19-6 忘れたいんだ、忘れたいんだ父の影

『何故驚く。俺を超える壁として討つと言ったのは誰だ』

「……まさか、本当に玲也様の、玲也様の!」


 ――フォートレスの別地点にて、クロストがセカンド・バディの面々共々ステーションの守りを固めていた矢先だった。ステーションをゼット・フィールドで覆っていた目の前で、白と菫色のツートンカラーの機体が単身で立ちはだかった。バグアシュラー同様のバグロイド故に単身で現れたが、それだけでなく玲也の声を聴くために現れた様子であり、


「……父さん、ここに来てほしくなかったのに!!」


 彼の言う通り例え目の前で父が現れようとも、臆することなく戦うと主張した――たとえ自分の信念が折れる事を阻止するためのハッタリであったとしてもだ。

 そして今、この状況でハッタリ通り戦わなければならないと覚悟を強いられた。マイクルミサイルをばらまきつつ、両腕のバスター・ショットで駆逐せんとするものの、


『バグミラージュも随分と舐められたものだな』


 しかし秀斗は鼻で笑うようにミサイルの雨を避け続ける。バグミラージュと呼ばれる彼の機体はバックパックにX字型のユニット“クロスラスター”が装着されており、閃光を放って機動力を底上げさせるだけでなく、


「玲也様、これは……」

「影分身でも使っているつもり……あっ!」


 モニターにはバグミラージュの反応が幾多も映し出されながら、消えうせる事態が引き起こされていた。玲也が影分身と例えたのもセンサーを誤認させていることから、質量を持った残像だと見抜いたからのようだが――バスター・ショットを繰り出す左手からロスト反応が表示された。残像に紛れての本体が、デリトロス・セイバーですれ違いざまに切り落としたからであるが、


「いかん……こうも水をあけられては」

『どうしました? 貴方はお父さんを討つと宣言した筈ですのに?』

「……お前に父さんの子だと言われたくない!!」


 一瞬にして腕を潰された様子から、プレイヤーとしても父の腕は相応のものかと突き付けられると共に、焦りも生じつつあった。この彼を逆なでするかのように天羽院から嘲笑うような通信が入る。少し必死になって否定すれば、


「お黙りなさい! 玲也様の事を何もわかってない殿方に何が分かるのでして……!!」

『おやおや……ですが約束を守れない親不孝の相手は程ほどにですよ!!』

『……分かっている。とんだ見込み違いだしな』


 エクスが玲也に代わる様に激昂して天羽院へ吼える。それだけ今の彼に余裕がなかった様子だが彼はこれ以上玲也の相手をする必要はないと触れた。クロスラスターを駆使しての分身が消えうせた時にバグミラージュの姿は存在しておらず、


「電次元ジャンプですわ! 転移先は……まさか!?」


 ――エクスは唖然とした。電次元ジャンプからバグミラージュが姿を見せた先は、ステーションを護衛するセカンド・バディの群れ。本来ゼット・フィールドを展開して守られた空間の筈が電次元ジャンプで内部に入り込まれる盲点を示されており、


「し、しまった……早くバリアーを!!」

「で、ですがここで今攻撃しますと!!」

「あの人たちのこともある! やめろ……やめてくれ父さん!!」


 直ぐにゼット・フィールドを解除してバグミラージュを蹴散らさんとするも、ステーションとセカンド・バディの間に紛れ込んでいる場合、小回りの利かないクロストではあまりにも分が悪かった。もはや秀斗が父として、人としての良心がある事を信じて声を上げ叫ぶものの、


『や、やめろ……これ以上近づかれたら!』

『フォトン・クロスだ……!』

『や、や……うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 ――現実は残酷他ならなかった。ゼット・フィールドに守られているはずが、突如飛び込んできたバグミラージュにPAR側は浮足立たされる事となる。ガーディ・マシンガンを一斉に放ってどうにか迎撃せんとするものの、背中のクロスラスターを向けるや否や、X字状にフォトン・クロスをお見舞いしており、


「あ、あぁぁぁぁ……」

「何て、何てことを貴方は……!!」


 無情にも一掃されただけでなく、正面を向いて左腕に備えられたデリトロス・ランチャーがステーションに直撃する。周辺区間のエネルギーフィールドが喪失した事で、機能を停止したと見なされるが、それ以上に人的被害を防げなかった事が玲也の心へ傷をつける。父がやらかしたのなら猶更であったが、


『当然だ。バグロイヤーにいるかぎり私は……』


 我が子だろうと精神的に追い込まんと秀斗は非情な手を使った。その上で彼を仕留めんと再度振り向いた直後に背中を突かれた――電次元ジャンプで後を追ったウィストに背後を取られたのだ。第3の腕マゴロク・フィンガーが炸裂された時に、


『もう十分です、秀斗も逃げなさい!』

『わ、わかった……ううっ』


 これ以上の損傷が致命的になり得ると判なり、天羽院からは早々に撤退を進言された。クロスラスターが損壊した時、何故か彼は頭を押さえており、天羽院に従うよう電次元ジャンプを駆使した事で、


「逃げたようですね……玲也様、もう大丈夫でして、お気を確かに……」

『何、あんたは安心してるのよ! 馬鹿!!』

「コイさん……」


 バグミラージュが姿を消した時、直ぐにエクスは彼へ励ましと慰めの声をかける。これ以上父と敵対する苦しみを玲也が味わう事もないからと彼女なりの思いやりがあったものの――現実は、コイから痛烈に罵られる事の方が彼の胸には深く突き刺さる。ビャッコ・フォートレスから先導する形でフラッグ隊が出撃しており、ステーション近辺の救助作業が行われている現実があり、


