22-2 恐るべしゼルガ、死の消耗戦!

「やっぱりおかしいですよ、これは!」

「ルミカさん、急にどうしたんですか……?」


 玲也とゼルガの戦いは双方の命運を賭けたものとして、各フォートレスでその戦況を見守られていた。そこでルミカが真っ先に異議を唱えており、アトラスが理由を尋ねようと近づく。最も今の彼は妙に嫌な予感がしており、それも想像できる範疇の事として、彼も深く取り合おうとはしない姿勢のようだったが、


「どうして私たちダブルストを指名しなかったのです! マーベル隊長をゲノムが舐めている事は星間問題に発展しまして、ドイツの皆様が黙ってられないと……」

「あ、あぁ……そうですか、まぁ」

「ったくお前は相変わらず、マーベルの広告塔だな!」

「こ、広告塔……バンさん!?」


 ルミカの抗議はやはり予測していた内容であり、アトラスは目を背けながら適当に相槌を打つ。それと別に場合に、彼女もといドイツ代表によって、よってはさらにややこしい事態に発展しかねないと、不安げな様子も顔から現れていたものの、バンが呆れるように彼女を広告塔と詰る。他人に太鼓持ちのように見なされる事は癪だと食らいつくと、


「実際、リキャストを前に何も出来なかっただろ?」

「そういうバンさんも、確か匹夫の勇でしたよねー」

「まぁ、お前ひとりで力押しするような奴だ。私たちと違ってな」

「……お前に言われても、説得力もないけどな!」


 フォーマッツをめぐっての攻防戦で、ダブルストがリキャストへ窮地に追い詰められた事をバンは指摘する。するとアズマリアが珍しくバンへ挑発を仕掛けており、マーベルもそれに追随した上で自分たちとお前では格が違うと断言する。最も彼はマーベルが目上だろうとも相手にしていないような態度をとっていた為


「バンさん、落ち着いてください! マーベルさんもここで言い争うより!!」

「そうそう、俺らに勝ったあいつの戦いを見ないとね」


 二人の間で気まずい空気が流れようとしていると、アトラスが狼狽し始めていたが、場の空気を収拾するようにムウが玲也の戦いを見守る事が有意義だと説いており、


「確かに、お前たちにあいつは勝ったからな。まぁ殊勝な心掛けだと」

「メルにも勝ってたとは思わなかったホイ」

「……」


 ムウが謙遜している様子から、妙に満足げに称賛するマーベルだったものの、気のせいかメルの言葉には流石の彼女もバツが悪いように沈黙した。彼女が負けたとの事はドイツ代表がブレストに敗れた事を意味する。なおムウとして、仮にバンや自分が同じことを口にすれば、状況が悪化しかねないと捉えており、身近な助け舟にそっと胸をなでおろしていた。


「何、6戦5勝1敗。ビギナーズラックだ」

「ビギナーズラック……俺らも4勝2敗だから当てはまりますかな」

「あ、あのムウさんも煽ってませんか……」


 マーベルが言うには、玲也が自分たちに勝ったのはまぐれだと言いたげな言動である。自分たちイタリア代表が敗北した事も全体の勝負からすれば、似たような戦績だとムウが触れている。似た者同士のようだが、一度でも敗れた事に対しての受け取り方は全く異なるものである。遠回しにムウもバンに同調しているのではとアトラスが不安に感じている中、

 

「ただ、ブレストに手を加えるのもあいつら私を相手にしてくれなかったみゃー。メルを袖にしたのはちょっと嫌だみゃー」

「まま、彼には彼の戦い方もあるって事じゃない? 自分たちで考えて組んだほうがやりやすいってあるからね」


 空気を読んだか、或いは技術者としての性分か。メルはブレストに手を加える事に関しての話題に変えた。玲也がブレストに手を加える事にあたって、彼女も首を突っ込み強化プランを提案したものの、当の本人から丁重に断られたことへ、少し歯がゆい様子もあったらしい。


