26-6 倒せ死の鐘! 地の底に勝利を賭けて

「どうやら僕を倒せないっぽいね……」

「……」


 消耗故に積極的な攻勢を封じられたザービストを他所に、レスリストはボンバー形態への変形しつつあった。引き続きアトラスが操られている上、セルに脅されている状況となれば、クレスローにできる事は入力されるコマンドの処理を遅らせる事で時間稼ぎをしている事に過ぎないが、


「兄さん? これ以上遅くするならやっちゃうよ」

「……僕にだって兄貴としての意地があるよ! こればかりは」

「今更兄貴風吹かせて惨めだなぁ! エリートじゃないのにさ!!」


 既に時間稼ぎの手も弟に読まれていた。早急に電次元カノンを放つようにと促すセルにも、兄貴としての面子で拒もうとすれば、自分の言いなりになっている癖に言える事かと嘲笑い、


「そうだ。だったらあのザービストとかを撃っちゃってよ。もうそこまで抵抗できないし……」

「ゴメン……!!」


 兄貴の意地で自分を阻止しようとするクレスローに対し、セルが残酷な要求を提示した瞬間だ。コクピットへと青白い光がともされると共に、彼女はコントローラーを握ったアトラスを見えない力で弾き飛ばす。自分と同じ力を駆使する小さな相手に思わずセルが目を見開き、


「ミ、ミス・パルル……!!」

「ダー……!!」


 クレスローは見た。電装マシン戦隊で最も小柄な彼女がセルへと抗う姿を――パルル・ダーボスはハドロイドとして備えられた念動力を発し、超常軍団の彼をはじき飛ばした。ちょうどボンバー形態への変形が完了した所でレスリストの動きが停まった。このどさくさにクレスローが通信の制御系を復旧させた瞬間、エスニックの映像がつながり、


「ジェネラル……!!」

『カプリア君がパルル君を送りこませたが……無事のようだね!』

「ぼ、僕はもちろんですが、アトラスが……ファッツ!?」


 カプリアの発案により、超常軍団のセルを相手にしてパルルがスパイ・シーズで運ばれ、ポリスターによってレスリストへと飛び移った事が反撃の糸口となった。自分たちの安否を確かめるエスニックへと、クレスローが現状を報告しようとすれば、


「ガキのくせに力が使えるなんてさ……!!」

「ハ、ハナセ、パルル、イタイ……!!」

「だったら僕の目を見ろ! 楽にさせるから……」


 超能力を駆使する者同士ながら、体格ではパルルよりセルの方に分があった。彼はすかさずパルルの両腕を握りしめ、力ずくでねじ伏せようとしており、二度力を使い消耗したパルルは抜け出せそうにない。自分の目を見れば助かると脅しをかけていたが、



「うぐっ……!!」


 その瞬間にセルの目が見開く。背中へと鋭く突き刺さる鋭い鉄の切れ味が己の表皮を、肉を抉る瞬間を感じ、刃を抜かれた個所からは火花が噴き出て、焼けるような痛みが全身へいきわたる。パルルが彼の拘束からすり抜けるように逃れた時、今のセルは、彼女よりも自分の背を刺した相手にしか関心がなく、



「わ、悪ふざけが過ぎるよ……兄さんごとき……!!」



 振り向きざまに今度は胸を刺された。次は肩を、腹を、首を――パルルに狙いを移した際に自分が手放したナイフは兄の手によって握られ、何度も自分を突いていく。女性を口説く事を生きがいとする、享楽的な日々を謳歌していた兄の姿はどこにもなく。兄の声が発せられる間もなくしてセルの手が地に横たわるよう落とされていった後、


「何がエリートで、報われるだ……僕より堕ちる所まで堕ちた癖にさ!!」

「ダー……」

「僕は可愛がってたつもりだよ! 誰が好きで手にかけようとしたと思ったんだい!? ホワイ、ファット、何とか言ってくれよ、ブラザー!!」


 どれだけ弟に疎んじられようとも、馬鹿にされようともクレスローがこうも憤怒に駆られることはなかっただろう――だが、思いがけない再会は、自分だけでなく、アトラスやパルルなどの第三者までも苦しめた事へ堪忍袋の緒が切れたように激昂させ、ひたすら悲嘆に暮れるよう哀哭した。最年少のパルルだろうとも、どう声をかけてよいか分からない状況だと捉えており、彼に変わりレスリストの制御に回ると


