22-6 遠い電次元に誓いをかけて


「エスニック君やったぞい! 玲也君が、玲也君が……!!」

「そうですね。最も玲也君だけでなくゼルガ君も立派だった……筈ですよ」


 二人が急ぎ足で向かうさ中、ブレーンが興奮から醒めない様子で、自分の事のように彼の勝利をエスニックへと語る。彼もまた内心興奮に駆られていたとはいえ、玲也の勝利だけでなく二人が全力を出し尽くして戦ったことを、今は称賛の対象としていた。そんな二人が近づいていた頃、既にその部屋へと何人か我先にと駆け込んでいた――シミュレーター・ルームに向かって。


「玲也ちゃん、すげぇ! すげぇじゃんかよ!!」

「ちょっと才人さん! 最初に玲也様の勝利を喜ぶのは私でしてよ!!」

「まぁまぁエクスちゃん……才人さんは玲也さんの親友ですし」

「だから僕もおっさきー!」

「シャルさん!」


 赤色の扉から現れた玲也に向って、親友として才人が真っ先に彼の元へ飛びついており、エクスは少々不機嫌に拗ねていた。リンに宥められつつもその後シャルが二人の元へ飛びついた時に、彼女は再度抗議しようとするも、リンは彼女を宥める事に少し苦笑いもしていた。ちなみにステファーも同じく玲也の元へ向かおうとしていたものの、シーンが全力で彼女を抑え込んでいた事も書き加えておく。


「ありがとう……正直ニアもだが、みんなの力があってここまで来られたかもしれない」

「そういえば、みんなで思い出したけど。さっきポーの声がしたってあんた言ってたけど」

「俺にもよくわからない。ただあの時カウンター・ジャベリンを使ったのもポーやベルさん……みんなの声がしていた」


 既に亡きサウジアラビア、ニュージーランドチームの幻聴は、玲也曰く追い詰められた状況で無我夢中、その最中で呼んだ声に導かれ、カウンター・ジャベリンを放ったのだと彼は触れた。電次元フレアーをあの時選んでいたのならば勝利を得られたかわからない。最後の最後は一瞬の機転――まるで運同然の概念によって勝利を呼ぶことが出来たのだと述べるが、


「そんなことはないのだよ……」


 少し遅れ、青の扉から現れたその彼こそ――先ほどまで玲也が一線を交えたゼルガその人だった。爆炎と共に砕け散ったリキャストに殉じたと思われた彼はユカを連れて彼らの前に姿を現して、玲也の勝利が運や偶然によるものではないと触れる。


「私の完敗だよ……ありがとう」

「貴方は本当に強い、本当に手ごわい相手だった……こちらこそ、ありがとうございます」

「私も簡単に負ける訳にはいかなかったがね、不思議な事に今、とても良い気分だよ」


 ゼルガが差し出した右手に玲也もすぐ応えるように握手で返した。彼が父の前に立ちはだかる壁だけでなく、ゲノムの民から希望の星とみなされる人物として、簡単に負けるつもりではなかった事は今まででは見られなかった荒ぶる様子から、直接交えた者として既に玲也からすればわかっていた事であった。

 負けるつもりではない――今までのゼルガと違って、相手を下して勝つ事をこの勝負では指していた。その為に互い死力を出して勝負に挑んだ事を認められたからこそ、玲也はゼルガを信じ、ゼルガの胸の内は“やりきった“事で心安らかに満たされていた様子だ。


「ったく、俺をハブって勝手に丸く収まってんじゃねぇ」

「おー、アンドリュー妬いてるのか―?」

「バーロー、俺がこいつを倒すって決まってたのによ」


 手を固く握りあう二人に割り込むようにアンドリューが間へと入る。口では自分が蚊帳の外で、観戦しているだけしかできなかった決闘に対し、不満をタラタラ述べていたが、


「アンドリュー、彼が私を倒したことは責められる事ではないのだよ。誇るべきことだよ」

「……バーロー、俺はこいつの師匠だったんだよ」

「アンドリューさん!?」


 ゼルガの言葉を素直に受け取っていない様子だったものの、アンドリューは彼らの肩に手を添えて何度かそっと肩を叩く――二人の決闘が互いに死力を尽くしたものだと、彼なりに認めて称賛の意を伝えていたのだ。“師匠だった“アンドリューの労いに玲也が少し驚くと、


