第22話(第1部最終回)「玲也対ゼルガ、最後の斗い」

22-1 死斗! 嵐吹く勝負の道

「……俺が戦わなければですか」


 ――アンドリューによって前もって知らされていたものの、司令室から正式な決定をエスニックの口から直接聞かされたとなれば新たに覚悟を伴われる。下されようとしている沙汰に対してた泰然とアンドリューは構えていたものの、


「や、やっぱり玲也君にこんな無茶を頼むのはいかんぞい! こうは言いたくないんじゃがアンドリュー君の方が……」

「博士、そこで俺に無茶ぶりですか。俺にまさかがあったらどうするんすか?」

「い、いやアンドリュー君でも無茶じゃった。わしの言葉のあやじゃ」

「まぁ、確かにまだと言いたくなる気持ちはわかりますけどね……」


 ブレーンは自分で覆せない状況だと分かっていながらも、自分事のように玲也の危機を懸念していた。どさくさに紛れてアンドリューに委ねる様にと触れた為、彼から苦笑を返される訳だが、


「この一戦でリキャストを下せば、我々の問題に目途がつく……」

「奴がバグロイヤーの代表ですからね……戦争犯罪者として公開処刑すれば」

「世間の不満に対するはけ口になる訳ですね……」


 エスニックが触れるには、バグロイヤー前線部隊との戦争へ明確なケリをつける事を誇示する必要があった。既にバグロイヤーが地球の各地に甚大な被害を与えているとなれば、戦犯として誰かの生贄を世間に捧げる必要があった――これもゼルガの発案でもあり、彼が責任者として決闘の場に出て、スケープゴートとならんとする心境だが、


「だが、この“最後の一戦“でアンドリュー君が勝ったらどうなる? アメリカ代表の彼が勝ったとなれば……」

「……もしかしたらですが、アメリカがこの事を大体的に?」

「ドイツも、ロシアも、あとイタリアも中国もだけどね……」


 リキャストを下す事だけが問題ではないと玲也は薄々察して尋ねれば、エスニックがお手上げと言わずもがなと苦々しく笑う。プレイヤーの腕や戦績に加え、各フォートレスで強い発言力を持つドイツ、ロシアの2か国の政府も、アメリカに対し強く主張しており、電装マシン戦隊のスポンサーとして、中国もまた強い発言力を得ているとの事で、


「仮に俺が出ちまったら、バランスが崩れちまってな……まぁ、俺らがただでさえよ」

「はは、確かにドラグーンが頭一つ抜けてるからね」

「二人とも、今そこで笑ってる場合じゃないかと思うんじゃが……」


 イーテストがリキャストを下したなら、アメリカが世界に及ぼす発言力が強まり、電装マシン戦隊の均衡も崩れる恐れがある。国家代表の立場がしがらみとなり、世間を納得させるための戦いへ容易に出られないのである。アンドリューとエスニックがドラグーンの力が頭一つ抜けているのだと、笑いあっていた所にブレーンが突っ込んだ後、


「……つまり、俺がこの場を丸く収めるには一番と」

「表向き君は正体不明、どこの代表でもないからね……」

「じゃから、君が勝ってもどこの国じゃとかも考えんくていいんじゃが……」


 自分が正体を隠して世間で活動している点からして、白羽の矢が立った。エスニックはその点で問題をクリアしていると評しているものの、



「――ただ、俺に勝てる保証はありません」



 その問題と別に、今度は玲也自身がゼルガに勝つ事が出来る腕があるかどうかに突き当たる。実際彼がリキャストに完膚なきまで叩きのめされた事もあり、一度勝利を手にした時も彼が引き際を決めていた事に助けられた――彼が情けも逃げもこの勝負で選ぶことはないだろう。彼との真剣勝負を前に懸念する玲也に対し、アンドリューも敢えて何も言葉をかけなかった所、


「そ、そうじゃ! 今度ばかりは……」

「ですから、手を加えてみようと考えてます!」

「これは……」


 ブレーンの予想を大きく裏切ったのはともかく、玲也はポリスターを取り出して液晶画面を彼らへと見せつける。表示された液晶に表示された、設計図面とプログラム用語をエスニックが凝らすように見ると共に、


「タイミングとすればそろそろと思っていたが……」

「もうここまで考えてたって訳か」

「あくまで、俺の理想をそのまま反映させただけですが……こうしたい、こう変えたいと考えたつもりです」


 頃合いだと見定めていたのは、ブレストら3機のパワーアップに関してである。幾多もの戦闘経験を通して、ハードウェーザーの性能が最適化されていくと傍ら、新たな力を必要とし、どのような力を望んでいるかの課題点も浮き彫りになっていく。玲也が思い描く新たな力を密かに形にしつつあり、