『パルル……パルル、無事か!!』

「パルル、ブジ、デモ……」


 単身で送り出した事もあり、カプリアが少し血相を変えた様子でパルルへと通信を送り続けていた。彼女自身は健在だとアピールするも、それで万事済むような話だと心痛な様子でレスリストの内情を触れていくと、


『アトラスとクレスローの事情は分かったが、ここまでの事態では……』

「ダー……」

『今は直ぐに戻るべきだ。クレスロー君、いいかい……』


 イギリス代表が故意ではない――それだけで許されるはずがない惨状へ流石にカプリアも頭を抱えずにはいられなかった。レスリストが既にウクライナの脅威そのものと化しているが故、エスニックは電次元ジャンプでの帰還を促す。その為にクレスローへ悲嘆に暮れる余裕はないと促せば、彼は涙をぬぐいつつコントローラーを手にし、


「僕の目が節穴だから、アトラスまで……また苦しませてしまうなんてさ……」


 パルルの念動力によって気絶したアトラスに対し、クレスローはただ申し訳が立たないと憂いの眼差しを向け続けていた。自分がセルの本性を見抜けなかったが故、彼へ多大な苦難を与える結果になったのだから――既に笑えない心境のまま電次元ジャンプを発動させ、キエフの空からレスリストは姿を消すのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「セルがやられましたか……思っていた以上に頑張ってくれましたけど」


 講堂の屋根から見下ろす形で、ムドーは十分な成果を上げた上で引き際と判断しつつあった。セルが果てる結果になろうとも、キエフの地は蹂躙しつくされた。さらに電装マシン戦隊とPARの同士討ちによるものとなれば、超常軍団からの消耗は軽微ともいえた。


「セルの替えは必要ですが、この調子で同士討ちを続けましたら勝手に消耗してくれますし……おっと」


 PARと電装マシン戦隊を消耗させるだけでなく、世間からの信用を失墜させていく事で地球側の抵抗勢力は自壊の道を辿る――ムドーが次の作戦を練ろうとすると共に、塔につるしたままとなっているルミカとアズマリアの存在を思い出し、


「折角ですので、このまま私が手懐けましょうか……おや?」


 彼女たち本来の人質二人は、何らかの役には立つであろう。ムドーがそのような判断を下し、人質を回収しようとした瞬間だ。ちょうどガーデンの芝生が隆起しつつあり、グリーンの表面から本来の地表が抉れるようにむき出しとなり、やがては2門のドリルと無限軌道を備えたライトブルーの機体が全貌を露わにすれば、


「今更人質の救出ですか。まぁいいでしょう、別に必ずしもではありませんから」


 あらかじめプランBとして、スフィンスト・キャタピラーに地中を潜行させる形で大聖堂近辺へと到達した。ハードウェーザーの到着はムドーからすれば遅すぎると、鼻で笑おうとした途端、キャタピラーのこじ開けた穴から第3のドリルが自分の元へと迫り、


「あがっ……!!」


 キャタピラーの後をボタン・シーカーが続いていた。宙を飛ぶだけでなく、先端に内蔵されたソードガンがムドーの左腕を射抜いた。この激痛に喘ぎを挙げると共に、彼の体は力なく地面へと斃れていく。そして入れ違うように、鐘塔の壁へとネクスト・ビーグルが電次元ジャンプを果たした。直角に近い斜面を塔の頂から疾走していき、疾走していくと共に、隣の塔へつるし上げられた二人の姿が目に入り、


「玲也さん、ここはお願いします!!」

「言われなくても……どうだ!」


 ネクストのフロントドアが開いた状態で、玲也とリンの元へ逆風が襲い掛かる。シートベルトで自分を座席に拘束した状態だろうとも、自分が腕を前方に突き出したら衝撃波に襲われる危険もある。その為に、腕を引いたまま何発かを射出するもなかなか照準が定まらず、


