21-6 挑戦! この決闘に全てを賭けて
「君たちとの共闘の話、私達も異存はない。これからの戦いもあるとなれば……」
『電装マシン戦隊へハドロイドを託して、貴方たちだけに押し付けてきましたが……』
「これからの戦いを任せる訳にはいきません。ゼルガ様も、私も、共に立ち上がった150名の兵も同じはずです』
キド破砕を完遂させ、バグロイヤー前線部隊との戦いが終結して何日かが過ぎた。ドラグーンの司令室にて、エスニックは小型モニターに映るバッツとの応対を進める。その話の内容はキド破砕作業へ加勢したゲノム解放軍への処遇。ゼルガと共に同行して代理として政務を司るバッツに向けて地球側の決定事項を報告していった。
「バーグを君達の本拠地として託すことも決定している。君達に私たちはこれだけの事しかできないが……」
『ありがとうございます……やはり、地球への降下は許されないですか』
エスニックの口ぶりから、ゲノム解放軍を共に戦う同志として迎え入れる事までは承諾を得ることが出来た様子だった。バッツはその計らいへ本来感謝すべきだとわかっていたものの――ゼルガが望むもう一つの要求が頓挫した事に多少落胆の色は醸されていた。
「ニュージーランド政府は君たちの受け入れを承諾する姿勢だったが……他国の反対は強くてね」
「無理もない事は私にもわかっています、やはり多少の無理は強いらせる必要がありますかね」
ゼルガの望み――それこそ、バグロイヤーの襲来から逃れた非戦闘員を地球へと保護させる事であった。電次元と地球の相互理解を望む者として必要なことと彼は捉えていたものの、彼の思惑から外れ戦局は長期化し、それだけでなく上海や博多がバグロイヤーの手によって甚大な被害を被った事は、世界各国へバグロイヤーを敵視する姿勢を強めると共に、電次元の非戦闘員に対しても強硬的な姿勢であり、
『……もし、この戦争の首謀者に責任を取らせることはできないですか?』
『……ゼルガ様、貴方はまさか!?』
『そのまさかだよ。戦争で敗れた側はその責任を取らないといけないのは君でも分かっている筈だよ』
ゼルガは大胆な条件を提示した――太陽系へ戦争を引き起こしたバグロイヤー側の立場として、自分たちの要求を成し遂げるにはそれ相応の代償は必要。戦力の支援だけでその責任を取れるわけではない、世間が納得を示すには猶更、代償を支払う事は難しいと苦笑する。バッツが彼は一体何を支払おうとしているか理解した上で、
『ですが、その……天羽院の首を差し出すことが出来れば、首謀者として彼を突き出すことはできたかもしれませんが……』
『それが出来ないなら、君がその首を差し出すと……』
『私がいます! 貴方がいないとなりましたら今の我々を誰がまとめる事になるのですか!』
ゼルガは死ぬ覚悟でいる――バッツはすぐさま彼が早まることを諫め、自分が彼の影武者として首を差し出そうと名乗り出たが、
『その気持ちはありがたいけど、君が首を差し出せば解決できる問題かな?』
『君は総司令官として顔を知られている……君が戦争を引き起こした首謀者として犠牲になれば済む話だと』
しかしバッツの場合、バグロイヤーの前線部隊と接点が薄い。ゲノムの本土で陰ながら反バグロイヤーの勢力を支援していた人物であると別に、彼の死が地球側の憤りを払拭させるものではない。意味のない犠牲だと即座に却下したゼルガの胸の内を、エスニックは理解して述べるものの、、
「世間を納得させるためのスケープ・ゴート……最も、私一人が死んで納得してくれるかわからないですがね』
『そうです! ゼルガ様を殺したとなれば共に戦えるかどうかこの先わからないですよ!!』
「なるほど。どちらとも納得させるうえで世間へ責任を取ったことを示す必要なら……」