「今回の状況ですと、ブレストが向いてますからね。ブレストに絞って」

「手を加える事は分かったけどよ、ちゃんとそれを使いこなせるんか?」

「アンドリュー君の言う通りじゃ! 新しい武器も技も使い慣れんといかんからどうすれば……」

「どうすればって、んなもん決まってるじゃないですか……なぁ!」


 特にブレストが1対1の勝負に適しているとの事から、ゼルガとの決戦を想定してブレストに専念する――玲也の姿勢に対し、アンドリューはこの時期に手を加える事のリスクを突きつける。リキャストを相手に、ハードウェーザーの性能が理想的なだけで勝てる訳がないのだから。ブレーンが懸念している他所に、アンドリューが玲也の肩を叩き、


「おめぇがそう準備してるならよ! 俺が手貸してやるよ!!」

「それって……アンドリューさん?」

「やはり、アンドリュー君ならそういうと思ったけど」

「当たり前ですよ、まだ時間があるうちに俺がなんとかしてやらぁ!!」


 アンドリューが言うには、自分がシミュレーターでの相手を務めるとの事であった。新たなブレストに玲也が鳴れる必要性の為、自分が彼の練習台になろうとしているともいえたが、


「最も、おめぇからしたら練習台じゃなく壁かもしれねぇけどな」

「アンドリュー君、そこで玲也君を怯えさせるのはじゃな……」

「博士ももう少し信じてやったらどうですか……ったくよ」


 最も本人としては練習台で自分が終わる器ではないのだと釘を刺す。実際慣れている今のブレストだろうとも、今だしてイーテストに勝利した事はない。手を加えようとも慣れていない場合は猶更だが、


「けど、おめぇは強くなった。おめぇの前に俺が見えてらぁ」

「それって、アンドリューさん! まるで教える事は何もないと……いて」

「バーロー、俺をロートル扱いすんじゃねぇ」

「流石に余裕もないと思ったが……そうでもないようだな」


 アンドリューがまるで不吉な事を言っているのではと、一瞬悪寒が走った玲也だったものの、直ぐに額へデコピンを撃たれてそれは否定された。

 そんなこんなで額を抑える玲也を他所に、司令室へのドアが開くと4人の影が開いた。一人が玲也とアンドリューの様子に対して思わず笑みをこぼしており、


「カプリアさん、それにコイさんも!」

「全くこういう時に、何コントやってるの?」

「……」

「いや、別に好きでやっている訳では」


 ロシア、中国の代表4人が現れるや否や、コイからすれば今の様子がふざけているのではないかとやはり詰る。パルルが少し冷めた目で自分たちを見ていた事から、少し玲也が慌てて否定する最中、


「やれやれ、まさかこう直ぐに君たちが来るとは……」

「すみません。異存がない上で私も言いたい事がありまして……ボウズ」


 エスニックがどうやら玲也を決戦の場に出す事を周知したようで、それを受け取ったカプリアが話をしたいと申し出があったとの事だった。最も承諾を経てから直ぐに来たとの事らしいが、


「アンドリューの言う通りだ。もうボウズで収まらない所まで強くなったぞ」

「カプリアさんにまでそう言われますと。少し照れますね……」

「そこは照れる所じゃない。ボウズを卒業する事は何かを背負っていく意味だ」


 少し玲也が照れた様子を他所に、カプリアは一人の戦士として、大人としてふるまう事を促す。自分が口から説明する事に代わって、サンに視線を向ければ、


「今更言うのも何だが、貴様にゼルガだけはな」

「ちょっと、あんたもそこで何言ってるの! そりゃ私たちが決着付けたいけど」

「サンさんに代わって勝負に出るなら、勝つ以外にありません」

「……当然だ」 


 ゼルガとの因縁に決着をつけんと望むサンとして、自分ではなく玲也が引導を渡す流れに関し少なからずの不満があった。彼に代わって今自分が戦う事が、サンの想いを背負っている事を指すのだと改めて認識する。彼に代わって戦うならば、勝って帰る以外の選択肢はなく、それがサンに対しての礼儀であると。