「このままですと、ポリスターの射程から……」

「この状態で狙うのは流石にきついかもしれないが……当たってくれ!」


 カイト・シーカーも装着されておらず、ネクストは急斜面から重力に振り下ろされない為、可能な限り高速で疾走する必要性があった。逆風と衝撃波にさらされながら、玲也はポリスターを乱射するといった半ば運任せの術に出ていたものの、強風に二人の身体も煽られると共に、運よく光線が二人へと命中し、


「ラッキーですね! これで後は直ぐに引き返して」

「今できる事はこれ位だから止むを得な……うっ!!」


 後部座席へとアズマリアとルミカが揃って転移された。多大な犠牲を払いながらも本来の救出作戦を完遂させ、キエフからネクストが離れんとした瞬間だ。突如操縦する玲也の後ろ首に手が回され、強烈な力が気道を締め付けており、


「私たちは超常軍団の怪僧ムドー様のですね~元ドイツ代表、マーベル隊長の元にいたはずですが~」

「何故か知りませんが~ごめんなさいね~」

「ご、ごめんで済めば……まさか!!」

「二人とも操られているのかもです! 変形させてください!!」


 二人が揃って意味不明な事を述べており、アズマリアが何故か玲也を絞殺さんとしている様子からただ事ではない。リンは彼女たちも操られているのではないかと察した上で変形を促すと、


「わ、分かった……チェ、チェンジ、ネクスト!」


 思わぬ死の恐怖に隣り合わせになっていながらも、玲也はリンの助言を、理解した上で途切れ途切れながらもチェンジコールを口にした瞬間だ。直ぐにネクストの身体のスケールが拡大していくと共に、手足が展開され、ボンネットが胴体へ変わり頭を露出させ、


「うっ……」

「私は何故か知りませんが……」

「今はごめんなさい! 大丈夫ですか、玲也さん!!」


 ネクストに備えられた能力ゼット・シンクロン――それはビーグルとロボット間の変形に合わせるように、ネクストのコクピットスペースもまた伸縮自在でもあった。

そして、ロボット形態のコクピットは、おおよそ8人は乗り込めるスペースほどの広さとなれば、リンが自由に動ける事も意味していた。彼女はハドロイドとしての身体能力と、エージェントとしての技量を活かし、アズマリアとルミカの急所に一撃を見舞う。これによって二人が気絶したことで玲也の危機は救われるが、


「済まない、このまま電次元ジャンプを……何だ!?」


 いずれにせよネクストで電次元ジャンプによる帰還を試みようとした瞬間だった。モニターに強大なエネルギー反応を察知すると共に、教会の講堂が土台から強大な力に覆されていく。やがてネクストの倍以上の巨体を誇るバグロイドへと姿を変えていき、


『あまり、使いたくはありませんでしたがね……バグチャベルに委ねるとは!!』


 ソードガンを前にムドーは一転して深手を負った。満身創痍と己の身を悟った彼は、今後の作戦を展開する余裕がないと判断し、バグロイド・バグチャベルとしての姿で立ちはだかる――最後の攻勢へ打って出たのだ。

 釣鐘のような下半身を浮上させながら、左腕に内蔵されたマンダラスターの砲口がネクストへ浴びせかかる。荒廃した悪路は必ずしもネクストの得意地形ではなかろうと、脚部のローラーを駆りてどうにか着弾を免れていると、


『おっと、俺もいる事を忘れちゃ困るんよ!!』

『アサルト・キャノンパチ!!』


 ネクストだけでなく、スフィンスト・ストロングもまたバグチャベルの背後を狙いにかかる。アサルト・キャノンが射出されるものの、振り向きざまにバグチャベルは右手の発生器からデリトロス・ブライカー”を展開。エネルギーフィールドを前にキャノンの閃光が遮られるものの、


『マジかよ……キャノンが効いてないって拙いんじゃ』

「大丈夫だ、ネクストでも十分破れる」

『姉さんのネクスト……そうか!』


 ネクストとしてもスフィンストとしても、アサルト・キャノンは主力となるビーム兵器。エネルギーフィールドを破れるか否かで才人が弱気を見せかけるものの、彼の打った手は無駄ではないと玲也がフォローしつつ、ネクストが右手を突き出し、


「電次元サンダーだ……!!」


 ビーム兵器をも上回り、フィールドやバリアー類をも貫通する兵器こそ電次元兵器であった。電次元サンダーの破壊力が控えめだろうとも、右腕へと着弾すればフィールドごと弾き飛ばし、


