23-6 打倒、羽鳥玲也! 復讐鬼・天羽院の切り札!!
『先に送り出した前線部隊は、お前たちのの手強さを知る良い機会だった……私が本腰を入れねばならないと』
『僕達、七大将軍を送り込んできたんだ! 言っとくけどあいつらととかと比べ物にならないからね!!』
『私のお人形さんコレクションを増やす良い機会と思うからねー』
『……』
立体映像のように、何処からか大気圏上空に映し出される者たちはバグロイヤー皇帝と彼に付き従う6人の将軍たちであった。皇帝の宣戦布告を便乗するようにトループがさっそく口火を切る。同じくセインクロスも余裕ありげな姿勢だが、一人別の方向で夢見ている様子。ディンは二人を横目に沈黙を保ちつつあった。
『彼らと違う事は確かだ! 我々は既に星々を支配下に置いた実績を持つ7人だ……!!』
『レーブン、戦いは指揮官の数の問題ではない。指揮官の腕だ』
『ち……いえ、ハインツ。言葉が過ぎました』
彼らと対向に構えるレーブンはトループと反対に仮面の下で唇をかみしめ、まるで七大将軍の一人としての使命を果たそうと、どこか思い詰めている様子も漂う。ハインツが責務に駆られる彼女を窘めると、彼女は一瞬彼に向けて牙をむけようとするもすぐさま己の至らなさを詫びる。
『既に先遣隊が行動を開始した……奴も強さだけはまずまずだ』
『アルバトーレ様、あんなことを他のお偉いさんいってますぜ!』
『……俺達戦鬼軍団があそこでものけ者では』
グナートの指す先遣隊とは戦鬼軍団――大気圏内へと瞬時に電装したアルバトーレ達を指す。戦鬼将軍の元に率いられた精鋭たちではあるが、彼の職務怠慢でゼルガ達の集団脱走を許してしまった責任を取らされている。アルバトーレの姿が大気圏上空に映された七大将軍にはカウントされていない扱いに部下たちがぼやいていた中、
「マービン、ハルベルド! ぼやぼや言ってる暇あるならとっとと急げ!!」
約20機のバグロイドを従える金色の機体――まるで鎧武者のような甲冑を装甲として纏い、赤のストライプがアクセントとして刻まれている。“バグジャンバラー”との名を持つ専用機はアルバトーレ自らが駆る機体である。
ただ、先陣で威厳を保つ戦鬼将軍の機体でありながら、搭乗するアルバトーレは自分が失態の埋め合わせの為前線へ出ている事は少し後ろめたいのだろう。部下へ怒号を飛ばすものの、
『へいへい、分かってやすよ。アルバトーレ様が焦っている事も』
「うるせぇ! 俺は今気が立ってるんだよ!!」
「そりゃま、俺も腕がうずうずして、仕方ないんですがね~」
鉄釘を口に咥えた細身のマービンはアルバトーレの内心を既に見透かした上で、早速揶揄う。おそらく長い付き合い故か、親しみ交じりの苦笑も交わしており、アルバトーレは声を荒げながらそれ以上責める事はしない。それどころか自分も暴れたくて仕方がない闘争心を吐露してもいた。彼が駆るバグハンドは、銀色の華奢な外観ながら、バックパックに8つの手が備えられており、この腕を振るいたくて仕方がなく、
「最も、そこまで焦る事もない筈ですぜ……」
同じ戦鬼軍団の二番手となるハルベルトもまた、専用のバグロイドが与えられていた。コクピットには収まるかどうかわからない肥満体に見合う青銅色の巨体“バグハルバード”は、自機に匹敵するサイズの戦斧を両手で保持しており、
「おめぇの思った通り、俺のレドラスより手ごたえがなさそうだからな! 平和ボケしてるに違いねぇのはなぁ!!」
『アルバトーレ様、本当はハルベルドじゃなくあんたがぶっ放したかったんじゃないすか?』
チェンナイへ向けて無差別攻撃を仕掛けた機体こそバグハルバードであり、両手にしたタウ・ハルバードの先端から光弾をぶちまけて惨劇を引き起こした。
このハルベルドが独断で一方的な虐殺行為をしでかした事へ、アルバトーレは先を越され少し不満げである。しかし諭すどころか、本来ならうっ憤を晴らすために自分がやらないと気が済まなかったとの理由からに過ぎず、マービンも彼の本心を知った上で笑い飛ばしていた。
「まぁ良い、レドラスより簡単に支配できると分かったならそこでうっ憤を晴らしてやるよ!!」
地球への先遣隊として、自分たちが既に支配下へ置いた惑星レドラスよりたやすく攻め落とせる――既にアルバトーレは余裕を見せていた。失態の埋め合わせがこの先遣隊としての役目を果たす事だが、既に地球を自分たち戦鬼軍団の手で占領する気であり、
『アルバトーレ様、深海軍団から援軍を送られるとの事ですが……こうも大胆に攻めてよいのでしょうか?』
「馬鹿野郎! 負い目の俺たちが、他の将軍に借りを作ったら後がどうなるかだろ!!」
