26-5 キエフ炎上、血に染まった大聖堂
『残り15分……全然動く気配がないなんて!』
『落ち着いてマウアー、先輩たちもですしマーベル隊長が見殺しにするはずは……』
聖ソフィア大聖堂の講堂前へと駐留するブレイヴ・バディ隊――彼らの中にはルミカが触れていた後輩の姿があった。
ウェーブのかかった赤褐色の短髪をなびかせるプラムは、ショートボブのマウアーが我を忘れかけている様子を何とか窘めようとするがものの、既にコントロールパネルには凡そ11時45分の時刻が映し出されていた。理性を保とうとするプラムの声も震えが微かに表れている。
『それだったら何で、何でフェニックスが動こうとしないのよ!!』
マウアーが指摘する通り、黒海に佇むフェニックスは動く気配がない。大聖堂の鐘塔を威嚇するように構えているといえば聞こえは良いが、何一つ行動を起こさないまま時は過ぎていき、
『12時になると見境もなく暴れだしてしまう……そのオカルトの為何もできないとはな!!』
狼のように白い毛並の長髪をなびかせるジェミーこそ、カッツェ隊の指揮官。PARヨーロッパ支部の女性だけで編成された部隊であったが――彼女たちは女どころか子供を相手に手も足も出せないでいた。
紫紺色のボディスーツに全身を着用させた彼らはまだ10歳前後の子供達ばかりであり、ライトウェーザー部隊の足元に10人以上が群れている。まるで彼女らが不審な動きを起こさないかと警戒しているようだが、子供相手に手出しもできない現状は、彼女たちにとって少し滑稽な光景であるが、
「もうそろそろ準備をされた方が良い筈です。セイン様の為にこの作戦を成功させるのでしたら」
「分かってますよ……それより少しでも怪しい動きを感じましたら動いてくださいよ」
「はっ……」
同じ紫紺色のボディスーツを着用した上で銀色の額当てを装着した少女は、ムドーへ忠告する。礼儀を弁えているような彼女だったが自分の半分にも満たない程の年齢の子供に意見される事へ彼は不快だったのだろう。一応承諾しつつも、これ以上彼女の意見を聞きたくない為持ち場に戻るように促し
「全く、セイン様のお人形さんはこう従ってくれますが、所詮お目付けの意味もあるのでしょう」
セインがムドーの元へと自分たちのお人形さんを送った。彼ら10人の子供達の目は紫色に光らせ、カッツェ隊をはじめとする大聖堂近辺の民衆に微弱な催眠術をかけており、それが子供達へカッツェ隊たちが手を出せない理由にもつながっている。鐘の音を聞いただけで。自分たちが理性を失う話を信じなくとも、無自覚に彼女たちに信じ込ませていたのだ。
「仮にお人形さんたちで無理でしたら、私が鐘を鳴らして見せま……おや?」
その時、ウクライナ軍事基地付近にて山吹色のフレームが生成される。装甲が覆われると共にハードウェーザー・レスリストが姿を現し、
『バ、バグロイヤーに告ぐ! 我々、電装マシン戦隊が捕えたセルは返す!! ,交渉に応じるつもりだ!!』
「あのハードウェーザーは……いいでしょう、そのまま聖堂へと向かいなさい!」
レスリスト越しからはガンボットによる、人質の交換を承諾した旨の返事が聞こえた。やや覇気に欠ける様子であったものの、セルが乗り込んでいる事を察知したのだろう。ムドーはすぐさまスピーカー越しに、彼を指定した場所へ動かすよう命じた。自分の警戒を解こうとする意図もあったのだろう。グライダー・シーカーをパージしながら静かに一歩を踏みしていき、
『……結局、バグロイヤーに戻るんだね』
『あのアズマリアさんと、ルミカさんが解放されますからね。僕なんかより価値がありますし』
『ノン、そこまで思ってないよ。アトラスもさぁ!?』
『……でも、どうしようもないよ、そもそもセルがその気だし』
レスリストのコクピットには、アトラスとクレスローだけでなく、セルはシートに拘束された状態でいわば、二人と引き換えの人質として運ばれていた。再会して早々弟を手放さなければならない事に、クレスローは未練を引きずっており、アトラスにすがろうとするが――彼としても二人を天秤にかければ背に腹を変えられない。さらにセル自身が引き渡される事を強く望んでいては止めようがないと諦めており、