ゼルガがわが身を惜しんでいるように聞こえるかもしれないがと注釈しつつ、双方の遺恨を解消した上で、今後の関係を構築する事を望んでいた。エスニックもまた同じ方向性で検討していた時にとある妙案を思いつき、ハッとした表情を見せると共に、
「ちょっと時間が必要だが、上手く収まりがつくかもしれない……良いかな?」
『……ほぅ、大胆な事を考えますね、一つ宜しいですかな?』
とゼルガに向けて、エスニックは彼が温存していた秘策を打ち明けた。バッツが目を丸くしていた様子を横目に、彼もまたその案に納得した上で希望する条件を付けくわえた。
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「まさか、またニア達の親友がハドロイドだったとは……」
「いや、あたしはそこまであいつとかかわりはないんだけど」
ドラグーンのメディカル・ルームに玲也達は訪れていた。もっとも先日の戦いで彼らが負傷した様子はなく、ベッドにはピンク色のツインテールの少女が先ほどまで魘されていた。彼女は今、リンの元にすがっている様子だった。
「うぅ、本当何でこうなってたのかよくわからなくて、気づいた時にカプセルの中に入れられてたみたいで」
「メルちゃんにハドロイド用のを作ってもらってたから良かったけど、貴方も災難ね……」
「そうだよー! もう全く分からなくて、戦う実感もないのにリンちゃんが頼りだよ!」
「マイちゃん、もう安全です。カプセルの中で目が覚めたとなりますと確かに怖そうですが」
その彼女はハドロイドの被験者に自分がされた事も、本人の同意がないままだったらしくその上ハドロイドとして転送されるにあたって冷凍睡眠が不完全だった。よって破砕作業に従事していたマーク級の中で彼女は恐怖に襲われていた様子であり、ジョイの手で一応眠らされることで落ち着きを少し取り戻していたが、
「リン、その彼女は多分ニアとポーと同じように……」
「そ、そこまでの関係ではないと思いますが、マイちゃんとは同じパティシエクラブで一緒だった仲ですね」
「まぁあたしも、同じクラスだったから顔と名前は知ってたけどさぁ」
「ニ、ニアさん!?」
マイ・プレノア――リンと同じクラスで友人の関係だった事は、ニアとも面識がある事を意味する。だが、彼女の顔を見て直ぐに委縮して、シーツに隠れるよう震え上がり、
「ニア、本当に接点はないのか。凄い怖がっているが」
「あのねぇ! あたし別にマイへは本当何もしてないし、恨まれること記憶にないんだから!!」
「で、でもニアさん、問題児扱いされてましたし、男子や上級生相手にも、あとカルちゃんとも……」
「あぁ……」
マイからニアが学校で札付きの問題児だったと明かされた。ニア自身はマイへ特に怖がらせるようなことはしていないと触れていたのは、彼女の様子から本当だと思われるが、女が問題児と知られる武勇伝は関係のないマイからは畏怖の対象とみられていた様子だった。リンも否定しきれなかったようで、眼を逸らしていた。
「だ、だって! あいつらがあたしだけでなく、みんなの事まで馬鹿にするんだから仕方がないじゃない!!」
「全く、お嬢様がこうも野蛮なお方とご一緒とは思いませんでしたこと」
「や、野蛮って……あんただけには言われたくないわよ!」
「待って、エクスちゃんじゃなく」
ニアであっても、マイに対しては特別怒りも恨みもない。自分の武勇伝が独り歩きしすぎているのだと弁明しようとした矢先、メディカル・ルームへ入り込んだ彼女があざ笑う。その口ぶりからエクス以外にはいないのだと、やはり突っかかろうとしたが――当のエクスは何とも言い難い、妙に後ろめたい表情を浮かべている。それも彼女の後ろに人物のオーラに圧されていたようで、