「……メル様の案で、玲也様が扱いこなせる可能性は35.6%です」

「中途半端に低い数字だけど、それだけメルの案がずば抜けているということかみゃー」

「……その上で、玲也様がリキャストに勝つとなりますと可能性はさらに低くなります。実際計算してみますと……」


 メルが玲也の為に考えた案が、いわゆるスペックを優先させたあまり操縦性、実用性に欠けるもの――そう言いたげな様子でフレイアが彼の勝率計算に入っており、


「まま、それだったらとりあえず今の彼のブレストで計算してくれないかな」

「……計算対象変更、了解です」

「バンはん、何あんさんが勝手にフレイアへ指図してるんや! うちのフレイアはん取られたら妬けてまうやろ!!」


 そんなフレイアをムウが宥めており、メルとの余計な衝突を回避するように伝える。最も今度はアイラが妬いたようにふくれっ面を作っており、


「まま、アイラのそういう所可愛いと思うよ? なぁクレスロー」

「え……えぇ、僕も前から師匠と同じような事でミス・アイラがビューティホーだって思ってたさ!師匠譲りのこの眼力がね!!」

「……いや、別に無理して合わせなくていいから」

「……何か、おめぇらの間で格が違うのだけは分かった」


 ムウはアイラに軽く謝りつつも、彼女の女の子らしい面を賞賛してクレスローにその話題を振る。クレスローが師匠と仰ぐ人物からの問いに素早く答える訳だが、どこかぎこちない様子。バンはこの二人のレベル差のようなものを薄々と察していた。


「……計算完了です。今のブレストで勝率は24.96%です」

「ありがと。なら大丈夫じゃないかな」

「24.96%……って結構確率が低いじゃないですか?」


 フレイアが分析して得た結果に対して、ムウは安心したように構えてる。当事者でないとはいえ、その低い勝率で安心している背景をアトラスが訪ねた所、


「ほらだって、確率は1/4、4回に1度は勝てるって計算になるけど……」

「そう考えるとしたら、別にそこまで博打やあらへんかもな。ムウはんの賭け事からしたら」

「ご名答。30分の、60分の1の賭けに比べたら可愛いよ」


 ムウが自分のギャンブラーとしての経験から、玲也が挑む戦いは、決して勝ち目のない程詰んでいないと説く。ギャンブラーとして勝てる勝負を逃さないスタンスの彼だが、今こうして玲也の勝利を信じている事から強い自信を寄せている様子もあり、


「……マーベルさんに玲也さんが勝つよりも勝率があります」

「そ、それは褒めているか、貶しているかどっちだ」

「……分からないです」

「そ、そうか……いや、いい」


 確信犯か、素かは定かではないがフレイアが淡々とマーベルと比較しての勝率を計算する。彼女が言うにはゼルガにはマーベル以上に勝ち目のある相手だとの事かもしれないが、負けを指摘される事自体に快く思わないマーベルからすれば喜んで良い事ではない。

 おそらくフレイアは淡々と事実を述べており、特に褒めも貶しもしていない――そう真顔で返されれば流石のマーベルでもリアクションに困った。


「ちょ、ちょっと何かみんな煽ってないですか!?」

「……それよりも、彼は大丈夫ですか、その……?」

『大丈夫も何も、信じないといけないでしょう』

「玲也君が、今までの力を出し切って乗り越える事……ですか』


 アトラスと別に、ガンボットとしてはやはり玲也の勝敗の事で不安を払拭しきれない。多少心配してこの決闘を主導したエスニックを尋ねるものの、彼も決闘の場に立った玲也の腕を信じるほかないと構えた気圧に飲み込まれるのみだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「もう1機反応……あそこから狙ってるわ!」

「あの影分身か! ならこいつを向かわせてやる」


 ウイング・シーカーから別方向へと2機が戦域に存在する事を突き止めた――玲也はシーカーにリキャストの相手をさせ、別方向に潜むもう1機の相手へ接近を試みる。ジグザグに走行しながら、リキャストが標的を定めるまでの時間を稼ぐ。彼が構えているであろう電次元ソニックが自分に狙いを定める間、シーカーに囮のリキャストを撃墜させることが目的だが、


「待って! ちょっとエネルギー反応がおかしいの!!」

「……まさか、本物は!!」


 すかさずウイング・シーカーのバイト・クローの基部から砲身が展開する――新たに設けられたカウンター・キャノンが火を噴く。ミラージュ・シーカーで生成されたリキャストを容易に仕留められたかにみえた。


『真っ向勝負も、時には相手の裏をかく事になるのだよ……玲也君』

「ちょっと、後ろから飛んできてるから気を付けて!」

「なら、こちらから近づくだけだ!!」


 キャノンが左肩を掠めたものの、特にリキャストへ支障は見られなかった。ゼルガ自身が囮に出る奇策に対して、ウイング・シーカーで牽制させている隙に、自ら間合いを詰めていく。