『お互い殺し合うことを望んでないんだし、バグロイヤーにいても僕が兄さんを殺すとは限らないじゃない』
『バット! それでクレスローが僕じゃない誰かに殺される事もあるじゃないか!!』
『本当……兄さんは甘いんだから。嫌になっちゃうよ』
電装マシン戦隊とバグロイヤー――双方の陣営に分かれることは、必ずしも殺し合いに繋がる訳ではないとセルは触れる。超常軍団の一員として前線に出ようとも、自分が乗っている事を知らないまま他のハードウェーザーに撃墜される事もありうるのだから。
二度と会わない事が互いの為だと望むセルからすれば、クレスローの知らない場所で果てる事が一番だと望むものの、弟が果てる事自体が兄として望んでいる訳もない。自分が望んだ選択だろうとギリギリのところまで歯止めをかけようとする兄へと、セルが少し呆れながら声をかけていると、
『今は余計な事を考えるな! これが罠かもしれないからな!!』
『そうなってほしくないけどね……ただ、今は集中してもらわないとちょっと困るよ』
『す、すみません……』
レスリストの後方でザービストは有事に備えて控える。人質や近辺の住民の生死を大きく左右しかねない状況もあり、バンとムウは念入りに最悪の事態を回避するように動くべきだと説く。アトラスは承諾の返事を伝えると、
『全く兄さんは、いちいち僕の事で煩いんだから』
『ホワイ!? セルは僕と違って自慢の弟じゃないか!! こんなことでまた離れ離れになるなんて……』
『なら、せめて兄さんにいいものを見せてあげるよ』
『いいもの……ホワイ!?』
自分へまとわりつく兄に対して鬱陶しさを感じつつも、最後まで自分を案じ続けた彼へせめてもの情けを見せんとした時だ――突如シートに拘束されたセルの姿が一瞬にして消えうせた。それまでコントローラーを握っていた筈のアトラスがポリスターを彼へ放った為であり、
『……』
『ノン、アトラス! 土壇場で何を……うわ!』
交換条件に提示されたセルをアトラスはあっけなく手放した。予想外の行動をしでかす前兆が見られなかった故狼狽するクレスローだったものの、左方からは衝撃波を叩きつけられて、シートから思わず体勢を崩してしまった。その隙を突くように同じ銀髪の彼が席に着き、
『ホワイ!? セル、何で、一体何を……!!』
『構わないよアトラス! 僕が制御するからさ!!』
『わかった……!!』
いつの間にかセルが兄の席を取り、アトラスをパートナーのように命令を下した。すると既にアトラスがコマンドを入力しており、6連のミサイルポッドを講堂目掛けて一斉にぶっ放した。山なりの軌道を描くと共に煙に包まれた講堂のシルエットが崩れ落ちていき、
『……こ、これは夢だ、悪い夢で!!』
『この大馬鹿者がぁ! 一体何を考え……』
『シェフィールドス、ライトニング・バズソー!!』
交渉の場をふいにしたのはレスリスト。唐突に仕掛けたこの攻撃にガンボットが泡を吹くように卒倒し、マーベルは腸が煮え返らんほどの怒号を飛ばすものの、セルは直ぐに通信を切っており、気が違ったようにアトラスはレスリストでキエフの都市を蹂躙していった。民家をシェフィールドスで串刺しにして、ライトニング・バズソーでオフィスビルを袈裟懸けに切り落としており、
『ノン、ホワイ、ノン、ホワイ……やめるんだ、やめてくれ!!』
『おっと、アトラスに従わないとこれだよ』
『アトラス……バット! アトラスが何故、ホワイ! 嘘だと言ってくれよ!!』
クレスローがセルを払いのけて、シートへ自分が着座するものの、軽い身のこなしでセルはアトラスの背後へ飛び移る――それも彼がホルスターに仕込ませたナイフを後ろ首に突き立てながら。兄を自分の言いなりにさせるための人質であり、
『僕がアトラスを操ってるんだからさ。ルミカも、アズマリアもだけどね!』
『それでアトラスがこんなことを……やめろ、止めて!!』
『動かないとこれだよ! 僕がダメでも、アトラスは血がつながってないからさ!?』
