第24話「ウィナースト、恐怖の3大電次元兵器!」
24-1 空舞う風車! エンゲスト戦場に立つ!!
『こうバグロイドがいきなり出てこられたらな……』
『空を飛び回られたら堪らないぜ!!』
南インドのチャンナイを襲った戦鬼軍団はそのままインド洋へと南下しつつあった――バグファイター、バグソルジャー計12機。彼らの進軍を阻止しようとスパイ・シーズの編隊が奮戦を繰り広げる。最もこのバグロイドがみな大気圏内を飛行できる術を備えている為、スパイ・シーズの優位性は希薄でもあった。相手が同じ空を飛べる上、火力で頭一つ分は引き離されているのだから。
『この位の戦闘機相手に俺たちが負ける訳……』
バグソルジャーがデリトロス・マシンガンを手にした時、スパイ・シーズへと照準を定めた。アルバトーレ同様、戦鬼軍団の面々も地球側の機体を格下と見なしていた様子だが――彼の右手を狙い撃つように一直線上の光が直撃する。
『おっと、僕たちスナイパーだからね……!!』
『散開してください! 巻き添えだけはゴメンです!!』
ライトニング・スナイパーによる狙撃でバグソルジャーの腕を潰したのはレスリスト――上空の自分を目掛け、バグソルジャーがレールガンの砲身を向けた事に気づけば、フラッシュ・ヤードで視界を奪ったことを確認した上で再度スナイパーを放つ。上空からの立て続けの砲火が直撃したのだろう。閃光の中で爆発反応を察知した。
『あのアトラス君……まさか君が一人無茶をしても』
『ここで無茶をしないで、どうするんですか !』
『たまには悪くないと思うよ! 地球にI Love Youの僕からしたら許せないからね!!』
ガンボットから案じられようとも、アトラスはなりふり構っていられない状況だと主張して一方的に攻め続けた。やがて上空へと山吹色のバグソルジャーがとびかかる訳だが、
『生憎飛べるんだよ! お前らの空だろうと!!』
『知ってるよ……!!』
デリトロス・ベールを片手にして、バグソルジャーが迫ったのもアトラスの狙い通りでもあった。一方的な狙撃でバグロイドを下す事も、彼らの注意を引き付けるため。実際大気圏内で飛行できる点から白兵戦を持ち込んでバグソルジャーが仕留めようとするが――レスリストがすかさず右足を後頭部目掛けて蹴りつける。シェフィールドスを受けたバグソルジャーが狼狽えたと同時に、追い打ちとして脚部からのミサイルを立て続けに放つものの、
『アグレッシブだね! 僕は嫌いじゃないよ!』
『でも、無理しすぎたね……仕方ないけど!』
アトラスの攻めをクレスローは肯定するものの、バグソルジャーを突き刺さんとした結果逆に足裏のシェフィールドスが折れた事へ、彼らを警戒せざるを得なかった。自衛や狙撃の補助目的での装備に高望みしてはならないと、自分へ言い聞かせていると、自分めがけてレールガンの弾丸が飛び交う。両腕のバズソーを盾代わりにして最小限のダメージで抑えようとするものの、
『たかが1機の分際で!!』
『良い気になるんじゃねぇ……!!』
バグファイターの連携を駆り、2機がかりでバグソルジャーが右手を上げる。マニュピレーターと異なる万力“タウファンガー”がワイヤーで射出されレスリストの両脚に絡みつき、
『しまった……ああっ!』
『そのまま引きずりおろしてもいいけど!』
『このまま晒し物にしたって……よぉ!?』
戦鬼軍団のバグロイドとして、屈強な装甲と馬力によってレスリストを海原へと引き寄せようとする。脱出を試みようとするレスリストが引きずり込まれ、レールガンの餌食にされようとしていた所――放ったワイヤーが直線状の光線によって千切れ飛び、
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
『あの虎とかは……ウィストか!?』
『こいつで毛皮にしてやんよ! でぇぇぇぇい!!』
海原をホバーで疾走しながら、ウィスト・ティガーが戦線へと介入する。アイブレッサーとカイザー・キャノンを同時に放ち、前方の敵を寄せ付けない中、上空からのバグソルジャーがベールを振りあげるものの、
「カイザー・スクラッシュ……!!」
『がぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
コイの気迫……いや、新たなる憎悪にも駆られるように、カイザー・スクラッシュを背中越しにバグファイターを衝く。虎の爪のように伸びた光の刃は既に胸元の装甲を何か所も突き破った後であり、さらに尾へ備えられえたマゴロク・フィンガーを真上に突き出し、既に動かないバグファイターをアッパーの要領で宙に浮かせ、
「どうしてあんた達は! バグロイヤーは奪っていくのよ……!!」
「落ち着け、コイ……まだそうと決まった訳ではない」
「あの二人が南インドの教会に戻ってるなら……実際連絡がついてないじゃない!!」
コイが憤る理由は戦鬼軍団が南インドへ急襲を仕掛けた為。彼らの被害を受けた中心地には南インド教会が存在しており――強化合宿を終えたインド代表に家同然の場所なのだから。