「お嬢様がお兄様と同じ道を選びました時も、私は反対しましたわ。お嬢様の決心がお固いですから、私もこうしてですね……」
「確か貴方はアクアさんで……おわっ!!」
アクアという人物に感心がいけば、すかさず彼女は玲也の元に飛びついて抱擁を交わす。ブロンドの縦ロールをなびかせ、金のラインがアクセントで加えられた、純白のフリル着用した彼女は、まるで高貴なメイドらしき雰囲気を醸し出している――が、自分へいきなり過剰なアプローチを仕掛ける様子からすれば、まるでエクスの姉と言っても過言ではなく、
「流石エクス様の選ばれた殿方ですこと! 私の事も既に覚えられていましたとは!!」
「そ、それはまぁ……く、苦しいですから」
「あの、エクスちゃん、早くこの人を止めた方が!」
「もともとあんたのとこのメイドなんでしょ! この人」
ハドロイドの力で、アクアは玲也を愛撫している――この様子へリンとニアが揃って彼女を止めるように、エクスへ促す。彼女を前に何か頭が上がらないのか、少し心ここにあらずの状態だったのだが、
「アクアさん! 何私の許可なく抜け駆けされてまして!?」
「……はっ!」
エクスが一喝するや否や、アクアの逸る心にブレーキがかかる。すぐさま玲也から手を離し、何歩か後ずさってか何度か頭を下げ、
「我を忘れて無礼な事を……素晴らしい殿方へ申し訳ありません」
「い、いや……本当にお前のメイドというわけか」
「え、えぇ、その……まさかこうお会いするとは思いませんでしたが」
アクア・エスミナージュ――エクスに仕えるメイドである事は当の本人が既に認めている。外見からの雰囲気だけでなく、内面も似通う者だが、当の本人は少し敬遠している様子を漂わせている。これもまた、彼女が軍人に志願する将来へかなり反対を示しているなど、過保護な様子からであり、
「旦那様からお嬢様のことを知らされて迷わず……火の中水の中でございまして」
「で、ですからってそんなに貴方迄この想いをさせなくとも」
「何を仰ります! お嬢様がこうして戦われてますし、玲也様との殿方と恋に落ちたとの事でしたら猶更、猶更でして!!」
そして、アクアが言う限りエクスが志願した事を知らされ、迷うことなく同じ被験者となった経緯である。そもそも元の体が無事かどうかの保証がなく、こうして地球側に送られる保証もない。そのリスクを承知の上で、躊躇うことなく飛び込む当たり、ある意味エクスへずば抜けた忠誠心の表れだが、
「あのような野蛮なお方より、早くお父様の元へ戻られましょう! その為に共に戦いましょう、玲也様も!!」
「……ちょっとこいつ何とかならないの?」
「に、ニアちゃん。別にそのアクアさんが一緒じゃない訳ですから」
ただ、エクスの将来を案じるとしても、アクアはニアを疎んじている。彼女と生まれ育った場所がかけ離れているからか、差別意識を突きつけられれば腹が立つ。二人が衝突しようとする危機にリンが咄嗟にフォローした途端、
「何ゆえに、どうして! 私がお嬢様と同じプレイヤーでしたら心配ごとも消えますのに!!」
「確か貴方はオランダ代表との事で」
「マイちゃんはインド代表でしたね」
「う、うん……私もリンちゃんと違うのも不安だけど」
アクアが気落ちするも、彼女はフェニックス所属のハドロイドとして常に玲也達と行動を共にする訳でもない為だ。マイにも当てはまる事であり、ビャッコ所属のハドロイドとしてリンたちと行動を共に出来ない事へ不安を露わにする。リンからすれば半ばどうしようもない事と困った様子で笑っていたが、
「こう5人も加わった事は心強いが――猶更戦いは激しくなるかもしれん」