――セルは既に超常軍団の一員であった。彼の眼光を直視した為にルミカもアズマリアも人質となり、アトラスもまたラボから戻った時点で既に操られていたのである。彼がセルに操られるようにコントローラーを動かしているだけでなく、人質ではない彼が自分自身を脅迫させるためのナイフも調達していた。その結果セルに脅され、操られるように市街地を破壊しているのであり、
『バグロイヤーの僕と違って、イギリス代表として兄さんが英雄なのが間違ってるんだ! 兄さんより優れてる僕がなれないのがさ!!』
――セルが操られて超常軍団の一員と化した訳ではない。バグロイヤーへと改造された我が身を呪うと共に、電装マシン戦隊の一員として、兄が英雄の道を歩んでいる対照的な現状を、彼のコンプレックスとプライドが許さなかった為に自分から“なった“のである。その為にクレスローやアトラスを殺めるのではなく、イギリス代表に一方的な虐殺を指せるよう仕向ける事で、彼らで電装マシン戦隊の信用を失墜させんと目論んだのだ。
『レスリストは私を騙し討ちしようとしました! 交渉決裂です!! ハードウェーザーが、電装マシン戦隊がしでかしたことです!!』
『このアトラスの為、兄さんが自分から墜ちて……いや、元からだね!』
無論ムドーはセルの目論見を知っての。わざとらしく、一方的に交渉の場が踏みにじられたと喧伝し電装マシン戦隊への不信感を煽る。そして大講堂からは一斉にブレイヴ・バディの編隊がレスリスト目掛け飛び立っていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『えっ……ちょっと』
――マウアーはただ呆然とした。古くからの同期として親交があり、今もなお通信を交わしながら激励を交わしていた筈のプラムの通信が途絶えた。何度呼びかけても何一つ返ってくる言葉はない。隣に控えていた筈のブラスト・バディは既に崩落した講堂の下敷きと化し、がれきから露出した胸部からは、延々と炎を上げたままであり、
『ちょ、ちょっとプラム、ねぇプラムったら!!』
「おいどういうつもりだ! 何か言ったらどうだ!!」
『れ、玲也さん……一体どうしてこんな事』
『何があってこんな……ふざけるな、ふざけるな、アトラス!!』
マウアーが我を忘れ、何度もプラムへ呼びかけていた傍ら、バンもまたこの事態を理解できないまま、レスリストへ呼びかけ続ける。後方に控えていたリンと玲也もまたこの光景にただ何を言えばよいか分からない。特に玲也は我を見失ったように怒鳴り散らしていた。
『貴様ぁぁっ! 我々を切り捨てる魂胆だったか!!』
『た、隊長……!!』
『プラムの仇ぃ!!』
そして、電装マシン戦隊が解放すべきカッツェ隊からも第1の犠牲者が生じた。それもバグロイヤーが約束を反故にした訳ではなく、初めに手を出したのはレスリストによって引導を渡され、プラムの最期へ真っ先に吼えたのはジェミーであった。
バックパック代わりに装備されたスパイ・シーズの力を借り、感情に身を任せてレスリスト目掛けて飛び立つ――動揺しながらも残りの4機が追随していくように飛び立つ訳だが、キエフの空には既に12時の鐘が鳴り響いていた。
『結局は私が鳴らしますけどね、パーティーを始めないとですし』
「ムドー様、ここは私たちも出る必要は」
「いえ、こちらが無駄に戦力を消耗する理由はありません。彼らも戦ってくれてますし」
ムドーによってキエフの鐘は鳴らされた――3度鈍く音を挙げたと共に、暗示をかけられたカッツェ隊は激しく攻撃的な姿勢で畳みかけていった。
レスリストがプラムを殺めた事も引き金となっており、電装マシン戦隊とPARの同士討ちが始まる事にムドーはほくそ笑む。ミュータントの面々からは出撃の是非を問うものの、同士討ちが引き起こされるなら、自分たちが何もしなくても勝手に相手が消耗するとムドーは見なしている。被害を最小限にする意味合いもあるが、
「ほら、早く貴方たちはセイン様の元へ帰りなさい。巻き込まれますよ」
「本当に宜しいのですか?」
「えぇ、セイン様には私一人でやったと伝えてください。それくらいなら貴方たちにも出来ましょう?」
「……みんな退け! ムドー様は一人でやられるつもりだ!!」