 ブレストからすれば白兵戦を得意とする点もあるが、今のリキャストには新た装着されたスクランブル・シーカーが脅威だと玲也は見なしたのだ。二枚の翼で宙に舞うリキャストが、Eキャノンの砲撃を軽々と避け続ける。重力下での飛行能力を得させただけでなく、ブレスト以上の機動力と判断したためだ。


「このまま、キラー・シザースを決めるつもりね!」

「そうだ、胸に傷をつければ」


 アイブレッサーを地上から連射しながら、リキャストの真下へブレストは接近する。胸部の装甲に一撃を見舞えば、電次元ジャンプは封じられるだろう。その狙いから、左右に突き出た角のような刃が熱を帯びつつあったが――メインモニターには左右からの弾丸が炸裂する。一瞬ブレストのメインモニターが機能を停止しし、小型モニターにはキラー・シザースを放つための刃が消し飛んでおり、


『伊達に飛べただけではないのだよ』

『デストロイ・シュナイダーで行きますよ!』


 ブレストの角は、スクランブル・シーカーに突き出た左右の砲門デリトロス・レールガンによって消し飛ぶ。さらにメインモニターの機能が復帰した時、リキャストはショルダークラッシュの要領でスクランブル・シーカーに備えられた実体刃を叩きつけるようで振るう。

 そして、デリトロス・シュナイダーは体全体でその巨大な断頭台の刃を振るいあげて豪快な追い打ちを炸裂させようとしており、


「……させるか!」


 ブレストが左手の甲を突き出した瞬間――カウンター・バズソーを盾の要領として、デストロイ・シュナイダーの直撃を食い止めようとする。最も体全体の重量をかけ、その刃と共に強引に押し切ろうとするリキャストを相手に、カウンター・バズソーからは火花と煙が上がりつつあり、このまま押し切られるのは時間の問題であったが、


「押してダメなら引くだけだ!!」


 逆にブレストが地へと倒れ込む姿勢を取り、リキャストの翼をめり込ませていく瞬間だ。両膝からカウンター・メイスを射出する――厳密には鏃だけを飛ばし、スクランブル・シーカーの中心軸から少し左にずれた箇所へ着弾、間を置かずして巻き起こった爆発と共にリキャストの動きが微かに鈍り、

 

「バトルホーク・ウェート!!」


 カウンター・キャノンに続いて、ウイング・シーカーには新たな武装が備えられていたシーカーの主翼が左右共々パージされ、柄が両手で握られた瞬間――“バトルホーク・ウェート”と彼が触れた二頭の手斧がそのベールを脱いだ。パワーアップとして本命になろうこの戦斧が、すかさずデストロイ・シュナイダーの付け根を狙って振り下ろされ、


『きゃああああっ!』

『飛ぶ術を封じる事は悪くない攻め方だよ……だが!』


 カウンター・メイスで既に被弾した左翼はその戦刃を前に切り落とされ、地面へと鈍い音を立てる。メイスやジャベリンと異なり、相手を叩き切る事に重点を置いた巨大な戦斧“バトルホーク・ウェート”受けた身としてその威力を思い知らされ、ゼルガは少し賞賛の声を漏らす。


『それだけのものになれば、大変な筈だよ!!』


 だが、同時に普段の冷静さも欠いてはいなかった。バトルホーク・ウェートで続いて右翼を断ち切ろうと大きく振るうと共に、すかさずスクランブル・シーカーに備えられた9連ミサイルポッドから一斉にぶちまけて弾幕を張る。ブレストの接近を妨げて体勢を立て直すと思いきや、煙からは靄をかき消すように弾丸が放たれ、、


「右手が潰された……!?」

『まずは戦う術を封じる……それもまた、私のセオリーだよ』


 煙が晴れると共に、スクランブル・シーカーの砲身からはエネルギー波では刃身の長いエネルギー刃として、ブレストの右手へと炸裂した。右手が火花を散らしており、その手からバトルホーク・ウェートが保持しきれずに手堕としてしまうと、


「あぁ、折角バトルホークを使ったのに!!」

「右手が使い物にならないなら……カウンター・フィストだ!!」


 マニュピレーターとしての役割を果たせない腕は、この状況で余計な存在になりうる――すかさず玲也がBボタンを長押ししながら、ターゲットを定めると共にその右手をリキャストの顔面目掛け飛ばす。彼曰くカウンター・フィストという新たに備えられた武装になるが、