ゼルガらゲノム解放軍側は、躊躇いなく電装マシン戦隊へ新たに5人のハドロイドを託した。新規でハードウェーザーを製造する術が途絶えた中、既に開発されたハドロイドが電装マシン戦隊にとって貴重な戦力となる。彼らを託すことが、非戦闘員への待遇を保証するための交換条件だとしても、バグロイヤーの七大将軍が太陽系へ侵攻することが事を考えるならば、猶更ハードウェーザーの数が必要と捉える必要があり、
「だから、余計なぶつかり合いを起こさないでください。アクアさんがエクスを心配する気持ちはわかりますが」
「そうでしてよ。この戦いが終わりましたら、二人で必ずお父様の所に帰りますから」
「ちょっと、どさくさに紛れて何を……」
「ニアちゃん、ここはエクスちゃんを立てた方が」
玲也として、ニアを疎んじるアクアへ釘を刺す。エクスとしても彼に追随しているが、間接的にニアを庇い立てている事になる。二人の仲に関する言及で、ニアが納得いかない様子だったものの、リンは彼女を制止する側に回っており、
「お嬢様がそう言われますなら……申し訳ありません」
「……まぁ、エクスがあたしを立てた事に免じてあげるわよ」
「だ、誰が貴方を好きで立てたと思いまして!? 今回だけですわ!!」
仕えるエクスから諫められた時、少しバツが悪そうな顔をしながらも、ニアに対して言葉が過ぎたと頭を下げる。エクスから庇い立てられたと薄々ニアも察して寛大な態度を示したものの、彼女を庇ったことに関してエクスは素直に認めきれない態度を取っていた。また一波乱起ころうとした矢先、メディカル・ルームの扉が開くと、
「マイ様、お体の調子が宜しいですか?」
「あっ、ヒロさん……大分落ち着きましたが」
リタが連れてきた二人は玲也からすれば面識もない。マイを気遣いながら彼女を連れて行こうとする人物は、漆黒の燕尾服を着こなしており、ロマンスグレーの頭髪共々自分たちの倍以上、いや3倍の年の差があると思われる老齢の男性。メイドとなるアクアに対し、執事らしき人物ながら、周囲に対して穏やかな物腰で接する。そんな彼の手首にもタグがかけられていた様子を見た事で、
「貴方もハドロイドでして……?」
「えっ、そうなの!? ちょっと信じられないけど」
「ニア様とエクス様ですね……それに皆さま」
この人物が同じハドロイドであるとの事に、二人ともそろって少し驚いたような声をあげる。自分へのリアクションに気づくと、すぐ彼は深々と頭を下げ
「私はヒロ・ヒプロスと申します。無駄に歳だけはとりましたが、ハドロイドとしての務めを果たします事とは無関係でして」
「ブレスト、クロスト、ネクストのプレイヤーを務めています羽鳥玲也です。こちらこそ宜しくお願いします」
「玲也様の御活躍はエスニック様からお聞きしました。それぞれ異なるハードウェーザー3機を乗りこなされているとの事でお見事です」
「い、いえ……」
おそらくヒロはハドロイドだけでなく、プレイヤーを含めても最年長となる人物だ。そにも関わらず、はプレイヤーやハドロイド一人一人へ握手を交わしながら、丁重に年下ながら先輩となる彼らへ敬意を払って接していた。玲也に対して3機のハードウェーザーのプレイヤーであると賞賛されたら当の本人は少し照れていた。
「リタさん、多分あの人も同じ……」
「そうだなー、アグリカって言うんだよなー」
「さようでございます。私はケニア代表ですが、アグリカ様はエジプト代表ですね」
「ありがとうございます、アグリカさんですね……」
リンの視界には入り口付近で壁にもたれるようにして、腕を組みながらこちらへ時たま視線を寄せる彼女の存在に気付いた。小麦色の肌とジーンズに包まれた脚線の様子から、ウィンとはまた違う鍛えぬいた女性としての美しさを漂わす。同じポニーテールながらコバルトブルーの髪もまたウィンと対照的に、落ち着いた雰囲気を醸し出している。玲也はヒロに礼を告げてすぐさま、彼女の元に足を運ぶと、