『まぁ、俺は悪くないと思うんですけど、このまま俺も暴れたいっすからね』
バグソルジャーを駆る部下から、他軍団との連携を少なからず考えるべき、自分たちが深入りしすすぎではないかと意見が出たが――アルバトーレはこのまま押し切る姿勢に変わりはない。マービンはどちらでもいいとのスタンスであっても、彼に同調して動く事に異存はないと見なしており、
「レドラスを墜とした奴らを連れてきた……ハードウェーザーを相手にしようとも十分やってける」
『そして、俺たちがドラグーンを墜とすと来た!』
チェンナイを急襲して、オーストラリアへと南下するにあたって既にダブルスト、ウィスト、レスリストの3機が迎撃にあたっている――彼らの相手に部隊を3つに分け、アルバトーレ達はドラグーンを叩くことを目論んでいたのだ。
「ドラグーンに主力が集まってるからよ……俺達で皆殺しにすれば、もう勝負はついたものさ!」
『俺たちの一番槍ですぜ……けど、このタグとか便利じゃないっすか? こうもどこでも呼び出して現れるってよ』
マービンが首元で触れるタグ――ハドロイド達と同じ形状のタグを何故彼ら戦鬼軍団の面々が装着しているか、当の彼は詳細をよく分かっていないような口ぶりで、ただ瞬時に自分の機体を転送することが出来る能力を秘めている事ぐらいしか把握していない。
『天羽院という男は一体何者ですかね……』
「どうも信用できねぇけど、こう本物のバグロイドを念じるだけでどこでも出せるってのは便利だぜ……いつもより調子がいい気もするからよ」
皇帝の側近として仕える天羽院へ、彼ら戦鬼軍団は怪しんでいたといえば確かだった。けれどもこのタグを戦鬼軍団の全員へ支給された事により、電次元から瞬時にこの地球圏に転移してバグロイドで急襲を仕掛けられた事実に対して、アルバトーレは少し彼を見る目が変わっており。
「これさえあればバグロイヤーのトップになれるんだよ……今に見てやがれ!」
アルバトーレはこの戦いでの勝利を確信した上で、自らのその先の野望を成し遂げんと躍起になっていた――今この場にいない皇帝が斃れる姿を脳裏に描きつつ。
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「……ガレリオ様、お目覚めになられましたか」
「……お前がシーラか」
ダークグリーン一色に塗りつぶされた士官服を着用したこの男――アクセントとしてキャップに白い羽が刺繍されており、この険しい表情でガレリオと呼ばれる男はアラート・ルームにたどり着いた。彼の到着を待つシーラという侍女に少しは関心を持った眼差しを向けたものの、
「ガレリオ……気分はいかがですかな』
「天羽院様……今の俺に負けなどありません。俺が勝つために作られた存在ですから」
「……良い心がけです。貴方は表向き皇帝陛下の息子との事で通していますが、私の手で作り出された事は覚えておいてください」
「……勝つために」
シーラの肩に手を添える天羽院に対し、ガレリオが一瞬不遜な顔を見せたものの、彼に対しての敬意は上辺だけのものではない。ガレリオを作った男こそこの天羽院であり、いわば生みの親としての情や絆が少なからず存在している事もあるが――それと別に“あらゆる戦いで勝ち続ける”事が自分の生きる道として闘争心に駆られてもいた。少なからず彼も興奮も見え隠れする。
「言うまでもありませんが、3機のハードウェーザーを一人で操るプレイヤーが現れた事が一番の脅威でして……」
「羽鳥玲也とかなら俺も分かっています! バグロイヤーが最も憎むべき男であり、それほど強い男だと!!」
「その通りです。彼のデータから、貴方も、シーラも、そしてウィナーストも作り上げることが出来ましたからね」
「……改めてよろしくお願いします、出来る限り私も助力します」
シーラは改めてこれからのパートナーとなるガレリオに対して頭を下げる。同じダークグリーンを基調にしたメイド服を模した姿、白のフリルが冷徹ながらどことなく無垢……いや、ガレリオに尽くすこと以外何も知らないかのような彼女を物語る――プリムの形状はどことなくフレイアのカチューシャ、増設バッテリーと似通っており、
「俺も羽鳥玲也のコピーで甘んじるつもりはありません! あいつを血祭りにあげる事、それこそ俺が生まれた理由です!!」
「素晴らしい心構えですね。バグロイヤー最強の証として、大将軍の肩書が間もなく与えられましょう」
「俺が……七大将軍より上の地位……」
「厳密には七大将軍の一人として束ねる……ちょうど欠員が出る筈ですからね」