『ジャベリンやクラッシュもあれば、そうむやみに飛ばすものではないが』

『そう言ってられない時もある……こうだ!!!』


 最もリキャストは両目からのアイブレッサーを放ち、飛ばされたブレストの右手を簡単に焼き払う。カウンター・フィストの効果はあまり見られない様子だが、今度ブレストに握られたバトルホーク・ウェートを真上に投げ飛ばす。自ら新たな武器を手放す奇策に出た直後に、


『でぇぇぇぇぇい!!』


 今、すぐさま頭からのめりこむようにタックルを炸裂させていく。ブレストの全重量を賭けた突撃で、リキャストを押し倒すまでにはいられず、さらに言えばキラー・シザースの為の角は既に破損した状態である。


『一体何を……玲也様は何を考えて?』

『こうしびれを切らしたなら……やむを得ないのだよ!』


 この攻撃が意味をなさないとユカは少なからず疑問を抱く最中、今度はブレストの左手を目掛け、デストロイ・ブライカーの刃を振りおろす。両腕を潰せば実質リキャストが勝利を得たようなものに見えたが――右方からの鉄球が炸裂すると共に、リキャストが思わずのろけ、


「何とかなったわね、あのロケットパンチに助けられるなんてね!」

「これでもう少し右手も使いものになる……どうだ!」


 カウンター・フィストは新たな武器とはいえ単なるロケットパンチに過ぎなかったが――右手をパージすると共に、カウンター・クラッシュの鉄球をマニュピレーター代わりに連結させていた。さらにワイヤーを腕部全体に内蔵させる事により、手首の基部からワイヤーが射出される事を活かし、破損したマニュピレーターを、ほぼカウンター・クラッシュとして駆使する術に出た。バトルホーク・ウェートを天井目掛けて投げつけた事も、カウンター・フィストから腕を換装するための隙を作る為であり、


「これが右手の分のお返しだ……!!」


 この勢いで両肩のカウンター・クラッシュをリキャストへ巻き付ける。潰したデストロイ・レールガンの砲門に絡みつけると、そのワイヤーを左手で保持しながら、リキャストの巨体を宙で振り回していく。この回転と共にコクピットのゼルガとユカへダメージを与える事が狙いであり、


『ユカ、デストロイ・シュナイダーで回転を止めるのだよ』

『は、はい! どうせ片方だけしか翼がないのでしたら飛べないですね!!』


 回転に揺さぶられるコクピットの中、ルトで体を保持した状態で座るユカの入力に伴い、デストロイ・シュナイダーが地面に接触する。片翼が地に弧を描き火花をあげつつもブレストに振り回される速度へ徐々にブレーキをかけていった。


『ゼルガ様! もう少しまだ回転を抑える必要があります!!』

『なるほど……一発だけなら私が何とかしてみるのだよ』

『まさか! ワイズナー現象で……』

『大丈夫だよ。振り回されている間リキャストを動かす必要性がないからね……』


 その言葉と共にユカの首元に架けられた桜色のタグが光り輝く。振り回される状態でゼルガは精神を集中させて瞳をそっと閉じた。するともう1基のミラージュ・シーカーを展開させるや、先のEガンはピンポイントでカウンター・クラッシュのワイヤーを焼き切った。

 ワイヤーが千切れた反動で、ブレストが後ろへ体制を崩してしまうものの、リキャストもまたデストロイ・シュナイダーを地面へ突き刺しながらも、アイブレッサーをブレストに向けて放ち、近寄らせまいと抵抗を続けていた。


「これ、早いうちに仕留めたほうがいいと思うわ!」

「リキャストに飛ぶ手段はない……間合いを一気に詰めて引導を渡してやる!」


 すかさずブレストは飛び立ったが――間合いを詰めるにあたってバトルホーク・ウェートをパージした事で、彼の機動力は底上げされており、逆にリキャストからのアイブレッサーを避け続ける。

 厳密にはブレストは近接戦に特化した関係もあり、相手との間合いを詰めるため機動性を重視した調整がなされていた。だがバトルホーク・ウェートが叩き割る事を目的として、重量級の装備として機動性を重視するブレストと逆行した存在になっていたが、


「バトルホークをパージすればその分早くなるってやつね!」

「一瞬で仕留めてやる……そうでもしないと俺が負ける!」


 バトルホーク・ウェートを装備した状態でも、従来のブレストと機動性を維持する方向性で調整され、パージされたことで本来の強化された機動性を発揮する。強化されたブレストの本領が発揮される瞬間であった。