ガロ兄弟の休暇が戦鬼軍団に引き裂かれ、サウジアラビア代表の悲劇が繰り返される事を考えるだけで、彼女は悲嘆と憎悪に駆られずにはいられなかった。サンが冷静さを保って諭すが、声が微かに震えており、
『テディ、アンディだけじゃないよ……まさかミス・マイまで』
『まだ分からないよ……カプリアさんからの連絡がまだないんだから!』
上空で体勢を立て直したレスリストは、再度得意の狙撃を活かしてバグロイドの胸部を射止めていく術に転じた。本来の得意戦局での攻め方であり、海上でウィストが白兵戦を中心にして仕留めると共に、上空の自分が狙われること防いでおり、一方のレスリストは砲撃戦に弱いウィストを補うように狙撃役に徹する。双方の穴を補い合う連携であったが――インド代表の危機に二人とも少なからず心が揺れていた。クレスローはどちらかといえばマイの無事の方を心配していたのかもしれないが。ディエストが出向している救助作業が終わるまでは何とも言い難かった。
『いくぞ! 一斉にぶっ潰してやる!!』
『おぅ、一番手柄だな!!』
その瞬間、ウィストに目掛けて4機がかりでバグソルジャーがフォーメーションを取る。タウファンガーと称するバグソルジャーの右腕は、ワイヤーに連結された万力でもあり、ウィストの四本脚にワイヤーを絡みつかせれば、万力で手足を潰さんとするが、
「虎を檻に入れるつもりだと思うが……」
「腕はまだあるのよ……!!」
手足を封じられようとも、テール・シーカーが5番目の腕として1機のバグソルジャー目掛けて撃ちだされた。シーカーの指先からバルカンを炸裂させての牽制を経て、5番目の腕としての質量弾として直撃させればタウファンガーによる拘束に緩みが生じた。右へと体をよじらせると共に、、別のバグソルジャーと顔を合わせるや否や、
『ま、待て! や、やめ……』
「今更言ったって遅いのよ!!」
『コイ、サン、聞こえるか……!?』
命乞いをしだしたバグソルジャーのパイロットに対しても、コイ達が賭ける情けなどない。ティガー形態の口からの熱線ザオツェンはベールの刀でさえ軽々と溶かし、本体も既に沈黙させるだけの威力があった。その最中にカプリアからの通信が届けば、
「カプリアさん……じゃあ二人は、あとマイは!!」
『二人とも至急病院に搬送した……致命傷は免れたぞ』
「あれほどの状況で……奇跡というべきか」
チェンナイの教会は戦鬼軍団の空襲を受け瓦礫と化した。崩落した現場へディエストが急行し、二人を直ぐに収容して病院へ送ったとの事だが――二人が最悪の事態を免れた事へ、サンは少々目を丸くして驚きの声を漏らしていた。
『……フタリトモ、ヒドイ、ケガ、シバラク、ムリ、パルル、オモウ』
『とパルルが言う通りだ……そこまでは高望みかもしれないが』
「そう……ですか……」
ただパルルが触れる通りガロ兄弟が致命傷を免れたと言えども、傷の具合から1か月は入院を余儀なくされる見通しであった。彼らが命に別状はないだけ安堵すべきと胸の内で捉えていたものの、
「それでもあんた達は……!!」
「……1機たりとも生かして返さん!」
最もそれとこれとは話が別である――ウィストの体を右によじらせてカイザー・キャノンでタウファンガーを切り裂いたことで拘束から脱出。すぐさま体を高く飛ばせてスクラッシュのビーム刃を展開した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「とりあえず邪魔な通信は全部切ってるからよ。思う存分戦いなよ」
「う、うむ分かっている! 余が一人で相手をしてやるわ!!」
「まぁ、無断出撃なんかしちまったらちゃんと成果をあげなきゃ示しがつかないよなー」
「き、貴殿は他人事のように」
南シナ海へロクマストは既に電装されていた――ワニを模したゲイター形態で深く潜水しつつ戦鬼軍団へと密かに接近しつつあった。ロディのコントローラーを握る腕は流石に少し震えていたが、彼は一度飛び出したからには後には退けないと虚勢を張っている様子であり、
「おいおい、お前がしっかりしてないとあたしも困るからさ!」
「わかった、わかった! 余の腕を見せつけてやるから貴殿もしっかりついてこい!!」
「へいへい、あたしも手伝ってやるよ」
あえてアグリカはロディを逆撫でるような言葉をかけ続け、同時に自分の事で頭がいっぱいな彼女に対し、少し突き放したような目で見ていたが、
(これだからハッタリ野郎なんだよ……そう最初から今は出来ませんって認めないから、こうやらないといけないんだけどな)
アグリカなりにロディのこの先を案じての荒療治の場と見なしていた――そのような過激な手を取らざるを得ない事に対し、彼女なりに罪悪感は抱いていると共に、
「ただ、あいつ遅ぇなぁ……」
ロディを叩きなおす為の荒療治として、ソラの誘いは絶好の場だと判断して、彼の下心を承知の上で敢えて手を組んだ。だが彼が本来自分の力を世間に誇示しようとしているにも関わらず、表に現れない思惑を探っていた所、バグファイターの1機がレールガンを構え、
