッツェ隊が報復を引き起こした事でさらに被害が拡大してしまったのだから。粗野な外見や性格に反して良識があるアランをリズが少し囃し立てていたものの、ラルが直ぐに彼を窘め、


『まぁいろんな奴がおる、みんな変わりもんじゃからのぉ』

「か、変わり者って急に……って私もですか」

『なんじゃあ、変わり者じゃない奴がどこにいるんじゃて。このわしも、リズものぅ』


 一息ついた後に、ラルは自分たちが粒ぞろいの面々であると評する。その中で変わり者に自分が含まれているのではと、コイが多少戸惑っているのだが、当の本人は自分も当てはまる事も含めてちっぽけな悩みだと笑い飛ばしており、


『あーら、ラルったら行けずだと思わない~コイちゃんもそうじゃなくて?』

「ちょっと……何か凄い抵抗感があるんですけど!!」

『何、誰もかわっちょるから、えぇ所もわりぃ所もあるんじゃて。それがパズルのように上手く嵌れば一つにまとまるんじゃないかの?』

「え、えぇ……確かにそれが出来れば一番ですけど、なかなか」


 リズと一緒に変わり者扱いされることへと、コイは何とも言い難いリアクションをしていた所、ラルはそれを別に恥ずかしがることはないとまたも笑い飛ばす。十人十色、一長一短の面々は互いに助け合ってこそ真価を発揮するのだと説く。彼のリーダーとしての在り方には一目置く者がありつつ、元来優等生然している彼女としては理想論に近いのではとも尋ねている所、


『わしは馬鹿やき、よぉわからんがのぅ……」

『あら、得意のすっとぼけかしら?』

「なら言っちゃるが……集団と集団のぶつかり合いは個々がどう纏まるかじゃないかのぉ」


 得意のはぐらかしを使おうとするも、少しリズに茶化された事もあり、ラルは自分なりの理想を口にしながら空を見上げると――既に空は薄暗い雲で覆われて、幾多もの降り注ぐ雨に地は打ち付けられるよう濡らされており、


(わしらチームとして競いあっちょったがの、同じ国の代表として力を合わせちょった……今もそうかもしれんがの)


 微かに愁いを抱きつつも、かつてプロサッカー代表として競いながらも、ブラジル代表として世界各国を競い合っていた過去がフラッシュバックする。そして今も、世界各国のプレイヤーと腕を競いながら、地球という“国“を代表して、バグロイヤーという”国“を相手に負けじと戦っているのだと。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「それで君は、わざわざ逃げて帰ったのかい?」

「だ、誰が好きで逃げてばかりだと……」

「あーあ、これじゃあアルバトーレの次はレーブンかな?」


 大気圏上空で展開されるバリアーの頂には、円盤状のドームが設置されている。北極を見下ろすように5人の将軍が円卓へと集う。ウクライナからベラルーシへ進軍したものの、レーブン自らが前線に出たにもかかわらず、成果を上げることなく退却した件でトループヘと詰られていた。既に落命したアルバトーレに続く第2の犠牲者は彼女だと小ばかにした態度を取る。


「……貴様!」

「止せ、シュダールがいなければどうなっていたか。簡単に死に急いでは失格だ」

「くっ、ち……ハインツまで」

「ムドーから引き継いで統治しているとなればな……失う事となればもってのほかだ」


 ハインツが仲裁に入った所、トループへと激昂していた様子から一転し、しおらしくレーブンは承諾した。彼が触れる通り超常軍団のムドーが戦死したため、その後任としてのウクライナ統治へは猛獣軍団が後釜に収まった。

だが、他軍団が壊滅迄追いやって支配した領土を引き継ぐだけでは、猛獣軍団が他軍団に見くびられると懸念があった。それ故にベラルーシを自分たちの手で攻略せんと動いた結果が今に至っていた。


「あーあ、セインちゃん退屈―。これだったらディンちゃんみたいにお留守番してた方が楽しいわー」

「……」


 そしてセインはあくびをしながら率直に今の新居を述べる。それもこの会議の場に召集された事を面倒くさいと。グナートが彼女の言動に少し眉を潜めるが、ディンはあくまで太陽系の抵抗勢力、ゲノム解放軍を相手に応戦する為、占領下においたジャールへ留まっていた。彼女のように享楽にふけっているのではないと厳しい視線で返答する中、