 その上でブレストは間合いを詰めて、一気に勝負をつける事を狙っていた。ゼルガの攻め方から長期化すれば余計自分たちが不利になると、ブレストがいまだ抱える悪燃費の問題共々、短期で決着をつけると薄々察していたのだ。


「……って、ちょっとこれ、どうなの?」

「本来なら二刀流で行きたかったが、右手が使えないならやむを得ない」


 至近距離でリキャストへ一気に挑むにあたり、ブレストの左手にはカウンター・メイスのポールを射出させ、左右の両端へサザンクロス・ダガーを接続させる。その形状はまるで薙刀を模した姿だが、実戦に投入するのはこれが最初だった。

 今、グレイブというべきジャベリンの変則バージョンを回転させながら、リキャストの両腕へ打ち付けられる。彼の両手はデストロイ・ブライカーを展開させており、エネルギー刃同士で打ち付けられて鍔迫り合いを繰り広げており、


『甘いのだよ、両手を封じられてもね……』

「うわぁぁぁっ!!」

「ひるまないで! あと少しなんだから!!」

「済まない、あともう一押し……!!」


 すかさず、遺されたデストロイ・レールガンでブレストの胸部を直撃させる。胸部の装甲が破損したと共に、セーフティシャッターが直ぐ閉じられる。 この一撃を浴びながらも、バイト・クローを展開し、


「ゼロ・プレッシャーだ!!」


 クローの爪からエネルギー・フィールドを生成して、カウンター・キャノンのビームをショットガンのように拡散させて浴びせる――このゼロ・プレッシャーをもってして、リキャストの動きを封じ、間合いを詰めた瞬間だった。



「……電次元フレアー!」



 リキャストに向けて腹部の発射口が開いたと共にすかさず叫んだ。この至近距離から攻めれば、狙いを外すことはない――早期に決着をつけるにあたって電次元フレアーを浴びせる事しかないと玲也は確信した上で、この大技を発動させたのだ。それと共にリキャストの姿も瞬時に消え失せるが、


「これで……いや、まって反応ないわよ!」

「……何だと、まさか!!」


 突如その場から消失したエネルギー反応は、電次元フレアーによって撃墜された事を意味しない。ニアの驚愕した様子に対し、このリキャストの打った一手が何か玲也が気づ苦と共に、


「電次元ジャンプだわ……!」

「まさか、そこで電次元ジャンプを使っ……うわぁぁぁっ!?」


 電次元ジャンプで相手の攻撃を回避する術は、3割のエネルギーを消耗する為、緊急時以外は下策とみなされる手段である。リキャストなら他に良い手でこの電次元フレアーを破っていたかもしれないで――玲也がゼルガを警戒し、評価している故の予想は、ゼルガが初歩的な戦法を使う訳がないと思い込ませることに至らせていた。そして今、この初歩的な手によって、自分の賭けが潰えた事は彼を呆然とさせるだけの衝撃を与えていた。


『戦いはそういうものだよ……同じ手を打つにも吉と出るか凶と出るかはわからない、君が初心者の打つ手と考えていたかもしれないけど』

『申し訳ありません、これが真剣勝負ですから私も流石に手を抜く事は出来ないです』

「畜生! いや……」


 電次元ジャンプでリキャストがブレストの背後を取り、すかさずデストロイ・ナイファーを繰り出そうとした――この奇襲に対し、玲也はどうにか自分自身を必死に落ち着かせつつ、後方にバイト・クローを展開して、カウンター・キャノンで封じようとしたが、


『その手は無駄だよ』


 デリトロス・レールガンを先に発動された事で、バイト・クローが揃って潰される結果となる。カウンター・キャノンが潰された事により、ロングレンジの切り札を喪った事になるが、


『電次元フレアーを空振りして、おそらくエネルギーもあまりないのだろうね……』

『電次元ジャンプのリスクは大きいですが、その上でゼルガ様は貴方に勝つとみています!』

「不敗のゼルガ、リキャスト……そういうだけはあるってこと!?」

「ただ、ここまで一方的にしてやられるか……」


 電次元ジャンプによって、リキャストのエネルギーが3割以上を消耗していたものの、ブレストが既に半分以上のエネルギーを失ったことと比べれば優位を失っていない。ゼルガは自分が優位にこの戦闘で主導権を握っている事から、余裕を保っている。逆に玲也は賭けが裏目に出たことへ焦りの色を流石に隠せない様子だった。

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