22-3 反撃!バトルホーク・秘剣隠し!!

「……罠だ。巧妙に仕組んだ罠だな、これは」

「それって、まさかゼルガが最初から仕組んでいたようなものなの!?」

「……二人ともそうわかるもんなの?」


 ――アンドリューはゼルガの巧妙な戦術を実感せざるを得なかった。ブレストが電次元フレアーを放つと共に、電次元ジャンプでリキャストが回避するとの展開は、ゼルガがその流れに持ち込むよう戦いを繰り広げていたのだと。シャルは既に理解していたが、初心者同然の才人はその戦いの流れが簡単にわかるものかと訪ねてみたら、


「あいつが、今まで殺さず戦う術をなくすこと目的としてるけどな」

「今のリキャストがそれをやってるって、アンドリューは言いたいんだよね」

「ブレストが手を加えても、根本的に燃費が悪い事は改善されてねぇ……最もブレストがそういうタイプだからそれを俺は否定しねぇけどよ」


 ブレストが3機の中で短期決戦を想定して、近接戦に特化して一気に畳みかける事をコンセプトとした機体。その為に攻撃面へ重点を置く代償として燃費の悪さは据え置きであった。この問題点を代償にして、ブレストが攻撃面に秀でた機体として成り立つ長所にもなるのだが、


「キラー・シザース、バトルホーク・ウェート、カウンター・クラッシュ……ブレストの右手も潰してますね」

「姉さん、特に右手がこの場合は拙いのではないかと僕は……」

「イチの言う通りだなー」

「ブレストの武器は燃費の問題を悪化させない役目もあっからよ」


 バトルホーク・ウェートやカウンター・クラッシュなど、ブレストは本体からエネルギー供給が必要となるエネルギー兵器を装備しておらず、実体刃を中心とした斬撃や打撃を想定した装備に重点を置いた物を中心に置かれている。

 それらの装備がブレストの攻撃面を担っていたともいえるが、ゼルガの戦闘能力を喪失させるため、相手の武器を次々と潰していく姿勢を相性が悪かったともいえる。


『それに加えて、あいつが程よく窮地に追い込まれている事も重要だと思うがな』

「てめぇ、俺の言おうとしてたこと先に言うなって」


 アンドリューのポリスターへと、カプリアの通信が入った。彼らはビャッコ・フォートレスのブリーフィング・ルームで同じ玲也たちの戦いを見届けており、ゼルガが敢えて窮地に追い込まれる役どころを演じている事が重要だと別の観点で彼の強さを触れる。その内容はアンドリューも今から触れようとしていた所であり、先に言われて少し拗ねるも、


「一方的に相手を圧倒するだけじゃなく、相手をその気にさせて誘い込むのも一つの戦法だな」

「でしたら、あのシーカーとかを潰せばリキャストは飛べなくなってしまう事で」

「もしかしてまさかだけど、俺は空からあいつを攻めるぜ?とか思ったらダメなんすか?」

「そういうこった。戦いってのは有利な状況を作っても、逆に作らせちゃあいけねぇ」


 気を取り直して、アンドリューがゼルガの戦術について触れる。イチと才人が尋ねた通り、スクランブル・シーカーをブレストが先に潰したことで、空戦での主導権を握ったものとして、玲也たちが優勢に立ったと誤認させるには十分な要素だと述べた上で、


「それであいつが空から一気に攻められると思い込んだうえで」

「電次元フレアーを仕掛けて勝負を決めようとしたんだよ。ったくあいつが大技で決めようとする悪い癖はあるわなぁ……」

「ただ、一気に短期決戦で畳みかけるって一応間違ってない気は俺するんですけど……」


 ウィンの予想通り、玲也は有利な状況を作ったと思い込んだ上で焦りだし、電次元フレアーを叩きこもうとした結果窮地に追い込まれた。これがゼルガの仕組んだ罠に玲也が嵌った一部始終だと付け加えた上で話を一旦区切る。

 ただ、シーンだけ電次元フレアーの威力ならば、短期決戦へ持ち込んで勝ちを拾う事が出来たのではないかと意見する。彼にしては珍しく玲也の取ろうとしていた戦術を肯定していたのだが、