「よし、いいぞ! 次は左腕を……」

『させませんよ!!』


 指先で電次元サンダーの軌道を変えようとするや否や、マンダランチャーが再度自分めがけて火を噴く。それも先ほどの球状のエネルギー弾などではなく、直線状に電次元サンダーの着弾を前にして、ネクストの本体へ届こうとしていた為、


「電次元サンダーより早いなんて……」

「当たったら最後、確実……に!?」


 急遽咄嗟に電次元ジャンプを発動させて直撃を回避した。3割ほどのエネルギーを一度に費やす為、かろうじて緊急回避と見なされる下策ともいえたが、直撃を受けるよりはましだと玲也としても苦渋の一手だ。今度は懐へとネクストが潜りこもうとしたが――まるで鞭のようにマンダランチャーの光がネクストを追尾しており、咄嗟に方向転換して間合いを取る必要があった。光の筋に触れれば、キエフの街並みを容易く消し去っていく攻撃から全速力で逃れていく中で、


『頭のアンテナで操ってるパチ!超音波で誘導してるパチ!!』

「つまり、そのアンテナをどうにかすれば……」

『僕が近づけば、姉さんを捕捉しきれないと思います。だから……』


 カイト・シーカーによるブレイザー・ウェーブをスフィンストが展開していた為、ネクストを襲うマンダランチャーのトリックを看破した。アンテナそのものを封じんと、今度はスフィンストが懐に潜り込もうとした途端、バグチャベルの体が飛び上がり、釣鐘らしき下半身が彼を覆うように地へ接した途端、


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

『あ、頭が……姉さん!!』

「イチ……大丈夫なの!? 才人さんも!!」

「集中しろ! 俺達までやられるぞ!!」


 釣鐘状のドームへと飲み込まれたスフィンストは、かごの中の鳥ともいえた。さらに特殊な周波数の超音波を発生させ、振動と共にスフィンストへと襲い掛かる。機体以上にコクピットの人間へダメージを与えており、才人が思わずコントローラーを手放し必死で耳を防ぎ、咄嗟に防音用のヘッドホンを装着したイチですら、蹲った状態でまともに動けない。

 二人の危機にリンが思わず我を忘れかけるものの、ネクストもまたマンダランチャーの光に追われている身。直ぐ檄を飛ばして操縦へと専念させ、


『どうですか、ゲルチャイムの威力は! 彼らがこれからどうなるか、わかりますよね!?』

「……超音波には超音波だ、才人!!」

『え、えぇ……玲也ちゃんなにいってんか全然』

「ブレイザー・ウェーブ! ハリケーン・ウェーブ!! でないと死ぬぞ!!」


 プレイヤーやハドロイドの脳波に炸裂する、ゲルチャイムはまさしく殺人兵器他ならない。玲也はすぐに超音波同士で打ち消すべきと、スフィンストのハリケーン・ウェーブを駆使する事を促す。超音波から少しでも我が身を守らんと、耳をふさいでいる状態で良く聞こえない才人に向けて、喉が張り裂けそうになる程玲也も声を張り上げていた。実際バグチャベルの下半身からエネルギー反応が増大していくものの、


『おやおや、抵抗するのでしたら私も本気で……』

『だ、駄目だ! 玲也ちゃん、効かねぇよ……!!』

「そうか、効かないなら逃げろ! 今からデータを送る!!」

「コンパチさん、上手くやってください!!」


 両指からのハリケーン・ウェーブをブレイザー・ウェーブへと併用すれども、バグチャベルの釣鐘を破壊するまでには至らず、さらに周波数を挙げて才人達を苦悶へと追い込んでいく。ネクストが必死に逃れる中で、同じように逃げの一手を勧めると、


『そうか! それでシーカーも後を追わせて……』

『ラッキーもあるパチ、直ぐキャタピラーをよこすパチ!!』

『流石玲也ちゃん、持つべきものはやっぱ……』

『オマエ、全然余裕パチね! 気を引き締めるパチよ!!』


 玲也からの指示に対し、コンパチが直ぐに電次元ジャンプを繰り出す。ドームに覆われている状態だろうとも通用した為、バグチャベルの脅威から逃れる術は容易ともいえたが、


『おや……しぶといですね、まだ抵抗を続けるのでしたら』


 未だしてスフィンストは釣鐘の中――電次元ジャンプを発生させたにも関わらず、ブレイザー・ウェーブとハリケーン・ウェーブによる同じ超音波での抵抗は続いていた。さらに言えば熱源反応もあるがゆえにバグチャベルの攻撃の手は緩むことを知らないが、


