22-5 蠢く七大将軍、天羽院の企み
「……皇帝陛下、バグロイヤー七大将軍一同、ここにに集結しました」
「……ハインツ。それにグナート、レーブン、トループ、ディン、セインクロス。よく戻られたな」
――バグロイヤーの総本山トレントス。首都スカルプに君臨する大宮殿には今、7代将軍と呼ばれる面々が招集された。中央の奥に位置する席には、漆黒の兜と純白のマントにその巨体を覆い隠された人物の姿が――王座に座る“皇帝”が構えている。皇帝を囲むようにして、左右の席へ其々6人の将軍が着座していたが、
「アルバトーレはゼルガを始末できなかったどころか、反抗勢力の脱走まで許した。そうだな……?」
「はっ……そ、それに関しましては何と弁明してよいのやらでか」
ただアルバトーレだけは事情は異なっていた――戦鬼将軍との肩書を持つこの屈強な男は、罪人のように同僚たちの目に晒され、裁きを受けようとしていた。中央へ一人ポツンと佇んでいる彼は同列となる残り6人の将軍から蔑視の目で見られ、皇帝に対してアルバトーレは頭を下げて謝意を示すも、この屈辱に体を震わせていた。
「確かー、女の子に手を出してたんだっけ? 僕の部下から聞いた話だけど……ひぃっ!!」
「おやおや、反論があるときはちゃんと言ったほうが良いと思いますよ?」
将軍の中でただ一人、天空将軍トループは、直接言葉に出す形で、真っ先にアルバトーレの非を嘲笑した。
最も小柄で子供のようにあどけない童顔の彼は、同僚を詰るにも子供じみた悪戯心が見えかくれしている。また、詰った彼が直接腕力に訴えなくても、眼光を突きつけられるだけで、彼は小動物のように思わず驚き上がって蹲っていた。
他の面々が白い目でトループの品性も思慮もない行動を見ていた最中、皇帝の隣へ姿を現した白衣の男は、トループに加勢しており、
「……天羽院、いつの間にそのような身分に」
「まぁ、天羽院ちゃん実際凄腕の科学者だもーん、その内彼が七大将軍に加わっちゃうかもよ?」
「……」
端正ながら、顔の半分をその長髪で覆い隠した深海将軍グナートは、地球人の天羽院がいつの間にか皇帝の側近にまで出世したのかと疑問を呈する。一方ケープを羽織りながらも、そのボディスーツに包まれたナイスバディを垣間見せる超常将軍セインクロスは、軽いノリで天羽院が優秀な人物であると触れながら、向かい側に座る初老の人物に冷たい視線を向けた――最年長にあたる武装将軍ディンは何も言わず構えていたが、
「しかし、ゲノムを任された戦鬼軍団のトップが! こうも女と遊んでいたなんて……一体どういうつもりだ!」
「よせレーブン、お前がアルバトーレを裁く訳ではない」
「しかしち……いえ、ハインツ!」
「皇帝の一存で決まるはずだ。最も俺でもこればかりは……」
仮面で両目を覆いくノ一のような鎖帷子を着用したレーブンは声を荒げて、アルバトーレへ七大将軍としての自覚があるのかと激昂する。猛獣将軍との肩書故か、仮面を装着し一見冷静沈着そうな外見に反し、レーブンは年相応に感情的な人物らしい。隣に控えた鋼鉄将軍ハインツが彼女を諭すが、全身を鎧で覆った屈強なこの人物は逆に泰然とした様子で構えている。まるで七大将軍の筆頭格として君臨しているかのように、皇帝の意思を伺おうとすると、
「アルバトーレ、お前の戦鬼軍団が屈強な者共の集まりだが」
「は、はっ! 七大将軍の中で荒くれとして名をとどろかせたこの俺アルバトーレの軍団です」
「……ならば、一番槍として太陽系への総攻撃を命じるとしよう」
「はっ……?」
皇帝の下した選択に対し、アルバトーレ自身が良く分かっていないような姿勢ではある。他の者共について、ある者は一番槍を逃した事へ、歯がゆさの漂う表情を浮かべており、またある者は引き続き見下すような目であざ笑う。さらにまた別のある者は関係のないスタンスであったが、
「つまり皇帝、この度の失態は将軍として最前線で手柄を立てて汚名を返上せよと」
「……不満か?」
「いえ、バグロイヤー七大将軍として異存はありません。アルバトーレ、そういうことだ」
「はっ……! この戦鬼軍団があの電装マシン戦隊を一人残らず血祭りにしてみせます!!」
ハインツが念の為と皇帝へその処遇の意味を確認した所、アルバトーレがようやく理解を示したようで、威勢だけでなく調子もよいように大口を叩くと、
「あーあ、こうデッカイこと言うと一種のジンクスなんだよねー、まぁこのままくたばっても僕は構わないけどね!」
「……貴様!」
「ひぃっ!!」
「……」
早速トループが揶揄えば、アルバトーレがまた彼に対して睨みを効かせる。慌てて机に隠れるトループの姿に、隣のグナートが彼へ密かに呆れの眼差しを向けていた。