「確かにそれで決まりゃあ越した事ねぇけどよ。あぁいう大技ってすぐ畳みかけて決まらねぇもんなんだよ」

「そうそう、昔からいきなり必殺技でフィニッシュされるってつまらないじゃん。電磁波スピンとか、大空剣五の字切りとか最後にお約束として繰り出すから必殺技で」

「そういう必殺技の前に、電磁波タツマキとか電磁波ボールとかお見舞いして動きを封じるってのがパターンでしょ、やっぱ」

「……お前たち一体何の話で盛り上がっている」


 アンドリューはどれだけ高威力の大技を繰り出しても、戦いを制することはできないと、大技を決めるには相手が相応消耗していた時が狙い目だと回答する。この必殺技のタイミングについてシャルと才人がロボットアニメのお約束として妙に盛り上がっており、ウィンは一体何の話かよくわかっていない様子だったものの、


「ただ、確実に大技を決める状況を作れってのは大事だからよ。その一つが相手を消耗させてく事で、あいつの得意な手だからよ……」

「そうなりますと、もしかして玲也様はまんまとゼルガとかの罠にはまってこのまま引導を渡されるのがオチとでも?」

「バーロー、おめえが悲観しちまってどうすんだよ」


 エクスが懸念する通り、相手を消耗させるゼルガの戦法に玲也たちが嵌められ、このまま引導を渡される可能性はあると否定はしなかった。最もアンドリューは拳を握りしめ少し声を荒げつつも、彼個人としては、その結末を否定したいスタンスであった。


「正直不利だけどよ、あいつがまだ負けねぇなら俺があきらめる訳にはいかねぇんだよ」

「アンドリュー、相変わらずがきっちょに入れ込んでるなぁー」

「たりめぇだろ。俺の弟子だったあいつが、命運を賭けたこの勝負に今挑んでるんだろ……ったく、俺がそれこそ出てぇけどよ?」


 リタに少しからかわれながらも、アンドリューは師匠としてこの戦いを見届けるだけでなく、勝つことを信じ続けるスタンスだった。本来は彼自身がゼルガに勝利して決着をつける事を望んでいるのもあり、玲也に勝ってもらわなければならなかったとの事だが、


「そういえば思い出したんだけど、玲也の奴アンドリューさんに勝ったんですか!?」

「ステファーも知らない~勝ったんだよね~玲也?」

「まぁ、確かにおめぇからしたら勝ってほしいと思うけどよ?」


 アンドリューも自ら戦う事を望んでいた事を思い出して、シーンは限られた期間の中で行われたスパーリングの結果を尋ねる。ステファーとしてもやはり玲也に気があるのか、彼に結果ありきで尋ねれば、少し困ったような笑みをしながら、リタと顔を合わせれば、


「がきっちょ負けてたぞー。確か20回やって20回負けたぞー」

「あー、つまり20戦0勝20敗……ってえぇっ!?」


 リタがケロリとした様子でスパーリングの戦績をさらけ出す。シーンとしてある程度は玲也の腕はあると見なしていたのか知らないが、この黒星だらけのオチに思わず素っ頓狂な声を上げた時、


「けどなぁ、最初の2回くらいだぜ手を捻れたのもよ」

「つまり、玲也ちゃんは残り全てはいい勝負だと」

「まぁ俺も手ぇ抜く訳にはいかなかったから勝たせてもらったけどよ」


 アンドリューが言うには、玲也が立て続けに敗れたという表面上の戦績に反して、新たなブレストへと着実に慣れていった。急速に自分のものにしていく所までこぎつけたと事に関しては太鼓判を押しているようで、


「あいつはバンにもマーベルにも勝ったってのもあっからな」

「で、でも確か1回か2回か勝っただけですよね? それで勝ったというのはちょっと」

「玲也様が勝ったことに貴方はケチをつけまして!? 勝ったことに変わりありません事よ!!」

「エクスちゃん、それはちょっと……」


 マーベルを下した事に関しては、どこか自分ごとのようにアンドリューは上機嫌である――シーンが突っ込む通り、1勝5敗の戦績では勝ちと言い難いのかもしれないが。エクスとしては1勝だろうとも勝ちに変わりはないと豪語しており、強引すぎる主張にリンが困惑した笑いを浮かべたものの、