「まぁあたしがアグリカだよ。あんたが玲也ねぇ……」
「そうですが……」
アグリカ・ワイヤード――彼女が口を開くと共に玲也へ向けた視線は、どこか少し突き放したような空気を漂わせていた。玲也が彼女の視線に対して少し言葉が詰まると、
「ちょうど、あたしの2番目の弟と同じくらいか? いや妹と背はあまり変わんねぇ気がするけどな」
「は、はぁ……」
「……ったく、つれねぇなぁ。二人とも早く行くぞー」
「は、はい……」
一瞬アグリカの口元が緩んだようだが、玲也の様子からして、直ぐ彼への関心は離れていったようだった。寝込んでいて用事が送れたマイを連れるだけの態度であり、
「あの方! 玲也様の事を甘く見くびられて……」
「全くでして! お嬢様の殿方をこう侮辱されましたら黙っていられません事!!」
「まぁ、おまえらは落ち着け―。アグリカもつれないぞー?」
アグリカのそっけない態度に対して、エクスとアクアが揃って苦言を呈している。この二人が興奮すればややこしい事になるとして、リタが間には割り込んでアグリカにも尋ねれば、
「まぁー、言うとしたらそいつの方がまだあたしは可愛いって感じかな。妹みたいでさ」
「い、妹……でして!」
「お嬢様を妹と見なすとはいい度胸でして! これですから貴方みたいなお方はですね!!」
「どうせあたしは貧乏だよ。住む世界が違う奴に興味はないね」
アグリカはエクスに対し、どこか余裕ありげに笑ってみせた。玲也より関心を寄せていたともいえるが、妹と格下のように見なされれたのだろう。それだけならまだしも機嫌を損ねた彼女へ追随するアクアが明らかに余計な事を口にした。すると彼女の顔からほころびが失せ、冷ややかに興味がないと去っていった。
「あのですね、俺さっきも言いましたけど……」
「アクア様、少しお茶にいたしませんか?エクス様に仕えてこられた貴方の腕前を……」
「今はその気でありませんが……宜しいですわ」
明らかにアクアがアグリカの機嫌を損ねたのだと。先ほどと同じ過ちへ玲也が少し声を荒げようとした時だ。ヒロは執事とメイドとして心が通いやすいと建前であったものの、玲也の心境を代弁して咄嗟に取った行動だろう。当の本人から鋭い眼光を寄せられれば、彼女は従順に従うしかなかった。お嬢様の殿方として既に頭が下がらない所があったのだろう。そそくさとヒロ共々メディカル・ルームを後にした後、
「リタさん、俺がアグリカさんへ失礼なことを……いて」
ただ自分の言動がアグリカの癪に障ったのではないかと、玲也は少なからず気にしてはいた。そんな折にリタから笑いながらデコピンをお見舞いされる。ハドロイドの力について弁えているリタだから彼女なりに手を抜いたのだと思うが、それでも額に受けた衝撃は痛いようで、少し必死になって彼は額を抑えていた。
「まぁ、お前は気にしない方がいいぞー。もう少し気楽に接したらどうだー?」
「堅苦しい事が苦手な訳ですか……」
「まぁ、あいつそこまで嫌ってないと思うからよー。がきっちょもそこ意識してみろよー」
その上で、先輩としてアグリカとは気張らずに接していく事だと説く。彼自身が生真面目な面もあるがゆえに、今までの自分の姿勢を崩す事には慣れていない。顔を俯かせている様子へ微笑みを見せていた所、
「……そういえば4人ではなく5人のはずですよね?」
「まだ一人いるってことだよね? 全然見た事もないんだけど」
「残り一人はブラジル代表だよ」
「アンドリューさん!」
リンとニアが揃って残り一人のハドロイドの存在を思い出す――すると、遅れて現れたアンドリューが同じドラグーン所属となるブラジル代表と告げ、
「わりぃけどちーっとばかし待ってくれ。俺がビシバシ扱いて即戦力にする必要があっからよ」