「おめぇがこいつに勝ったことは胸を張るんだ……ここまでおめぇが来たって事をな」

「……は、はい!」


 玲也へ“弟子として“アンドリューが最後に接した瞬間でもあった。自分より先にゼルガへ勝利した事柄は、彼にとって既に自分と肩を並べるプレイヤーとして成長を遂げた意味となる。ついこの間まで自分の弟子だった事を少し懐かしく思いつつ……。


「ニア、おめぇもよくやった……こいつのパートナーとして色々大変だったかもしれねぇけどよ」

「え、えぇ……まぁ、確かに玲也は生意気で、無愛想といえばそうなんですけど……」

「けど、今までやってこれたのってお似合いって事だろ?」

「お、お似合い……!?」


 ニアへも称賛の言葉を送り、二人が相応しいコンビであると触れれば彼女の顔が瞬時に赤くなり、その場で思考回路が停止したかのように震える。いつもの彼女ならば即座に突っ込んでいたものの、やり遂げた後から間もないゆえに余裕がなかったのか、あるいは満更でもないかは定かではないが、


「もう、アンドリューさんったら! 私が玲也様にはいまして……」

「まー、勝ったのはあいつらだから今は大人しくみとけよー」

「まぁ、おめぇらも同じこれまでも、これからもって事だな!」


 エクスがやはり、ニアと玲也が接近することに異議があると言い出し、リタに半ば実力行使で宥められていた。彼女の嫉妬の原因に一応気づき、アンドリューが二人をねぎらっていたが、玲也をめぐる女の対決については敢えて触れる真似はしなかった。


「ステファーもー、狙ってるから―」

「だからそこで貴方が出てくるのでして!? 玲也様と関係ありませんのに」

「俺は玲也ちゃんの親友だから……」

「才人さん、ここは僕も張りあったほうが良いですか?」

「い、いや止めろ……お前たち、とりあえず落ち着け!」


 おそらく空気を読んでいるとは思えないが、ステファーまで名乗り出たところ、親友故か才人までこの畑違いの争いに加わろうとしていた。イチは少し理解が追いついていない中で、彼に追随しようとした所、ウィンに止められる。その彼女は、別の争いでヒートアップしつつあった状況を収拾しようと動きまわっており、


「エスニック将軍……まさかこの問題をこう解決されるとは私も考えていませんでした」

「実はここまで大芝居を打つことになるとは考えてなくてね……ただそれだけの事を私にさせたくなるのがゼルガ君だよ」


 この騒動を余所に、ゼルガはエスニックへ頭を下げた。このシミュレーターでの決闘を互いの命運を決める一戦として彼が世間へ芝居を打った賭けに対してだ。

 シミュレーターでの映像をさしも本物の映像として全世界へ公開する――エスニックの大芝居は国連側としても承諾された上で行われた。ゼルガを戦争責任者として罰するより、ゲノム解放軍を束ねるだけでなくリキャストのプレイヤーとして必要不可欠な戦力になりうる。今後の戦局を想定した上での冷徹な判断も絡んでいたが、


「最も……世間を納得させるため、表向き君達は戦死した扱いにすることになってしまったよ。これに関しては申し訳がないと……」


 かつての敵が今後の戦局において、利用価値のあるカード――この戦火で被害も被っている世間へ都合の良い事を納得させる事は容易ではない。ただ、その問題を完全に解決しきれず、表向きゼルガとユカには死んでもらう形で世間を納得させる必要があった。


「エスニック様、そのお心遣いだけで十分です」

「私が前線部隊を御しきれなかった為、多大な犠牲を出しました。その責任は私がとらなければならないと覚悟していました」


 エスニックが頭を下げるものの、ゼルガとユカは平和的な解決を目指したためとはいえ、敗軍の将としての責任を取る義務がある。それが分かっていたからこそ互いに彼らを責める事はなく、


「私たち地球側だって、天羽院がバグロイヤーに与しているんだ。それを考えたらお互い様だよ」

「ありがとうございます。その為に互いが手を取り合う時が今なら光栄です……」

「そうだよユカ。私たちが表向き犠牲になろうともこれが相互理解の足掛かりになるのでしたら」

「ゲノムの方々の受け入れは責任をもって私たちが成し遂げる。これは信じてほしい」


 双方を納得させるための決闘は芝居であろうとも、ゲノムの民からすれば、ゼルガは彼らの命運を背負ったうえで敗れ、戦死した身として表舞台から姿を消さなければならなかった。隠遁を余儀なくされる彼らのために、ゲノムの民の受け入れを実現させると、エスニックは約束を交わし、手を握り合うと、