「き、来たなバグロイヤーめ……!!」
「あ、おい! 何撃ってるんだよ」
「え、えぇい! 余が狙われたら貴公もどうなるか!!」
「だからといって居場所伝える馬鹿があるか!!」
ロクマストが直ぐにトロンペランチャーで応戦したが――単身でバグロイドの面々と渡り合うのならば、彼らが南シナ海へ向かうまで深く待ち伏せを続け、リーンフォース・フンドーで飛行能力を持つバグロイドを得意フィールドの深海へと引きずり込む事がアグリカの狙いだったのだが、
『海に潜んでたとか……いい度胸だな!』
『引きずり出せばこっちのものだ!!』
「な、何をする! 余を引きずり出そうと!!」
「ほらみろ!このハッタリ野郎が!!」
しかしバグファイターの砲撃を前にして、ロディが咄嗟に応戦したため自分の居場所を知らされる結果となった。水中に潜んでいる様子からしてバグソルジャーがタウファンガーを放つ。ロクマストを掴みかかってそのまま海上へと引き上げ優勢に渡り合おうとする思惑であった。自ら有利な条件を捨てる結果となったのか、ロディが早くも狼狽えだしており、
「ったく、あたしも他人事じゃ……」
ロクマストの頭部が引きずり出されようとした時、最悪の事態になり得ると踏んだのだろう。アグリカがトート・シーカーをパージさせ、タウファンガーのワイヤーを焼き切ろうと狙った瞬間だ。上空からの砲撃が脳天からバグソルジャーを焼き払っており、
「ようやくお出ましか……おや?」
シーカーが捉えた映像には、アイボリー色の飛行物体が映されていた。アダムスキー型の円盤を彷彿させる形状の物体は、トリッキーな軌道を描きながら、レールガンの弾頭を避けつつ、バグロイドへと接近しつつあった。それだけならまだしも、1台のヘリコプターの姿を捉えた事にアグリカが首をかしげたが、
『もう少しじらしても良かったけど、見殺しは拙いからね……』
『こうして戦える時を待ってました! 私にも戦えます事をお嬢様に示せましたら……!!』
『それくらい直ぐに叶うよ、こうしてスタンバイしてくれてるしね』
アグリカが予想した通り、アイボリーの飛行物体には、ソラとアクアが搭乗していた――つまり、オランダ代表ハードウェーザー・エンゲストでもあった。初の実戦で血気に逸るアクアを宥めつつ、ソラは後方へ控えるヘリとポリスターで指示を下した上で、
『あれもデータにない! もしや……!?』
『ネーデラー・アタックだよ!!』
バグファイターのパイロットが警戒する間もなく、エンゲストが彼らの群れへと切り込む――甲板の基部が回転すると共に、アンカーへ連結した分銅が四方へと撃ちだされる。ユニバース・クラッシュを回転させながら、周囲の相手を打突するこの戦法をソラはネーデラー・アタックと称し、
『ユニバース・キャノン! チェンジ・エンゲスト……!!』
ユニバース・クラッシュで弾き飛ばした相手へ向けて、四方からユニバース・キャノンが火を噴いた――そして、ファンのようにクラッシュが回転させながら、機体が起き上がった途端、四方へと突き出した砲門が手足へと変わり、エンゲストが己のベールを取り去った瞬間でもあった。
『社長、無事に撮れています!』
『それでこそだよ! 僕の姿を全世界に配信するんだからね!!』
「……やっぱりな、あたしらを引き立て役にしてさ」
ソラと通信を交わす報道ヘリは、彼の会社の所有物であり、社員がエンゲストが応戦する姿を空撮して、ネットで全中継がなされていた。ソラがプレイヤーとしてデビューを飾る事を大体的に喧伝する意図であり、自分たちはその引き立て役として招かれた事はアグリカも元々察しがついていた。ようやく真意を理解してロディが口をポカンと開けていたのはともかく、
『お見事です! 玲也様に勝るとも劣らずで』
『玲也さんと組むってなら当然さ! そーれ!!』
クラッシュをファンとして、浮遊状態を維持しつつ、エンゲストはキャノンによる砲撃を交えての白兵戦を繰り広げる、両手足のキャノンが砲撃だけでなく、砲身の強度を活かしての打撃はバグファイターのスタンドレッダーを潰すだけの破壊力を示していた。空中での機動力だけならず、遠近両用に死角がない器用な戦いを繰り広げており、
『こうして力を世間に示しているんだ……世界初のストリーマー・プレイヤーだってね!!』
『ストリーマー・プレイヤー……はて?』
『いずれ分かるさ……マーベルなんかも目じゃなくなることもね!!』
“暫しの沈黙を破る様にして、再度バグロイヤーの攻撃が始まった。大気圏内外共々各国のハードウェーザーが迎撃する中、初の実戦へ身を投じる者も少なからずいる。エンゲストを駆るオランダ代表もその中の一人の筈だが、ソラはこの戦いの先に存在する目的へと野心を研ぎ澄ませつつあった。そしてこの物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である“
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