第20話「彷徨い、抗う……そして戦え!」

20-1 ゼルガ・サータ、処刑台に立つ日!

「事情があったとはいえシャル様、ゼルガ様に代わり私から謝らせてください」

「……僕はともかく、ウィンを人質に差し出さないのはそういう訳?」


 シャルが目を覚ました時、自分がとある一室に閉じ込められていた事に気づく。一応パッション隊に紛れても違和感がないように、オレンジ色を基調としたメイド服姿にされていたものの、身柄を拘束される事はなく手足の自由は既に保証されている。さらに、目の前のユカが何度も頭を下げて自分への謝意を示しているとなれば、も当の本人はあっけにとられた様子である。


「……まぁそういう事だからさ、ゼルガ様は自分から懐に潜り込んだわけ。あたし達は勿論ゼルガ様のお手伝いでここにいる訳で!」

「ウィンさんを手土産として引き渡しても、こうなるかもしれないですから~。そうならないようにはしないとね」

「ちょっと、そのゼルガが危ないとかなのに、よくそケロリと言えるね……」


 いつも通りのあっけらかんとした振る舞いでベリーはゼルガの目的を簡単に触れ、メローナは首元を横に掻っ切る仕草をしながら、起こりうる最悪の事態をさらりと触れる。自分の主君の身に危険が及ぶ状況ながら、二人の軽いリアクションへ流石のシャルも思わず突っ込みを入れてしまう。


「皆さんもゼルガ様の事を良く知っている上で信頼されているのです。私もできればその位割り切りたいのですが……」

「言葉が過ぎました~。旦那様の事をそう軽い気持ちで割り切ったらいけなかったですね~」

「旦那様……ってええっ!?」


 パッション隊の面々に対し、ユカはそのように割り切れる余裕が羨ましいと、少し意外な本心を打ち明ける。ユカの心情を害したかもしれないと、メローナはすぐさまベリーの頭を下げさせながら、自分も同じように謝った。当の本人は気にしないでも大丈夫ですと笑顔で答えるも――ユカが旦那様と、ゼルガを指すとの事を知らされシャルが素っ頓狂な声を挙げてしまい、


「電次元でも珍しいようですが、お父様が決められた事でしたから……」

「パパが勝手に決めたの!? 勝手に決められても反対しなかったの!?」

「お父様もやむを得なかったと思います。正直あの時は出来る事なら私も反対したかったと胸の内では思っていたかもしれませんが……」


 ユカが元々サミーという小国の姫として生まれ、サミーがアージェスの従属下で保護される事が決まるとともに彼女はゼルガの元へ嫁いだという――いわば政略結婚であり当時の自分からすれば望んでいない事だったものの、その時の情勢を鑑みた上で両親が苦渋の決断を下したと考えたならば、従わざるを得なかったとの事であり、


「ですが、ゼルガ様の元に嫁がなければ、今の私はいなかったですね……」


 ここまでならゼルガの元へ無理して嫁ぎ、尽くしているようなものだが、ユカは、もう過去の話だと触れた上で微笑みながら触れた。慎んだ態度ながらも彼女自身本心で胸を張っているようにもシャルは感じ取っり、


「ユカ、強いんだね……」

「そ、そう面と向かって言われますと少し恥ずかしいです。私だっておっちょこちょいな所もありますし、空回りしてしまう時だってありますし……」

「はは、僕も人の事言えないからあんまり弱点に聞こえないけど……」


 シャルは控えめで健気ながら前を向き続けているユカの姿勢を思わず称賛した。先ほどまで面識のなかった彼女から心を開かれるだけでなく、素直に自分を褒めてくれていると知った途端ユカの顔が思わず赤くなる。自分が完ぺきではないと咄嗟に触れるも、シャルからは苦笑されるリアクションを返され、


「でも僕だってパパとママンに誓ったんだ。僕の腕を正しい事に使うんだって」

「素敵なお父様とお母様ですね……私も愛していましたが、シャルさんの方が強いみたいですね」

「そうかな……あ、そうそう、別に僕に遠慮しなくていいよ? 僕だってユカって呼んでるんだしさ」

「そ、それはつまり……」


 大切な相手に誓って戦いに身を投じる姿勢は同じである――ユカに対して、シャルは親しみを覚えつつあった。これに気付いたのか、シャルがもっと馴れ馴れしく接しても構わないと触れた時、思わずキョトンとした目になり、顔を赤くしたものの、


シャル……ちゃんでいいですか? シャルちゃん可愛いです!」

「か、可愛いって言ってくれるのは嬉しいけど……」

「おー、お二人さんとも可愛いですなー」


 ユカはもう少し距離を縮めるようにして、シャルに接する――最も本人の顔が思いっきり緩んでおり、シャルの頭をい手つきながらも何度も撫で続けている。まるで自分の妹のように接されているのではと、シャルが少し苦笑いを浮かべた頃、傍から見守るベリーはその光景へ少し必死に笑いをこらえていた。