「まぁ、玲也は4回も5回も、俺からすれば20回ぐらい殺されてるもんだよな?」

「ちょ、ちょっとアンドリューさん! やめてくださいませんこと!?」

「こんな時に玲也ちゃん死ぬだとか、流石に笑えないと思いますよ!!」

「わりぃ、わりぃ。まぁシミュレーターだからそりゃ死にゃあしねぇけどよ」


 シーンの言う事もあながち間違いではないと、実戦に例えて玲也が何度も殺されているものだとアンドリューが例える。この状況からすれば少し不謹慎だとエクスや才人に突っ込まれると、少し笑った上で、


「けどよぉ、これが実戦なら考えてみろ?」

「つまり1回だろうと20回だろうと負けたら……」

「……そういうこった。今までの積み重ねがかみ合えば勝てるんだよ」


 格上の相手だろうとも、1度でも勝利を収めれば付け入って勝ちを捥ぎ取れる可能性がある。逆に言えば無敗でシミュレーターを制しようとも、実戦で1度敗れれば死に至るのであると、


「あいつのペースに撒かれるな……おめぇがおめぇを信じてぶつかればいいからよ」


 ディスプレイで繰り広げられるブレストとリキャストの対決を、アンドリューは息をのむようにして見守る。本来自分が下すべき相手を、弟子に託すことに対してただ持てる限りの力を発揮する事を強く念じるのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「やばいわよ! このまま背中を貫かれたら流石に!!」

「パージさせて大丈夫だ! シーカーが失われても飛ぶことはできる!!」


 デストロイ・ナイファーがブレストに迫る。背中から貫こうとその刃をウイング・シーカーにめり込ませつつあった。・シーカーが使い物にならなくなる内にすぐさまパージし、振り返ってアイブレッサーを浴びせる事で、レールガンの砲身を爆発に巻き込ませていった。この質量弾の爆発でリキャストの視界を遮ると共に、


『ゼルガ様、右手が!』

『これで五分五分……とはいかないのだよ』


 左手に握りしめたカウンター・ジャベリンをすかさず振り上げる。そのまま右手首に目掛けて突き刺すと共に先端のサザンクロス・ダガーを射出する。相手の右手を潰したのだと手ごたえを感じつつ、速やかにブレストは間合いを取るものの、


「きゃああ……!!」

「右腕が潰された! いや……」


 ――左方のレールキャノンはまだ残されていた。報復と言わんばかりに、リキャストが放った時、ブレストの右腕そのものを本体から引きちぎらせるように、弾丸を音速で射出させて直撃へ至らせた。

 ただ、玲也自身は先ほどより冷静さを取り戻し始めていたのか、右腕そのものを失った事に対し、カウンター・フィストやカウンター・クラッシュも潰された状態ではダメージはさほど致命的ではないと捉えていた様子だ。


「まだ左腕が無事なら可能性はある。ゼルガもリキャストも強いのは確かだが」


 ブレストが天井裏へと飛び上がる――リキャストの飛行手段が失われたとなれば安全地帯へ逃げ込んだようなものとして、鏃を射出させた右足のカウンター・メイスに向けてサザンクロス・ダガーを接続させる。

 そのわずかな時間の間、玲也は己を収拾させ、心を落ち着かせようとした。ゼルガの本気を始めて思い知らされたことへの恐怖を感じ、彼を相手に早くケリをつけようと焦るばかりに窮地へ追いやられたが、


「ゼルガに呑まれ、乗せられたら負けだ。そうならないためにもここから巻き返していくぞ!」

「わかってるわよ! あたしもあんたに賭けてるんだからね!!」

「そう信じてくれていると助かる……いくぞ!」


 自分の頬を何度か両手でたたき、玲也が気合を己に入れなおすと共に、ニアへ激を飛ばす。彼の激励を受けたニアは減らず口を叩きながらも、彼女は諦めを知らない表情を見せつけており、今となればそんなパートナーに頼もしさを感じ取っていた。


「ならもう一度仕掛けてやる、電次元フレアーだ」

「OK……ってちょっと、それやったらまたさっきの繰り返しじゃん! それにエネルギーの残りも!!」

「ゼット・バーストを使えばもう一度撃つことはできる。最もその気は俺にないがな!」


 一計を思いついた玲也は、すかさず右肩のカウンター・クラッシュを地上のリキャストに目掛けて射出させた。バイト・クローの代わりとしてリキャストを拘束した上で、電次元フレアーを浴びせようと腹部の発射口を展開させる。


