23-5 チェンナイ壊滅! 南下する戦鬼軍団

「将軍! バグロイヤーが襲来しているのはジャールですか……」

「アンドリュー君から通信が入ったがその通りだ!」!

「ジャールで、まだライトウェーザー達がまだ取り残されてのぉ!」


 アラート・ルームにて玲也が確認を取るや否や、エスニックとブレーンから詳細が伝えられた。ジャールでの建設作業に従事じていたザービストとアタリストがライトウェーザーを避難させつつ、バグロイドを蹴散らしているとの事だが、


『バグロイドも一気に現れたんじゃ――まるで電装するかのようにじゃ!』

「電装……!?」

「確か、カプリアさんやコイさんが言ってましたような!?」


 バグロイドが電装のごとく次々とジャールへ前触れもなく降り立った――それで非常事態として、アンドリューはドラグーンへ緊急通信を送った。以前キドでの攻防戦でカプリアとコイが突電装しては仕留め損ねたバグロイドがいた話をリンが思い出したと聞けば、


「救援でしたら俺が行きます! アンドリューさんが要請するほどですから……」

「……確かにこの中では玲也君が適任か」

『こうも頼みたくないんじゃが。行けるかの……?』

「えぇ、ここで出るとしましたら……」

 

 3機のハードウェーザーが控えながらも対処しきれない一大事である――玲也達は自分たちへ救援を求めた状況も一理があると踏まえた上で、援軍に向かわんとする意思を示す。ブレーンですら結局彼に頼らざるを得ない状況下だが、新たなる敵を前に一寸の間、玲也が真剣に思慮へ入ると、


「玲也様、この場合ですとやはり私が……」

「いや、ブレストで行こうと思う」

「……あら」


 久々に実戦となり得る状況下にて、3機の中から選べとなれば少なからずのブランクがあったのだろう。この状況下で最適となり得る機体を選ばんとする玲也に対し、エクスが我先にと名乗りをあげようとした所、彼のまとまった考えと異なる故にその場でズッコケ、


「久々の筈が何故、何故ニアさんですこと! アンドリューさん達でも手が回らないのにニアさんで!!」

「わ、悪かったわねぇ! バカスカ撃つだけのあんたじゃなくてさ!!」

「オレもクロストの方がいい気がするパチ。殲滅戦にブレストは向いてないパチよ!」

「ほ、ほらコンパチさんもこう言ってますからして……」


 久々に実戦にありつく機会ゆえか、自分が抜擢されない事へはエクスは面白くない。少しくどい様子で突っ込んでいる彼女へニアが呆れるように答える傍ら、コンパチも彼らに対してブレストのチョイスは思う所があると意見していたのだが、


「確かにエクスの言いたい事は分かるが……情報が少なくてな」

『つまり、未確認の相手に遭遇したならば』

「ブレストの方が有利……という判断だね」

「そうですね……点か面、どちらを優先するか次第です」


 久しぶりの実戦であり、バグロイドが未曽有の相手との可能性も十分にあり得る――屈強な個を相手に打破する力を秘めているとなれば、ブレストが最適との玲也の選択にエスニックは納得をしたうえで、


「エクス君も、リン君もスタンバらせよう。状況に応じては……」

「私が出るとの事もあるのですね!」

「エクスちゃん、そう悦ぶのもどうかと思いますが」

「そうだね。みんな、浮ついた気持ちは捨ててくれ!」

 

 ――ブレストへ先鋒を任せる形には一応エクスは納得を示す。その上で自分にチャンスが回ってくる事へ目を輝かせているものの、そう歓喜している状況ではないとリンが窘める。彼女に応じるようにエスニックが一堂に対して、実戦であると真剣な姿勢で向き合うよう檄を飛ばした。才人の体が一瞬びくつく中、


「将軍! 玲也君だけじゃなく僕も出た方が……」

「お、俺だって出れます!ユーストだってこうパワーアップしてますし!!」


 シャルが玲也の加勢に回る必要があるかと打診した時、シーンも負けじと前に出れる事をアピールする――手を加えたユーストを表舞台にお披露目したいとの願望も少なからず彼にはあっての事だが、


『ふ、二人とも落ち着くんじゃ。確かに出たい気持ちは分からくもないんじゃが』

「玲也君の状況次第だ。シャル君を出すと統率を欠く恐れもあるしね」

「統率……そうか」

「でも、ラルがいるなら大丈夫なんじゃ……」


 逸る二人をブレーンが宥める最中、エスニックは玲也の判断を重点に置いて動くべきと捉えた。ウィンが自分たちが好きに動けない理由をなんとなく察している事に対し、シャルがラルの方に視線を向けた所、