『貴様も言いたい事があると思うが……この場を守り切れなかった』

「……すみません」

『ごめんで済まないわよ! 私だってすぐ来れなかったから、あんたに任せたのに!!』


 サンとしては事情はともあれ、玲也の不手際で引き起こされた惨劇だと厳しく評する。ウィストとヴィータストにより別方面からのバグロイドが駆逐された為、ウィストがどうにか到着した様子だったが。


「父さん……? もし父さんだとしたら、俺は、俺は何もできなかった上に……」

『玲也君! 君のお父さんってことはまさかと思うんじゃが!!』

『ちょっとあんた、先程会ってきたっていうのはまさかと思うけど!!』


 目の前の惨状に対し、玲也の眼は少しうつろなまま、うわ言のようにつぶやく。自分では一矢報いる事が出来なかった上に、彼一人が呆気なく自ら死を選ぶものなのかと。この言葉にドラグーンからブレーンとニアが動揺しつつも、真相を確かめんとしており、


「れ、玲也様は覚悟をされてましたの! ですから私も支えないといけない筈ですして!」

『あんたに聞いてないわ! そもそも玲也が、何であたし達にもそ言わなかったのよ!!』

「……お前たちに言ってどうにかなる問題でもないし、この先戦わないといけないだろ!!」


 その場に立ち会ったものとして、覚悟せざるを得ない心境だった玲也を容認しなければならなかった――、自分が支えなければならないとのスタンスだったエクスの主張と共に、玲也もその覚悟で戦う事を避けられなかったのだと吐露する。最もこの事態を引き起こしてからは、その覚悟も意味をなさないものであり、


『ったく……おい、てめぇら! 俺らにとんでもねぇ事隠してたのかよ!!』

「アンドリューさん! 玲也様はそうでもしなければ戦うことが出来ないと思いまして……」


 アンドリューから、少し呆れたように尋ねられると玲也自身反論する事も出来ずない。エクスが自分をどうにか庇おうとするのが精いっぱいだった。


『本当ならおめぇら一発ぶん殴らねぇと気が済まねぇけどな……俺もあいつに釘付けにされちまってな』

『多分、あたいらを行かせたくなかったんだろなー、がきっちょの元にさ』


 ドラグーンでリキャストが途中で引き上げた為窮地を脱したようだが、自分たちの合流を阻止する術であった。この作戦負けをリタが自虐しており、


『玲也、シャル。とりあえず戻ってこい。今後どうすっかはそっからだ』

『わかったのだよ……私も帰るのだよ』

「はい……ってシャルさんじゃ!?」


 秀斗の件も含めて話す事があると、アンドリューが帰還を促した時だった。ヴィータストから明らかにシャルでもウィンでもない声が聞こえた。エクスが真っ先に気づいた時、ヴィータストのコクピットの様子が映し出され、


『……』

『ゼルガ……!? てめぇが何故そこに!!』

『事情を話すと今は少し長くなるのだよ。シャル君もウィン君もすぐ返す事は約束……』

『貴様の口約束など、誰が!!』


 ゼルガはヴィータストを自分の元へ連れていく必要があると言いたげな様子であった。口では穏便かつ寛大な対応を取ると約束していたものの、シャルの首元にナイフを突きつけている様子からして、ウィンが言うように信じがたい様子である。口だけでは今は信じてもらえないと判断して、


『シャル君、頼むのだよ』

『う、うん……』

『待つんだシャル君! ゼルガ君、私からも話し合いの場を……!!』


 シャルに少し強要させるように、自分たちの元へ向かわせるよう促す。エスニックが再度ゼルガと話し合いの場を持ち込まんと望むものの、今のゼルガは彼の提言もあえて耳を傾けることはしない。ドラグーンから見当もつかない場へとヴィータストが電次元ジャンプを発動させた後、


『まさかシャルまで……完璧に俺の負けか』

「……俺のせいでもあります」

「玲也様が責任を感じる事はありません! 自分を責め続ける事だけはどうか……」

「俺たちがこれだから、シャルに前を任せた! 俺に覚悟があれば……畜生!!」


 ヴィータスト・ヴィクトリーとして、シャルに前線を任せた――自分が前線に出ながらも、万全に戦える状態ではないと判断した上だったが、そう判断した理由は、彼自身が戦いを阻害させるだけの、心の迷いを抱えていたからであり、


「……畜生!!」


 自分の心の弱さがステーションを損壊させ、人的な被害も引き起こさせる結果となった。シャルもまた同じ事態に立たされようとしている。それを考えただけで、ただ玲也は何度も床に拳を打ち付ける。自分の至らなさに対して悔やんでも悔やみきれないまま……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次回予告

「シャル達を捕えたゼルガは一体何を考えているのか……俺はその事について考える余裕もなく、父さんの事が頭から離れられないまま戦う事に背を向けてしまった。俺はもうプレイヤーとして戦うだけの力がない――諦めてしまった俺の元へあいつが現れた。どう顔向けできるか分からない俺だが……‼ 次回、ハードウェーザー「彷徨い、抗う……そして戦え!」にブレスト・マトリクサー・ゴー!」


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