ひたすら用は済んだとムドーは、ミュータント達をまるで邪魔者扱いするようにあしらっていた。超常軍団の二番手とはいえども、彼一人だけに任せてよいものかと懸念している様子だが、ムドーの態度が変わらないために一同揃って姿を晦ませていった。一応目上であるムドーに対して従順な態度であったものの、
「心無いお人形と一緒じゃ、パーティーも盛り上がりませんから……さて」
セインが送り込んだミュータントの面々は、ムドーに対しての目付け役、早い話本人からすれば鬱陶しい事他ならない。邪魔者もいなくなったとして、早速彼は同士討ちというパーティーを見物にしゃれこんでいた。
「おい! どっちが敵なんだよ!!」
「レスリストはお構いなしみたいだけどさ……司令!」
ブレイヴ・バディの猛攻を、レスリストは望むところと言わんばかりに応戦した。グライダー・シーカーからのフラッシュヤードが放たれると共に、レスリストが切り込んでいきバズソーを回転させながら、ブレイヴ・バディへと打ち付ける。
レスリストと逆にザービストはキエフの地に孤立していたが、そもそもレスリストの暴走の原因をイタリア代表は知らされてない。バンだけでなく、ムウも現状に頭を抱えながら、ガンボットに指示を仰がざるを得ないが、
『あのその、もう駄目で、ひたすらだめで……』
「人質はこちらで救出する! レスリストの方はフラッグ隊で何とかする!!」
『流石将軍、それでも凄いきついけどね……!』
完全に浮足立って司令として役立たないガンボットを他所に、エスニックが有事を想定してのプランBを発動させ、さらにイレギュラーともいえるレスリストの暴走に対しても既に手を打っていた。それで解決したとはいいがたいが、非常事態で有効な手だとムウが称えていた所、
「フラッグ隊って……大丈夫かよ!?」
『ラディ君だけではない! それよりキエフの事を優先してくれ!!』
「ベストか分からないけど、ベターで……!!」
『死ねぇ、ハードウェーザー……!!』
レスリストの件で懸念があったものの、誰であろうとキエフから武装集団を駆逐する事が最優先とのエスニックの指揮に沿うべきとムウが判断した瞬間だ。ブレイヴ・バディの1機は容赦なくガーディ・ライフルを放った。自分めがけての攻撃に対し思わず高く飛んで避けるものの、
「マジかよ! 俺迄同じ敵かよ!!」
「なら何とか止めなくちゃ、腕を狙わないとさ!」
「わかってるんだよ! どれだけ潰せるかだけどな!!」
自分たちもまたレスリストと同じPARの敵と見なされている――そのように敵視されている事へバンが戸惑っていたものの、ムウの言う通りブレイヴ・バディの戦闘能力を奪う必要性があった。バズーガンを手にして、相手の肩関節目掛けて弾丸を射出していくものの、装弾数からして全機を封じる事は出来ない懸念があり、
『大丈夫!?』
『やはりハードウェーザーは敵だ! 私たちは切り捨てら……』
バズーガンの着弾により、左腕が消し飛んだブレイヴ・バディのパイロットはザービストへの敵意も尖らせていくものの――遥か天からの閃光に胸倉を貫通される結果となった。ザービストの相手をしている隙を突くように、レスリストは再度浮上していた。皮肉にもライトニング・スナイパーによる得意の狙撃が牙をむいており、
「アトラス、てめぇ……うあっ!!」
本来駆逐すべきでない相手に対し、加減する事にバンが四苦八苦していた所、悪魔に魂を売ったかのようにレスリストはブレイヴ・バディを葬り去った。憎しみが憎しみを呼びかねない攻め方に対し、バンはアトラスだろうと流石に黙っていられなかった途端、胸部目掛けてミサイルが着弾してしまい、
「やめろって言っても、分からないようだな……!!」
「人質は別に何とかするから! 危ないから下がって」
ザービストの装甲はひたすらに脆く、ブレイヴ・バディのミサイルが直撃すればセーフ・シャッターがすぐにでも展開した。次に命中したなら命取りであると、バンも加減するだけの余裕が失われつつある。3機の懐に入り込むように、ザービストが素早く飛び跳ね、その左足で豪快に回し蹴りを浴びせかかる。倍以上の体格差がありながら、重力管制システムによって威力が増強された蹴りは、顎を蹴られると共に相手はあおむけに倒れる。