「ユカ様~そろそろ話を勧めましょう~」

「そうでしたね……ゼルガ様がブラディ様の元へ面会されてますが、無事ではすみません」


 これ以上話を脱線させては時間がない――メローナがいつもながらの口調とはいえ、軌道修正を促す。ユカも内心ほっと胸を撫でおろしつつ、気を取り直して状況を整理する。

 ゼルガがウィンを人質に取った理由とは、ブラディの元へ先兵として献上する為。今の彼女はバグロイヤーの尖兵へと仕立てられているとのことだが――それだけで彼がゼルガを許すかどうかが妖しい。ユカが最悪の事態を想定しつつあった時、メローナがポリスターを取り出しており、


「ブルーナさんからです~ ゼルガ様は用済みとの事で~」

「ちょっとそれって! 僕たちこのままじゃ拙いってことだよね!?」

「そういうこと! だから早く逃げだすわよ!」


「あー、騒ぐな―! あたしだってこのまま死ぬ訳にはいかないのに!!」


 ――ゼルガが用済みとして処されるとブラディが判断を下したとなれば、ユカだけでなく彼らに仕えるパッション隊の面々に危機が訪れる。シャルが少し慌てていた時、ドアのロックが外側から解除され脱出を促す声をする。


「ブルねえ! と言う事はマックス様も一緒で」

「確か……マックスとか言うゼルガの‼」

「ウィンのデータを書き換えたのはお前だったからな。またここで会うとはな」

「あー、もしかしてマックス様とシャルってあの時一緒……いたっ」


 ベリーにとって身近であろう姉のブルーナの姿を見れば、彼女と同伴する白髪の男をシャルが視界にとらえた。ゼルガの異母兄かつ、反バグロイヤーのレジスタンスを率いるマックスを思い出していた傍ら。二人が顔見知りとの事にベリーがどのような経緯でと首をかしげている。今はそれを考えている余裕はないとこめかみに向けて実の姉のデコピンが飛ぶ。


「ブルねえ、そこ凄い痛いんだからやめてよ!」

「なら早く動きなさい。ゼルガ様とユカ様……そのシャルちゃんだって守らないといけないのよ?」

「あの、ゼルガがその……バグロイヤーに処刑される筈なのにどうして?」


 二人を始めとするフレイム・ハートの精鋭達が、ユカとシャルの身柄を保護せんと行動を起こした。ゼルガを救おうとせず自分たちだけで逃げるてよいのかとシャルが尋ねると、


「ゼルガ様は、自分が処刑される事を分かった上で大勝負に出ているのです」

「ええっ……ちょっとちょっと! まさかと思うけど!」

「ゼルガ様はそれでも生きて帰るつもりです。まだ私たちが倒れる時ではないと信じてください」


 ユカはゼルガが、生涯のパートナーとして共に歩むと信じた相手へ不動の信頼を寄せている。ギリギリの状況にその身を置きながらこの勝負に賭けた彼の選択を信じなければならなかった――彼女はシャルを安心させる時、妻として夫の無事を案じての不安を胸の内に押し殺してまでも。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「お前がそいつを手土産に命乞いをするつもりだったろうが……どうやら見通しは甘かったな」


 法廷の場へと召還されたゼルガはただ首を垂れたまま、その後ろ首を杖で何度か叩かれた。彼を取り囲むように着座した面々は、ブラディと同じ上流階級の甘い汁を吸う輩に過ぎない。腐敗した権力の象徴として、ブラディは部下の彼へそのような横暴を振る舞っていた。


「なるほど、この白装束とやらが本当そのままという事ですか」

「嬉しいだろ? 生憎お前が裏でバグロイヤーに立てついていた事は分かっていたわい」


 ゼルガ自身、一種のパフォーマンスとして白装束を着用して法廷に姿を現していた。死を覚悟して権力者の元へ頭を下げる事により、相手の心情を動かそうとする魂胆だったのかもしれないが――ブラディは既にゼルガに酌量の余地がない証拠を突きつける。


「ほぉ……このレコーダーには確かに兄上の声が入っていますね」

「お前とマックスが裏で通じ合っているに違いない、仮にそうでなくともお前を処刑すればどうなるか……」


 ブラディ曰く、フレイム・ハートの一拠点を襲撃した上で押収した物品との事らしい。そのレコーダーにマックスとの通信が記録されていた事は確かだが、ゼルガの肉声は使われていない。兄が反バグロイヤー運動を率いているとの理由で、ゼルガに連座させる彼の仕打ちは一方的なものであったが、