「しばらくは君達を信じて私たちは姿を消すのだよ……ただ、その時が来ればまた……」

「来るんなら、俺との決着はまだついてねえの忘れんなよ。当然俺が勝ってやらぁ」

「はは、“友”としてまた会う事を望んでも、“好敵手“として決着をつけないといけないようだね、なら……」


 エスニックに後を託した上で、ゼルガとユカがシミュレーター・ルームから去ろうと後姿を彼らに向けた時であった。アンドリューから勝負はついていないとの突っ込まれると、“好敵手“としての務めを自分が果たさなければいけないと再度彼は笑みをこぼした。


「私も好敵手として、アンドリューにも勝たないといけないし、玲也にもまた勝たなければいけないのだよ……」

「ちょっとあんた、また玲也と戦うつもりでいるの?」

「好敵手とはそういうものだよ、抜きつつ抜かれつつの中で切磋琢磨、互いに己を磨いていくのだよと……」

「……あぁ!」


 友であるよりもあくまで好敵手である――ゼルガは好敵手として再び姿を現し、今度は自分が勝つと穏やかながらも、彼の胸の内にある闘志はなお衰える事がない。玲也にとって新たな炎を胸の内に宿した彼へ、心を踊らされていた。彼からの好敵手としての宣戦布告に受けて立つ覚悟は何時でも出来ていると答えた。


「最も君は私に勝ったのだから、そこで終わる事がないと信じたいのだよ……」

「勿論……その為に俺は電次元へ向かうつもりだ」

「その意気だ……秀斗さんも君を待っている筈だよ」


 ゼルガに勝利した玲也が目指す先――それは、遠く離れた電次元で待つ父である事に変わりはない。自分を追い越した者がさらなる先を見据えているのだと知れば、自分のようにゼルガは密かに笑みを浮かべる。まるで自分が好敵手としてあり続ける事に意義を見出したかのように。


「ラディ君、済まないがゼルガ君を頼むよ」

「わかりました、将軍……では、こちらへ……」

「それでは……君達にまた逢う日の事を楽しみにしてるのだよ」

「どうか皆さま、バグロイヤーとの戦いはまだ終わっていません。ご武運を……」


 ラディに連れられると共に、ゼルガとユカはオール・フォートレスへと足を運ぶ。二人がシミュレーター・ルームから姿を消すまで玲也たちが見送り続けていた中、彼の姿が閉じる扉と共に遮られた、


「……玲也君、そしてみんな。よくここまで戦ってくれた。最高司令官として改めて礼を言わせてもらうよ」

「ありがとうございます……ですが、まだ七大将軍が」

「奴らが攻めてくるかわからなくてのぉ。結局君達に頼ってばかりで本当申し訳ないんじゃが……」


 シミュレーター・ルームへ既にプレイヤー達が集っている上で、エスニックとブレーンがこれまでの戦いをねぎらう。最もゼルガが触れていた七大将軍率いる本部隊がいずれ侵略を開始するであろうと玲也が尋ねた時、まだ子供の玲也たちの力を借り続けなければならない現状へ申し訳ないとブレーンが自分の不甲斐なさを嘆いていたようだが、


「何、俺とこいつらがいるんですから大丈夫ですよ。彼がゼルガに勝ったばかりじゃないですか」

「アンドリューさん! 確かにそれはそうですけど!」

「がきっちょー、ここで謙遜したら逆効果だぞー」


 七大将軍の本部隊が前線部隊よりも手ごわい存在になるのは言うまでもない。この強敵を前にしながらアンドリューは敢えて余裕の態度を示しており、自分と玲也が健在なら大丈夫だと豪語する。

 彼に太鼓判を押された玲也は少し気恥しい様子だったが。リタからいつも通りの軽い様子で檄を入れられながら肩を叩く。電装マシン戦隊がさらなる強敵と一戦交える事から、アンドリューはこの場で敢えて激励を交わしている――余裕と自信を前面へ押し出している真意に彼が気付くと、


「まだ俺たちの戦いは終わってないです。俺も父さんを救い出して決着をつけないといけませんですし、みんなもゲノムへ……」


 玲也はバグロイヤーを下して、電次元へ向かう事が自分たちのすべきことだと周囲を鼓舞する。彼自身の目的だけでなく、ニア達ハドロイドにとっても電次元へ向かわなければならないと触れようとした時、長いポニーテールの彼女の過去に直面する。彼女からすればタブーになりかねない話だと口を閉じかけた時、