そして、ムウは素早く人質の救出用に配備されたモンロー級の撤退を進言するが――2機のブレイヴ・バディは同じPAR相手だろうとも攻撃の手を緩めなかった。繰りだすガーディ・ライフルは引き下がるモンロー級へ直撃には至らなかったものの、射線上の建築物をことごとく薙ぎ払うよう撃ちっ放しであった。因果応報と言わんばかりに、1機がライトニング・スナイパーの餌食になるものの、
『あいつら……本当にくたばりたいか!!』
『危ないよ! 覚悟したばかりなのにさ!』
レスリストだけでなく、カッツェ隊も既にキエフの地を蹂躙する存在他ならなかった――背後から迫るジェミー機が両腕のガーディ・ブレイカーを振り下ろした時、ザービストはジャンバードを×字に組む形でブレイカー二刀流を焼き切り、
「後ろからバッサリ……だとしたら舐められたもんだな!!」
『……ハードウェーザーだからっていい気に!』
『隊長、後ろから私が攻めま……!!』
『のわっ……!!』
ザービストの後方へマウアー機が回り込み、ザービストの挟撃を試みようとするも、再度ザービストが飛び上がる。それもジェミー機の膝を足場として踏んづけながら、三角飛びの要領でマウアー機の背後へと飛び上がる。
さらに、バックを取って狙い撃ちにせんと放ったマウアー機のミサイル、体勢を崩したジェミー機へ着弾する結果となり、
『た、隊長……!』
「……後味が悪いのは否めないね。背に腹は代えられないのが自分でも情けないよ」
思わぬ同士討ちの結果、ジェミー機がその後動く事もなかった。狼狽するマウアー機であったものの、今度は自分の背後からバズーガンの追い討ちを受けた。一方的な攻勢に転じようとする中、いつも余裕ありげなムウでさえ、このシビアな決断に表情が苦み走るが、
『プラムだけじゃなく、隊長までやるなんて……信じてたハードウェーザーはそんな……』
背後から狙い撃ったザービスト目掛け、ガーディ・ライフルの狙いを定めていたものの――逆に自分の背後を突く形で、再度背中目掛けて鉄球に打突された。力なく前のめりに倒れるジェミー機へとザービストが距離を詰めていくと共に、ティンプラードがワイヤー状の電磁波によって、左腕へと装着されていき、
「昔から嫌われる事に慣れてたけどな……!」
「これで楽になってもらうよ! ひどい事言ってるけど……!!」
そして右腕へと接続したジャンバードが高出力のザンバーとして、一思いにうつぶせたジェミー機のコクピットを突いた。操られるようにキエフの地を破壊しつくす彼女らは、葬り去る事しか今は救いがなかった――それを考えるだけで二人はやり切れないように瞼を閉じるが、自分たちへと上空からのミサイルが浴びせられるように振り注いできた。やむを得ず疾走して着弾を避けるザービストだが、
『……お前がラスボスなら、引導を渡すけどな!!』
『そう言いたいけど、もう残りわずかだよ』
『……マジかよ、肝心な時によ!!』
先ほどまで同じ仲間だろうとも、キエフを蹂躙する存在なら覚悟の上とバンは腹を括っていたが――元々燃費の悪いザービストは、カッツェ隊を相手にして消耗しつつあった。頭上の恐怖が消えていない事をもどかしく思う彼だが、
『でも、あのライトウェーザーを野放しにしてたら……それこそ大負け』
『大負けと引き換えに勝っても……いや』
『あとはどうなるか運に天を任す……あんまり言いたくないね』
最も正気を失ったカッツェ隊を、実力行使で彼らも手にかけた。レスリストと実質三つ巴の状況で、自分たちへ憎しみを募らせ、本気で殺しにかかる彼女たちを止めるにはやむを得ないとバンは受け止めていた。自分たちが止めなければ、目が届かない所で破壊と殺戮が広がっていくのだろうと。
それでもなおレスリストという最大の問題が残されており、本来の人質を救出する余力もザービストにはない。ムウはこれ以上の勝利を得ようにもお手上げと半ば諦観し、
『後は頼んだよ将軍……玲也もね』
レスリストを止める為、エスニックは切り札を突入させた。また別動隊として、玲也と才人が大聖堂へ向かいつつある事へムウは賭けた。運を天に任せるとばかり、確実性がない賭けへ微かに不安を覚えようとも。
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