「アンドリューさんが、そこまでされる必要がある方ですね……何か凄い期待してるようですね」
「まぁ、ジーボストがお前たちと同じ第三世代ってのもあるけどよー」
「おいおい、ハードウェーザーの性能だけで俺が目をかける訳ねぇだろ……っと、その話はまた後にしてだ」
他の3人が第2世代に対して、ブラジル代表のハードウェーザー・ジーボストが第3世代。アンドリューはハードウェーザーの性能だけで戦いが決まる訳ではないとくぎを刺しつつも、玲也の肩をポンと叩き、
「ちょっと司令室に来てくれねぇか……俺とおめぇに用があるからよ」
「俺に用……分かりました」
玲也自身に用事がある――大事な話だと言わんばかりに、一瞬アンドリューの顔が真剣に険しくなる。彼から直接持ち掛けられた話に対し、即座に大事だと捉えて椅子を起ち、揃ってメディカル・ルームから出発する。
「ど、どこに行かれまして!? 私も、いえ私たちも」
「あたいとここで待ってろな―。男同士、プレイヤー同士の話だからなー」
この流れになると、自分が置いてけぼりにされているとエクスが判断する。こう食いつこうとするのはお約束だが、彼女をリタが止める事もまたお約束でもある。彼女たちの様子はさておき、玲也とアンドリューが二人通路を歩む中で、
「本当は俺が受けなきゃだし、受けて立つ気だけどよ……」
「アンドリューさん、どうしたんですか、受ける受けないどうこうと……」
アンドリューから笑みが消え、険しい表情から漏らす言葉には迷いが滲む。彼がおどけて余裕がある様子などではなく、今まで目にしたことも、耳にしたことがない程苦渋に瀕している。少し懸念して玲也が尋ねた所、
「まぁ、どのみち隠してもすぐわかるからよ……ここで言っちまったほうがいいかな」
この葛藤は隠しきれるような代物ではない――アンドリューとして、この場で自白した方が後へのショックは軽減できるだろうと捉えるも、周りに人がいないかを探るため明らかに不審めいた行動をとっており、
「本当俺がアメリカって国背負ってなきゃ望むとこだけどよ……」
「一体何ですか! アンドリューさんらしくないですよ!!」
「わりぃわりぃ。確かに俺にしちゃ歯切れが悪くて……良くねぇよな」
アンドリューが言うには、自分が各国を代表するプレイヤーである為、正体不明として表向きでは通している玲也に白羽の矢が立とうとしているとの事。彼にしては珍しい踏ん切りが悪い態度に対し、玲也が流石に声をあげればじらし過ぎだと自覚する。少し咳払いした後、
「……おめぇ、あいつに勝てる自信あっか?」
「……まさか!!」
アンドリューから突き付けられた“あいつ”に対し、玲也自身、彼との勝負を避けては通れないだろう。恐る恐る、九分九厘ほど確信した上で玲也が口を開いて出た言葉は、
「……ゼルガ、ゼルガ・サータですね!?」
白銀のハードウェーザーは不敗のリキャストと畏怖される存在――その不敗の戦術と腕を駆使する男ゼルガ・サータと決着の時はもう間近に迫っていた。今、アンドリューが静かに首を縦に振った事が何よりの証拠であった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次回予告
「双方の共闘と相互理解を望み、ゼルガは総司令官としての責任を果たす為、俺との生死をかけての決闘を申し込んできた。貴方は父さんを超えるための俺の前に敢えて立ちはだかるのなら、俺も全てを賭けて貴方に勝たせてもらう。例え、本気で俺を仕留めにかかる貴方がどれだけ強くても……来いリキャスト! ブレストが相手だ!! 次回、ハードウェーザー「玲也対ゼルガ、最後の斗い」にブレスト・マトリクサー・ゴー!」
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