「ほりゃあそうけんど、実戦を経験しとらん今のわしがこの場をまとめるよりな」

「確かに玲也の次に経験があるのは私たちだ……少し酷か」

「ただ出さざるを得ない事もある……玲也君は直ぐに向かうんだ!!」

「了解です! いくぞニア!!」


 ラルが既にサブリーダーとしてドラグーンの面々を束ねる手腕を備えていようとも――実戦というピッチに立った経験がない彼が前線での指揮をとれるか否かはまた別の話である。シャルとステファーをスタンバらせるようエスニックが命じると共に、玲也へは直ぐに電装するよう指示を下し、


「危ないってなったら直ぐ俺を呼んでくれよな! あんたらでもまさかはゴメンだしね!!」

「こんな時にあんたは何言ってるのよ!!」

「分かったから、俺達も集中するぞ! 万が一もあるからな……」


 早速シューターに身を投じようとする中、シーンからは自己顕示欲による宣伝に近い激励が返された。自分たちの身を案じているようだが、出番が欲しい故に促しているのだと分かっていた故にニアも痛烈に突っ込むが、集中力が乱れた状況で実戦は命取りだと檄を飛ばした。直ぐにシューターへ身を投じるたのち、


『しかし、万が一となると心配じゃて……犠牲が出る事だけは避けたいんじゃが』

「ぎ、犠牲って……まさか、バグロイドがここに来るオチじゃないですよねよね?」

「ちょっと? 今そこで悪い事を考えるなんて非常識にも程がありますわよ」


 シーンの言葉のような万が一も起こりうる――ブレーンが心配性かつ戦いに慣れてないが故、犠牲が生じる事を人一倍懸念を示す。ただ委縮していた才人は追い打ちをかけられるように、臆病風に吹かれ、余計状況が悪化するのではと不安気に尋ねればエクスに叱られるものの、


「お言葉ですが……ハドロイドが実際に電装されたとの事でしたら、その可能性はないと言い切れませんぞ」

「ハードウェーザーの電次元ジャンプは半径20万㎞、ジャールから地上までの距離を計算しますと……」

「お、おいやめろよ……当たり前だと思うけど、本当に起こってほしくないから」


 ロが才人の懸念は現実にありうるとの意見を述べれば、妙に可能性がありうると殆どの各々が捉えつつある。パートナーのイチがその可能性を計算していると、言い出しっぺの才人が止めようとした時、


『チェンナイに巨大エネルギー接触反応あり! 引き続き東南東に未確認ハドロイド多数確認!!』

『既にディエストが急行しているとの事、既にダブルスト、ウィスト、レスリストが迎撃にあたっています!』

『……これは!!』


――不安は的中した。クリスはともかくテッドも淡々としている様子にどこか切羽詰まっている息遣いが通信からは聞こえていた。さらにアラート・ルームの大型モニターでは、チェンナイの南インド教会を起点に放射円状に建物が倒壊し、人々が倒れて動かないままの光景を見せつけられる。消防車と救急車を従えるかのようにディエスト・クラブが集っており、救助作業へと回っているが、


「……は、博多と同じような事だよね」

「いや、確かフォーマッツの規模にくらべたらこの場合は」

「やめろ! 規模云々の問題ではないぞ!!」

「……悪かったパチ」


 南インドを襲った凶事は、フォーマッツでの出来事をフラッシュバックさせるものであり、才人の身体が恐怖で慄き震え上がる。コンパチがこの被害状況はフォーマッツのような大規模な破壊兵器によるものではないと、予測される死傷者を計算しようとしていたがものの、ウィンが不謹慎だと叱責されると共に計算をやめた。


「おいらも出た方がいいっぺか! 凄いわくわくしそうだべよ!!」

「何がわくわくだ! そなたも状況を考えてだな!!」

「若、どの道サンディストは向いてませんぞ……逸る気持ちは分からなくもありませんが」


 バグロイドの出現に対し、ラグレーもまた出撃を望む者の、シミュレーター・バトルのように刺激的な遊びのようにも捉えていた。ウィンが舐めてかかるなと諭す傍ら、ヒロがサンディストには不向きだと述べており、


「そっか、サンディストは陸戦特化だとかで」

「お恥ずかしい限りですが、流石にあの重さを走らせるだけで精一杯で……」

「飛べない、泳げないも無理ないパチね」

「溺れちゃうっぺか……」


 シャルとコンパチが触れた通り、サンディストは堅牢な装甲を特徴として頑強さを活かした白兵戦を果たせるだけの機動性も確保されていたが――裏を返せば、重装甲と機動性を両立させる限界までの調整がなされていた為である。

 現在、バグロイドの面々がベンガル湾を飛行して横断している様子からして、空にも海にも対応できないサンディストでは対処できないとの事であり、


「出来る限り君たちを出したくはないが……そうは言ってられないかもしれないね」

「……という事はつまり」

「俺たちが出るってことも」


 実戦を経験していないにも関わらず、前線へ出ようとするラグレーを前にエスニックは改めて釘を刺す。未曽有の相手を前にして、新たなプレイヤー達の初陣として出す事へはやはり躊躇すべき事態だが――そうは言ってられないとも同時に釘を刺す。イチに顔を向けられれば才人が震え上がるものの、