「前線部隊のバグロイドは悉くハードウェーザーに敗れました。ですから私はハードウェーザーにはハードウェーザーをぶつけなければいけません。つまり……」
「……お前さんはそう簡単にハードウェーザーを開発する事が出来るとでも言いたげじゃな」
「実際ハードウェーザーをそのまま再現する事は難しいです。ただ一種のイージータイプならそこまで手間がかかりませんからね」
このひと悶着を仲裁するように、天羽院がハードウェーザーの必要性を主張する。少し白々しい様子もありながら、バグロイドはハードウェーザーに悉くやられており、まるで七大将軍が率いる軍団でも敵わないと言いたげだった。ディンが眉を潜め彼の技術者としての見解に苦言を呈すも、天羽院は臆せずに自分の構想を述べており、
「天羽院の言う通りだ。私が思うには太陽系……地球はお前たち七大将軍が支配した星々と比べ物にならない筈だ」
「皇帝、そこまでこの天羽院とかの言う事を信じるのですか!」
「よさないか! 実際前線部隊が我々より劣るとしてもこうも脆く敗れ去った事を考えろ」
「流石ハインツちゃん、ちゃんとハードウェーザーの事分かってるわー」
天羽院へ助け舟を出すように皇帝もまた、ハードウェーザーの必要性を説いた。レーブンは今一つ信じられないとの不満気だが、またハインツに諭している。その彼をセインクロスが称賛するが、本人はさほど反応しておらず、代わりに天羽院が彼女へ目配せしており、
「君のファジー君に大分協力してもらいましたからね……それもあって色々良いデータも得られました。有難うございます」
「あらー、お礼ならファジーちゃんに言うべきなのにー」
天羽院がファジーの功績をセインクロスへ称賛すると、それはあくまで部下の手柄だと彼女は断りを淹れる。ただそれでも彼女が大分照れている様子であり、グナートは少し二人の関係を怪しんでいた。
「いずれにせよ少し時間がかかりますが、万全の態勢で第二波を動かすべきだと思います、皇帝」
「太陽系へのゲートをこちらからこじ開けなければ、攻め込まれる事もない。それまでに選りすぐりの精鋭を揃える必要がある……!」
「はっ! このアルバトーレ、一番槍として戦鬼軍団の選りすぐりで攻め込ませてもらいます!!」
「他の軍団も同じだ……バグロイヤーの為に粉骨砕身せよ……」
何れにせよ皇帝は危惧していた。前線部隊が電装マシン戦隊のハードウェーザーに敗れた事実に目を背ける事は出来ないのだと。電次元と太陽系が隔絶されている間に、第二波の戦力を結集させることが必要と判断した。この皇帝の判断に天羽院が満足した様子になると共に、
「そうでした、そうでした。確か皇帝は新しい将軍を貴方の元に加えるとの事です」
「……新たな将軍とは。そのような話、まだ一度も聞いてませんが」
「この男の言う通りだ……私の倅を隠し球として温存していたが、この機会に実戦へ投入してやろうとな」
「倅……ご子息の事ですか」
七大将軍へ新たに一人のメンバーが加わろうとしている――天羽院の爆弾発言に対し、皇帝からすれば嘘ではない事実であると肯定する。ハインツはまだしも他の将軍の中では警戒心に駆られる者や、保身に走る者なども少なからずいる。ただセインクロスだけ既に知っているかのように余裕の笑みを天羽院に向けており、
「最もあくまで七大将軍ですから、この中の誰か一人が危ないと思ってもらえばよいですよ……」
「ま、まさか、僕の事じゃ」
「特にアルバトーレさん、貴方は後がないと思ったほうがいいですね、おそらくですが」
「……」
その上で天羽院はアルバトーレに対して揺さぶりをかけて、七大将軍から背を向ける。実際自業自得とはいえ、他の将軍たちから蔑視と嘲笑の渦に晒されるアルバトーレはまだしも、トループ一人勝手に自分の立場が危ないと焦っていた後、自分ではないと知った途端異様に安堵していた――天羽院が彼に関心があったかは定かではないが。
「……十分ハードウェーザーのデータも集めましたが、玲也のデータも集まりましたからね」
一人宮殿の地下深くへとつながる階段に足を運んだ後、天羽院は自らの網膜を認証させて分厚い鉄の扉をひとりでに開かせる。その扉には巨大な二つのシリンダーが培養液で満たされており、うっすらと二人の人影が見え隠れする。
「七大将軍より君達に全てを賭けてますからね……私から全てを奪った羽鳥秀斗と、その息子・羽鳥玲也に復讐するためにですよ……!!」
シリンダーに頬を寄せながら、天羽院の高笑いが更迭の扉に閉ざされた部屋へ響き渡る。バグロイヤー皇帝の側近として今、君臨しているこの男は、ただ羽鳥親子への復讐に駆られていたのだった。
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