玲也を超える事――その目的に向かって闘争心旺盛のガレリオへの期待と信頼の表れは、七大将軍のトップとなる大将軍の肩書が与えられる事で答えだった。自分がバグロイヤー最強の男として天羽院へ期待されている事に、彼はどことなく無邪気そうな喜びを見せつつ、
「あの戦鬼将軍とか、七大将軍最弱の」
「実の所、下から3番目の立ち位置かもしれませんが、一番潰しやすいのはアルバトーレですからね。まぁ彼の事は気にしないでください」
「……どうせ切り捨てるからですか」
「まぁ、大体間違っていません」
自分に追い出される形で、七大将軍のアルバトーレが失脚――厳密には地球圏の戦いで戦死の宿命が待ち構えていると知れば、ガレリオはほくそ笑むような顔つきに代わる。天羽院たちからアルバトーレが七大将軍として最も御しやすい存在と教え込まれていたかは定かではないが、
「いずれにせよ、他の奴らも俺に跪く者ばかりだ! それが思っていたより早く来ただけだな!!」
「まぁ、厳密には……いえ、ただ大将軍ですのでそれに見合った活躍を貴方に求められるでしょう」
「当然です! 天羽院様に俺が七大将軍……いえ、玲也を超えると力で見せてやります!!」
天羽院の期待に応えようとするガレリオの姿勢を受けて、シーラは単身エレベーターへと乗り込む。アラート・ルームの真下は格納庫へと繋がっており、ドラグーンよりもスペースが広く取られている。このがらんどうの空間に向けて、シーラが飛びあがると共に彼女の首元のタグが光り輝けば――黒緑の光がフレームを形成しつつ、瞬時に装甲が形成される。
「これが……ウィナーストか!」
「ブレスト、クロスト、ネクストの長所を併せ持つハードウェーザーになりますと本当に苦労しました。あれほどのデータサイズでなければ難しく」
むしろ勝ったも同然じゃないですか……データを見る限りでしたら」
「光栄です。ハードウェーザー3機分の力はありますから貴方にもうってつけでしょう」
ジーボストに匹敵する巨体に、幾多もの射出口を備える黒緑の巨体――ハードウェーザー・ウィナーストこそ、玲也の3機を基にして組み上げられた彼を前に、ガレリオは高笑いしながら、コクピットへと飛び乗っていった。
「ちょうどそのブレストが現れてますから……」
「分かってます! これで俺は羽鳥玲也に勝つ事は決まってます!」
「やれやれ……」
ブレストが電装したとなれば、ガレリオはためらうことなく出撃する――天羽院は余裕ありげに彼に対して、逸る息子へ苦笑する親のような面を一寸見せたものの、
「電次元ジャンプとワイズナー現象……簡易的でもバグロイドに付けることが出来ましたからね」
ジャールを急襲したバグロイドの群れも、戦鬼軍団の先遣隊同様電装能力を備えられた。この電装能力で瞬時に現れる大軍団をバグロイヤーの七大将軍が率いるなら勝てる――とまで天羽院は過信していなかったようで、
「仮に共倒れでしたら儲けもの。私としましては七大将軍よりガレリオ達の方が大事ですからね」
それだけの能力を持たせる事には相当なリスクを伴う。天羽院はそれを承知の上で、いやむしろ七大将軍がそれで消耗して玉砕したら本望と彼らを疎んじている姿勢だった。鉄砲玉同然に送り込まれた戦鬼軍団だけでなく、他の軍団に対しても消耗品としか見ていない。
彼らよりも自分が手に入れたデータをもとに作り出したガレリオとウィナーストを天羽院は期待を寄せていた。それも彼自身の最高傑作としての面もあったのだろう。その上で自分の目論見が脳裏に渦巻くと、自然と天羽院は笑いが込みあがり、
「これも貴方の息子がプレイヤーとして腕を上げたからです! 貴方への復讐を羽鳥玲也に果たすつもりです為、何をしようと当たり前ですからね……!!」
羽鳥親子二代を相手に駆られる復讐の炎――天羽院は自らの望みを叶えるためにガレリオとウィナーストを生み出した。彼のどす黒い怨念を乗せたウィナーストはジャールへと向かう。己の憎悪で戦火を果てしなく広げようとも。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次回予告
「アンドリューさん達の救援に向かって俺はジャールへ飛んだ。新たなバグロイド軍団を退けていくものの、俺たちの前に立ちはだかったハードウェーザー・ウィナーストは恐ろしいほど強い! 俺を倒すことに執拗なガレリオとは……そしてバグロイヤーの猛攻は留まる事を知らず、ついに犠牲を出そうとしていた……嘘だ、アンドリューさん!!次回、ハードウェーザー「成す術なし! 黒緑のウィナースト」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」
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