『ぬわっ……!!』


 ゲルチャイムを掃射し続けた地表が崩れ落ちる――それまで前兆が見られなかったにも関わらず、まるで上下からの超音波が震動を引き起こし、雪崩に呑まれるようバグチャベルの下半身が沈下し、バランスも崩した時、


『この時を待ってたパチよ!!』


 バグチャベルの動きが封じられた時を突くように、キャタピラーが飛ぶ。砲門を真上へと突き立て、釣鐘に接した状態で弾丸を放とうとした結果、キャタピラーは不可に耐え切れずに爆破四散する。内部からの爆発の衝撃を釣鐘は吸収しきれずに崩壊を起こし


「まさか、自分から死ぬ真似など馬鹿げて……」

『くたばるのはお前だ!』

『私たちを忘れては困ります……!!』


 ゲルチャイムを封じるため、スフィンストが自爆を選んだのではとムドーは困惑を禁じ得なかった。上半身をパージさせて脱出を試みるものの、彼が狼狽して生じた隙を狙い、正面からはネクストが迫りつつあった。マンダランチャーが背中に狙われようとも恐れの色を見せることなく、左腕のアサルト・フィストをお見舞いすると、


『電次元兵器を使うつもりですか……これしきの事!』

「かかったな……!!」

『何だと……あがぁっ!!』


 すぐさまアサルト・フィストを、頭部のEガンで蜂の巣にしてムドーは切り抜けたものの――ネクストはカルドロッパーを右手で投げつけていた。マンダランチャーの砲口目掛けて弧を描いて飛ぶものの、ランチャーの閃光にかき消されるものの、予備エネルギーパックとしての役割を持つカルドロッパーは破壊されると同時に、バグチャベルの左腕を飲み込むほどの爆発を巻き起こしていった。その衝撃でよろけるバグチャベルの真下へとネクストが潜り込み、


「ここからはお姉ちゃんに任せて……イチ!」

「スフィンストのフィニッシュ、使わせてもらうぞ!!」


 射出された左手の代わりに、ボタン・シーカーが接続されていた――失速するバグチャベルを狙い、すかさず左腕を天へ掲げ、


「い、一度は超常軍団のトップになろうとした男ですよ! やめなさい!!」

「いけぇ! 電次元サンダー……」

「ドリルプレッシャー!!」


 ムドーが慄く間もなく、ボタン・シーカーは撃ちだされた。マニュピレーターより一回りサイズが大きい故、スフィンストより華奢なネクストの腕にかかる負荷も大きく安定性に賭ける。その為電次元サンダーの出力を駆りて打ち出し、速度を上げた状態でボタン・シーカーを飛ばした結果、


「こ、この私がやられるなんて、私は超常軍団を……!!」


 底部からドリル・シーカーが真上へと突き破らんと飛び、追随するように電次元サンダーがバグチャベルの内部へ浸透した結果――既に死に体ながらも未練を垣間見せながらムドーは果てた。キエフの空にバグロイドが消滅した瞬間でもあり、


「一時はどうなるかだが……才人、イチ、コンパチ! 無事か!!」

「お姉ちゃんも無事よ! 無事なら返事して!!」

『う、うぅ……頭の中がガンガンしてるけど』

『才人さんも僕もまだ気分が悪いですけど、ラッキーでした』


 すぐさま二人は才人達の無事を確かめて連絡を試みると――モニターに映る才人はグロッキーな状態ながらも、サムアップで健在をアピールしており、イチもパートナーの後ろへと歩み寄り姉に姿を見せる。バグチャベルの中で爆破四散したと思われたスフィンストであったが――急いで歩み寄るネクストは、瓦礫に埋もれたスフィンストの姿がそこにはあった。