「済まない。不安にさせてはいけないと分かってるつもりだけどね……」

「で、でもやっぱり僕たちが優先して」

「そ、そうですよ! 俺のユーストも一味違いますし」

「その時は真っ先に頼むよ。才人君とラグレー君は……おや」


 実戦経験がない上に、まだ子供となる才人、ラグレーは極力前線に出さない事もエスニックが了承しようとした時であった。その場にいるべき者たちの姿が見当たらない事に気づき、


『ロディ君も、アグリカ君もいないんじゃがどうしたのかのぉ……?』

「何……こんな時にあいつらは何処に」

「こんなにいたら一人二人いなくてもすぐ気づかないけど……ステファー、お前?」


 ブレーンが言う通りエジプト代表の姿がどこにもない。彼らが何処へ行ったかとシーンがパートナーに尋ねた所――彼女の姿もまたどこにも見当たらず、


「貴方が何かと目立ってばかりで、全然話にも加わってないと思いましたら……」

「え、今回目立って……?」

「馬鹿者、そこはどうでも良く……」

『将軍、2人、いや3人ともゲートに向かってます! ソラについてきてますよ!!』


 ステファーがいない事より、自分が目立っていると指摘され、何故かシーンが照れているが――呆れながらウィンが叱りつけるのは最もな事と言えた。その最中クリスから通信が入り、アラート・ルームと真逆のゲートへと急ぐ一同の姿がそこにはあり、


「ステファー、ステファー、今どこにいるんだよ!!」

『シーンこそ、どこいるの~?』

「何処って、ドラグーンのアラート・ルームだよ!見る限りドラグーンじゃないっぽいけど!」


 ポリスターで直ぐステファーの居場所を確認するシーンだが――彼女はいつものように間が抜けた様子で彼に語り掛ける。彼女の部屋に移る背景は資材を梱包したと思われる箱がいくつも積み上がっており、ドラグーンの倉庫ともまた違う様子であり、


『ステファー、おトイレから帰ったら、ロディとアグリカが急いでて~』

「それでその二人を追って」

『シーンがいないからって、そこに隠れてろって言われたの~』

「……そうか、仕方がないというべきか」


 ――エジプト代表の急ぐ様子からして、本来配属されるはずであった、ジェラフーへ向かうのではないかと誤解して後をついてきた結果、フェニックスに転移してしまったとの事であった。おそらく彼女の普段の性格からして、二心などはなく素で思い込んでしまったからだろうと、ウィンは彼女を責める事はせず、何故か抜け殻のように魂が抜け出ているシーンの方を見下ろしていた。


『電装反応あります! エンゲストと……ロクマストです!!』

「一体彼は何をやって! 直ぐに私から確認する!!」


 その直後にフェニックスから電装反応があったとクリスは告げる。エンゲストとロクマストの存在からして、オランダ、エジプト代表の2機が揃って出た事になるが、揃って初の実戦を考えたなら、リスクがあまりにも大きい。この二人の出撃を許したガンボットへと流石にエスニックは呆れかえった途端



『全地球人類……もとい電装マシン戦隊の諸君に告げる……』



 ――その瞬間、フォートレス全体に重く低い声が響き渡った。聞き覚えのない声に戦慄を覚える面々だが、大型モニターが映す上空には7人の影があり、


「一体何なのでして、あの方々!」

「もしかしてゼルガさんの言ってましたた」

「……七大将軍!」


 エクスやリンが触れる通り、晴天の空を脅かすような7つの影がそこにはあった。中央の仮面とマントにその身を包んだ男の脇を固める様、左右に計6人の姿が天から見下ろすように睨みを効かせる。それでいて余裕を各々が醸し出していた様子からは、自分たちが下と見なす世界を、手中に収めようとするかのように……。


「こ、これが敵なん、俺たちが本当に、その」

「何弱気になってるパチか! 分かってて戦いに出たパチよ!!」

「そうそう、正直まだソラ君の方がピンとくるんだから、大したことないよね、イチ君?」

「ね、ねぇってリズさん、何を指して言ってるんですんか」


 七大将軍を前に才人が腰を抜かしており、弱気になっている彼の様子をコンパチが激励する。一方のリズは七大将軍に対してソラより美的センスは劣っていると妙に余裕をかましている。同意を求められたイチが困惑もしていた所、


「……自信と慢心は紙一重、慎重も臆病もまた紙一重じゃ」

「ラルさん、一体どういう」

「……何、用心に越したことはないってことよのぉ!」


 イチに声をかけられれば、直ぐにラルは何時ものような豪快さで笑い飛ばす。だがその一寸前に彼は拳を静かに震わせ、厳ついまなざしを上空の七大将軍へと突き付けていた。

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