「将軍……彼の事ですが、ここは私たちが手を貸しても」

「おめぇらまで……玲也とスパーリングしてぇってつもりか」

「相手が多い程、マンネリにはならない、有意義な筈だぞ?」

「カプリア、コイ、サンドバッド、チガウ……パルル、オモウ」


 そして、エスニックにカプリア達がブレストとのスパーリングの相手役を志願する。彼の口ぶりではフェニックスの面々の手も借りるであるとの姿勢であり、パルルも自分たちが練習台では終わらないと、アピールを交わした所、



「約束まで1週間……いけそうかい?」



 カプリア達の意見を採用し、残された期間の中で玲也の意思確認を取る。準備の域で収まらないような過酷な戦いと調整を乗り越える事が出来るのかと――彼が静かに首を縦に頷いて、


「ゼルガに勝てなければ、俺はそこまでだったことになりますからね」

「おめぇ、その言い方ってことは……」

「父さんが先にいるのに負けられませんからね。この勝負絶対勝ちます!」


 ――勝つかどうかの保証はない。その最中で勝ちを手に入れんと残された1週間で、実践レベルまで新たなブレストに慣れる事を誓うのであり、

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『よく来たのだよ、玲也君……』

「その姿はやはり」

『……悪いけどこちらも手を加えさせてもらったのだよ』


 ――そして、決闘の時が来た。電装マシン戦隊との戦いで朽ちかけ、崩落しつつあったバーグの本拠にリキャストの姿があった。だがバイザーがオミットされたことにより、ブレストと同じ二つの瞳から光を放ち、背中には蝙蝠のように左右へ翼を伸ばしたシーカーとして新たに備えられおり、


「あんた、まさか手を加えていたなんて調子狂わせるじゃないの」

『何度も戦っているのだから、手の内を知られているからだよ』

『ゼルガ様は貴方たちをそこまで見込まれています、手を抜けないのです』

「なるほど、獅子博徒ですか……」


 ゼルガ達が事前にこちらへ知らせる事もなく、リキャストに手を加えた上で決闘に応じた――これが不公平だとニアが苦言を呈すが、玲也は彼らの胸の内も汲もうとした。彼ら二人が自分の腕が如何なるものであろうとも、彼らは全力をぶつけてくるだろう。獅子は兎を狩るにも全力を尽くす例えのように。


『……その通りだよ、たとえどう言われようと私は勝つのだよ』

『このリキャスト・リベイカーも、玲也様と渡り合うため手を加えました』

「俺もあなたたちと同じです。リキャストを倒す為ブレストに手を加えましたからお互い様です」


 電装されたブレストもまたウイング・シーカーに手を加えられ、半円状の刃が二枚の翼のように備えられていた。玲也が前もって構想しつつあった強化案を限られた時間の中、完成までこぎつけたその姿は――彼もまたゼルガを相手に全力で挑む覚悟が表れていた。


『その心意気は立派だよ。ただ今回に限っては私も本気を出させてもらうのだよ……』

「不敗と呼ばれていた貴方だけに、本当に勝つつもりで」

『今回私が本気を出すという事はそういう事だよ』


 本気で勝ちに出る事はブレストをこの手で仕留める事を意味する。今まで相手の戦闘能力を奪う事に徹していた彼だが、今、己に課していた足枷を解き放った上で戦いに身を投じている。リベイカーとして強化されたリキャストは、今まで抑えていた力をこの戦いで解き放つかのように眼光を銀色に輝かせており、


「悪いけど、あんた達に勝つからね!!」

「地球の命運もかかっていますし、貴方を倒せなければ父さんを超える事が出来ない筈ですからね……!」

『私を倒さなければ……面白いのだよ!!』


 いつも通り穏やかに構えていたゼルガだが、この決闘を邪魔する者は双方の側にも存在しない。それだけに自分と同じ単身で一騎討ちに出たリキャストからは、ただならぬ気迫を放っており、玲也も圧倒されそうになる。けれども彼の覚悟に呑まれる訳にはいかないと、玲也自身も意地があるように負けられない意思を示すした瞬間――天井の柱が崩れ落ちた。これを合図とするかのように、リキャストはブレストに向けてやみくもに向かい、


『……こちらも遠慮しないのだよ! 行かせてもらうのだよ!!』

「動いたわ、玲也!」

「……分かっている!」


 いつものゼルガらしからぬ程、リキャストは猪突猛進な勢いで突き進む――決闘に応じた者としてこれが彼の本気をぶつける事を選んだか、あるいは一計を案じていたのか定かではない。ブレストは背中のウイング・シーカーをパージさせて。この1対1の決闘に受けて立たんと前へと切り込んでいく。


「あなたがこう動いてくるとは思わなかった……だが、受けて立つ!!」


“この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である……!!”

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