『オレがキャタピラーを動かしたからか知らないパチが、こんな空洞があったパチからね』

『そこでブレイザー・ウェーブを放って、バグロイドを欺きながら』

『地盤沈下を引き起こして誘い込むなんて、流石玲也さんです!!』

「いや、地の底を行けるのはスフィンストだけだからな……試して正解だった」


 人質救出の為キャタピラーに地中から迫らせつつ、地の底を把握するためにマッハ・シーカーを追尾させたことで、キエフの地の底まで把握していた事が功を奏した。

 スフィンストの本体がその空洞へ電次元ジャンプで転移させると共に、ブレイザー・ウェーブを放ち続け、同時にキャタピラーをバグチャベルのドームへと乗り込ませる事で、念には念を入れてスフィンストがゲルチャイムの餌食にされているよう欺いたのであった。最もスフィンストが地の底へ身を潜ませる事が出来る程のスペースが確保できなければ、この手を打てた保証もなく、


「本当運に天を任せざるを得なかった……済まない」

『玲也さんも姉さんも悪くないですよ! こう無事なんですから』

「それより、ここから早く抜け出せたらなーって……」

「ブレイザー・ウェーブだけでなく、ハリケーン・ウェーブもぶっ放したパチ。エネルギーが僅かパチよ」


 玲也ですら、地の利というラッキーに近い条件によって作戦は成就したものと踏まえ、危険な作戦に駆り立てた事に才人達へと詫びる。最も彼らはそれより瓦礫に埋もれたまま、逃れる術がない事を危惧しており、


「いかん……すみません、 直ぐブレストをよこしてください!スフィンストを救いませんと!!」

『ジーボストじゃいかんかのぉ! 玲也君も相当疲れているんじゃ!!』

「その為にハードウェーザーを使うのでしたら、俺がやります! まだクロストが残ってますから!!」


 スフィンストを救い出さんとするも、ネクストのエネルギーもまた消耗しつつあり、左手のマニュピレーターが失われた身では、瓦礫を除ける事も容易ではない。ブレストが電装されるまでの間、キエフの街並みを眺めるものの――つかの間の安らぎどころか、苦痛にあえぐ様に玲也の表情は歪み、


「試合に勝って勝負に負けた……そういわざるを得ないとは」

「バグロイドを倒しても、犠牲が大きすぎます……こんなこと」

 

 バグロイドが退いただけでなく、カッツェ隊が沈黙した事により、現地のレスキュー隊が救助活動を開始、PARの別支部から、ライトウェーザー部隊もその為に駆り出された。街並みが焼き払われ、踏みにじられた直後の光景は直視しがたい様相だったことは言うまでもない。

 本来ならこの事態に対し、自分たちも積極的に動かなければならないが――バグロイヤーによって犠牲となったのは電装マシン戦隊及びハードウェーザーへの信頼であった。


「ただでさえ纏まりきってないのに、これでは猶更……」

「玲也さんは悪くないですよ! こればかりは私でもどうしようも」

「分かっている……才人も、バンさんも落ち度はない事ぐらい……!!」


 ドラグーンのリーダーとして、他プレイヤー達の手綱をまだ握り切れていない故、この動揺を引き起こしかねない今回の事態は痛恨といえた。思わずコントロールパネルを左手で殴りつけてしまう所、リンに宥められると共に自分の問題ではないと捉えたが――理不尽にも程がある凶事を引き起こした山吹色のハードウェーザーが脳裏によぎると、


「許さない……俺は許さないぞ! アトラス、クレスロー……!!」


 この時点ではまだ、レスリストが凶事を引き起こした真相迄知る事はなかった。しかし彼が交渉の場で突如攻撃に出た為、ウクライナ首都は壊滅、バグロイヤーを前にしながら多大な犠牲を前にして、玲也は既にイギリス代表を許す気はなかった。彼を案じるリンですら、今の彼を止められそうにないと、困惑を表情へ滲ませていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次回予告

「フェニックスで謎の爆発が起き、ムウさんが重傷を負った……!不時着を余儀なくされたフェニックス目掛けて天空軍団が襲いかかり、俺たちはフェニックスを守らんと無理を押して出撃した。だがその時、アイリッシュ海から謎の特殊ミサイルが射出された……この軌道だとノルウェーが……‼︎ 次回、ハードウェーザー「北海に消えたレスリスト」にクロスト・マトリクサー・ゴー!」

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