「アルバトーレも死んでレーブンも負けたとか……貴様ら七大将軍として恥ずかしくないのか!!」

「……ガレリオ様がお怒りになられる事は最もです」


 5人の視線を揃って浴びるように、黒緑の髪の少年ガレリオは姿を露わにした。彼は五人に向けて七大将軍が電装マシン戦隊を相手に悉く敗北している事実を容赦なく、歯に衣を着せない物言いで突きつける。シーラも彼に追随してプレッシャーをかけていた所、


「悔しいに決まってるじゃありませんか! 誰が好きで負けると……」

「……大将軍のガレリオ様に意見をされるとは、いい度胸ですね」

「そ、その通りだぞ!」


 自分が戦いに手を抜いているのではと疑われている――この疑惑がレーブンのプライドを傷つけるものであり、彼女がガレリオにも臆せず意見する。大将軍の肩書を持つ彼へ意見する事は出過ぎた真似だと、シーラは一蹴するよう突きつける。トループが真っ先にガレリオへ従う事に異存はないと従順な姿勢を表明する。


「バグロイヤー皇帝のご子息ガレリオ様に、僕達が忠誠を尽くすのは当然だ! 君のような経験も浅い奴には分からないと思うけどね!」

「ほぉ……立派な心掛けではないか」

「大将軍と君臨されているのでしたら、僕達より強い! 長い物には巻かれろが僕の流儀ですからね!!」

「……」


 トループが真っ先に自分達へ従う意思を見せていると、ガレリオは満更でもないようにほくそ笑む。ただ対照的と言わんばかりに、その隣でシーラは少し眉をトループに向けて顔を顰める――彼が所詮口だけの男だと察しているように。


「最も俺はお前達より強いのは当然だがな! あのイーテストを仕留めたからな!!」

「……私達がガレリオ様に続くよう,北極近辺を支配下に置いています。そこから」

「黙れ!! 俺はハードウェーザーを仕留めたかどうかを聞いている!!」

「質問~だったら、もうハードウェーザーを仕留めればいいって事だよね~」


 ハインツは冷静に北極を起点に支配下に置いた勢力を広げつつ現状を述べ。そこからハードウェーザーを駆逐していく方針を説明する。だが彼らの姿勢に対し、けれどもガレリオはまるで結果だけを求めているように彼らの過程を聞く価値もないと一蹴する。レーブンやグナートの眉が顰められると、気が抜けたような声でセインが意外な事を質問しかけており、


「……お、お前はそれが出来るのか?」

「出来ますよー? そうですよねトループちゃん」

「え……あ、あぁはい! それは勿論です! セイン様と一緒でしたら僕にできない事はないですよ!!」

「と、いうことですからここはセインちゃん達にお任せあれー」

「……ほ、ほぉ」


 半ば舎弟同然になっているトループに少し圧力をかけて彼の同意を得つつ、セインは自分たちでハードウェーザーを仕留めてみせると宣言した。この宣言を前にしてなぜかガレリオの声が少し上ずっており、


「セインちゃん、正直この仕事やるの面白くないから1抜けたいのー。ハードウェーザーを仕留めたら文句ないよねー?」

「き、貴様は一体この戦いをどう考えて……」

「負けた君がセイン様に口答えするのかよ!」

「まーまー、セインちゃんが折角だしハドロイドの首でもお土産に持って帰ろっかなー。みんなもお土産が来たら喜ぶよね~?」


 セインは早々とこの戦いから自分は降りたいと宣言しており、早速レーブンからの不興を買う。そんな彼女を軽くあしらうように、ハードウェーザーを仕留めた土産としてハドロイドの首を持ち帰るとセインは宣言するが――それは自分たちがそれだけの実力がある、戦果を挙げられていない七大将軍の中で、結果さえ挙げれば好きにして良いのだと周囲を黙らせようとする術でもあり、


「これでガレリオ様と同じ、いやそれより上になるのかしらー?」

「……貴方は一体何が言いたいのです」

「あら、セインちゃんいけないこと言ったかしら―? まぁ口だけでいうのも何だし後は成果を出しましょうかなー」


 自分がガレリオ率いる七大将軍の枠組みに捉われる事はない――彼女の口ぶりはガレリオを少し動揺させ、シーラからは釘を刺される。言葉が過ぎたとセインが舌をペロリと出しながら頭をこつんと叩くが、他の者たちは彼女の姿勢を前に警戒を解く事はなかった。

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