「そうだ! 貴様の言う通り、バグロイヤーを叩きのめさない限り元の身体を私たちは取り戻すことは出来ないからな!」

「ウィン……!」


 玲也が気遣おうとした、ウィンは自分が帰るべく元の身体がない事を嘆くどころか、彼女が自分たちハドロイドの目的であると玲也の後を継ぐように激励する。彼女の意外な心配りにシャルが少し驚いたように感心していた所、


「そういうこった。ウィンもよい事を言ったな」

「そ、それは……当たり前だ。私にそれくらいのすべきことは分かって……」

「おー、なんだ? ウィンも結局照れてるのか―? その気かー?」


 アンドリューは玲也だけでなく、ウィンも称賛した所、何を思ったか彼女の顔が熱をあげるように紅く染まる。リタが分かっていた様子で彼女を弄るのだが、


「ち、違います! それとこれとは今関係なく」

「リタさん、僕も同意です! とても良い事で違う事ないと思いますよ!!」

「いやイチ、多分リタさんが違うっていうのは……何でもありません、ごめんなさい」 


 ウィンが否定する事について、おそらく勘違いをしていたのだろう。イチが真顔で彼女の鼓舞をほめていた所才人が、その意味を説明しようとしたが――当の本人から思いっきり睨みつけてきた。彼女の眼光に圧される形で、これ以上身の危険を背負う訳にはいかないと才人はすぐさま頭を下げた。


「地球人も電次元人も目指すことは一つ……ですかのぅ、エスニック君」

「地球とゲノムが共闘する足掛かりを得たが……電装マシン戦隊のハードウェーザー、つまり君達が戦いの命運を握っている事に変わりはないぞ」

「そうですね……新しい代表も加わりますし」

「アンドリュー、結局ブラジル代表ってどうなったの?」


 エスニックが再びバグロイヤーとの戦いを前に、ハードウェーザーを駆る電装マシン戦隊が依然中枢を担う事を触れた時だった。シャルが未だプレイヤーも、ハドロイドもどちらも姿を現していないブラジル代表についてアンドリューへ訪ねる。また彼らについて触れなければいけないと少し勿体ぶっている彼であったが、


「まぁ、今オークランドの別荘だ。俺からの秘密特訓を受けてらぁ」

「ひ、秘密特訓……!?」


 ニュージーランド政府の協力を得たとはいえ、いつの間にかオークランドに別荘が用意されていた事を玲也達は知らされた。驚きが覚めない中、彼らブラジル代表は、アンドリューが課したカリキュラムをこなすために缶詰め状態となっているとの事だが、


「一体何なのでして? そのブラジル代表が玲也様より期待されてるようですが」

「まぁそれはともかく、少なからず俺にとって隠し玉なのは間違いねぇな」

「隠し玉って、何か玲也ちゃんよりだいぶ期待されてそうだけど!」


 エクスや才人がそのブラジル代表が、まるで玲也と互角かそれ以上の実力を秘めているものではないかと突っ込むように尋ねる。これらの疑問に対し、涼しい顔であながち間違いではないとアンドリューが触れれば、玲也の顔つきも少し変わり、


「ラ……おっと、失礼。彼らについてディメンジョン・ウォーの最高スコアを記録した」

「俺が北米ナンバー1だとすりゃあ、あの方が南米ナンバー1のゲーマーにならぁ」

「あの方……アンドリューさんがそう呼んでるなんて」

「余程凄い腕を持っているのか、そのブラジル代表は……」


 アンドリューが他の面々より敬意を寄せてそのブラジル代表を触れた――それだけで周囲が騒然とする。玲也も多少周りを見回しており、その隠し玉となるブラジル代表が彼らに良い刺激を与える事は確かだろうと、彼はは嬉しそうにほくそ笑んでいた。


「まぁ、流石に腕は俺のほうが上だ。ただ下手するとシャルより出来るかもしれねぇ」

「ちょ、ちょっとアンドリュー! いきなりそういうこと言うのやめてよ!!」

「そうだぞ、そのブラジル代表が実戦もこなしてないのに、そこまで言われると私たちの名折れだ!!」

「けど、そのブラジル代表が第3世代とかだったら、ハードウェーザーの性能も俺より上なんじゃないんすか?」


 その上でそのブラジル代表がシャル以上の実力者かもしれないと、さらに彼らへの期待と興味をアンドリューは煽り立てる。自分より強いと触れられ、シャルとウィンは面白くない様子であったが、シーンがそこで尋ねにかかる――最新鋭のハードウェーザーを凄腕のプレイヤーが動かすとなれば確かに強いかもしれないと。