「なるほど……結局王様だった私を総司令官へ担ぎ上げても、どのみち切り捨てるつもりだったのですね」

「どうらお前は、俺達の望む世界に不服のようだからな。そうだろ?」

「はは、既に分かられていましたか」


 ゼルガはこの一方的な仕打ちを甘んじて受け入れる姿勢を見せていた。ただその上で自分の身分と腕を利用するだけ利用して、やがては始末する魂胆だったブラディ達に冷ややかな目を一瞬向けつつ笑みをこぼした。

 ブラディらバグロイヤーの上層部には、ゲノムの王族や上流貴族たちが権力を掌握せんと寄り添っている。彼らの望む世界は自分たち高貴な身分の者たちによる強固な支配階級を築き上げる――ゼルガの眼からすれば既に時代遅れとなりつつあり、先のない展望にしか見えなかった。


「確かに電装マシン戦隊へ勝つことは出来ませんでしたから、責任は取らなければいけません。ただ一つだけ宜しいでしょうか?」

「な、なんだ……」


 最もこの状況下で、ゼルガは我が身の危険を顧みる事より突き止めなければいけない事があると立ち上がった。そして口を開いた彼は表向き従順だが、彼の心の底から醸し出される気迫にブラディが一歩引きさがった。


「メガージから聞きましたが、羽鳥秀斗について存じてないですかね?」

「羽鳥秀斗……あ、あぁ。ジェフの事か」


 ゼルガが最も知る事を望んだ事――それは、羽鳥秀斗という人物を指す。彼がバグロイドのパイロットとして戦場に現れた謎を突き止めようとした時、ブラディは何故か胸を撫でおろす。それだけならまだしも、秀斗に対して何故かジェフの事と指す。


「まだ息が合ったから、天羽院の奴が彼を改造して使うと俺は聞いた。秀斗の息子とかが電装マシン戦隊にいるとの事で効果はあったと聞いたがな」

「……」


 バグミラージュを駆り現れた秀斗は偽物である。以前撃墜されながらも一命だけはとりとめたジェフに対し、天羽院の手で改造かつ整形された姿に過ぎなかった。早い話、天羽院が玲也を狙い撃ちする目的で、秀斗の偽物を戦場に出して動揺を誘ったに違いない。以上の経緯を知らされ、ゼルガの拳が微かに震えあがり、


「なるほど、相変わらず貴方達は人を使い捨てのようにしか見ていないのだよ」

「何が言いたい? 俺はお前が聞きたい答えをただ述べただけだぞ」

「そうだよ……私も結局貴方達に使い捨てにされて終わる宿命だがね」

「……早く連行しろ! 民衆の前でお前の最期を晒さなければ意味がない!!」


 目上となるブラディ達に対し、ゼルガは建前でも敬う姿勢を取ることを止めた。この彼の態度の変化に対してブラディの反応は鈍いようで、秀斗という人物についてそこまで関心を抱いていなかった。猶更彼を見るゼルガの瞳が冷めた色へ変わりつつあると、その眼光におびえたブラディが叫び出した。憲兵が4人がかりでゼルガの身を抑え込むものの、本人は抵抗するそぶりを見せる事はない。


「……少人数が大勢を従えるあり方など私は嫌いだよ。力だけで押さえつけて従わせる先は滅びしかないのだよ」

「今のお前はその少人数ではないのか?」


 それでもゼルガの口は止まる事なく、ブラディ達上層部の官僚に向けてバグロイヤーの支配する世界に先がないと強く糾弾する。その威勢に反して今の彼が憲兵たちに身動きも取ろうとしない為か、ブラディは彼の主張をただの強がりと嘲笑を浮かべるものの、


「あくまで今は滅ぶ側だよ……ただ、私の最期を世間に晒そうとするのだけはやめた方が良い、それだけは警告するのだよ」

「それは命乞いの間違いでは? お前を手にかける事はゲノムを恫喝することに繋がるからやめられないがな!」

「私一人の力でゲノムの民を動かせると思わない方が良いのだよ。君たちがその報いを受ける事になるのだよ、最も……」


 連行されてもなおゼルガはブラディ達への糾弾を続けた。遠のく彼の姿に対しブラディはまた強気な姿勢を見せるようになっており、他の官僚達もヤジを飛ばしていく。ゼルガの声が微かなものとして官僚たちのガヤにかき消されようとしていたが、


「……個人と個人ならブラディ、貴方を返り討ちに出来るのだよ! 他の貴方らにも当てはまる事だよ!!」


“ゼルガ・サータ、バグロイヤー前線部隊を率いたこの男は、今までの責任に加え疑いをかけられた上で処刑上に立たされようとしていた。だが死中に活を求めるかのようにこの男は逆境を一気に覆す一手を打とうとする。それだけの余裕と覚悟を持った上でゼルガは死の淵から這い上がりつつあった。だが、この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録であり、彼にも絶望の淵から不死鳥のごとく這い上がる時が迫っていた。”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る