『もう一度電次元フレアーを仕掛けるつもりなら……私を失望させないでくれ』


 ゼルガは少しため息をつきながら、デストロイ・ブライカーを回転鋸としてカウンター・クラッシュのワイヤーを切りつける術を取った。

 そして、そのままブレストに拘束され電次元フレアーを浴びる事を回避するように、間合いを取りつつ、デストロイ・ブライカーを振り下ろした瞬間だった。発振部の基部をめがけて緑色の光を放つ短刀が突き刺さった――密かに隠し持たれていたサザンクロス・ダガーだ。


「同じ手を使わなかった……いや、使えなかったとみた!」


 電次元フレアーを放つとゼルガが構えていながら、電次元ジャンプで逃れる術を取らなかった――それだけの余裕が既にリキャストには既に残されていないのだ。自分の思惑通りにブレストを誘い込むリキャストの戦法は、同時に彼自身の疲弊も招いたのであった。


『何を言うのだよ、それに一体どこを……』

『ゼルガ様、あそこには……!』


 ブレストがアイブレッサーを敢えて己の頭上目掛けて放った事により、天井が崩落するが、目当ては突き刺さったままの戦斧“バトルホーク・ウェート”をこの手に握る為だ。一度電次元フレアーを畳みかける時に、その重さが間合いを詰めるうえで足枷となる――その為に、あえてこの戦斧を天井に突き刺したのだ。


「でやぁぁぁぁぁぁっ!!」

『よくも……!!』


 すかさずバトルホーク・ウェートが真下に振り下ろされ、リキャストの右腕が関節から崩れ落ちたと共に、ゼルガの顔から余裕が一瞬消え失せた。そしてこの重量級の刃こそ潰さなければならないと判断を下し、左腕のデストロイ・ブライカーで鋭くバトルホークの柄を焼き切る。熱に焼き切られるようにして刃を切り落とされた途端、左腕にはただの柄だけが握られていた事になるが、


「バトルホーク・秘剣隠し!」

 

 玲也のが声を張り上げた途端、リキャストの左腕に突き付けられた柄の先端が緑色の熱を帯びる。切り落とされた先端の残骸が焼き消されると共に、とってかわる様にして緑色の刃が生成され、そおまま左手を潰そうと繰り出される。この不意を突く咄嗟の攻撃にリキャストがデストロイ・ブライカーを張るものの、中心を突き刺され機能を喪失し、


「秘剣隠しって、確かシャルが録画してた……」

「そのアイデアがこう役に立つとは! このまま両腕を封じさえすれば!!」


 バトルホーク・ウェートの柄には、簡易型のカウンター・ジャベリンが仕込まれていた。この秘剣隠しをもって、リキャストの左腕を切り落とそうとしたが、彼の注意を逸らそうとして、ミラージュ・シーカーが割って入り、ブレストの左手を狙うよう攻撃を繰り出す。先端からのEガンは微弱な攻撃に過ぎず、とても左手を潰せそうにないのだが、


『甘いよ、甘いのだよと私は言いたいがね……!』

「嘘、こんな……!」

「これ以上撃たせる訳には……!!」


 カウンター・ジャベリンで梅雨を払うように切り裂いた瞬間、リキャストはすでに間合いを取りつつあった。その上で左に残されたデストロイ・レールガンを炸裂させた。

 左腕へピンポイントに命中した事で、ジャベリンと共に左手は地へと落下する。せめて玲也はアイブレッサーを放ち、どうにかブレストの両腕を潰したレールキャノンを同じ目に遭わせて報復するも、両手を喪った為に窮地へと追いやられようとしており、


『ふふ……ふふふふふふ……』

『どうかしましたか、ゼルガ様……』

『玲也君……いや玲也が思いのほか粘ってくるから』

『楽しくて仕方がないのですね……』


 バックステップで交代するリキャストの中で、ゼルガが余裕を取り戻したどころか突如笑い出した。そのさ中、彼は玲也を呼び捨てで呼ぶ時に感情がひと際籠っており、


『不敗と呼ばれていた私をこうも、互いとも追い詰めている事がただ素晴らしくてね……』

「やはり、ゼルガ様の好敵手に素晴らしいと」

『それもこうして互いに遠慮せずに倒すことが出来るのだよ……考えるだけで楽しいのだよ!!』

 

 今のゼルガに手加減の3文字など心の片隅にも存在しない。この命運をかけた大勝負で玲也に対し、自分も今本気で喰らいついている――この事実を前に、ただ笑いが止まらなかった。

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