「まぁあとは実戦経験だが、俺がそこまで1週間で叩き込んでやろうと思ってな……」

「まぁがきっちょがもう弟子じゃないとしたら、新しい弟子に付きっ切りって事かなー」

「ちょ、ちょっとリタさん。そういわれますと俺は少し複雑なんですが……」


 仮にそれだけの腕と性能を持つブラジル代表が、実戦投入までどこまで伸ばしきれるか――アンドリューは自分が敬意を払うほどの相手を、新たな弟子として鍛え上げる事に別の楽しみを抱いている。この様子から別の弟子に乗り換えたのではないかと、玲也も流石に少し戸惑っていたものの、


「わりぃわりぃ、ただ玲也はその間俺の代わりを務めてほしいと思ってな」

「アンドリューさんの代理……?」

「ちょっとそれ本気なんですか!?」

「あたぼうよ、まぁ暫くは大丈夫だと思うからよ。おめぇら夏休みに学校が差し掛かってるなら問題ないだろ?」


 玲也に対して、弟子ではなく自分の代わりが務まるかもしれない――新たな期待を寄せることが出来る人物として、アンドリューは彼に新たなステップを歩ませようとしているのだ。

あくまで平時の代理との事で非常時はよほどのことがない限り大丈夫だろうと前置きはしていたものの、アンドリューの弟子から自分が巣立つ岐路に立っているのだと自覚すると、少し体が震えだしていた。


「ありがとうございます……アンドリューさんの留守は俺が務めを果たします!」

「おー、玲也ちゃん流石! 俺も猶更頑張らねぇと」

「才人、何かあんた妙にテンション高いんだけど」

「実はですね、ニアさん……」


 自分が新たな成長を遂げていくことへ、玲也の胸はどこか弾んでおり新たな役割を果たすことを前向きに受け止めていた。これを自分事のように喜ぶ才人へニアが疑問を感じていた所、イチが彼女へ耳打ちすると――何故か少し彼女が何とも言い難い表情を浮かべており、


「アンドリュー君、ずいぶん楽しそうなのは彼の事か、それとも……」

「どっちもですよ、師匠はどんな時も弟子の成長を喜ばなきゃって奴ですから」

「なんだかんだ、ゼルガ君に玲也君が勝った事がアンドリュー君も嬉しかったりするのでは?」

「……流石に将軍相手だとばれましたか」


 エスニックに自分の本心を見透かされ、少し照れるアンドリューの眼差しは、巣立っていく愛弟子の元に向けられていた。彼は自らの足で飛び上がる事に対して、前向きであり自分の元から離れてどこまで成長を遂げていくか考える――それだけでも自分のように楽しめる事柄だった。


(父さん、貴方が電次元にいると知ってプレイヤーとしてバグロイヤーと戦う事を選びましたが……本当色々な事がありましたよ。ぶつかる事も辛い事も多かったですけど……)


 シミュレーター・ルームの外窓から見える漆黒の宇宙――その先にいつか電次元へつながる入口を経て父の元に辿り着く事が、決着をつける事が出来るはずだと。もっともその為に自ら選んだ道が茨道そのものであり、何度もがき苦しむ心境を味わったかもしれないが、


(得られた事も多かったです。父さん、俺が辿り着くまで無事でいてください。俺も父さんを乗り越えるまで倒れるつもりはありませんから……!!)


 それでもここまでたどり着いた。まだ本来の目的を果たすまでの道は長いとしても、その時まで父が自分を信じて待ち続けている限り、その茨の道を歩み続ける事が出来るのだと。


「玲也、何ぼーっとしてるの?」

「まさか、先ほどの戦いで相当お疲れに……」

「メディカル・ルームへ行けそうですか、玲也さん?」

「……いや」


 物思いにふける自分の様子へニア達が気づいて声をかける。玲也が彼女たちへ振り向く時、そっと首を横に振りながら、少しそれまでの緊張や疲れから糸が切れたように柔和な笑みを見せながら。



「お前たちの事を少し考えていた。多分この先もくたばらず、どこまでも戦っていける気がしてな」



電装機攻ハードウェーザー 第1部・完



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次回予告

「戦いにひと段落が就いた夏、アンドリューさんが、俺達を誘って強化合宿を開いた。その強化合宿の舞台は真冬のニュージーランドだが、そこに隠し球といわれるブラジル代表が控えているとの事。第3世代のハードウェーザーを擁する彼らは果たしてどれほどの腕を持つのか、俺は勝負を受けて立つが、その勝負に思わぬ相手が加わる事となっていた……!! 次回、ハードウェーザー「耐えろ合宿!! プレイヤーに休日はない」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る